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マンガでわかる!スペイン経済危機(1)


 今まで私は多くの文章を通して、私が住み愛するスペインを無茶苦茶に破壊しつつある「経済危機」の正体をお伝えしてきました。しかしやはり私の文章力や経済知識の不足のせいで、もうひとつ分かりにくいものになっていたかもしれません。そこで、少し前から欧州中で大評判になっている2本のビデオをご紹介します。これは、どうして欧州で第5位の経済規模を誇るスペインが失業者600万人(失業率26%、若年失業率55%)(エル・ムンド紙)という、本当に情け無い姿になってしまったのかを、マンガ動画で誰にでも分かりやすく説明しているものです。
 作者のアレシュ・サロー・ブラウッ(
Aleix Saló Braut:スペイン語版Wikipedia)はバルセロナに近いリポジェッという町出身の風刺漫画作家で、カタルーニャ人ですがビデオ作品のナレーションや見出しなどはカスティリアーノ(スペイン語)が使われています。そしてこの2011年に作られた2本の作品は、英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語などで字幕がつけられた形でYouTubeで紹介されています。しかもそれぞれのコピーが多く作られてアップされており、どれほど評判になったのかがよく分かります。
 しかし残念ながら日本語字幕版はなく、私にしてもそれを作る技術はありません。それでもこのマンガ動画の内容を何とかして日本人にも分かるように伝えたいと思い、各場面の静止画像に、その場面でのナレーション(スペイン語)の日本語訳を添えたマンガとして、ご紹介します。この種の話題となると、どうしても堅苦しくとっつきにくくなり、文字情報だけでは多くの人々に対して訴えかける力が生まれません。しかしこのマンガという手段を使って、今のスペインの状態が少しでも正確に平易な形で伝わればよいのだがと願っています。
 本人に断り無く作ってしまったのですが、むしろアレシュの名とその社会風刺の作品が世界に広がることが、彼にとってもっと重要でしょうから、こんなささやかな私の無償の作業は大目に見てくれるでしょう。

 ここでは第1部として
「エスパニスタン:住宅バブル」をご覧いただきます。この第2部に当たる作品「シミオクラシア(猿主主義)」こちらでご覧ください。


エスパニスタン住宅バブル


 以下の画像は、次のビデオを元に84コマのマンガにしたものです。(英語字幕版)
https://www.youtube.com/watch?v=xWrbAmtZuGc
Españistán by Aleix Saló (with English subtitles/subtitulado al inglés) 
 それぞれの画像の下にある説明で、赤文字はビデオの時間(画面の順番を表す)と画面の説明、黒文字は音声(スペイン語)の日本語訳です。訳はスペイン語の文字起こしから、私が作りました。
 解説は最後にしますので、まずはご覧(お読み)ください。ブルー文字の部分は注釈で、必要に応じて、参照サイト(日本語)を紹介しておきます。

※ もし画像が出ない場合には、ページの再読み込みをしてしばらく待っていただくか、画像があるはず位置で右クリックして「画像の再読み込み」を選択してください。

【1】
【2】
 
0:01:Espanistan『エスパニスタン』 0:04:住宅バブル (製作:アレシュ・サロー)

【3】
【4】
0:06【顔がスペインの国の形をしたお父ちゃんがベッドに寝そべる】
2011年。ドンチャン騒ぎの果てに、案の定、スペインはひどい経済的な「二日酔い」で苦しんでいる。
この国はギタギタのズタズタにされたのだ。
「フアァー…」
0:23【かつての様々なぜいたくと金満ぶりが浮かび上がる】
それにしても、何でこんなことになったんだ? 「ええと…」
覚えてないのかい? 「よくわからねえ…」

じゃあ、思い出させてあげよう。
その歴史はこう呼ばれるんだ。

【5】
【6】
0:30【スペイン語のladrilloは「レンガ」や「建築物」の意味。】
あの汚泥のドロドロから … 出でよ、建物!
0:40【テニスラケットを持つホセ・マリア・アスナール首相。】
1998年のこと、アスナール首相がテニスをしようと

