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「テロ」と「カタルーニャ」の陰で

芯から腐れ落ちつつある主権国家(2)


 これは『「テロ」と「カタルーニャ」の陰で 芯から腐れ落ちつつある主権国家(1)』の続きである。

2017年11月30日 バルセロナにて 童子丸開

●小見出し一覧(クリックすればその項目に飛びます。)
《州知事の犯罪:レソ事件》
《炸裂する「ゴンサレス爆弾」》
《謀略機関としての内務省と国家警察》
《国家権力中枢の闇に潜むネズミども》
《テロ、カタルーニャ、政治腐敗…、何たる不可解!》


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【外見上はにこやかに語り合う3人だが…、腹の底は?:左からイグナシオ・ゴンサレス、マリアノ・ラホイ、エスペランサ・アギレ:2013年のマドリード国民党クリスマス夕食会にて(ABC紙)】


《州知事の犯罪:レソ事件》

 今年4月にグアルディア・シビルの「レソ(Lezo)作戦」で逮捕された元マドリード州知事イグナシオ・ゴンサレスについては当サイト『暴露されたもみ消し工作』、『暴かれ続ける政治腐敗』で述べられたが、逮捕されて以来、この男が自分の悪事について「友人たち」と交わすショートメッセージ記録や盗聴音声がやたらとマスコミをにぎわせ続けている。国民党筋の検事による「もみ消し未遂」は、昨年(2016年)11月に行われたラファエル・カタラー(現法務大臣)、エドゥアルド・サプラナ(元バレンシア州知事、アスナール政権時代の閣僚)、およびエンリケ・セレッソ(サッカー球団アトゥレティコ・マドリード会長)との携帯メッセージのやり取りが2017年4月25日にTV局ラ・セクスタによって公開されたことで、一気に世間に知れ渡ることとなった。この情報源は間違いなくグアルディア・シビルのレソ事件特捜部である。

 そしてこの11月7日に全国管区裁判所の判事が40万ユーロ(約5300万円)の保釈金でイグナシオ・ゴンサレスの保釈を決定した。その後、カタルーニャ問題がやや落ち着きを見せ始めたころから、グアルディア・シビルが裁判所の許可を得て行った盗聴の録音が、再びマスコミを通して公開され始めた。それらはゴンサレスとその周辺の人物群による会話を記録したもので、その中には国家警察の闇の中で行われる違法な活動を示すものもあるが、これは後の項目で述べることにする。これらゴンサレス関連の盗聴記録は2週間ほどスペイン中を騒がし続けたが、その多くは、今年1月~2月、ゴンサレス逮捕の2~3か月前にゴンサレスの事務所で行われたサプラナとの会話である。

 イグナシオ・ゴンサレスは2012年9月に辞任したエスペランサ・アギレの後任として2015年6月までマドリード州知事を務めたが、アギレと共に常にマドリード国民党の中枢部に存在していた。しかしバブル経済崩壊後の2009年あたりからすでにゴンサレス周辺の不正なカネの動きが調査されていた。2011年8月に、裁判所の指示を受けた国家警察が、アンダルシアの保養地マルベジャの高級集合住宅を巡る不透明な資金の動きに彼が関与している疑いを強めると同時に、マスコミのゴンサレス・スキャンダルの報道が沸き起こり、この件でゴンサレスは2016年3月に収賄と資金洗浄の疑いで起訴されることになった。加えて、2014年10月のプニカ(カルタゴ)事件(当サイトこちらの記事こちらの記事)に関連してマドリード州の企業と彼との癒着が次々と表に出され、2016年の統一地方選挙で国民党がマドリードの州議会と市議会で衝撃的に議席を減らす原因の一つとなった(当サイトこちらの記事)。

 ゴンサレスはマドリードの公営水利企業Canal Isabel IIを利用しながら主に中南米を舞台にして利権をむさぼったのだが、そのCanal Isabel IIの元重役イルダフォンソ・デ・ミゲルは2008年に自分の事務所で建設業者ラファエル・パレンシアと行った会話を録音していた(二人とも既に逮捕済み)。それがまずエル・ムンド紙を通して公開されたが、このデ・ミゲルはゴンサレスやアギレに信用の篤い人物である。その録音の中でパレンシアは、マドリード州の公共事業参入に便宜を諮ってもらい2~3%の手数料(賄賂)を国民党に渡していたと語る(11月10日、エル・ムンド紙)。このような賄賂が国民党の「B金庫」の原資だった。

