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「カタルーニャ」に覆い隠されるスペイン社会の真の危機


 「カタルーニャ独立」問題の進展は、いまのところ小休止、といった状態だ。ブリュッセルにいるプッチダモンは、ベルギー検察庁がとりあえず「逮捕」して裁判所の判断を仰いだが、裁判所は警官による見張り付きという条件を与えて釈放。今月の17日に最初の裁判所による審問が開始される。彼と他の4人の“カタルーニャ共和国高官たち”がどのようになるのかの決定には、おそらく数カ月かかるだろう。その間に「カタルーニャ問題の国際化」が次々と行われていくだろうが、こうなるとラホイ中央政権もうかつな動きはできない。

 ウリオル・ジュンケラスら(元)カタルーニャ州政府の8人の高官たちと、民族団体ANC(カタルーニャ民族会議)およびオムニウム・クルチュラルの代表者2名は、マドリードの刑務所で身柄を拘束されたままだ。獄中にいる彼らの存在は、今後EU内で大きな重みを持ってくるだろう。また12月21日の州議会選挙がどうなるのかの予想は難しい。今後のカタルーニャ内での事態の展開次第だが、いまのところ「独立」vs「反独立」の議席数予想は拮抗している。それにしても、もしここでまた独立派の議席が多数を占めるようなことになれば、ラホイ政権はどんな手を打つつもりなのだろうか。

 だが今回の記事はその問題ではなく、逆に、この9月と10月の間、「独立」騒ぎに覆い隠されてスペイン国内で進行している、おそらく「カタルーニャ問題」よりも本質的には重要な意味を持つはずの出来事について触れてみたい。


2017年11月8日 バルセロナにて 童子丸開

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●小見出し一覧(クリックすればその項目に飛びます)
《「カタルーニャ独立」騒動と同時進行する危機的状況》
《高速鉄道工事強行に対するムルシア住民の反乱》
《暴かれ続ける政治腐敗》
《失業・首切り・値上げ…、深刻化する生活破壊》
《そして、進行する悪徳政治》


【写真:スペイン国首相マリアノ・ラホイ、プブリコ紙より】

《「カタルーニャ独立」騒動と同時進行する危機的状況》

 スペインといえば、いま世界中の目が「カタルーニャ独立」問題に注がれているだろう。スペイン国内でもメディアの視点は、ヒステリックなほどにこの問題に集中している。しかしその一方で、この騒動に覆い隠された形で、重大な危機が引き続いているのだ。カタルーニャ独立問題を書き留めながらも、もう一方で、現代社会に生きる我々にとってより本質的な事柄と思えることを記録し続ける必要がある。

 私は、カタルーニャ独立の動きが本格化する直前の6月に『スペインのクソ暑い6月(1):ますます支離滅裂になる国』で崩壊しつつあるスペイン社会の様子の一端を、そして8月11日に『カネ!カネ!カネ!:市民生活を押し潰すネオリベラリズム』の中で、バルセロナを致命的に蝕んでいるネオリベラル経済の実際的な現れについて書き留めた。9月に入って独立運動が本格化してきてからも『《具体性抜き…独立を巡る議論の空しさ》』でこの独立を巡る議論の欺瞞性について述べた。そして10月1日の「住民投票」後に『《独立騒動の影で進行する厳しい現実》』で、いくつかの具体的な実例を取り上げた後で、私は次のように書いた。

 私が常に述べているように、現在の世界で最も重大な問題は、スペインとカタルーニャといった「水平方向の分離」ではなく、持つ者と持たざる者の「垂直方向の分離」だろう。…。見せかけだけの「景気回復」のなかで進行する貧困の増大と社会の「上下2分極化」こそ、スペイン人とカタルーニャ人が手を結んで解決しなければならない最も重大で最も緊急の問題のはずである。歯止めの利かないナショナリズムを焚きつけて人々を分裂させることは、やはり、この最も重大で最も緊急の問題を永久に解決できないようにさせる罠、詐欺ではないかと思う。…》

 外からスペインとカタルーニャを眺める人にとっては、華々しく展開する「独立運動」の帰趨が大切かもしれない。だがその現場で大地を踏みしめて生きる人間にとっては、それをメディアが大々的に取り上げれば取り上げるほど、伝える側の熱気にもかかわらず、何かしら白々しい思いが湧き上がってくる。我々にとっては、「どうあるべきか」よりも、「どうやって生きるか」から出発して、現在の我々が本当にどんな危機に直面しているのかを割り出すことの方が、はるかに大切なのだ。

