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ミシェル・チョスドフスキー論文和訳

“反対派でっち上げ”と誤誘導される大衆運動


 まず、今回和訳(仮訳)した論文の一部をご紹介することから始めたい。

 『… 反対派でっち上げの目的はまさしくこれだ。草の根的運動を効率よく沈黙させ弱めるために、リーダーたちを、自らが属する階級と社会的序列にいる人々から遠ざけることである。 …。 WSFは、グローバル資本主義とその機構の正当性を直接に脅かしたり攻撃したりすることのない個々のイニシアチブのモザイクだ。 …。 この明らかに非組織的な構造は意図的に作られたものである。数多くの個別の話題に関する議論を好む一方で、このWSFの枠組みは、グローバル資本主義に対抗する方向性を持つまとまりのある幅広い議論の場と行動計画を導くようなものではない。 …(本訳文『NGO指導者vsその草の根運動』より)

 少し前に私は、『ポデモスは分裂の危機?カタルーニャは?』の中で、スペインの左派政党ポデモスを襲う危機について述べたが、残念なことに、上に引用したWSF(世界社会フォーラム)についての論評がその行く末を暗示しているのかもしれない。

 リーダーのパブロ・イグレシアスが、No.2のイニゴ・エレホンや欧州議員ミゲル・ウルバンからの激しい攻撃を受けている。イグレシアス派は街頭での『草の根的運動』を重視して「支配階級に恐れられる」党活動を主張する。エレホン派はそれとは逆の『グローバル資本主義とその機構の正当性を直接に脅かしたり攻撃したりすることのない』方向を求めて議会での中道党派との連携を重視する。ウルバン派はIMF・欧州中銀・EUの「トロイカ」との対決を叫ぶ一方で極端にゲイ・レズビアンなどのLGBT運動とリベラル主義に偏っている。この3者をまとめる方法はおそらく存在しないだろう。

 さらに2月9~11日にかけて行われる全国党大会に向けてこの1月中に起こった議論から、もうひとつ極めて重大な点が指摘できる。エレホン派とウルバン派では政治的主張は大きく異なっても一つの点で共通しており、エレホン自身も「私はイグレシアスよりもむしろウルバンに近い」とまで語っている。それは党自体の構造に関する点である。イグレシアス派は党首を中心にした結束を強調するが、他の2派は党首の統率力と指導力を大幅に制限し、各地域と種々の分野が「独立性」を持ちながらゆるやかにつながる形態を求めている。上の引用の言葉を借りるなら『個々のイニシアチブのモザイク』にしようということだ。

 そのうえで彼らは、「党の顔」だけはイグレシアスのまま、党活動の中身を『草の根的運動を効率よく鎮静化させ弱めるために』入れ替えようとしているのだ。これが実現するなら、15M(キンセ・デ・エメ:当サイトこちらのシリーズ)で爆発したネオリベラル経済とグローバリゼーションに対する民衆の怒りと抵抗は、ほとんど息の根を止められることになるだろう。

 ポデモスの資金源についてはまだ十分な資料が手に入っていないのだが、反対派を分裂させ弱体化させる策謀、特に党の活動資金の背後に邪悪な力が感じられる。党内の反対派が唱える『明らかに非組織的な構造は意図的に』作られるものにほかならず、それは『グローバル資本主義に対抗する方向性を持つまとまりのある幅広い議論の場と行動計画を導くようなものではない』。ポデモスが、少々あいまいな形ながら結党当初に持っていた方向性が完全に見失われ、むしろグローバル資本主義による支配を完成させるための道具になるだろう。そしてそれは、私がヨーロッパの左翼運動に対して持つ最後のかすかな希望の火種を、完全に吹き消すものになるだろう。

 上で一部をご紹介したのだが、今回の和訳(仮訳)の原文は、オタワ大学教授のミシェル・チョスドフスキーの下記の論文である。
“Manufacturing Dissent”: The Anti-globalization Movement is Funded by the Corporate Elites

 これは最近になって新しく書かれたものではない。著者自身が主催するグローバルリサーチ誌で2010年に発表され、2015年に同誌に再掲されたものである。最近のポデモスの様子を観察しているときに、ふと思い出して翻訳して発表しようと思い立ったものだ。なお、著者のミシェル・チョスドフスキーはユダヤ系カナダ人で、グローバルリサーチ誌を主宰するほか、反グローバリゼーション・反帝国主義の観点で多くの執筆・言論活動を行っている。当サイトでは『突然変更されたマレーシア航空MH17の航路』、『シリアの化学兵器物語り:人道的大惨事を後押しした米=NATOの計画とは?』が訳文として掲載されている。

 なおこの論文は政党ではなくNGOについて述べられている。最近の出来事に関してなら、『欧州の難民危機を煽るNGO』(田中ニュース)がちょうど良い実例を提供してくれるだろう。政党とNGOとを問わず、グローバル資本主義に買収された集団を見分ける方法は実に簡単だ。問題となるものごとの原因を決して語らない点を見ればよい。「難民問題」なら《難民を生み出す西側の戦争政策》、「貧富の差の拡大」なら《貧富の差を拡大させるネオリベラル・グローバル資本主義》である。「でっち上げられた反対派」は決してこれに触れようとしない。

 この訳文は長編なので小見出しの一覧を掲げておく。また原文の「dissent」は「異論、反対」などの意味だが、ここでは「異論を持つ運動」「反対を唱える勢力」の意味で使われていると思われるので、「反対派」と訳すことにした。