【7】
【8】
0:44【雷に打たれるホセ・マリア・アスナール。】
歩いていたところ・・・、
0:47【「€」マークを頭に載せた「神」。】
突然ネオリベラリズムの神が現れた。

【9】
【10】
0:50【「神」がアスナールに与えた十戒ふうの石版に書かれるのは「LEY DE SUELO(土地法)】
初めてのお告げは「新土地法」。
0:54【シナイ山のモーゼのように石版を掲げるアスナール。背広姿の人々の歓声。】
この法は土地市場の私営化を推し進めるものであった。
それは広められ、ありとあらゆる政治党派が治める大小の地方自治体から、熱狂的に支持された。
※ 【9】この「新土地法」についてはこちらを参照のこと。

【11】
【12】
1:02【「RÚSTICO(田舎の土地)」の看板。】
その公式は単純だ。
1:03【「URBANIZABLE(開発可能)」+カネにつられる企業主⇒多くの集合住宅】
開発可能な土地を拡大させれば、住宅開発が企業主にとって儲けの多いビジネスに変わる。
投資が増やされ多くの住宅が作られるだろう。

【13】
【14】
1:10【⇒多くの集合住宅⇒下がる住宅の値段⇒自宅を持つ若夫婦】
そして供給が増えるにつれて値段が下がり、若い人々も自宅を買うことができるだろう。
1:18【花、虹、一角獣、ハート、若夫婦。「Spanish Dream」の文字。】
ついにこの国のみんなが永遠に幸せな楽園に住むという夢が実現したのである。

【15】
【16】
1:28【時が2002年に進む。住宅建設が進む。】
ウーム、どうやらそのとおりにはならなかったようだ。2002年まで進んでみよう。
このときまでに住宅建設のペースは急激に上がっていた。
1:37【アスナールが再び雷に打たれる。】
この年に、アスナールに新たに

【17】
【18】
1:42【「€」の神が「REFORMA LABORAL(労働改革)」と書かれた新しい石版を渡す。】
「労働改革」をせよとのお告げがあった。
1:44【一人の労働者を縛って働かせる経営者。】
その戦術は見慣れたものだった。

【19】
【20】
1:47【一人の労働者を縛る経営者⇒大勢の小さな労働者⇒下がる失業率のグラフ】
労働者の権利を小さくすれば、経営者にとってより魅力的な労働契約ができる。
そのため、もっと多くの人を雇うから、失業が減るだろう。
1:54【INSTITUTO(専門学校)から大勢の人が喜んで飛び出す。】
こうして技術労働者の求人が急増し、数多くの若者がさっさと学校を飛び出して建設関係の職についた。

【21】
【22】
2:00【港に着いた船から外国(アフリカ、中南米)の移民たちが下りてくる。】
同様に外国からも大勢の人々がやってきた。
2:04【「Spanish Way of Life」の文字。家を持って喜ぶ人。】
彼らは皆、幸福に満ちて「家を買う」というスペイン風の生き方を経文のように唱えた。

【23】
【24】
2:09【住宅を神の台座に祭り上げる2人の女性。】 
家を持つことは流行だ。一戸建ての家は君の義兄弟たちを死ぬほど嫉妬させるだろう!
2:14【賃貸アパートでの貧しい生活に大きくペケ。】
貸し部屋に住む貧弱な生活をやめよう。

【25】
【26】
2:16【€マーク舞台の幕が開いて大きなレンガ(住宅を意味する)が登場。】 
レンガ(家)に投資しなければ税金も安くならないぞ。
2:19【dinero negro(黒いカネ)を持つ人物。】
未申告の収入を「洗浄」する問題ですか?