 CIS(国立社会科学研究センター)は毎月、「スペイン国民の三つの心配ごと」を調査している。それによって、スペイン国内の諸問題について国民が主要に「心配ごと」としているものが何かを知ることができる。その10月17日にまとめられた調査結果を見てみたい。( )内の数字で、最初の強調文字で書かれる数字は10月17日、2番目の数字は前月9月17日の調査の結果である。
 スペイン国民の「主要な心配事」の第1は失業問題66.2%、69.5%)である。第2がカタルーニャ問題29.0%、7.8%)、第3が政治腐敗28.3%、38.0%)、第4が政治情勢(27.5%、20.7%)、第5に経済21.9%、21.7%)であり、他の事柄は一桁あるいはそれ未満の数字で、この5つが飛び抜けた「心配ごと」となっている。
 カタルーニャ問題の急上昇については、何と言っても10月1日の住民投票の際に起こった警察による暴力的対応や「独立宣言」、そしてそのマスコミ報道の影響だろう。それでもまだ3分の1にも届いていない。政治腐敗が急に下がっているのは、それがこの間ほとんど報道されていない影響が大きい。それにしても失業問題が、一時ほどではないにせよ、相変わらず「心配ごと」の70%近くを占めている。これに低い労働条件(5.9%、7.5%)を加えると、やはり労働問題がダントツの「心配ごと」となる。まあ、当たり前だが。

 以下、11月4日と5日にプブリコ紙に掲載された記事を元に他の情報も加えて、「カタルーニャ独立」問題の陰に隠された形で、しかしながら、そこに住む者にとって最も身近な形で進行しつつあるスペイン社会の危機的状況について述べてみたい。


《高速鉄道工事強行に対するムルシア住民の反乱》

 スペインの高速鉄道路線の建設は2000年代のバブル経済をリードする形で計画され進められた。その結果がどうなったのかは、私が2014年12月に書いた『《公営事業は野獣の餌場》』、そして2016年9月に書いた《本当の意味の「政治腐敗」とは》』の中で述べておいた。それがとうてい採算のとれるものではなく、安全性の確保できるものでもなく、また多くの区間が工事中のまま、実に悲惨な状態で放置されている。その一つがスペイン南部ムルシア州にある。マドリードから伸びる高速鉄道の線路がバレンシア州アリカンテ市までは何とか届いたのだが、アリカンテとムルシア州の州都ムルシア市を結ぶ路線で、ムルシア市内で工事が中断したままになっているのだ。

 中断の原因は、もちろんバブル崩壊による資金不足もあるのだが、それ以上に中央政府と州政府、および国営の鉄道施設会社Adifによる、住民生活を無視したでたらめな計画によるものだ。この高速鉄道の線路はムルシア市の中央部にあるムルシア駅に向かうのだが、ムルシア駅の手前、約9kmの部分で人口の密集した住宅街を横切ることになる。下の写真に描かれる左右に走る黄色で塗られた区間である。 


 地方政治をあずかる為政者が普通の感覚ならここは地下に線路を作るところだ。2006年に計画が作られた当時、中央政府(社会労働党政権)は住民との間でこの区間を地下に作る協定を結んだ。だがその後に経済バブルがはじけ、カネのかかる地下トンネルの工事は敬遠された。ムルシア州は1995年以来、フランコ独裁政権の流れをくむ国民党が政権を取っているのだが、州政府とAdif、そして中央政府(2011年までは社会労働党、それ以降は国民党政権)は2006年の協定を無視し、強引に地上5mの高架線の工事を進めた。すでにほとんどが完成しているのだが、この9kmの間には線路の下を潜り抜ける通路がわずかに4か所しかなく、その結果、20万人が住むこの地区を南北に分断する巨大な「壁」が作られてしまったのである。

 これは物理的な意味での「壁」であると同時に、住民生活を無視したでたらめな計画を独裁時代そのままに力ずくで押しつける政治の「壁」でもある。2017年11月4日のプブリコ紙から、その「壁」と闘うムルシア市の住民運動の様子を知ることができる。この地域の住民たちはこの高速鉄道線路を「恥辱の壁」と呼んで、「地下路線促進委員会Plataforma Pro Soterramiento)」を結成して、協定を守ろうとしない州と国を相手に度重なる工事差し止めの申請をしてきた。そして現在も引き続いてこの「壁」を完成させようとする中央と地方の強権的な政治に対して闘い続けている。その目的は、当局者が地下に線路を作るまでは高速鉄道の運行を阻止することである。