●小見出し一覧(導入部を除く:クリックすればその部分に飛びます。)
「でっち上げられた賛同」vs「でっち上げられた反対」
「反対派への資金投入」
分断化する活動
反グローバリゼーション運動
「進歩的番犬」
世界経済フォーラム、「全ての道はダボスに通ず」
世界社会フォーラム:「新たな世界は可能だ」
西側政府がカウンター・サミットに資金投下して抵抗運動を抑える
NGO指導者vsその草の根運動
グローバル資本主義が反資本主義に投資する:道理に合わない矛盾した関係


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【翻訳・引用開始】

“反対派でっち上げ”:アンチ・グローバリゼーション運動は

エリート集団に出資される

  ―― 人々の運動は乗っ取られている


ミシェル・チョスドフスキー著 グローバル・リサーチ 2015年4月12日 (2010年9月10日)

 この記事は2010年に最初に公表された。導入部にある著者自身による引用部分は、2001年の9/11の何カ月か前にケベック市で開かれた米州首脳会議に関する記事の主旨説明の中で述べられたものである

 * * * * * 
 「(フォード)基金が行ったことのすべては、苦しむ人々に慰めを与え、怒りに対する安全弁を提供し、政府の働きの改善を手助けすることにより社会的な緊張を和らげて、『世界を資本主義にとって安全に保つ』ものだと認識できるだろう。」(McGeorge Bundy, National Security Advisor to Presidents John F. Kennedy and Lyndon Johnson (1961-1966), President of the Ford Foundation, (1966-1979))
 * * * * * 
 「非営利的部門の中で働く関心が高く熱心な多くの人々に資金と方針の枠組みを与えることによって、支配階級は草の根のコミュニティーから指導者を新たに取り込むことができる。…そして、これらの状況の下ではあまりにも時間がかかり煩わしいため社会的公正の作業が事実上不可能な仕事で、投資と会計と評価の要素を作ることができる。」(Paul Kivel,You Call this Democracy, Who Benefits, Who Pays and Who Really Decides『あなたはこれを民主主義と呼ぶが、誰が利益を得て、誰が支払って誰が実際に決定するのか』, 2004, p. 122)
 * * * * * 
 「新世界秩序の下では、『市民社会』の指導者を権力のインナーサークルに導き入れる儀式が ― その階級と社会的序列を我慢しながらだが ― 数々の重要な機能を果たす。まず、グローバリゼーション批判者たちが参入する権利を得るためには『折れ合わなければならない』ことを世界に告げる。第2にそれは、世界的エリートたちは ― 婉曲に民主主義と呼ばれるものの下で ― 批判の対象になるべきであり、しかしながら同時に、合法的に支配するものだという錯覚を与える。第3にそれは、グローバリゼーションに『とって代わるものがない』ことを告げる。つまり、基本的に変化は不可能であり、これらの支配者たちと効率の悪い『ギブ・アンド・テイク』の中での取っ組み合いを期待するのが精一杯だ、ということである。
 善意を持っていることを示すために『グローバル化主義者たち』がいくらかの進歩的な言い回しを使うかもしれないが、それらの根本的な目的は攻撃を受けないということだ。そしてこの『市民社会の新たな取り込み』が果たすことは、エスタブリッシュメント集団の支配力を強化し、同時に抵抗運動を弱め分裂させることである。この新たな取り込みのプロセスを理解することは重要だ。なぜなら、シアトルやプラハやケベック市 [1999-2001]で何万人もの最も道議をわきまえた若者たちが、お金がすべてであるという考え方を拒否し、わずかな者たちがより裕福になるために何百万人が貧困化し脆弱な地球が破壊されることを拒否するために、反グローバリゼーションの抵抗運動に加わっているからである。

 この階級と社会的序列とその指導者たちの一部はともにたたえられるべきである。しかし我々はさらに前進しなければならない。我々は「グローバル化主義者たち」の支配する権利に挑戦する必要がある。そのことは抵抗の戦略の見直しを要求する。それぞれの国で巨大な運動を、普通の人々にグローバリゼーションが何をしているのかのメッセージを、届ける運動を起こすことによって、より高い地平に移ることができるだろうか、という疑問だ。それらが地球を強奪する者たちに挑みかかるために発動されなければならない力だからである。 (Michel Chossudovsky,The Quebec Wall, April 2001)
 * * * * * 


「でっち上げられた賛同」vs「でっち上げられた反対」

 この「でっち上げられた賛同」という用語は、元々はエドワード・S.ハーマンとノーム・チョムスキーによって造りだされたものである。

 「でっち上げられた賛同」は、民意を支配し「価値観と信念…を個々人に植えつける」ためにメディア集団によって使用されるプロパガンダ・モデルを意味している。

マスメディアは一般住民に対してメッセージとシンボルを伝達するためのシステムとして働く。その機能は、喜ばせ楽しませること、伝えること、人々をより大きな社会の支配構造の中に吸い集めるような価値観と信念と行動の規範を個々人に植え付けることである。富の集中と階級的利益の紛争がある世界では、そのような役割を満たすためのプロパガンダが必要とされるのだ。(Manufacturing Consent by Edward S. Herman and Noam Chomsky)
 
 「賛同のでっち上げ」には民意を操り形作ることが含まれる。それが権威者と社会階級的秩序への服従と受容を確立させる。それは既存の社会的秩序への迎合を要求する。「賛同のでっち上げ」は主流メディアの論調に、その虚構とねつ造に、民意を従わせることを意味する。