【27】
【28】
 
2:21【その黒い金が家を通して白くなる。】
ご心配なく。住宅があなたのお金を清浄にしてくれる。
2:24【LEY DE SUELO(土地法)と書かれた石板。「FAIL(失敗)」。】
奇妙なことに、この土地法は予想されたような成功をもたらさなかった。

【29】
【30】
2:29【田舎の土地 ⇒ 開発可能 ⇒ 住宅 ⇒ 人々、
   住宅価格↑、開発可能な土地の値段↑、住宅価格さらに↑。】
住宅の需要が高まるにつれてその値段は上がった。
それはまた土地の値段の上昇も招いた。
潜在的な利益がその機能を果たしたのだろう。
そしてそれが住宅価格をもっと押し上げることになった。
2:39【値段の上がった土地と住宅にハゲタカが群がる。】
その利益の周辺に慈悲深い投機屋たちが群がったことは言うまでもない。

【31】
【32】
2:45【1998年に1平米1089€だった住宅価格が1667€に。】
その結果、わずか4年で住宅価格は急上昇した。
2:49【2005年に時が進み、住宅がどんどん建てられる。】
   【スペイン > フランス+ドイツ+イタリア】
2005年までに、バブルはすでに急速に進行していた。
スペインは1年間にフランスとドイツとイタリアを合わせたよりも多く資産を増やした。
※ 【32】この狂乱ぶりは住宅だけではなく、他の公共施設にも向かった。こちらを参照のこと。

【33】
【34】
2:56【自然のままの海岸が・・・】
この何の街も無い海岸を見てみよう。…。
3:00【たちまちビル群で埋まる。】
ああ、これでいい。

【35】
【36】
3:02【リスのいる森。】
そしてこののどかな森は?ああ、かわいいリスだ。…。
3:07【パワーショベルでリスが追い払われて・・・、】
出て行け、リスめ!

【37】
【38】
3:08【住宅が建ち並ぶ。】
進歩よ、いらっしゃい!
3:11【スペインのP.I.B.(国内総生産)がどんどん伸びる。】
建設というエンジンのおかげで経済は成長し続け、

【39】
【40】
3:11【得意げなサパテロ首相。頭には「愚か者」を象徴する漏斗。
「¡¡Estamos en la Champion lij!!(我々はチャンピオン・リーグにいる!)」】
みんなが「スペインの奇跡」を叫ぶようになった。
3:19【学者が「I+D(innovation & development新たな研究と開発)」を問うと、】
誰かが「新たな研究と開発のために投資してはどうだ?」などと言おうものなら、

【41】
【42】
3:24【トマトが投げつけられる。】
「黙れ!」「出て行け!」
3:28【GOOGLEの男たち】
それは我々の経済における奇跡であった。
その間、米国式成功モデルはGoogleであり、

【43】
【44】
3:32【EL POCERO(スペイン屈指の大富豪)】
皆がPaco El Poceroのような大富豪になることを願った。
3:36【住宅の値段は2005年に1平米2516€に。】
そして住宅の値段は雲つくばかりに跳ね上がった。

【45】
【46】
3:41【叫ぶ人物】
「でも、少なくとも俺たちには仕事があったんだ」。
3:44【失業率のグラフ(I.N.E.国家統計局による)】
確かに、失業率は記録的に下がっていった。

【47】
【48】
3:49【住宅は2倍に、給料は変わらず。】
ところがその間に、住宅価格は2倍以上になっており…、労働賃金はというと…、
3:53【氷付けになった男】
ウォルト・ディズニーよりも凍りついていた。 
※ 【48】のせりふは意味不明。ひょっとすると作者は20世紀フォックスの「アイス・エイジ」をウォルト・ディズニー・カンパニー製作と勘違いしたのではないか?

【49】
【50】
3:56【2005年の平均給与の各国比較グラフ:(上から)ドイツ、英国、ベルギー、フランス、一番下がスペイン。】
最も繁栄した我が民主主義時代に…、
4:00【そのスペイン(20438€)が残り、SUERDO DE MIERDA(クソ給料)の文字と糞の絵。】
大多数の者たちはSDM、つまりクソ給料を手にしていたのだ。
※ 【49】このスペインの1年間の平均給与20438€という数字には、先ほどの月1200€にボーナスが加わる。

【51】
【52】
4:05【質問をする人物】
「でも…、住宅の値段が高くて給料が同じなら、なぜ人々は住宅を買い続けたんだ?」
4:13【「TU AMIGO DE BANCO(銀行というお友だち)」の文字】
そう、そこに登場するのが・・・
「銀行というお友だち」なんだ!