 数年にわたって「嘘と言い訳」を繰り返しながら工事を強行してきた行政当局に業を煮やした住民の怒りは、この9月になってついに爆発した。スペイン中のマスコミがカタルーニャ問題で大騒ぎをしている最中である。カタルーニャ住民投票の前日、9月30日に、5万人というムルシア市の歴史上最大のデモが行われたのだ。ムルシアは伝統的に貧しく、またフランコ独裁政権時代の引き続きで、為政者は高圧的だが住民たちは従順だった。しかしその伝統は打ち破られつつある。

 カタルーニャで血まみれの住民投票が行われ国際的な大非難が上がっていた10月初旬、ムルシアでもやはり、強行される線路と「壁」の工事に抵抗する住民たちと警察隊との衝突が連日のように起こり、数多くの負傷者と逮捕者を出し、100人を超す者に高額の罰金が課せられているのだ。しかしこちらは新聞の扱いも僅かであり、もちろん外国では何の話題にもならない。中央政府の国有財産相とAdifは、現在のところ、今年の12月から地下路線の工事を開始するという約束をしているのだが、一方で2018年に架線に電気を通して地上路線の試運転を開始しようとしている。奴らの約束などどうせ口先だけだ。住民たちの闘いは今後ますます熾烈になっていくことだろう。その原因はひとえに権威主義的・強権的で既得権益を守るためには手段を選ばないスペインの政治体質と、それを具現化する国民党にあるだろう。

 ところが当の国民党は、住民たちの闘いが激化していることをポデモスと統一左翼党の責任にしている。罪を他に被せて強権で弾圧する伝統的なこの国の支配層の手法もまた、フランコの以前から変わることがない。10月26日には、住民の要求について審議する州議会が傍聴席にいる極右団体の「フランコ万歳!」の声で妨害され中断されてしまった。この国の、国民党やシウダダノスなどが言う「民主政治」など、この程度のものである。それが1978年憲法の「民主主義」なのだ。(当サイトこちらの記事参照)

 カタルーニャに憲法155条が適用された翌日の10月28日には、ムルシア市住民1万人がマドリードに集まって政府に対する抗議行動と異議申し立てを行ったが、それにはマドリード、グラナダ、バジャドリードからの支援者たちも加わった。スペイン社会の変革のために必要なものはこのような闘いと連帯の努力ではないかと思う。


《暴かれ続ける政治腐敗》

 以下は、11月5日付のプブリコ紙がまとめたものを中心に、他の情報を集めた、「カタルーニャ独立」騒動と同時並行的に進行している、そして地元のスペインですらほとんどのマスメディアが片隅に追いやっている事柄である。まずこの9月と10月に進展した主に政府与党の国民党が主体となる汚職・政治腐敗に関する情報を取り上げてみたい。

★ギュルテル事件(当サイトこちらの記事こちらの記事こちらの記事を参照)
 「国民党のB金庫(裏帳簿)の存在は、全面的に、抗し難いほどに証明済みのものである」。これが、この10月24日に、国民党の大型政治腐敗事件、ギュルテル事件の公判でコンセプシオン・サバデイュ検事が語った言葉である。この検察庁反腐敗委員会の検事は、このフランシスコ・コレアが主犯格と見なされる大掛かりな不正の中で、国民党が賄賂と「手数料」を通して莫大な利益を稼いでいたのは「ごく日常的なこと」だったと断定し、これを「国家主権に対する攻撃であった」と強い調子で非難した。そして国民党の裏金による元厚生大臣のアナ・マトとその元夫でマドリード近郊都市の市長だったヘスス・セプルベダの贅沢三昧も実証された。同じ日の公判で国税当局は、国民党中央のB金庫(裏帳簿)作りを行ったとされるルイス・バルセナスが、元マドリード州知事エスペランサ・アギレの会計係の自宅に多額の裏給与を隠していたと訴えた。またバルセナスが400万ユーロも実に「効果的に」資金洗浄してスイスに隠したことも証明された。

★ロドリゴ・ラト事件(当サイトこちらの記事こちらの記事こちらの記事を参照)
 マドリード地裁は10月5日、元スペイン政府副首相のロドリゴ・ラトが外国にあるタックスヘイブンを使って多額の脱税をしていた嫌疑について、いったん「棚上げ」にされていた調査を再開するように検察庁に指示を送った。また10月26日に全国管区裁判所は、バンキア銀行破産の際に不良極まりない会計の実態を隠して株式上場をさせたラトの犯罪について、裁判を開始すると告げた。