 この記事の中で、我々はそれと対比すべき概念、つまり(「賛同」ではなく)「反対でっち上げ」の巧妙なプロセスに注目することになる。それは支配階級の利益に仕える決定的な役割を果たすものである。

 現在の資本主義の下で、民主主義の幻想が優勢でなければならない。反論と抵抗を、確立された社会的秩序を脅かさないようなシステム的特徴として受け入れることは、エリート集団たちの利益の範囲内にある。その意図は反論を押さえつけることではなく、逆に抵抗運動に形を与え鋳造して、反対派に限界の枠をはめることだ。

 経済エリートたちは、自分たちの正統性を維持するために、限度を持ちコントロールされた反対派の形態を好む。抵抗のラディカルな形態の展開は、グローバルな資本主義の基盤と機構自体を揺り動かすかもしれないものだが、そのような展開を防止する視点を持っている。言い換えると、「反対派でっち上げ」は「安全弁」として働く。それが新世界秩序を保護し維持するのである。

 しかしながらそれが効果的になるためには、「反対派でっち上げ」のプロセスが、その抵抗運動の標的となる者たちによって、用心深く制御され監視されなければならない。  
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「反対派への資金投入」

 反対派をでっち上げるプロセスはどのように達成されるのか。

 本質的には「反対派への資金投入」による。つまり、その抵抗運動の標的となる者たちから抵抗運動の組織化の中にいる者たちへの、財源の水路を作ることによってである。

 支配層への新たな取り込みのために、政治家たちの嗜好には限界を設けずに資金が払われる。経済エリートたちは ― 主要な基金をコントロールしているのだが ― 膨大な数のNGOと市民社会組織への資金投入をも監督している。それらの組織は歴史的にいえば既存の経済的・社会的秩序に逆らう抵抗運動に含まれてきたものなのだ。多くのNGOと市民運動のプログラムは、フォード、ロックフェラー、マッカーシーを含む私的な基金と公的な基金の両方からの資金提供に深く頼っている。

 反グローバリゼーション運動は、ロックフェラーに支配されるウォールストリートとテキサスの巨大石油企業等々に反対している。ところが、ロックフェラー等々の基金とチャリティーが、環境団体(巨大石油企業に反対)と同じく進歩的な反資本主義ネットワークに、結局はそれらの活動を監督し形態を与えるという視点から、気前よく資金を与えるのである。

 「反対派でっち上げ」のメカニズムには、操作された環境と、反戦運動団体や環境主義者や反グローバリゼーション運動を含む進歩的な組織にいる個々人に対する圧力と隠微な新たな取り込みが必要だ。

 主流メディアが「賛成をでっち上げる」一方で、複雑なNGOのネットワーク(オールタナティブ・メディアの一部を含む)はエリート集団によって抵抗運動を形作りでっち上げるために利用される。

 1990年代の世界的な経済システムの規制の撤廃と、金融支配者の急激な富裕化に続いて、基金とチャリティーを通しての資金提供は急激に増加した。

 苦々しい皮肉だが、近年のウォールストリートでの詐欺的な金融利得の一部は、エリートたちによる税金逃れのための基金とチャリティーに還流されてきたのだ。これらの棚ぼた式の金融利得は、政治家たちを買収するために使われているだけではなく、NGO、調査研究所、コミュニティー・センター、教会グループ、環境団体、オールタナティブ・メディア、人権団体、等々に向けても流用されてきた。「反対派でっち上げ」は同時にまた、NGOによって、または直接に基金によって資金を与えられる「左翼集団」と「進歩的」メディアにも適用できる。

 その隠された目的は、「反対派をでっち上げる」ことであり、そして「政治的に正しい」反対派の境界線を定めることである。その一方で、多くのNGOにはしばしば西側諜報機関のために働く密告屋が潜り込んでいる。さらに、インターネットでの進歩的オールタナティブ・ニュース・メディアは、ますます多くが、基金とチャリティーの一群からの資金提供に頼るようになっている。  【小見出し一覧に戻る】


分断化する活動

 エリート集団の目的は、人々の運動をバラバラにして幅広い「個々の手作業」のモザイクにさせることだ。戦争とグローバリゼーションは、市民活動家の念頭にもはや存在しない。活動は分断化しがちである。積み上げられた反グローバリゼーション・反戦争の運動は存在しない。経済的な危機はアメリカ主導の戦争と関係があるものとはみなされていないのである。

 反対派は分断されてきた。バラバラの「個別に方向づけられた」抵抗運動(たとえば、環境、反グローバリゼーション、平和、女性の権利、気候変動)が推奨され、結束した大衆運動に反対する際に気前よく資金提供される。このモザイクは既に1990年代のカウンターG7サミットと市民サミットの際に幅広く見られたものだった。  【小見出し一覧に戻る】


反グローバリゼーション運動

 シアトルでの1999年のカウンター・サミットは、反グローバリゼーション運動の勝利として常に取り上げられる。つまり、「シアトルにおけるWTO世界貿易機関のサミットを閉鎖させた歴史的な活動家の連合、世界的な反企業運動を爆発させた火花」だ。(参照:ナオミ・クライン著Copenhagen: Seattle Grows Up, The Nation、2009年11月13日)

 シアトルは、大衆運動の歴史において実に重要な分岐点だった。5万人以上の、市民社会運動団体、人権団体、労働組合、環境団体といった様々な背景を持つ人々が、共通の追及課題の下に集まった。その目標は、ネオリベラルのアジェンダをその制度的な基盤ごと、力づくで取り壊すことであった。