 ラ・セクスタがすでに8月28日に公表していたゴンサレスとサプラナの盗聴音声から、ゴンサレスもこのデ・ミゲルの録音を知っていたことが分かる。またエル・エスパニョル紙が手に入れた以前の国民党執行部の資料によると、元防衛大臣ロドリゴ・トリジョと現副党首で防衛大臣マリア・ドローレス・コスペダルも、2008年に元マドリード州の議員で大物のフリオ・アリサと会合した際にこの録音を聞いていた。つまり国民党の裏金、「B金庫」は党幹部にとって以前から周知の事実だったのである。またゴンサレスの話によると、アリサはこの録音を使ってマリアノ・ラホイを脅迫していた(11月14日、エル・ディアリオ紙)。おそらくデ・ミゲルと組んでいたのだろう。ラホイは党の会計係だったルイス・バルセナスに助けを求め、カネを渡してその録音を処分させるように頼んだらしい。当のラホイは否定しているが

 また11月15日にエウロパ・プレスから公表されたゴンサレスとサプラナの会話の筆写記録では、ゴンサレスやマリアノ・ラホイ、元会計係のアルバロ・ラプエルタとルイス・バルセナス、エスペランサ・アギレなどの国民党の大物たち、先ほどのイルダフォンソ・デ・ミゲル、ハビエル・ロペス・マドリード(企業主、逮捕済み)そしてビジャル=ミル(大手建設グループOHLのオーナーで政財界の黒幕的存在)などが登場し、政治と企業の間の癒着の実態が生々しく語られている。その中でゴンサレスは、バルセナスからラホイがゴンサレスに敵対していると警告されたことを語っている。ゴンサレスが3億ユーロの工事の資金を着服したと、ラホイやラプエルタたちが疑ったからだ。ゴンサレスはそのサークルからはじかれる形で政治腐敗疑惑の対象にされていった。


《炸裂する「ゴンサレス爆弾」》

 何よりも世間に痛烈なショックを与えたのが、罪人に追い詰められつつあったゴンサレスが、自分を切り捨てた国民党幹部を強烈に非難する音声記録がTVを通して公開されたことである。以下、日本語訳で「クソ野郎」「クソ女」としたのは、スペイン語の“hijo de puta(娼婦の息子)”と“hija de puta(娼婦の娘)”であり、スペイン語で最も侮蔑的な表現だ。当然だが放送禁止用語になっている。単なる「腐敗報道」なら「なんだ、いつものことじゃないか」で終わってしまうのだが、ゴンサレスの盗聴音声はまさに爆弾だった。

 この11月15日にTV局ラ・セクスタを通して公開された盗聴記録で、ゴンサレスは今年1月のサプラナとの会話でこう言った。「なあ、エスペランサはクソ女だぜ。…自分以外はどうでもいいと思ってやがる」。さらに「エスペランサはマリアノ・ラホイと一緒だぜ。あの面倒なおやじのクソ野郎とな」。そして二人をまとめて「あのクソ野郎ども」と罵倒した。そしてアギレとラホイに対する嫌悪をあらわにしながらサプラナに散々の愚痴をこぼし、「アギレとラホイの頭の中には一つのことしかない。自分のことだよ。」と言う。またラホイに関して「ラホイは首相としてフランコを超えたいんだぜ。おい、あんな奴を信用するなよ」と言った。これに対してサプラナはアスナール元首相がラホイを猛烈に嫌っていることを語った。欲まみれで徒党を組む者たちの間にある生々しい感情がここまで世間にあからさまにされることは、世界でも珍しい例だろう。

 この、アギレとラホイに対する“hijo de puta”と“hija de puta”の強烈な罵倒は、それから数日間、多くのTV番組や新聞を通してスペイン中を駆け巡った。このレソ事件やプニカ事件、ギュルテル事件などで告発されるとんでもない悪事の数々を、逮捕されている国民党員と実業家たちだけではなく、党首を含む幹部たちの全てが十分に知っていたことは、もはや「国民的常識」とすらなりつつある。さらにその腐敗した体質はスペインの中央・地方の政界と財界が作る構造的なものであることも、否が応でも国民全体が認識せざるを得ない地点にまで達している。もう次に誰が逮捕されても、誰も驚くまい。

