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スペイン政治状況:「右」の結集、「左」の分裂


 『フランコ無きフランコ主義:スペイン極右政党の台頭』で私は、激しく頭を持ちあげつつある極右スペイン・ナショナリズムの様子を紹介した。アンダルシア州議会選挙で予想をはるかに超える議席を得た極右政党VOX(ボックス:ラテン語で「声」を意味する)の存在は、この国の中道右派勢力を極右の方向に否応なしに押し流していくだろう。一方で、同州政府を失うことになった社会労働党の内部の深刻な対立があり、中央政府で同党に協力するポデモスは修復不可能な亀裂を露呈している。

 欧州はいま英国のEU離脱を巡って揺れているのだが、その一方で各国の政治状況もまたより厳しい状況に変化しつつあるようだ。スペインでは5月26日の統一地方選・欧州議会選のダブル選挙に向かって、上記の傾向が予想を超える速さで進行するだろうし、それに伴ってカタルーニャの独立運動国際化戦略も思わぬ展開を見せるかもしれない。しかしまず、現在までのスペイン政治の状況をあるがままに書き留めておくことにしよう。

2019年1月24日 バルセロナにて 童子丸開

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●小見出し一覧(クリックすればその欄に飛びます。)
 《「右派連合」の手に堕ちたアンダルシア州政府》
 《「新国民党創設」を画策するアスナール》
 《決定的になったポデモスの分裂と深まる社会労働党内の亀裂》


【写真:スペイン国民党党首パブロ・カサド(中央左)とホセ・マリア・アスナール元スペイン首相(中央右):eldiario.es】


《「右派連合」の手に堕ちたアンダルシア州政府》

 《アンダルシア州議会選挙と極右の台頭》で書いたとおり、昨年12月2日に行われたアンダルシア州選挙(議席総数109、過半数55)で、獲得議席数は社会労働党(中道左派)33、国民党(中道右派)26、シウダダノス(中道右派)21、アンダルシア前進(ポデモスを中心とした左派)17、VOX(極右派)12だった。左派である社会労働党とアンダルシア前進を合わせても50にしかならない。中道右派である国民党とシウダダノスは選挙前から共同で州政府奪取のための政策協定を結んでいた。両党の合計は47議席だが、もしVOXの協力を仰ぐならば過半数を制し、フランコ没後の新体制で初めて右派の州政権が誕生することになる。

 その状況は、方向性としては逆だが、『スペイン最後の「78年体制」政府か?』で書いた中央政府のサンチェス社会労働党政権誕生に似通った点がある。昨年5月にラホイ国民党政権を消滅させた不信任決議で、社会労働党とポデモス系党派の不信任動議賛成は決まっていたのだが、社会労働党に敵対するカタルーニャ独立党派が、とりあえず「泥棒」を追放することには意義があるとして賛成に加わった。このアンダルシア議会でも、とりあえず左翼政権を追放するという「共通目標」で3党が一致するのかもしれない。

 まず、昨年(2018年)12月27日に開かれた州議会総会で、国民党、シウダダノス、VOXの賛成多数で、新議長としてシウダダノスのマルタ・ブスケッが選出され、議長団もこの3党の議員で占められることになった。議長はシウダダノス、知事は国民党から、というのが、国民党とシウダダノスの間の合意である。VOXは議長団に党員を送り込む利点を考慮して、議長選出では比較的容易に協力できた。しかし知事選出については激しい議論と対立が生まれることが予想された。

 そんな中で1月2日に、アンダルシアの新年の祭りであるトマ・デ・グラナダ(1492年にカスティージャ王国がイベリア半島からイスラム勢力を追い出した戦いにちなむ)に参加する国民党は、4000本のスペイン国旗を持ちこんで「私はスペイン!」の大合唱を起こした。これは、VOXに対抗して極右化を進めるパブロ・カサド党首とその執行部によって計画・実施されたものである。その光景は《スペイン・ナショナリズムの再征服》で書いた通り、右派ナショナリズムのレコンキスタ(再征服)がアンダルシアで始まったことを強く印象づけた。