 しかしシアトルは、同時に巨大な逆流をも明らかにした。社会のあらゆる場所から出た膨大な反対に合わせて、公式WTOサミットは急遽、「民主的な」装いを「外部に対して」与えるために、市民社会の参加のしるしを「内部に対して」必要とした。

 何万人もの人々がシアトルに集まった一方で、そのシーンの背後で起こったことは、ネオリベラリズムの事実上の勝利だった。一握りの市民社会組織が、表向きにはWTOに反対したのだが、WTOの世界的な貿易の構造を合法化するのに貢献していたのだ。WTOを政府間の非合法な団体として攻撃する代わりに、それらの組織はWTOと西側諸国政府との事前の対話に合意したのである。「容認されたNGOの参加者たちは、親密な雰囲気の中で、大使たちや貿易大臣たちやウォールストリートの大富豪たちとともに、多くのカクテル・パーティーやレセプションを含む数々の公式行事の席に連なるよう、招待されたのである。」(ミシェル・チョスドフスキー、Seattle and Beyond: Disarming the New World Order , Covert Action Quarterly, November 1999, See  Ten Years Ago: “Manufacturing Dissent” in Seattle

 その隠された目論見は、抵抗運動を弱め解体し、ビジネス支配層の利益を直接に脅かさない分野に反グローバリゼーション運動を導いていくことだった。

 私的な財団(フォード、ロックフェラー、ロックフェラー兄弟、チャールズ・ステュアート・モット、ディープ・エコロジー基金を含む)に資金提供を受けて、これらの「容認された」市民社会組織は、表向きには自分たち自身を人々の運動のために活動するロビー・グループとして位置づけた。優秀で献身的な活動家に率いられ、それらは手を結んだ。それらは結局のところは、根本的に不法な組織であるものの合法化を受け入れることによって、意図せずして反グローバリゼーション運動を弱体化させることに貢献したのである。(The 1994 Marrakech Summit agreement which led to the creation of the WTO on January 1, 1995)(同上)

 NGOのリーダーたちは資金がどこからきているのかについて十分に知っていた。にもかかわらず、アメリカとヨーロッパのNGOコミュニティーの内部では、それらの基金とチャリティーは企業集団から切り離された独立の博愛主義的な機関であるとして認識される。たとえばロックフェラー兄弟財団は、銀行や石油会社のロックフェラー・ファミリー帝国から離れた別種のものであるとみなされている。

 給与と活動の経費を私的な基金に頼りながら、それが当たり前のことであると受け入れられるようになった。ねじ曲がった理屈の中で、資本家集団に対する闘いが、資本家集団に所有された税金逃れの基金からの資金提供によって行われなければならないのである。

 NGO集団は拘束衣の中に捕らえられた。それらは存在自体を基金に頼った。それらの活動は厳しく監視された。ねじ曲がった理屈の中で反資本主義運動は資本家たちによって、その独自の基金を通して、間接的にコントロールされた。  【小見出し一覧に戻る】


「進歩的番犬」

 この進展中の歴史の中で、エリート集団が ―― その利益はIMFと世界銀行とWTOによって滞りなく給仕されるのだが ―― WTOとワシントンに本部を置く国際金融機関に反対する抵抗運動の先頭に立つ、まさにその組織に、(様々な基金とチャリティーを通して)喜んで資金を提供するのである。

 基金の資金に支えられて、ネオリベラル政策の施行具合を見張るために様々な「番犬たち」がNGOによってしつえられた。しかし、ブレトゥン・ウッヅの双子(IMF、世界銀行)とWTOがその政策を通してどのように何百万という人々を貧困化させる役を果たしてきたのかという、より重大な問題を取り上げることはない。参加型構造調整調査ネットワーク(仮訳、The Structural Adjustment Participatory Review Network:SAPRIN)が、USAIDと世界銀行に出資されワシントンに本拠地を置くNGO、Development Gapによって立ち上げられたのである。

  幅広く公文書化されているが、発展途上国に対するIMFと世界銀行の構造調整プログラム(SAP)の押しつけは、貸出機関の利益のために、主権国家の内政への露骨な干渉の典型を作りだしている。

 SAPRINの中核組織は、IMFと世界銀行の「死をもたらす経済的薬品」の正当性を問題にするのではなく、USAIDや世界銀行と結託して働きながら、NGO参加の役割設定に取り組んだ。その目的は、IMFと世界銀行の政策の枠組を公然と拒否することではなく、ネオリベラルのアジェンダに「人間の顔」を与えることだった。

「SAPRINは、参加型構造調整調査イニシアティヴ(the Structural Adjustment Participatory Review Initiative:SAPRI)から名前をとった、世界規模の市民社会ネットワークである。それはSAPRIが、世界銀行とその総裁であるジム・ウォルフェンソン(Jim Wolfensohn)とともに、1997年に立ち上げた活動である。
 SAPRIは、構造調整プログラム(SAPs)と新たな政策オプションの開拓に対する合同調査における、市民社会組織と各国政府と世界銀行の三者にまたがる活動として作られている。それは経済的な決定においての市民社会の積極的な役割を合法化している。それが経済政策と経済的政策決定の過程で変化が要求される分野に携わるように形作られているからである。(http://www.saprin.org/overview.htm SAPRIN website)