 ゴンサレスの盗聴音声はいくつものマスコミを通して次々と公開されているが、情報の発信源は全てグアルディア・シビルの特捜部と思える。次に登場したのは、ゴンサレスが公営水利企業Canal Isabel IIを利用した利権あさり活動の名義人となった、アスナール時代にセウタ市(アフリカにあるスペイン領)の政府代表部責任者として様々なアフリカ利権を一手に扱っていたルイス・ビセンテ・モロが話し相手である。やはり今年1月に盗聴されたものだが、これは11月16日にラ・バングァルディア紙とエル・プルラル紙を通して公表され、他のマスコミもこの録音を使って次のような事実を報道した。

 この中で二人は、ゴンサレスの兄弟パブロ(逮捕済み)が営業責任者だった公営食糧卸売業メルカサが、アフリカ各国で賄賂を使って詐欺的に市場に入り込み膨大な利権を手にしていた手口について、また現国民党ナンバー2のマリア・ドローレス・コスペダルの夫で富豪の実業家イグナシオ・ロペス・デル・イエロ、そしてメルカサの会長で現国民党執行部に信頼厚くデル・イエロとも親密なエドゥアルド・アメイヒデも、その汚い活動に関与していたことなど、多くのことが語られている。さらにゴンサレスはレソ事件をもみ消そうとして失敗した検事マヌエル・モシュ(当サイトこちらの記事)ともまた懇意にしており、別の盗聴音声でゴンサレスはそのモシュが、コスペダルの夫に嫌疑が及ばないような工作をマリアノ・ラホイから直接に頼まれたと言ったと語っている。その他、このメルカサのアフリカでの商売の利権にはカタルーニャのジョルディ・プジョルJr.(当サイトこちらの記事)もまた関与していることが示されている。

 なお、スペイン国民党総書記コスペダルの夫イグナシオ・ロペス・デル・イエロは、例のバルセナスの「B金庫」の帳簿コピーにも登場する人物であり、党の違法な資金集めと資金洗浄と脱税、収賄、職権乱用などの一連の政治腐敗に深く関わっている建設業者である。これらのマドリードを中心に張り巡らせた黒い人脈と金脈が明らかにされるなら、国民党は存在できなくなり、地元ボスと政治家と企業と銀行によって形づくられた利権の構造が決定的に潰されることになるだろう。レソ事件、ギュルテル事件、プニカ(カルタゴ)事件の捜査の進展具合によっては、スペインが国家として存続できるのかどうかすら危ぶまれる状態になるかもしれない。


《謀略機関としての内務省と国家警察》

 2016年11月にスッタモンダの末に出発した第二次ラホイ内閣だが、それ以来、与党国民党と繋がる最高検察庁は、裁判所が捜査した10件の政治腐敗事件を「技術的な範疇のこと」を理由にお蔵入りにした。その作業の裏にいたのが先に死亡したホセ・マヌエル・マサだったことは言うまでもない。マサの死は今後に大きな影響を与えるだろう。しかし内務省や検察庁、国家警察の内部には、今までに述べた旧来の腐敗した構造の中にどっぷりとつかっている部分が巨大に残されている。それらは時として謀略機関、スパイ集団としての素顔を見せる。

 事の発端は2016年6月に、ホルヘ・フェルナンデス・ディアス内務大臣(当時)とカタルーニャ州国家警察のダニエル・デ・アルフォンソ政治腐敗取締主任(当時)が2014年に内務省のオフィスで行った秘密会談の盗聴音声が暴露されたことである。プブリコ紙が公表したその盗聴録音の内容は、ありもしない不正蓄財や脱税事件をでっちあげて、独立運動を進めるERC(カタルーニャ左翼共和党)やCDC(カタルーニャ民主集中党)を陥れようとする謀議だった。

 これは「フェルナンデス・ゲート事件」と呼ばれるが、フランコ独裁終了後40年もたっていまだに国家警察と中央政府内務省によるこの種の謀議が行われている。2012年のジョルディ・プジョルとアルトゥール・マスの不正蓄財疑惑(当サイトこちらの記事)や2014年のシャビエル・トゥリアス(当時バルセロナ市長)の不正蓄財疑惑は、共に国家警察からのでっち上げ情報をエル・ムンド紙が広めたものである。この二つとも後になって決定的な反証が現れでっち上げに過ぎないことがばれたのだが。。

