そういった絶望的な経済状況の中で、昨年あたりから「分離独立」の声が今までになく盛り上がり始めた。経済危機が政治危機へと拡大することに何の不思議も無いのだが、この盛り上がりには異様さすら覚える。2011年の9月11日「ディアダ」では、黄色地に4本の赤線の入った巨大な「カタルーニャ国旗」【写真】がデモの中心を飾り「独立」への意欲が掻き立てられた。またサッカーの試合も「カタルーニャ独立」ムードを盛り上げるように演出された。
今年5月25日にマドリッドのビセンテ・カルデロン球技場(アトゥレティコ・マドリッドの本拠地)で行われたスペイン国王杯の決勝戦は、同様にスペインからの分離独立の声が強いバスクの州都を本拠地とするアスレチック・ビルバオと、カタルーニャのFCバルセロナ(バルサ)との対決となった。この国営TVで全国中継されるゲームは、両州民の独立要求運動にとって格好の示威運動の場と化したのである。掲揚台に掲げられる1本を除いてスペイン国旗を目にすることはなく、会場はカタルーニャとバスクの国旗【写真】にあふれた。運悪く(運良く?)股関節を痛めて療養中の国王は欠席し、貴賓席には名代としてフェリペ皇太子が出席したのだが、試合前に流されたスペイン国歌は双方のファンからの猛烈なブーイングのために完全にかき消され、応援席の多くが皇太子に背中を向けた。FCバルセロナの応援席からは「独立!独立!」の大怒号が響き【ビデオ】、バルサの旗と共に巨大はカタルーニャ国旗がつるされて【ビデオ】(このビデオではTV局の意図で国歌の音が大きくされているが)、サッカーの試合が政治運動の会場に一変したような印象すら受けた。
このサッカー国王杯決勝でアスレチック・ビルバオとFCバルセロナが戦ったのは初めてではない。不況が深刻化の様相を見せ始める2009年5月13日に、バレンシアのメスタージャ球技場で行われた決勝戦もまた大荒れ状態となった。スペイン国歌の演奏をかき消す猛烈なブーイングの中で、貴賓席の国王夫妻に会場全体から「帰れ!帰れ!」の罵声が飛び、応援席にはわざわざ英語で「Catalonia
is not Spain
」と書かれた横断幕【写真】が掲げられた。
このような経過があるため、同じ組み合わせでしかも首都のマドリッドで行われることとなった2012年の国王杯決勝では、レアル・マドリッドが本拠地サンチアゴ・ベルナベウ球技場の使用を断り、マドリッド州知事だったエスペランサ・アギレが「決勝戦を中止させる!」と息巻いていた。そして先ほどのビデオにもあったが、両チームの応援席からは「エスペランサ!イハ・デ・プータ!(売春婦の娘:スペイン語で最大級の侮辱)」の罵声がとんだ。さらにカタルーニャ州議会選挙に向けて走り始めた10月7日に、FCバルセロナの本拠地カム・ノウで行われたバルサvsレアル・マドリッドのリーグ戦の試合では、会場全体が巨大な「カタルーニャ国旗(セニェーラ)」と化した【写真】。