 同じように、貿易監視団(仮訳:The Trade Observatory)(正式にはWTOウォッチ)は、ジュネーブで活動を展開するのだが、ミネアポリスに本部のある農業・貿易政策研究所(Institute for Agriculture and Trade Policy:IATP)のプロジェクトである。これは、フォード、ロックフェラー、チャールズ・ステュアート・モットなどの気前よい出資を受けている。

 貿易監視団は、世界貿易機関(WTO)、北米自由貿易協定(the North American Free Trade Agreement:NAFTA)および提唱中の米州自由貿易地域(Free Trade Area of the Americas:FTAA)を監視する委任機関である。(IATP, About Trade Observatory、2010年アクセス)

 貿易監視団はまた、「会計管理」と「財政責任」を育成するとともにデータと情報を発展させることになっている。WTOの政策の犠牲者に対する財政責任なのか、それとも、ネオリベラルの改造の立役者に対する財政責任なのか?

 貿易監視団の番犬としての機能は、どのようにしてもWTOに脅威を及ぼさない。全く逆である。貿易機関と協定の正当性は決して問われないのだ。

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表1 ミネアポリスの農業・貿易政策研究所(IATP)の巨大な資金提供者
全リストはこちらをクリック

フォード基金  $2,612,500.00   1994 – 2006
ロックフェラー兄弟基金  $2,320,000.00   1995 – 2005
チャールズ・ステュアート・モット基金 $1,391,000.00   1994 – 2005
マックナイト基金  $1,056,600.00   1995 – 2005
ジョイス基金  $748,000.00   1996 – 2004
ブッシュ基金  $610,000.00   2001 – 2006
ボーマン・ファミリー基金  $600,000.00   1994 – 2006
グレイト・レイクス・プロテクション基金  $580,000.00   1995 – 2000
ジョン・D.&キャサリン・T.マッカーサー基金  $554,100.00   1991 – 2003
ジョン・マーク基金  $490,000.00   1992 – 2003
ハロルド・ホシュチャイルド基金  $486,600.00   1997 – 2005
ディープ・エコロジーのための基金  $417,500.00   1991 – 2001
ジェニファー・アルトマン基金  $366,500.00   1992 – 2001
ロックフェラー基金  $344,134.00   2000 – 2004
  (Soruce: http://activistcash.com/organization_financials.cfm/o/16-institute-for-agriculture-and-trade-policy
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世界経済フォーラム、「全ての道はダボスに通ず」

 人々の運動は乗っ取られている。選び抜かれた知識人、労働組合幹部、そして市民社会組織(Oxfam、 Amnesty International、 Greenpeaceを含む)のリーダーたちはダボスの世界経済フォーラム(World Economic Forum:WEF)に常に招かれている。そこでこの者たちは世界で最も権力ある経済と政治の役者たちに入り混じっている。この世界的エリート集団と精選された「進歩的な者たち」の混合は、「反対派でっち上げ」のプロセスをその裏面に潜ませる儀式の一部なのだ。

 その策略は、「我々が信頼できる」市民社会のリーダーたちを選び抜き、そしてその者たちを「対話」の中に集め、その階級と社会的序列をその者たちと切り離し、その運動仲間の利益のために行動する「世界市民」であると感じさせ、しかしなおかつ、その者たちは支配者集団の利益に仕える、そのような方法で活動させることだ。

 「例年のダボス会議へのNGOの参加は、(我々が)意識して、…世界的なアジェンダを決定し前進させ…る中で、幅広い範囲で社会の主要な関係者たちを結集させようとしている証拠である。我々は、(ダボス)世界経済フォーラムが、世界のあり方を進歩させるために、世界経済の他の主要な利害関係者たち(NGO)とともに協力して行う努力のための理想的な枠組みを、ビジネス・コミュニティーに提供すると確信する。」(World Economic Forum記者会見より、2001年1月5日)

 WEFはより幅広いビジネス・コミュニティーを代表するものではない。それはエリートの集まりなのだ。そのメンバーは、(年間の取引額が最低でも50億ドルある)巨大なグローバル企業である。選ばれた非政府組織(NGOs)は、「意思決定のプロセスからしばしば置き去りにされる声無き人々のための」都合のよい「代弁者」であると同時に、「利害関係者」仲間であるとみなされている。(World Economic Forum – Non-Governmental Organizations、2010年)

 「それら(NGOs)は世界のあり方を進歩させるために、このフォーラムと協働するにおいて様々な役目を担っている。それには、産業、政府と市民社会の間の架け橋として働くこと、政策決定者と草の根と結び付けること、実際的な解決策を机上に載せること…が含まれる。」(同上)

 市民社会が「声無き人々」の利益のために世界的な企業群と「協働」する。誰が「置き去りにされる」のだ?