 同じ1月2日にVOXは、「性差による暴力(女性であるということで受ける男性からの暴力)」防止法の廃絶要求が受け入れられない限り、知事選出に協力しないという声明を出した。何せVOXはフェミニズムを「フェミ・ナチス」と呼ぶほどに忌み嫌っているのだ。国民党にしてもシウダダノスにしても、米国民主党(とそのパトロンたち)を後ろ盾に持つフェミニズムに対してまともに敵対する度胸は持たないが、国民党にとってVOXとの妥協は避けて通れない道だろう。

 国民党党首パブロ・カサドはすぐさま、スペインの家庭内暴力被害者の25%は女性以外(男性+子供??)だと語って、「性差による暴力」の概念を曖昧にしその重要性を薄めようと試みた。さらに彼は、暴力を受ける女性たちの告発に対して「嘘の告発や生活援助をしてもらいたいための戯言もある」などとVOXの主張をコピーした。しかし「性差による暴力」は家庭内暴力とは限らず、この国で多発する性的凌辱や強姦などを含むうえに、実際に男女間に起きた暴力事件でこの5年間に女性の死者が259人、男性が47人である。フェミニズム批判ならもう少しましな理屈が言えないのだろうか。

 一方のシウダダノスは困り果てている。欧州議会で同党が属しているリベラル・グループは極右勢力を非常に警戒しているのだ。シウダダノスは12月28日にVOXとの協定の可能性を否定し、さらに1月2日には、今年5月26日に予定されるマドリード州と市の選挙で「反ヨーロッパ主義のVOX」とは連合政権を組まない語った。1月5日になって国民党はVOXとの交渉を1月8日に行うと発表したが、シウダダノスはその交渉に加わらなかった。しかし同時にまた、国民党とVOXとの合意のいかんにかかわらず同党が国民党との間で結んだ協力関係を見直すつもりは無いとも言わざるを得なかった。

 その1月8日の交渉で、VOXは「性差による暴力」防止法の廃止要求や52000人の不法滞在外国人の追放を含む19項目の条件を国民党につきつけた。同じ日に最高裁が女性に対する男性のあらゆる暴力を「性差による暴力」と位置づける判断を念押ししたため、国民党はVOXの要求を「受け入れられない」とせざるを得なかった。それでもその翌日の9日に国民党とVOXは、シウダダノス抜きで、アンダルシア州の国民党代表フアン・マヌエル・モレノを知事にするための37項目の協定を結んでしまった。一つ一つの論点の詰めなど行う時間は無かったはずだ。その筋書きは最初からできていたのだろう。

 その協定の中に「性差による暴力」防止法に関する項目は無かったが、代わりに州政府の機構に「家族委員会」を設けることになった。この「家族委員会(Consejería de Familia)」なる機構名は初めて耳にするものだが、明らかに保守派カトリックの影響が感じられる。またフランコ独裁時代の記憶を保存する「歴史記憶法」廃止要求、不法滞在外国人追放措置の推進、イスラム教徒に対する監視強化、学区制の廃止と親が子供の学校を選択する自由の保証、狩猟や闘牛を含む伝統文化の保護、遺産相続や寄付に対する課税の廃止要求、州政府機構と公営TVラジオ局の縮小など、VOXの主張の大部分が盛り込まれた

 一方のシウダダノスにとって、この国民党とVOXが結んだ協定は受け入れがたいものだった。国民党はこのVOXとの協定がシウダダノスを悩ませるためのものではないと言うが、右派とはいえあくまでリベラル政党としての顔を守る同党にとって、「極右と手を組んだ」というイメージは命取りになりかねない。シウダダノス党首のアルベール・リベラは1月になってほとんど公的な場に顔を出しておらず、たまにニュースになってもカタルーニャ独立派の悪口を言う程度で、アンダルシアのことには口をつぐみ続けている。党内には5月26日に予定される統一地方選・欧州議員選の同日選挙への悪影響を巡って相当の議論が起こっているはずだ。シウダダノスの古参幹部たちはVOXにはできるだけ近づきたくない様子である。

 こうして1月16日の州議会総会で、国民党、シウダダノス、VOXの賛成多数でアンダルシア国民党代表のモレノが州知事に選出され、40年近く続いた社会労働党の支配は終わりを告げ、この右派3党が同州の政治を取り仕切ることとなった。この一連の動きで最も得をしたのはもちろんVOXだろう。このスペイン南部で始まった新たな流れは、今後の統一地方選・欧州議会選同日選挙に重大な影響を与え、スペイン国全体を後戻りの効かない巨大な変化の中に放り込むだろう。同州知事の地位を失ったスサナ・ディアスはモレノに対して「あなたはフランコ主義の遺産のおかげで州知事になれたのだ」と嫌味を投げつけたが、しょせんは負け犬の遠吠えである。