 三つの問題点がある。一つ目はもちろん、でっち上げの謀略で国家に反抗しようとする者を倒そうとする汚いやり口である。二つ目は、内務大臣のオフィスという国家で最も機密が守られるべき場所でやすやすと盗聴が行われていたことだ。三つ目は、その盗聴録音がマスコミに流されたことである。もちろんプブリコ紙が情報源を明らかにするはずはないのだが、誰が何の目的でこのような左翼紙と見なされるマスコミを通してこの暴露が行われたのかという点である。(上で述べた2012年と2014年のでっち上げでは、国家警察中枢と繋がりの深いエドゥアルド・インダが中道右派新聞のエル・ムンド紙で働いており、カタルーニャ独立運動を妨害する謀略に加担していたと思われる。なおインダは2014年にエル・ムンド紙を退社して独自の新聞OKディアリオを創刊した。)

 当然のことだが、カタルーニャの独立派各党とポデモス系の党派が、第一の問題について内務省と国家警察を激しく攻撃した。そしてカタルーニャ州議会と中央議会で「フェルナンデス・ゲート事件」の特別委員会が作られたが、そこでフェルナンデス・ディアスはプブリコ紙の報道を「偏りのある録音」「コンテキストを無視したもの」として矮小化に努め、第二の問題である「どのように盗聴が行われたのか」を強調することで問題をすり替え、あきれたことに「自分こそ謀略の被害者だ」と主張した。さらに国民党が、この件を追求するポデモスに対して「カタルーニャ独立運動を援助している」という筋違いの非難を猛烈に繰り返して追及を妨害し続けた。その結果、カタルーニャ独立に反対する社会労働党やシウダダノスも腰が引けてしまい、この最も重要な問題点の追及はうやむやにされてしまったのである。一方で当事者である国家警察はもちろん、裁判所も判事局もなぜかこの問題から身を引いた。


《国家権力中枢の闇に潜むネズミども》

 結局、2016年の6月にダニエル・デ・アルフォンソがカタルーニャ州議会の決定により政治腐敗取締主任を解任されて、それでこの件は闇に付されるかと思われた。ところが続いて思わぬ展開が待っていた。2016年の7月11日に、カタルーニャのエル・ペリオディコ紙が国家警察の内部情報をすっぱ抜いた。それによると、総選挙やカタルーニャの地方選挙のたびに国家警察の警視ホセ・ビジャレホを中心としたグループによってカタルーニャ独立運動を潰すための謀略活動「カタルーニャ作戦」が展開されてきたというのである。先ほどの2012年と2014年のでっち上げは間違いなくこの「カタルーニャ作戦」の一環だっただろう。そしてあの内務大臣とカタルーニャ州国家警察政治腐敗取締主任によるでっち上げ(未遂)の盗聴もまたこのビジャレホ達によって為されたものだった。

 さらにそのエル・ペリオディコ紙が明らかにした内部情報には、ビジャレホや同僚の警視カルロス・サラマンカらのグループが、数多くの違法な盗聴を通して国家警察内の対立勢力や中央情報局、政治家などの情報を探り、謀略を練って脅迫し、内務省と検察庁を動かしてきたことまで書かれていたのだ。後に明らかにされたことだが、彼らは違法盗聴で手に入れた情報を元にして多額のカネを方々からゆすり取り、資金洗浄をしたうえで膨大な額の不正な蓄財を重ねてきた「内務省の掃き溜め」、国家権力の闇の部分に巣食うネズミどもだった。

 そして今年11月3日、スペインと世界がカタルーニャ前州知事カルラス・プッチダモンの突然のブリュッセル出現で大騒ぎになっている最中に、国家警察と検察庁が展開する「タンデム作戦」によってビジャレホら6名が逮捕された。この二つの出来事の時期的な重なりは特筆されなければならない。

 タンデム作戦が明らかにしたところでは、このグループはEU内の複数の国々にある同様の謀略組織や犯罪組織と繋がって国際的な政治経済の腐敗構造を食い物にしてきたのである。このビジャレホとそのグループについてはまた機会があれば詳しく触れたいが、ここでは先ほどのでっち上げ(未遂)だけに絞って、先に述べた三つの問題点のうちの第二の問題、内務大臣のオフィスという国家で最も機密が守られるべき場所でやすやすと盗聴が行われていたことと、いまのビジャレホ・グループとの関係について述べてみたい。