 労働組合幹部たちもまた、労働者の権利の縮小に向けて新たな取り込みの対象となる。とりわけ、国際労働組合連合(International Federation of Trade Unions:IFTU)、アメリカ労働総同盟・産業別組合会議(AFL‐CIO)、欧州労働組合連盟(European Trade Union Confederation)、カナダ労働会議(Canadian Labour Congress:CLC)のリーダーたちは、それぞれの地域の首脳会談と同様に、スイスのダボスでWEFの例年の会議にも出席するように常に招待されている。その者たちは、また、お互いにとって受容可能な労働運動の振舞い方のパターンに焦点を当てる、WEFの労働組合指導者コミュニティーに参加する。WEFは「労働者の声は、グローバリゼーション、経済的な正義、透明性、そして財政責任、さらに健全な投資システムの確保といった事柄に関する活発な対話にとって、重要であると信じる」。

 「健全な投資システムの確保」とはペテンと腐敗によって書かれたのではないのか? 労働者の権利についての事柄は書かれていないのだ。(World Economic Forum – Labour Leaders、2010年)  【小見出し一覧に戻る】


世界社会フォーラム:「新たな世界は可能だ」

  1999年のシアトルでのカウンター・サミットは、多くの点で、世界社会フォーラム(the World Social Forum)の進展にとっての複数の基盤を持っていた。

 世界社会フォーラムの第1回の会合は2001年1月にブラジルのポルト・アレグレで開かれた。この国際的な会合には、草の根組織とNGOからの何万人という活動家たちが参加した。

 NGOと進歩的組織の集まりである世界社会フォーラム(WSF)は、ダボスの世界経済フォーラム(WEF)と同時並行的に開催される。それは、企業リーダーたちと経済大臣たちの世界経済フォーラムに対する反対と異議の声を上げることを意図したものであった。

 WSFはフランスのATTACと多くのブラジルのNGOの主導で始められた。

 「… 2000年1月に、フランスのNGOプラットフォームATTACのリーダーであるベルナール・カッソン(Bernard Cassen)、ブラジルの経営者組織の長オデッド・グラジェウ(Oded Grajew)、そしてブラジルのNGO連合の長フランシスコ・ウィタケル(Francisco Whitaker)が会合し、『世界市民社会イベント』の提案について議論した。そして2000年の3月までに、彼らは正式にポルト・アレグレの地方政府とリオ・グランデ・ド・スル州政府の支援を確保した。それらは当時ともにブラジル労働党(PT)の支配下にあった…。ATTAC、Friends of L’HumanitéおよびFriends of Le Monde Diplomatiqueを含むフランスのNGOグループは、近づきつつあるニースでの欧州連合サミットで行われる抗議活動のアジェンダを準備するために、パリで『シアトルの1年後(One Year after Seattle)』と題されるオールタナティブ社会フォーラムを後援した。演説者たちは、『下からのグローバリゼーションを作りだすために、IMF、世界銀行、WTO、…など特定の国際機関の方向性を変えさせること』、そして『IMFを破壊するのではなくその使命を切り替えさせるための国際的な市民運動の創設』という呼び掛けを行った。」(Research Unit For Political Economy,The Economics and Politics of the World Social Forum, Global Research、2004年1月20日)

 2001年の創設時から、WSFはフォード基金からの確実な資金提供によって支えられていた。この基金は、1950年代にさかのぼるCIAとの結びつきを持っていることで知られている。「CIAは、受取人にその資金源を警戒させることなしに代行プロジェクトに対して大量の資金を流すための最も効果的な通路として、博愛主義的な基金を利用している。(James Petras,The Ford Foundation and the CIA, Global Research、2002年9月18日)

 1990年代の市民サミット(People’s Summit)を特徴づけたカウンター・サミットまたは市民のサミットに資金提供をしたのと同じ寄付のプロセスが、世界社会フォーラム(WSF)の中に埋め込まれた。

 「…その他のWSFの資金提供者たち(WSFの用語法によれば『パートナー』と言われるが)にはフォード基金が含まれていた。それがすでに、アメリカ中央情報局やアメリカのあらゆる戦略的な利害関係者と最高に密接な協力関係の中で活動してきたと、ここで十分に言うことができる。ハインリッヒ・ボル(Heinrich Bol)基金は、ドイツ緑の党、つまり現在(2003年)のドイツ政府のパートナーでありユーゴスラビアやアフガニスタンでの戦争の支持者(そのリーダーであるヨシュカ・フィッシャーは[以前の]ドイツ外相)にコントロールされている。またOxfam(イギリス)、Novib(オランダ)、ActionAid(イギリス)その他が、その主要な資金提供機関なのだ。
 注目すべきことだが、WSFの国際会議のあるメンバーが、これらの機関から受け取った『相当額の資金』は『それが引き起こすかもしれない依存関係の可能性について、今までのところ(WSFの組織内で)何の明確な議論をも喚起していない』と報告している。ところが彼は、『フォード基金から資金を受け取るために、組織幹部たちは、労働党はそのプロセスに含まれないとその基金に対して説得しなければならなかった』ことを認めているのだ。二つの点がここで無価値となっている。第一にこのことは、資金提供者たちがWSFの中で支配権を握り異なる勢力の役割を決定できたことを明確にする。参加する者たちの資格証明についてそれらを「説得」する必要があったのだ。第二に、もし完全に飼いならされている労働党の参加に資金提供者たちが反対するというのなら、彼らは根っから反帝国主義な勢力に与えられる栄光に対して、はるかにずっと激しい調子で反対することだろう。WSFの第二、第三の大会に誰が参加でき誰が排除されたのか…を我々が述べるときに、彼らが実際にそのように反対するということが明らかになるだろう。
 (WSFの)活動資金に対する疑問は、2001年の6月に採用されたWSFの基本方針の中では全く形を現さない。マルクス主義者なら、唯物論者なのだから、そのフォーラムの性格を把握するのにその物的な基盤を調べてみるべきだと指摘することだろう。(実際には『費用を出す者が決定権を持つ“he who pays the piper calls the tune”』ことを理解するのにマルクス主義者である必要はないのだが。)しかしWSFはそうではない。それは、『資本と帝国主義のあらゆる形態による世界支配』と闘っている一方で、フォード基金のような帝国主義機関から資金を引き出すことができるのだ。」(Research Unit For Political Economy,The Economics and Politics of the World Social Forum, Global Research、2004年1月20日)