★レソ事件(当サイトこちらの記事参照)
 これは参照記事に書かれているが、元マドリード州知事エスペランサ・アギレの片腕だったイグナシオ・ゴンサレスとその家族、周辺の政治家や実業家たちによる大型政治腐敗、裏金作り工作が暴かれた事件である。また元マドリード市長ルイス・ガジャルドンがこの事件への関与(公文書偽造、職権乱用)を疑われており、10月23日にその公判が開かれたが、彼はマドリッド州の水利公営企業Canal Isabel IIからの「手数料」もゴンサレスとの契約も、全面的に否定した。しかしその前の10月20日には、ラ・バングァルディア紙が2011年の地方選挙でアギレ陣営の会計に150万ユーロの裏金が含まれている証拠を報道している。これは間違いなくレソ事件がらみの資金だろう。

★パルマ・アレナ事件(当サイトこちらの記事を参照)
 バレアレス諸島マジョルカ島のパルマを舞台に、バブル経済絶頂期の2004年に開始された体育施設「パルマ・アレナ」を巡る汚職の捜査から次々とこの観光地を激震させる政治腐敗が明らかになった事件である。この事件に関連して、現国王の姉クリスティーナ・デ・ボルボンと夫のイニャーキ・ウルダンガリンによる公金横領までが明らかにされた(ノース事件)。9月20日にバレアレス地裁で、パルマ・アレナ事件の被告である元バレアレス州知事(国民党)のジャウマ・マタスに対する求刑が告げられた。懲役3年、公民権停止7年、そして不正に使用した公金120万ユーロの返還命令である。これは、マタスが犯行の一部を認める代わりに刑を軽くする司法取引の結果だろう。

★「3%」事件(当サイトこちらの記事を参照)
 これはカタルーニャ州でジョルディ・プジョルが知事になった1980年以来、延々と続いてきた民族主義右派政党による政治腐敗の一端である。プジョル与党のCiU(集中と連合、CDC「カタルーニャ民主集中」とUDC「カタルーニャ民主統一」の連合会派)は国民党とほぼ同じ体質を持ち、スペイン社会に作られた利権あさり構造にどっぷりと浸りきっていた。CiUの議員や州政府幹部たちにとって、州政府の契約企業から3%の「手数料」を取って、一部は自分の懐に、一部は党の資金とすることが当たり前だったと言われており、一部の(元)党員たちの裁判は延々と続いている。このCDCは現在はPDeCAT(カタルーニャ欧州民主党)と名前を変え、ERC(カタルーニャ左翼共和党)との合同会派JxSI(ジュンツ・パル・シ)を形作って「独立運動」を進めている。また“カタルーニャ共和国大統領”カルラス・プッチダモンはこの党に属している。そのJxSIの幹部だったジャルマー・グルドーもその「3%事件」の被告の一人だったが、9月14日に検察庁は彼のスペインからの出国を禁止するように裁判所に求め、裁判所は彼のパスポートの効力を停止した。

 なお「3%の手数料」はCDCに特有のものではない。先に述べたギュルテル事件でも、国民党の有力者たちは公的機関の契約企業から同様のカネを受け取って、党の「裏金」や有力党員たちの「超過給与」にしていったと見られている。10月28日付のエル・ディアリオ紙が検察庁筋として伝えたものだ。しかもそれは、当サイトこちらの記事にもあるように、首相で国民党党首のマリアノ・ラホイ、国民党副党首のマリア・ドローレス・コスペダルをも巻き込んでいく可能性のある問題である。ギュルテル事件の結審と判決はもう間近に迫っており、カタルーニャ問題と同様にスペイン政府の首を絞めあげるかもしれない。


《失業・首切り・値上げ…、深刻化する生活破壊》

 この9月と10月にカタルーニャ問題に覆い隠された形でひっそりと報道された、市民生活に直結する事柄についての統計や情報を取り上げてみた。当サイト『《独立騒動の影で進行する厳しい現実》』でも私の気付いた限りのものを載せておいたのだが、こちらの方に現代世界の本質的な危機があるような気がしてならない。007年の「リーマン・ショック」以来、欧州の伝統的な福祉国家制度が瀕死の状態に置かれているのだが、それを最も典型的に現しているのがスペインなのだ。(当サイトこちらの記事参照)