【53】
【54】
4:15【ピエロの格好をした銀行員。「CAJA MORCILLO, CRÉDITO A PORRILLO(貯蓄銀行、しゃべりまくれど聞く耳持たず)」と書かれる。】
銀行と貯蓄銀行はこのチャンスを逃さなかった。
そして融資の条件を緩め始めた。
4:21【貧乏ななりをした男。帽子をかぶった亀がはい出てくる。】
「やあ、俺のクソ給料じゃ、カネが貯まるのは亀公より遅い
んだが…。」
※ 【53】CAJA(カハ)は「箱」の意味だが、スペインの地域経済に密着した「貯蓄銀行」の意味を持つ。名目上は「非営利団体」であり、
  地方自治体が経営陣を指名して公共事業や地域経済振興のための業務に当たるものだが、実質的に銀行との区別はつけ難い。
※ 【54】帽子をかぶった亀は足がのろいものの代表。


【55】
【56】
4:25【「CRÉDITO CONCEDIDO(ノンリコース・ローン:支払い能力を超えるローン)」のハンコ。】
「住宅ローンが用意されています。ご心配なく!」
4:27【貧乏人の男が骸骨になるまでのローン】
あなたのローン期間を40年に延ばせば、支払いをカバーできるはず…。

【57】
【58】
4:32【PRECIO(価格)、INVERCIÓN(投資)、BENEFICIO(利益)】
もしローンを払えなくなるときが来たとしても、住宅価格は上がり続けます。あなたが家を売りさえすれば、投資分を取り戻すばかりか、利益分のお金が手に入るんですよ。
4:38【説明する銀行員】
よく覚えていてくださいよ・・・。住宅の値段が・・・
※ 【57】これ以降は、バブル経済を通して経済を疲弊させた日本がたどった道とよく似ているが、スペインの場合には元々の生産能力や
  人的資源の貧弱さが悲劇に拍車をかけている。


【59】
【60】
4:40【銀行員の姿が不気味に大きくなる。】
下がることは・・・ありえない・・・。
4:45【貧乏人の男の周りに、多くのぜいたく品が現れる。】
そのうえ、あなたがローンをもっと使えば、自動車、客船での旅行切符、大型画面のテレビ、Iフォンなども手に入るだろう…。

【61】
【62】
4:51【SDM(sueldo de mierdaクソ給料)、DPM(de puta madreイカす:下品な表現だが肯定的な意味)、高級車に乗る男】
こうして史上初めて、クソ給料でイカす生活ができるようになったのかもしれない…。
「オレは金持ちだァ!」
4:59【1平米の住宅価格が2007年には2905€に。】
2007年、空恐ろしい光景に出くわすことになる。

【63】
【64】
5:06【Caja de Ahorro(貯蓄銀行)、Empresas(企業)、Administraciones Públicas(公的機関)、Familias(家庭)】
役所や家庭や企業の借金は巨大に膨れ上がっていた。
5:10【Banca internacional(国際的な金融システム)から貯蓄銀行へのカネの流れ】
貯蓄銀行が他の金融機関から行う借金も、同様に膨大な額となっていた。

【65】
【66】
5:14【カネの袋に埋まるスペイン、未来の世界からカネの袋をかついだ女性が時空の壁の穴を通ってやってくる】
国全体が打ち出の小槌を手に入れ、未来の世界のカネを好き放題に手に入れた。
5:19【左側:Causa(原因)、CREACIÓN DE RIQUEZA(価値、資産の創造)。右側:Efecto(効果)、CRECIMIENTO(成長)。】
言い換えると、決して、資産を作る我々の能力が経済成長をもたらしたのではなく、

【67】
【68】
5:23【黄色と青の丸がその位置を変え、】
逆に、資産を作り出したのは経済成長自身であり、
【左側にOrigen(起源)、DEUDA(借金)と書かれた赤い丸。】
そしてその経済成長は単に借金のおかげでのみ存在しえたのだ。
※ 【66〜68】で述べられていることは分かりにくいかもしれないが、それは決して今回のバブル経済に特有のことではなく、むしろ
  1960〜70年代の「高度成長」のあり方に重なるだろう。それについては
こちらで日本の「高度成長」と比較しながら述べているので
  参照してもらいたい。