 フォード基金はWSFに対して中心的な支援を与えており、マッカーサー基金、チャールズ・ステュアート・モット基金、フリードリッヒ・エベルト・スティフトゥング(Friedrich Ebert Stiftung)、W.アルトン・ジョーンズ(W. Alton Jones)基金、欧州委員会、多数の欧州各国政府(トニー・ブレアーの労働党政府を含む)、カナダ政府、また同様に、数多くの国連機関(UNESCO、UNICEF、UNDP、FAOを含む)からの、「パートナー組織」への参加に対して間接的な支援がある。(同上)

 フォード基金からの第一の中心的な支援に加えて、そこに参加する多くの市民社会組織は主要な基金とチャリティーから資金を受け取っている。一方で、アメリカとヨーロッパに基盤を置くNGOは、しばしば、草の根的な農民組織や人権運動を含む発展途上国のパートナー組織にフォードとロックフェラーの資金を流す、二次的な資金提供機関としての働きを行っている。

 WSFの国際委員会(International Council:IC)は、NGO群や労働組合、オールタナティブ・メディア組織、調査研究所の代表者たちによって構成されているが、それらの多くは、各国政府からと同じく基金からも多くの資金提供を受けている(「Fórum Social Mundial」を見よ)。まさにその労働組合が、ウォールストリートのCEOたちとともに常にダボスでの世界経済フォーラムに参加するよう招かれるのだが、AFL‐CIO、欧州労働組合連盟、カナダ労働組合会議(CLC)を含む労働組合がWSFの国際委員会(IC)にも同席している。WSFのICで主要な基金から資金を受け取るNGO群の中には、ジュネーブに本部がある貿易監視団(Trade Observatory)を監督する農業貿易政策研究所(IATP)がある(我々の上記の分析を見よ)。

 貿易・グローバリゼーション出資者ネットワーク(Funders Network on Trade and Globalization:FTNG)は、WSF国際委員会に対するオブザーバーの立場なのだが、鍵を握る役を果たしている。WSFに対する援助資金を送る一方で、それは主要な基金のための情報センターとしても機能する。FTNGは自らを「全世界での公正で持続的なコミュニティーの建設に委託された助成金メーカーの連合」と述べている。この連合のメンバーはフォード基金、ロックフェラー兄弟、ハインリッヒ・ベル、C.S.モット、メリック・ファミリー基金、オープン・ソサエティー研究所(Open Society Institute)、タイヅ(Tides)、その他である。(FTNGの資金援助機関の完全なリストは、FNTG: Fundersを見よ。)FTNGはWSFのための資金調達部門として機能している。  【小見出し一覧に戻る】


西側政府がカウンター・サミットに資金投下して抵抗運動を抑える

 苦々しい皮肉だが、欧州連合を含む各国政府が(WSFを含む)進歩派グループに資金援助をするための金を与えており、それらは活動資金を与える当の政府に反対する組織的な抵抗に加わっているのである。

 「各国政府もまた、抵抗グループの重要な資金提供者となってきた。たとえば欧州委員会は、ヨーテボリとニースでのEUサミットに反対する巨大な人数を動員した二つのグループに資金提供をした。イギリスの国営宝くじはこの両方の抵抗運動へのイギリス人参加者の中心にいるあるグループに資金的な援助を行ったが、それは政府によって見過ごされている。」(James Harding, Counter-capitalism, FT.com、2001年10月15日)

 我々は唖然とするようなプロセスを取り扱っているのだ。サミットを主催する政府は、公式のサミットと同じくカウンター・サミットに積極的に加わるNGOの活動にも資金を提供しているのだ。同時に、カウンター・サミットの草の根参加者たちを抑圧する権限を持つ武装警官隊の作戦に何百万ドルも拠出しているが、その参加者たちには政府から直接に資金を受け取るNGOのメンバーが含まれる。

 これらの繋がり合った作戦は、(2010年のトロントG20で)活動家のなりをして潜入した警察官によってなされた暴力行為の野蛮さを含むのだが、その目的は抵抗運動の信用を失わせ参加者たちを委縮させることである。より大きな目的は、カウンター・サミットを反対の儀式に変形させることであり、それが公式サミットと主催政府の利益の確保に仕えるものである。この筋道が、1990年代以来、数多くのカウンター・サミットで優勢なものとなっている。

 2001年に行われたケベック市での米州サミットでは、カナダ連邦政府から主流派のNGOと労働組合への資金投入が特定の条件の下で行われた。抵抗運動のある大きな部分が、市民サミットから事実上除外されたのである。これ自体、並行して行われる第2市民サミットの集会を作り上げることになったが、それは一部の観測者によって「反市民サミット」として描かれた。一方で、その地方と連邦の双方の権威者による合意の下で、運動のオーガナイザーたちは抗議デモを、厳重に警備される「保安の囲い」の陰で公式のFTAAサミットが開かれている旧市街地ではなく、市中心部から10kmほど離れた場所にまで導いた。