 なお、VOXが政治党派として登場した初期の段階、2014年に、ある亡命イラン人組織から多額の献金を受けていたことが明らかにされている。VOX自身も認めている事実だが、この党の裏には国際的な謀略組織が控えている可能性がある。これに関しては、もう少し多くの事実が判明してから新たに記事にしたいと思う。


《「新国民党創設」を画策するアスナール》

 VOXの協力のおかげで右派がアンダルシア州政権を手にしたことに危機感を覚えるのは、シウダダノスだけではない。VOXとの協定を結ぶ前に国民党の古参幹部たちは党首のパブロ・カサドに、もし国民党がVOXと同じようにするのなら人々はVOXの方に投票するだろうと警告した。そしてアンダルシアでの協定によって国民党の内部には大きな動揺が起こっている。しかしカサドは、統一地方選でアンダルシア・タイプの協定がバレンシアでもマドリードでも繰り返されるという確信を述べた。そしてこの極右政党との協力関係を正当化し、「89年に行われたような中道右派の再創設」の必要性を訴えた。

 今からちょうど30年前、「89年」は国民党が創設された年だ。1975年のフランコ没後、国王となったフアン・カルロスは国民運動(フランコ独裁体制で唯一の合法政党ファランヘの後身)改革派のアドルフォ・スアレスを首相に任命した。そして瞬く間に独裁体制の一掃と新憲法の準備を行い、スアレスは民主中道連合を率いて1977年と1979年の総選挙で政権を握った。また一方でフランコ政権最後の閣僚の一人マヌエル・フラガは国民運動の右派を引き継ぎ、1976年に国民同盟を創設。その後、民主中道連合は自己解体し、1982年の総選挙でフェリーペ・ゴンサレス率いる社会労働党政権が誕生する。その後1989年に、国民同盟はフラガの決断によって民主中道連合の残党を引き入れ中道右派政党である国民党に変わった。詳しくはこちら(Wikipedia日本語版)参照。またフランコ没後から社会労働党政権誕生までの「スペインの移行期」の裏面については、当サイト『スペイン現代史の不整合面』を参照のこと。

 その1989年の国民党創設で初代党首になったのがホセ・マリア・アスナールである。前回『フランコ無きフランコ主義:スペイン極右政党の台頭』の中で私はアスナールがスペイン・ナショナリスト政党を再建するつもりではないかと書いた(参照《スペイン・ナショナリズムの再征服》)。その動きの重大なきっかけとなったのがVOXの台頭とアンダルシアでの右派協力体制である。そしてそれは1月18日から3日間、マドリードで開催された国民党の全国大会で、明白な形で現れてきた。

 アンダルシア州政権奪取に成功した直後で久々の歓喜に包まれた中で、18日に大拍手に迎えられて登場したマリアノ・ラホイ前党首・前首相は、この40年間で果たした憲法の役割を賞賛した後、「セクト主義や教条主義は良いものではない」と語った。これはVOXの極右主義に引きずられる党内の勢力に対する牽制とも受け取れる。ラホイはカサド現執行部の背後に最大の政敵アスナールがいることを承知している。前回2017年2月の党大会では党内の亀裂と執行部の指導力の弱体化を覆い隠すのがやっとだった(《国民党の全国党大会》《一枚めくればこちらもまた…》参照)。しかし今年の党大会が、30年前のマヌエル・フラガによる国民党創設以来の、新たな理論武装を施した「再創設」を目指すものであることは明らかだった。

 全国党大会の主要日程である19日と20日で、最大の主人公となったのがホセ・マリア・アスナールだった。私は《スペイン・ナショナリズムの再征服》の中で『アスナールはこれを機に国民党の極右化を実現させて、Voxとシウダダノスの一部を吸収したいのかもしれない。あるいは、国民党やシウダダノスを分裂させ、その右派分子とVoxを糾合して新たなスペイン・ナショナリスト政党を作るつもりなのか』と書いた。その彼が19日に演壇に立ち、かつてフラガが自分に党の運命を託したときと同様の言葉を使いながら、パブロ・カサドを押しも押されもせぬ国民党の指導者として持ち上げ、国民党を右派勢力の「共通の家」と位置付けて、VOXやシウダダノスなどの右派勢力への支持を、カサドの国民党の下に集中させるように呼び掛けた。