【69】
【70】
5:29【2008年、狭く電気も途切れがちな住宅に住む夫婦の姿】
2008年。住宅の値段はとんでもなく高く、一部の人々は40年ローンでも穴倉のような家にしか住めなくなった。
5:35【サパテロ首相が冷や汗を流して震えている。】
誰かがこんな狂気を止めなければならなかったのだが、誰もどうしていいのか分からなかった。

【71】
【72】
5:39【音楽の演奏】
スペイン全体がタイタニックのオーケストラの状態で、
5:42【沈むタイタニック】
船が沈んでいくのを止めることができないままに、曲を奏で続けていた。

【73】
【74】
5:48【核兵器の爆発】
そしてついに、米国での信用危機の爆発が世界中を急速に汚染していった。
5:54【椅子の上にはサボテンの鉢が座る。サボテンは「CAJA MORCILLO(貯蓄銀行)、 Habla mucho que no te escucho(しゃべりまくれど聞く耳持たず)」を体現している。】
一夜にして銀行は金を貸すのをやめてしまった。
※ 【73】米国のバブル崩壊(リーマン・ショック)は2007年だが、欧州が本当に深刻な影響受けるのは2008年から。
※ 【74】銀行の「貸し渋り・貸し剥がし」は万国共通


【75】
【76】
5:57【DEUDA(国債や地方債など)を拒否する手。】
投機屋たちは公債を買うことを拒否し、
5:59【CRISIS(経済危機)が人々を襲う。】
パニックが急激に膨らんだ。

【77】
【78】
6:02【銀行からのカネの流れが止まる。】
誰もカネを貸さなくなり、ドミノ効果で消費は冷え込み、
6:04【「%PIB」はGDP比の意味。
経済は縮小した。
※ 【77】以降の様子については、こちら、およびこちらを参照してほしい。

【79】
【80】
6:07【INEM(職業事務所)に人々が行列を作る。】
企業は大量の解雇を開始し、
【EJECCIÓN DE LA HIPOTECA(抵当権の行使)】
失業者の家族はローンの支払いができずに自宅から追い出された。

【81】
【82】
6:13【未来からの女性が、スペインからカネを脅し取る。】 
何たることか、我々からカネを盗んでいるのはあの「スペインの未来」だったのだ。
6:17【ニワカ金持ちだった男が・・・】 
すぐに我々は貧しくなったことに気付き・・・、

【83】
【84】
6:19【たちまち乞食の姿に。dame argo(何かください)】
そしてもっと悪いことに、貧困化を決して止めることができないと気づいたのである。
6:24【España(エスパーニャ;スペイン)のシンボル、闘牛。】
もうスペインじゃなくなった。

【85】
【86】
6:27【Españistán(エスパニスタン)のやせこけた牛】
きっと「エスパニスタン」になったのだろう。
6:30【字幕:La historia continúa en... Españistán(歴史はエスパニスタンの中で続く。  Esdte país neva a la mierda(この国はクソに向かって雪のように堕ちていく。)】

【解説】
 まず題名の「エスパニスタン(Españistán)」についてですが、これはもちろんEspaña(スペイン)に、パキスタンやアフガニスタンなど中央アジアのイスラム国の-stanを付けたものです。その接尾辞は、この作品の中で「貧弱でやせ細った国」のイメージを作るものとして扱われており、この命名は中央アジア諸国にとっては「差別」「侮辱」なのかもしれません。ただこれは、今まで世界で10位前後の経済力を誇り「先進諸国」の代表格の一つとして胸を張っていたスペインが、実はこれほど情け無い貧弱な国だったのだという、作者のやり場の無い怒りの表出ということでご理解ください。
 そしてその情けなさ、貧弱さは、単にバブル経済の処理を誤って生まれたというようなものではなく、もっと以前からスペインに根付いていた「愚かさ」としか言いようのない社会のあり方から出てきていることは、この作品の「第2部」である「シミオクラシア」で部分的に触れられています。
 もちろん作者のアレシュ・サロー・ブラウッは経済や政治の専門家ではなく、彼の作品の主張内容に対しては反論もあります。確かに彼よりも経済学的な知識を持つ者にとって、いくつかの欠陥をあげつらうのは簡単でしょう。しかし、その反論をする人たちが、スペインのバブル経済の原因と経過について、またその奥にあるスペイン社会の抱える病根について、彼以上の影響力を持って解き明かしている例を、私は見たことがありません。
 この作品は、フランコ独裁政治が終わってから最大規模に膨らみつつあるスペイン人の反乱が開始された2011年に作られたのですが、それに関しては「幻想のパティオ」サイトにある「シリーズ:515スペイン大衆反乱」をご覧ください。また2012年以後の状況については同サイトにある「シリーズ:スペイン『経済危機』の正体」を参照してください。