 内務大臣を辞めた今でもホルヘ・フェルナンデス・ディアスは「自分は謀略の被害者だ」という主張を変えていない。もちろん内務大臣のオフィスは機密情報の集積場であり、国家の中で最も情報漏洩に気を遣っているはずの場所の一つはずだ。しかし、11月8日にプブリコ紙はその犯行の詳細を報道した。情報源はおそらく国家警察か検察庁の内部と思われるが、ビジャレホらがその盗聴に使用したのはイスラエル製のスパイ用コンピューターシステムで、2014年の夏に国家警察の要職にあるエウヘニオ・ピノとホセ・アンヘル・フエンテス・ガゴの二人が、テルアビブにあるRayzone Group Ltdから違法に購入したものである。もちろんこの二人はビジャレホと共に違法な活動をしてきた者達で、彼といっしょに逮捕された。

 このシステムは携帯電話にインストールすればそれがそのまま盗聴マイクに早変わりするもので、他の携帯電話からの遠隔操作で作動させることができ、InterAppとSprinterというシステムを使って情報の記録と管理ができるらしい。もちろん電話音声も盗聴できる。ただそのためには、盗聴したい者の携帯電話をちょっと拝借してインストールする必要がある。例のでっち上げ(未遂)では、カタルーニャ州国家警察のダニエル・デ・アルフォンソの携帯電話が盗聴マイクとして使われたようだ。当のデ・アルフォンソは自分の電話を盗聴器にされていることに全く気付かずに内務大臣とでっち上げ計画の話をしていたのである。ビジャレホ・グループはこのシステムを、「小さなニコラス」事件(当サイトこちらの記事)に関連してCNI(スペイン中央情報局)内部からの盗聴でも使用したようだ。

 ビジャレホ達はなぜデ・アルフォンソと内務大臣フェルナンデス・ディアスの会話を盗聴したのだろうか。デ・アルフォンソは彼らのグループには入っていなかったようだが、国家警察に巣食うのネズミどもは、自分たちの「カタルーニャ作戦」を出し抜く作戦を探って、何らかの妨害や脅迫の材料にしたかったのかもしれない。しかしそれでは、プブリコ紙にその盗聴記録を教えたのは誰だったのか。ビジャレホ達であるとは考えられない。同紙は後にこのネズミどもを葬り去る情報を「どこかの筋」から入手しているのだ。ビジャレホ達が保存している盗聴音声をその「どこかの筋」が何らかの手段で手に入れたのか。あるいは、最初からそのスパイ用のシステムが、それを使用する者だけではなく、他の誰かにも同時に情報を送るようになっていたのだろうか。

 真相は深い闇の中にあるのだが、ビジャレホのグループが盗聴システムを購入したのがイスラエルの企業だったことが気にかかる。当然だが、その購入と使用にはその国の情報機関が関与していたことも十分に考えられる。当サイトこちらの記事でも書いたように、イスラエルはカタルーニャ独立運動と深く関わり合っており、独立派側にも国民党側にも太い人脈を持っている。今はこれ以上の憶測はやめておくが、ただ、『バルセロナの「テロ政治」(その3)』でも書いたように、我々が自分の足で立って生きていると思っている舞台の下で、その舞台装置と動きを作り上げて登場させる様々な力がうごめいていることを、我々は常に意識しておかねばならない。


《テロ、カタルーニャ、政治腐敗…、何たる不可解!》

 カタルーニャ問題の動きが12月21日の選挙に向けて本格的に動き始めた11月17日、バルセロナとカンブリルスを襲った「聖戦主義テロ」事件(当サイトこちらのシリーズ)からちょうど3カ月目だが、各マスコミは一斉に、その「聖戦主義テロ」の首謀者と見なされている人物とCNI(スペイン中央情報局)との繋がりをCNI自身が認めたことを報道した。その人物は、事件前日の8月16日にアルカナーの空き家の爆発事故で死亡したアブデルバキ・エス・サッティである。この自称イマム(イスラム教聖職者)については『バルセロナの「テロ政治」(その2)』の《不可解な点の多い「犯人像」》を参照してほしいが、CNIはこの男と事件のはるか以前からコンタクトを持ち、彼から情報を得て聖戦主義集団の動向を探る、いわゆる「密告屋」として利用していたそうである。