 その際にアスナールが用いたのはカタルーニャ独立運動、つまり国家分裂の危機感の掻き立てである。「我々はいったいいつまでカタルーニャの謀反を我慢し続けなければならないのか!」というスペイン国家の統一性回復を訴える熱気のこもった演説は、20世紀前半のプリモ・デ・リベラとフランシスコ・フランコの理想を受け継ぐ右派ナショナリズムの復権を強く印象付ける。私がこのサイトの方々で書いてきたことだが、この国のナショナリズムは多民族・多文化・多起源のスペインの一体化を目指すものであり、歴史的に軍事独裁で実現されファシズム体制で維持された、それ以外では成し遂げることのできなかったものだ。このナショナリズムは最初から破たんの要因を内に含んでいる。

 そして翌20日にパブロ・カサドは演壇に立ち、「我々はカタルーニャで秩序を作ることができる。ファナティックな主権主義者の輩によって人質にされている社会を解放するだろう」、「社会主義は首相府のレンズ豆料理(貧相な食事の意味)のためにスペインを売りとばしている」、「殺人者、強姦者、小児性愛者たちが、スペインの進歩主義者のストックホルム症候群(Wikipedia日本語版参照)によって街頭に溢れているのだ」などといった調子で、激しいアジ演説を行った。それを聞いたVOXの総書記ハビエル・オルテガは、カサドの国民党がそのスローガンに至るまでVOXのものまねをしていると苦笑いした。

 なお、この国民党全国党大会でピエロ役を果たしたのがノーベル賞作家でペルー人のマリオ・バルガス・リョッサである。彼は親交深いアスナールの応援のために登場したのだが、「ナショナリズムはスペインにとって重大な脅威だ」、「トーラ(カタルーニャ州知事)に対して感謝しなければならないことは、その言葉と記述で、ナショナリズムの持つ本物の差別主義を見せてくれたことだ」と語った。彼の私生活での不品行と破廉恥については触れないことにするが、マドリードでの豪勢な生活を楽しむこの富豪のネオリベラリスト作家は、自分が欧州の中でスペイン・ナショナリズムを応援していることには全く無自覚な様子だ。リョッサは1月22日に国際ペンクラブから脱会したが、それは同クラブが、カタルーニャ独立派幹部を裁判以前に1年以上も拘留するスペイン国家を非難し、即時釈放を求めたからである。


《決定的になったポデモスの分裂と深まる社会労働党内の亀裂》

 こうしてスペインの中道右派の極右化が強く印象付けられる中で、左派のポデモス、中道左派の社会労働党で何が起こっているのか。2014年以降、スペイン社会と国家の変革への希望を担って華々しく登場したポデモスだが、私が当サイトの『国民党、社会労働党、ポデモスを襲う危機』、『ポデモスは分裂の危機?カタルーニャは?』、『ともに亀裂の上に立つポデモスと国民党』で記録したように、何年か前から党内の対立と分裂状態は隠すことのできない状態に達していた。

 今年5月の統一地方選で、ポデモスはマドリード州知事候補として党幹部のイニゴ・エレホンを立てる予定にしていた。ところが、アンダルシアで右派連合が州政権を奪取した翌日の1月17日、エレホンは、統一地方選で再選を目指す改革派のマドリード市長マヌエラ・カルメナと会合を開き、共にカルメナの支持組織として作られた政治会派マス・マドリード(「もっとマドリード」の意)から出馬する、という約束を交わした。もちろんだがポデモスの執行部は事前にそのことを知らされておらず、全てエレホン(およびその周辺)の独断で決めたことなのである。これは党にとって「クーデター」に等しく、ポデモスの分裂を決定的にするものだ。