★人員整理
 中央政府は3年連続で、厚生、教育、社会的保護への出資を減らすことになるだろう。マリアノ・ラホイが用意した来年度予算によれば、教育への投資は今年はGDPの4%だったものが3.8%に、厚生では6%から5.8%に減らされることになる。また、年金、社会サービス、そして雇用促進政策に回す資金はGDPの16.5%から16.2%に減らされることになった。

★経済 
 スペイン中央銀行が9月7日に明らかにしたところによると、バブル崩壊の際に、14の銀行を「救済する」ために2009年以降に国が拠出した568億6500万ユーロの公的資金のうち、その80%を超える425億9000万ユーロが未回収のままになっている。マリアノ・ラホイは2012年に首相に就任した際、公金によって救済される金融機関はじきに立ち直って公金が回収されるのでコストはゼロである、というあからさまな大嘘を披露してくれたが、ラホイと国民党、シウダダノス、社会労働党にとって、この現実よりも「カタルーニャ独立」の方が何十倍も脅威らしい。
 また同じ9月7日に、バンキア銀行と経営悪化に苦しむマレ・ノストゥルム銀行との合併で、国家はさらに144億7100万ユーロの損失を被ることが明らかにされている。どれほど巨額の脱税よりも、この公金による銀行「救済」のほうが圧倒的に悪質だ。 私が2012年に書いた『「銀行統合」「国営化」「救済」の茶番劇』の中でこの犯罪が実行される現場の様子を書き留めておいたが、先の10月10日に、その犯罪に最も責任のある二人の元首相、ホセ・マリア・アスナール(国民党)とホセ・ルイス・ロドリゲス・サパテロ(社会労働党)は、ウニドス・ポデモスが提案した議会での喚問に応じないことを明らかにした。この元首相たちは国家を破滅に導いた責任だけはとりたくないらしい。

★失業
 カタルーニャが独立しようとしまいと、スペインは欧州第2の「失業大国」を続けることに違いない。スペイン政府はこの10月26日、憲法155条のカタルーニャへの適用決定の直前に、スペインの就職状況が2008年以来最高の状態になったと鼻高々に披露した。これは今年第3四半期の統計によるものだが、昨年同期よりも失業者が182600人も減ったというのである。ただし11月3日の国立雇用公共サービスの発表によると、この10月に失業が57000人近く増えて約347万人に上った。スペインの就業状況の改善は、ひとえに絶頂期にある観光産業にかかっており、低賃金の短期契約労働ばかりが増加している。しかもそこでは、私がこの8月に『カネ!カネ!カネ!:市民生活を押し潰すネオリベラリズム』の中で述べたようなネガティヴな面の増大も見過ごせない。
 今年8月になって失業した者は2008年以来最悪の46400人に上っている。さらに8月の最終日にスペイン中で3万人の新たな失業者が生まれたが、労働契約が4月~8月の観光シーズン中での3ヶ月に限る短期契約である以上、どうしようもないことだ。さらに9月には新たに28000人近くが契約を打ち切られたが、これは2012年以来の記録である。政府はよく2008年と比較するのだが、あの当時は中南米などから「出稼ぎ」に来ていた人々が大勢いた。その人たちの多くは経済バブル・建設バブルが終わると同時に引き上げていった。さらにそれ以降、スペイン国内で就職をあきらめた若い層のスペイン人たちが大挙して英国やドイツに向かっている。そしてそれらの人数が「失業者数」に加えられることは無い。単なる数字の誤魔化しに過ぎない。

★消費
【電気】この10月24日に電気料金が大幅に値上げされ、過去6年間で最悪のものになった。地域や配電会社によって多少異なるものの、全国平均で9月よりも7%上昇したのだ。
【住宅】政府は国民の注意がカタルーニャ騒動に引きつけられているのを良いことに、バブル崩壊時の不正な住宅ローン利率見直しを封印し続けている。この見直しは銀行による不当な利子取り立てから消費者を守るはずのものなのだ。9月28日付のプブリコ紙記事「新たなバブルの恐れが住宅市場の正常化にブレーキをかける」の中で、この7月に住宅価格が前年比で33%も上がったことを伝えている。これは住宅の売買件数が17%増加していることによるのだが、私が数年前から予想していたように、この2~3年で新たな住宅バブルが発生しているのだ。
 しかも、当サイトこちらの記事で書いたように、バルセロナのような観光都市ではすでに、バブル崩壊後の最低だったときの2倍を超える値上がりを見せており、以前のバブル期よりもひどいのではないかと思えるほどだ。9月2日付のエル・ペリオディコ紙は、バルセロナ市内で家賃800ユーロ未満の賃額住宅がほぼ「絶滅」したことを伝える。しかし一方で、『《独立騒動の影で進行する厳しい現実》』に書いたとおり、低賃金労働者家庭の収入はますます減りつつある。貧乏人は路上に住め、ということなのか?
 この現状を憂慮するバルセロナのアダ・クラウ市長は、今年後半になって、不動産業者による集合住宅の買い占めと住民追い出しを防ぐための特別な機関を作ろうとしたり、低家賃の公営住宅の建設促進を行おうとしたりしているのだが、何せ「独立騒動」がらみの各党派の党利党略に巻き込まれて、身動きが取れない状態なのだ。