 2004年の3月11日に起きたマドリード列車爆破テロ事件(シリーズ『まやかしの「イスラム・テロ」』)でも、「テロ犯」の一部とされたホセ・エミリオ・スアレス・トレスオラスやアントニオ・トロが国家警察の密告屋だった(当サイト記事『マドリッド3・11 (6) 固められた《筋書き》』)ので特に驚くことでもあるまい。この種のテロでは良くある話だ。警察や諜報機関と連絡を取り合っていた者が「テロの真犯人」だったというのでは、その「テロ」自体を疑わざるを得ないだろう。実際に当サイトのシリーズ『2017年バルセロナ「聖戦主義テロ」』に書いたとおり、このテロ事件はさまざまな不可解な要素に満ち溢れている。

 そしてここに、もう一つの不可解が積み重なった。CNIはなぜ今になってそんな情報をマスコミに流したのか。CNIの中の誰がどんな形で流したのか。そんなことは永遠の秘密にしておけばよかったはずのことである。先ほど書いたような盗聴やスパイによってCNIを脅迫し何らかの取引をした者達がいるのかもしれない。翌日の11月18日にCNI責任者のフェリックス・サンス・ロルダンは、これについて説明したいので議会で公聴会を設けてほしいと要請したが、それが実現したとしても事の真相がどこまで語られるか、まあ期待しないでおこう。

 しかし不可解さはカタルーニャ独立運動と一連の政治腐敗暴露の方にも満ちている。いままで取り上げた政治腐敗暴露の多くが独立騒ぎに紛れ覆い隠された形で進められてきた。独立騒ぎがやや落ち着きを見せた11月中旬になって爆発するように登場したのは、元マドリード州知事イグナシオ・ゴンサレスの、エスペランサ・アギレとマリアノラホイに対する「クソ女」「クソ野郎」の罵倒だった。確かに国民党の腐った体質と下劣な品性は印象付けられただろうが、社会の構造、つまりスペイン社会に頑強に根付く政治と経済とマスコミ(プロパガンダ)の作る巨大で病的な構造からは、逆に国民の意識が遠ざけられたかもしれない。

 前回『《開かれるか?バルセナスの「B金庫」》』で書いたようにギュルテル事件で国民党という政党自体が被告席に座らせられる裁判所の決定がなされたのだが、国民党側はなりふり構わず反撃してきた。11月29日になって全国管区裁判所は、この事件を裁く判事の入れ替えを発表した。3人の判事のうち2人が国民党に近い人物とされたのである。もちろんだが「三権分立」といったお題目など吹っ飛んでいる。この「B金庫」の件でマリアノ・ラホイを再び証人席に座らせようとしていた判事フリオ・デ・ディエゴはこの事件担当から外された。さらに裁判所は国民党の資金に関する資料を、「未だに調査中のものである」という理由で議会に送ることを拒否した。ラホイと国民党はもう死に物狂いになっている。言ってみれば「手負いの野獣」なのだ。

 他方、野党側の反応は実質的にほとんど無きに等しい。カタルーニャの独立派政党は独立以外に関心を持たない。また「反政治腐敗」を掲げるシウダダノスも政権を取り戻したい社会労働党も頭の中の99%がカタルーニャ独立派への非難で占領されており、12月21日の選挙にほとんどの目が向けられている。マスコミにしてもこの問題を大きく取り上げるのはエル・ディアリオなどごくわずかでしかない。『「カタルーニャ」に覆い隠されるスペイン社会の真の危機』でも述べたとおり、「カタルーニャ独立」は実にすばらしい「目隠し」として機能している。国民党とラホイは独立派に涙を流して感謝を表するべきだろう。

 客観的に、というか冷ややかな目で落ち付いて眺めるならば、「カタルーニャ問題」と「スペイン政治腐敗問題」は二つセットで絡み合いながらどんどんと螺旋状に、救いようのない場所に堕ちていくように感じる。そのカタルーニャについては11月中旬以来の出来事をまとめて近日中に書くことにしたいが、いまのところ独立派にかつてのような集中した熱気は見られない。ブリュッセルのプッチダモンと彼の政党であるバルセロナのPDeCAT(カタルーニャ欧州民主党)との間にも何やら隙間風が吹き始めたようだ。12月21日までにどんな展開になるのか、思いがけない重大な事態が起こるのかどうか分からないが、また引き続いて見ていくことにしたい。

 何とこの世は不可解に満ちていることか!


   『「テロ」と「カタルーニャ」の陰で 芯から腐れ落ちつつある主権国家』 ここまで
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