 ポデモス党首イグレシアスは「イニゴはマヌエラではない」と怒りの声を挙げ、エレホンに対抗するポデモス独自の州知事候補を立てる意思を発表。ところがエレホンは「私はマドリード州のポデモスの候補者だ」と涼しい顔で言い放った。つまり、マドリード州のポデモスは自分のものであり、それを他のグループに組み込むことは全国組織としてのポデモスとは関係が無い、ということだ。公然たる反旗である。

 このエレホンという男の厚顔無恥といやらしさは並大抵ではない。《イグレシアスとエレホン》でも述べたように、彼の背後にはマドリードのフェミニスト・グループがあり、おそらくそれを通してどこか外部の筋から動かされているのだろう。当サイトにあるもう一つのカテゴリー『現代世界:虚実の皮膜 』にある『左翼のリベラル化と極右の台頭』、『“反対派でっち上げ”と誤誘導される大衆運動』、『アイデンティティ政治の秘密』に詳しいが、反体制的な新しい党派には必ずと言ってよいほどこの種の「破壊装置=自殺遺伝子」が埋め込まれている。

 翌18日に、ポデモスの全国党組織書記長パブロ・エチェニケは、イニゴ・エレホンがもはやポデモスのマドリード州知事候補ではないと語り、「もし自分がエレホンなら下院議員を辞職するだろう」と党の議員団から彼を追放する意思を述べた。しかしエレホンは自分がポデモスの候補であることを繰り返した。その後、各州のポデモス組織指導部はパブロ・イグレシアスへの支持を明らかにしたが、エレホンは「ポデモスが方向性を正すと確信するが、もし党がそうしないのならマドリード州民が決断するだろう」と、あくまでも独自行動を貫く姿勢を見せた。

 そして20日にエレホンは下院議員を辞職した。にもかかわらずポデモスの党籍を捨てようとはしない。これでポデモスは独自の候補を新しく見つける必要に迫られているのだが、この状態に危機感を抱くのがポデモスと共闘する統一左翼党である。同党のアルベルト・ガルソン党首はポデモス分裂を回避しながら別の左翼統一候補を立てようとイグレシアスを説得したが、それがもはや無理なことは目に見えていた。時期の迫る中で大急ぎで新候補を立てても結局はエレホンと争うことになるだろう。

 私は、どうしてイグレシアスがこの破廉恥な変節漢を党から追放しないのか、首をかしげる。すでに2017年の第2回全国党大会(ビスタレグレ2)の段階で、将来起こるべき党分裂の事態は明らかだったのである。しょせんは15M(キンセ・デ・エメ)の大衆運動(『シリーズ:515スペイン大衆反乱 15M』参照)をきっかけに出来た「寄せ集め集団」に過ぎない。勝負は「天の時、地の利、人の和」で決まる。「地の利」はある。「人の和」が実現できない以上、腐肉を切り捨て明確な方針で党内を整理・統一して「天の時」を待つべきなのだ。しかし党首のパブロ・イグレシアスにはその度胸は持てなかったようである。

 一方、政権を握る社会労働党はというと、こちらもまた相変わらずの内紛が続く。『社会労働党「クーデター」とラホイ政権の継続』や『サンチェスの逆襲と社会労働党の危機深化』の中で紹介したことだが、古狸フェリペ・ゴンサレスに擁護される前アンダルシア州知事スサナ・ディアスと、幅広い全国的な一般党員の支持で党首に返り咲いた現首相ペドロ・サンチェスの対立が、遠くない将来にこの党の分裂を導く可能性は決して小さくない。

 昨年12月2日のアンダルシア州議会選挙で議席を大幅に減らし「惨敗」とも言える結果を残したことで、党中央の執行部はディアスにアンダルシア社会労働党代表を辞任するよう求めたが、彼女はあくまで地位に固執した。さらに「右派連合」に州政権を奪われた翌日の1月17日にも、副首相のカルメン・カルボは「党は個人的利益よりも上の存在だ」と語って、ディアスを全く擁護しようとしなかった。党運営だけではなく政府の政策決定でもサンチェスは後手後手に回っており、未だに本年度の予算すら決まっていない。多くの要因があるのだが、党内にある亀裂と不協和音が、サンチェス政権を身動きとれぬものにしている大きな原因となっているだろう。

 だが今の状況は非常に流動的である。社会労働党政権が置かれている状況と、行き詰まり感を漂わせるカタルーニャ独立運動などの様子については、近日中に改めて書くことにしたい。

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