 作品中で、スペインの現代史に詳しくない人には分かりにくいのですが、マンガの【6】〜【10】コマにあるように、アレシュはバブル経済の重要なきっかけを、アスナール国民党政権による1998年の「新土地法」としています。フランコ没後、長期に渡って続いた社会労働党ゴンサレス政権が、経済政策の散々の失敗と政治腐敗によって国民から見放され、フランコ与党の末裔である国民党が政権をとったのが1996年です。ゴンサレス政権末期には、特にバルセロナ・オリンピックとセビージャ万国博の後で失業率が25%近くにも上り、「独裁政権憎し」の感情だけで左翼に投票していた国民がついに怒りを爆発させたわけです。アスナールは社会労働党の柱だった福祉政策を経済停滞の元凶と見なし、資本家を活気付けるためのより自由な開発と労働者の権利縮小、国営企業の民営化などの政策を次々と打ち出していきました。これに関連してこちらこちらをご覧ください。
 アスナールは米国ブッシュ政権の誕生以来そのネオコン路線に乗ってネオリベラル経済を推し進め、2002年のユーロ導入以後はスペインに対する外国資本の投資を大きく増やす政策を採りました。不動産バブルの原因として、アレッシュ・サローが触れていない点としてこの外国資本によるスペインの土地・不動産開発への投資があります。もちろんそれは多くの場合、国内の銀行と貯蓄銀行に投資することを通して行われました。そしてスペイン国内の銀行は、マンガ【51】〜【60】コマに描かれているように、ちょうど米国のサブプライムとよく似た方法で、本来なら金融機関の貸し出しなど受けることの無理な層にまで、大量の貸し付けを行うようになったのです。ついでに、スペイン伝統の腐敗した経済の仕組みも、マンガ【26】【27】コマにあるように、土地や不動産に対する投資によって上手に誤魔化せるようになりました。
 もちろんですが、マンガ【66】〜【68】コマで説明されているように、それは実質の経済能力も生産能力も全く無視した、単に借金したカネを無計画にばら撒いただけでした。日本人が散々に経験したことなのですが、それは「明るい未来」の幻覚への投資に過ぎませんでした。そしてその幻覚が消えたとき、マンガ【81】コマにあるように、「明るい未来」が現在のスペインを脅迫し搾り取りやせ細らせる化け物に変身したのです。
 日本で、高度経済成長、経済の安定とバブル、その崩壊、そしてその後の混乱と衰退を見てきた私にとって、このスペインで再び目にする光景は、本当につらいものです。スペイン人たちは、目の前にぶら下げられたエサに目を奪われて、他国の苦い経験から学んでくれませんでした。しかし今度は、ひょっとすると日本がこの悲惨なスペインの現実から学んでくれなければならないのではないでしょうか。日本で26%(若者では55%)の失業率が現れるような日が来たら、その悲惨さはおそらくいまのスペインの比ではないでしょう。

なお、「Españistán」の字幕無しのスペイン語版は
https://www.youtube.com/watch?v=1nAN7N_WDgw
ESPAÑISTAN la burbuja inmobiliaria con subtítulos en español 
英語字幕版には次もあります。

https://www.youtube.com/watch?v=PSGp2Hh1jQ4
Spainistan, from the Spanish Building Bubble to the Crisis (by Aleix Saló) - (English Subtitles)
 これら以外にもYouTubeには多数のコピーであふれています。


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