米国は4月25日に戦争を宣言した、ということに一応なっているが、実際にはずるずるべったりに戦闘状態に入ってしまったようだ。米国は迷わずフィリピンを攻めた。米軍は5月1日のマニラ海戦でスペイン太平洋艦隊を全滅させたわけだが、その際の米軍の被害は負傷者8名のみだった。その2ヵ月後にキューバのスペイン海軍を全滅させるのだが、7月3日の海戦ではわずか4時間でスペイン艦船をすべて撃沈、米軍は死者1名負傷者2名のみ。どちらもまるで漫画みたいな戦闘だったようである。
すべての補給を絶たれてキューバに取り残されたスペイン陸軍は降伏する以外に道は無かった。すでに2千名を戦闘で、1万5千人以上を病気で失っており、なすすべも無くぼろぼろになった敗残兵たちはスペインに貨物のように送り返されて、バルセロナなどの岸壁に放り出された。彼らは熱病にうなされながら道端で物乞いをするしかなかったのだ。
こうして戦いはアメリカの一方的な勝利に終わった。またそのどさくさに紛れてハワイも併合してしまう。これが、アメリカが世界帝国として踏み出した第1歩であることに、誰一人異論はあるまい。ついでに南北戦争で植えつけられた米国人相互の不信感を癒し一体感と自信を植えつける重要な戦争でもあった。
【参考資料】 http://www.loc.gov/rr/hispanic/1898/chroncuba.html
(Chronology of Cuba in the Spanish-American
War)
以上が米西戦争のあらましだが、さて、そのきっかけとなった「メイン号事件」について、である。
●次の資料は、米国海軍歴史センターのホームページからのものである。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ http://www.history.navy.mil/faqs/faq71-1.htm
The Destruction of USS
Maine
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これによると、沈没の原因は、「事件」当初の海軍による調査では全くつかめなかったため何の結論も出さず、ジャーナリズムの憶測による反スペイン・キャンペーンだけが吹き荒れた。戦争後の1911年になって船体が引き上げられて原因が調査され、弾薬庫付近の船底の鉄板の曲がり具合から、機雷によって外から爆破されたもの、という結論が発表された。しかし一方では「燃料の石炭の自然発火による事故説」も根強く、1976年に海軍大佐Hyman
G.
Rickoverが「最新の科学知識を応用して」以前のデータを再検討し、「弾薬庫の隣にあった燃料用石炭の自然発火が最も可能性が高い」という結論を出したことが書かれる。そしてこの資料では、石炭の自然発火は到底ありそうに無いと異論を唱える人々もいること、しかし機雷説にしても推測に過ぎないこと、最後に、米国海軍自身の結論としては「原因は未だ不明」だということ、が述べられている。いずれにせよ、1911年に調査のために船体が引き上げられたあと再び沈められ、もはやこれ自体の物的な検証は永久に不可能になっている。
石炭は空気中で酸化を起こして自然発火する可能性があり、石油と違って長期間の備蓄が効かない、という。確かに昔九州のボタ山から自然発火の煙が立ち昇っていた。しかしどれくらいの量をどんな状況にどれくらいの時間置けば自然発火するのだろうか。メイン号のような大型船舶が燃料の石炭の自然発火で事故を起こした例は、私は不勉強にして知らないが、ご存知の方があればお教え願いたい。しかし可能性をゼロとは断言しないがいずれにせよ非常に小さいのではないか。
米国の高校生用の教科書をのぞいて見るとやはり「未だに原因は不明である」と書かれているのみであり、他の米国側の資料でも原因については簡単に「不明」としか書かれていない。例えば
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ http://memory.loc.gov/ammem/today/apr25.html
(US declared war on Spain) http://militaryhistory.about.com/cs/spanishuswar/
(Military History“Spanish-American
War”)
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ではもう一方の当事者スペインではどのように言われているのか。私は様々な資料を調べているのだが、驚くことにその「原因」について詳しく追究しているものが意外と少ない。学術的な歴史研究のサイトでも、スペイン史資料で「権威の高い」とされるHispanidadも、ひたすら事実関係を述べるだけで、メイン号爆発・沈没の「原因」に関しては、まるで忌まわしいものから目をそむけるような態度なのだ。ただ左翼情報誌Rebelionは「石炭の自然発火説」を取り上げて「スペインには責任が無いことが証明された」という内容の記事を書いている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ http://www.rebelion.org/internacional/maine061001.htm
(Rebelion:Remember the
Maine:スペイン語)
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しかしいくつかのページでは、米国の第1次大戦への参戦経過、パールハーバー、トンキン湾事件、そして9.11と並べて比較した上で、「米国による謀略説」が強調されている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ http://www.elguanche.net/voladuradelmaine.htm
(La Voladura del Maine:スペイン語) http://www.contrastant.net/hemeroteca/ramonet1.htm
(Contrastant:カタルーニャ語)
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推測するしかないのだが、多くのスペイン人の胸の内はたぶん「米国謀略説」ではないか。あえて原因を活字にしない著者にしても同様で、むしろ自然発火説は断固として認めたくない、というのが本音ではないか、と思われる。普段は黙っていても、いざというときに吹きだしてくる反米意識がそのことを強く暗示しているように思う。