3・11事件でも全く同じことが起こった。爆破された列車の車体は科学的な捜査が行われる以前に、全国管区裁判所の「超法規的処置」によって破壊されたのだ。それは事件発生から48時間も経たない時点で開始されたのだが、全国管区裁判所のどの判事がそれを命令したのか、その作業に国家警察の誰が立ち会ったのか、どのように解体されたのかなどの詳細は、いまだに(2011年現在)最高裁判所と国家警察の手によって封印され続けている。いずれにせよ、爆発物が本当は何だったのか、どこにどのように仕掛けられたものだったのかを突き止めるための最も重要な手掛かりは、事件後わずかのうちにこの世から抹殺された。後の裁判の過程で車体がすでにこの世に存在しないことが明らかになったのは、事件後1年も経ってからだったのである。
(スペインの裁判制度は日本のものとは大きく異なる。地方裁判所と家庭裁判所に当たる裁判所はあるのだが、その上級の裁判所は「全国管区裁判所
la Audiencia
Nacional」と呼ばれ日本の高等裁判所のような地域性は無い。実質的な審理はここで行われ、最高裁判所は上告の訴えがあれば全国管区裁判所の判決の審査だけを行う。またフランスの予審判事制度と同様に裁判所に所属する判事が事件捜査などを警察に命令する。したがって、物証である爆破された車体の解体処理は全国管区裁判所に所属する判事の命令が無ければ行われない。なおスペインでは、この「超法規的」物証破壊について疑問を述べるなら、左翼・進歩派とみなされる人々が一斉に「陰謀論!」の罵声を投げかけるという、奇妙な構図ができている。)