 「囲いのフェンスと米州サミット会議に向かってデモを進ませるではなく、デモのオーガナイザーたちは、市民サミットから出発してその囲いから遠く離れた場所に進むルートを選んだのだ。それは、何マイルも離れた何も無い場所にある競技場の駐車場までの、大部分が空き地である宅地を横切るものであった。アンリ・メッセは、the Federation des travailleurs et travailleuses du Quebec (FTQ)の委員長なのだが、『我々が市中心部から遠く離れた場所にいることを遺憾に思う…。しかし、これは治安の問題なのだ。』と説明した。FTQの1000人の進行係たちがデモ隊を極めて厳重にコントロールし続けた。一部の活動家が別れてフェンスに向かって丘を登ると決めていた場所にデモ隊がやってきたとき、FTQの進行係たちは腕を固く組んで、他の者たちが決められたデモのルートから離れるのを防いだ。」(Katherine Dwyer,  Lessons of Quebec City, International Socialist Review

 米州サミットはコンクリートと亜鉛びき鋼で作られた4キロメートルの「塹壕」の内側で開催された。この10フィートの高さの「ケベックの壁」は、国会の会議場群、ホテル、商店街を含む旧市街地の一部を囲んでいたのだ。  【小見出し一覧に戻る】


NGO指導者vsその草の根運動

 2001年の世界社会フォーラム(WSF)は疑問の余地も無く、何万人もの熱心な活動家たちが集合した歴史的な境界標識であった。それは、思想の交流と固い連帯結成を可能にする重要な集会だった。

 問題となることは、進歩的組織群のリーダーたちの二面性を持った役割である。権力者サークル内部や公的私的な基金、援助機関、世界銀行等々との心地よい上品な関係は、この者たちが含まれる階級と社会的序列にいる人々との関係と責任を取り崩す。反対派でっち上げの目的はまさしくこれだ。草の根的運動を効率よく沈黙させ弱めるために、リーダーたちを、自らが属する階級と社会的序列にいる人々から遠ざけることである。

 反対運動への資金提供はまた、草の根的運動の抗議と抵抗の作戦に関する内部情報を入手すると同時に、NGOに潜入する手段でもある。

 市民社会フォーラムにある草の根的な参加組織には農民や労働者や学生の組織が含まれ、ネオリベラリズムとの闘いにしっかりと携わっていたのだが、そのほとんどがWSF国際委員会の出資機関群との関係に気付いていなかった。その出資は背後で、公的私的な投資機関とつながりを持つ一握りのNGOリーダーたちによって交渉されていたのだ。

 進歩的組織に対する資金援助は無条件のものではない。その目的は抵抗運動を「なだめ」そしてでっち上げることである。厳密な条件が基金の機関によって定められている。もしそれらの条件に合わなければ、支払いが続けられることはなく、受け取り側のNGOは資金の枯渇で事実上の破産に追い込まれる。

 WSFは自らを「ネオリベラリズムや資本による世界支配、そして帝国主義のあらゆる形態に反対し、人間性に基づいた市民社会の建設に携わる市民社会のグループや運動体による、思慮深い考察、思想についての民主的な議論、提案作り、経験の自由な交換、効果的な活動のための結びつきを求める、開かれた会合の場」と定義している。(参照:Fórum Social Mundia、2010年にアクセス)

 WSFは、グローバル資本主義とその機構の正当性を直接に脅かしたり攻撃したりすることのない個々のイニシアチブのモザイクだ。それは年に一度会議を行う。その特徴は数多くのセッションとワークショップである。その点からして、WSFの特徴の一つは、1990年代の基金の寄付を受けた反G7市民サミットの特徴、「個々の手作業」という枠組みを維持していることだ。

 この明らかに非組織的な構造は意図的に作られたものである。数多くの個別の話題に関する議論を好む一方で、このWSFの枠組みは、グローバル資本主義に対抗する方向性を持つまとまりのある幅広い議論の場と行動計画を導くようなものではない。さらに、中東と中央アジアでのアメリカ主導の戦争は、2001年1月のポルト・アレグレでWSF集会が立ち上げられた何カ月か後に始まったものだが、このフォーラムの議論の中心になったことがないのだ。

 広大で複雑な組織のネットワークがはびこるのみである。発展途上国にある受益側の草の根組織は必然的に、自分たちに財政上の支援を提供しているアメリカ合衆国や欧州連合の協力的なNGO群が、それ自体、主要な基金群によって資金を与えられているということに気づかない。金が滴り落ちて草の根的活動への束縛をもたらしているのだ。これらのNGOリーダーたちの多くが、反対運動に境界線を引く枠組の範囲内で動きながら、個々の事柄に関わり首尾よく行っているのである。これらの運動のリーダーたちはしばしば上層に取り込まれる。基金群による資金援助の結果として自分たちの手が縛り付けられることにすら気付かずに。  【小見出し一覧に戻る】


グローバル資本主義が反資本主義に投資する:道理に合わない矛盾した関係

 「新しい世界は可能だ」が、しかしそれは、現状のあり方の下では意義ある達成の不可能なものである。

 世界市民フォーラムとその組織構成とその財政の仕組みと指導性の大刷新が必要だ。

 抵抗運動の標的となっている、まさにその同じ資本家群の資金によって、反対勢力が気前よく資金援助を受けているようなときに、意義ある大衆運動などあり得ないのである。フォード基金の委員長(1966‐1979)だったマックジョージ・バンディ(McGeorge Bundy)の言葉によれば、「(フォード)基金が行った全てのことは、『世界を資本主義にとって安全に保つ』ものだと認識できるだろう」。  【小見出し一覧に戻る】

【翻訳・引用ここまで】
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