《そして、進行する悪徳政治》

★法案の審議拒否

 昨年に新たなラホイ政権が誕生して以来1年間に(当サイト『社会労働党「クーデター」とラホイ政権の継続』を参照)、政府与党の国民党はスペイン議会で43の法案審議を拒否した。その結果、僅かに2件の法案が成立したのみである。立法府が法を作ることができない。もちろんここで書いているように、「カタルーニャ問題」対応以外の行政機能はろくに働いていない。この国はもう終わっている。

★若年層就職刺激計画からの撤退
 スペインの失業率は2017年9月に16.7%だったが、25歳未満の若年層になるとこれが37.2%に跳ね上がる。しかもこれには、職を求めて外国に旅立った者たちの数は含まれていない。さらに多くの若者たちを待ちうけているのは低賃金の短期雇用である。そこで政府は2015年に若年層の就職を刺激する計画を発表して対策するふりをしていたのだが、この10月3日にスペイン雇用省は結局、この計画からの撤退を発表した。なにせ政府はカタルーニャ問題への対応に「追いまくられて(?)」いるのである。せっかく作った「国立若年層保障システム(el Sistema Nacional de Garantía Juvenil)」は機能したことがない。

★権利の喪失
【国際テロリズムへの奇妙な対応】当サイト『《テロの背後のあまりにも深い闇》』に書いたことだが、8月17日のバルセロナ・カンブリル連続テロ事件で、中央政府は「非常事態特別委員会」を開くことがなかった。「テロ脅威評価委員会」も極めて遅れてしか開くことがなかった。内務省も積極的に動こうとしなかった。真相(深層)はどうか知らないが、少なくともイスラム国(IS、ISIS、ISIL、Daeshなどなどの別名を持つ)が早々に「犯行声明」を出し、犯人とされた者たちは「イスラム国の思想的影響を受けた」とされるモロッコ人たちだった。しかしスペイン政府は、いまカタルーニャに対してあらん限りの大声で叫び続ける「国家主権」を、この国際テロリズムに対してはあっさりと投げ捨てたようだ。国民には「いつ殺されるか分からない恐怖」だけが残されている。
【CETAの承認】10月24日、スペインが「カタルーニャ独立宣言」と「憲法155条」のガチンコ対決で大揺れになっている日に、ひっそりとスペイン上院を通過した条約の承認があった。対カナダ版TTIPであるCETA(The Comprehensive Economic and Trade Agreement)だ。これは、米国トランプ大統領によって頓挫させられたTTIP(大西洋横断貿易投資パートナーシップ協定:同じくトランプが米国の不参加を決めたTPPの同類)の「代用品」と言ってもよいもので、米国企業と資本がカナダを迂回して欧州を支配する可能性を開くものである。スペイン下院は6月22日に国民党、シウダダノスなどの賛成多数でこの条約の承認を可決していた。そして10月24日に国家として正式な承認を決定したのである。これで欧州が米国ネオリベラル資本主義の「餌場」になる日が一歩近づいたと言える。
 スペイン政府は、カタルーニャに対しては「国家主権!国家主権!」と怒鳴りまくっているのだが、国際テロリズムとネオリベラル資本主義を前にすると完全にとろけてしまうようだ。どうせもう、あの経済危機の中で「ゾンビ国家」になってしまい(当サイト『狂い死にしゾンビ化する国家』参照)、カタルーニャなどの民族問題で解体処分を受けつつある身である。もう「主権」など口に出せる身分でもあるまい。フランコ独裁の延長に過ぎないスペインの統一主義者には、EUの統一主義者たちの「手招き」が見えているだろうか。


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