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スペインのクソ暑い6月(1):

ますます支離滅裂になる国


 暑い。とにかく暑い。ただでさえボケそうになる頭をメラメラの太陽が毎日のように容赦なく殴りつける。地中海岸のバルセロナなどまだ32℃かそれくらいで済んでいるが、なにせ強烈な日差しだ。カタルーニャでも内陸部、スペイン南部のセビージャやハエン、中央部のコルドバ辺りではほぼ連日40℃突破、北部のビルバオですら40℃近い。TVニュースによるとイベリア半島で夏至が来る前にこれほど暑く晴れた日が続いたのは1965年以来らしい。多くの地域で水不足が深刻化しており、こちらは33年ぶりだそうだ。隣国ポルトガルでは史上最大規模の山火事で60名を超す犠牲者が出ているが、スペインも他人事ではない。夏は山火事のシーズンだ。カラカラに乾いたクソ暑い空気の中で、いつ何どき、空前の大惨事が起きてもおかしくない。

 しかしスペインの社会と政治・経済の世界では、当サイトのシリーズと記事にあるとおり、年がら年中、山火事のシーズンが続いている。今回もまた、このクソ暑い中でますます支離滅裂になっていくこの国の様子を記録し続けよう。それが本当にあっけらかんと目の前で明らかになっていく様子は圧巻ですらある。いや、別にこの国の悪口を言っているわけではない。こうだからスペインは面白いし、生きていて(しんどいと同時に)楽しいし、それだけ記録のしがいがあるわけだ。

 少々長くなりそうなので、この「スペインのクソ暑い6月」は2回に分けることにする。最初は経済・社会に関する話題、第2部として政治的な動きに関する話題を集めたい。

(2017年6月23日 バルセロナにて 童子丸開)


●小見出し一覧(クリックすればその項目に飛びます)
   《ようやく違憲とされた「脱税合法化措置」だが…》
   《クリスティアノ・ロナウド脱税疑惑の裏に》
   《潰された「オプス・デイの銀行」とゾンビ経済の実態》

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《ようやく違憲とされた「脱税合法化措置」だが…》

 2012年、国家破産の危機に直面したマリアノ・ラホイ国民党政権がやらかしたこと中で、最も許しがたいものの一つが「税制免責措置(amnistia fiscal)」である。(詳しくは当サイトのこちらの記事を参照のこと。)これは「所得隠し・脱税の合法化」と呼んでも差し支えない。所得の申告が「遅れている(?)」国民に対して、過去の未申告の所得を2012年内に追加申告してその10%を税金として納めるなら、その滞納の責任は問わない、つまり追徴金を取られたり脱税で罪に問われたりすることはない、としたものだ。しかし実際には、追加申告された400億ユーロ(約5兆円)にかけられた税金はわずか3%の12億ユーロ(約1500億円)であった。しかも、少なくとも705人の申告データが「政治的な安全を考慮して」公開されなかったのだ。

 この400億ユーロ自体も少なすぎるように思えてならないが、本来なら最高で40%かけられる高額所得の税金が、10%どころか3%になってしまった実態はまだ明らかではない。そもそも、幽霊会社を使っての脱税を「節税」と呼んで合法化するタックスヘイブンの存在自体が「人類に対する犯罪」にされるべきだが、そんな手すら使わずに単純に収入を無申告のまま国内外の銀行に溜め込んだ行為までが「責任を問わない」とされたのである。しかもその原資の多くが国民の税金と銀行からの借金であり、その結果として銀行が背負った負債・不良債権のツケは、後の項目で書く通り、最終的に一般国民にあっけらかんと回されている。(参照:当サイト「シリーズ:スペイン:崩壊する主権国家」、および「シリーズ:『スペイン経済危機』の正体」)

 スペインの憲法裁判所がこの措置を「違憲」であると判断したのは、それから5年後の今年、6月8日のことである。この憲法裁判所はカタルーニャ独立を問う住民投票に対して1日もかけずまともな審議すらせずに「違憲」の判断を下した(参照:当サイトこちらの記事)が、以上のような国家と憲法に対する重大な挑戦について判断するのに、なんと5年もの歳月をかけたのだ。ともかくも、「違憲」という判断が出たことは…、要するに、それらの無申告でカネをどこかにため込んでいた連中を「責任無し」としたこと自体が、憲法違反として取り消され、その連中も改めて検察の取り調べの対象にならなければならないはずだが…。で…、どうなったかって?

 どうもなっていない。その「所得隠し・脱税の合法化」を実施した当人である財務大臣のクリストファ・モントロは、その違憲判断の直後に「この判決は(2012年の措置の結果に対して)全くどんな影響も及ぼすものではない」と断定した。社会労働党とポデモスはすぐさまモントロの辞任を要求したが蛙の面に水である。そもそもモントロは今までも、自分がやったのは“税と資産の正常化措置”であって“税制免責措置”ではないという言葉遊びで追求から逃げ続けてきたのである。

 首相のマリアノ・ラホイにいたっては21日になって、あのとき(「税制免責措置」が実施されたとき)はスペインが「限界状態」、「破産寸前」の状態に陥っていたから、ということでモントロのとった措置を擁護した。そのうえで、社会労働党やポデモスの辞任要求を「無責任であり、非民主主義的である」と断定したのである。カタルーニャの独立問題で憲法を武器にして攻撃するのは良いとしても、自分たちとその仲間の利権に関しては、憲法を無視してそれを「責任」「民主主義」と呼ぶわけだ。その果てに、当のモントロは「今後は新たな“税制免責措置”を法によって禁じる」などと、抜けのうのうと議会で答弁した。これだけでも6月のクソ暑さを殺人的なものにする。
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《クリスティアノ・ロナウド脱税疑惑の裏に》

 先ほども述べたように、事実上の脱税を「節税」と称して合法化するためのタックスヘイブン自体を「人類に対する犯罪」として断固非合法化すべきであろう。ネオリベラル経済とグローバリゼーションの要は実にコイツなのだ。ところでタックスヘイブンと言えば、この6月にスペイン中を大騒ぎさせたニュースの一つ、レアル・マドリードの名選手クリスティアノ・ロナウド(ポルトガル代表)が多額の脱税の容疑でスペイン検察庁によって起訴された件が思い起こされる。その金額は、かつて世間を騒がせたFCバルセロナ(バルサ)のリオネル・メッシ(アルゼンチン代表)の410万ユーロ(約5億800万円)をはるかに上回る1470万ユーロ(約18億2300万円)である。財務相の技官によれば、ロナウドは2800万ユーロ(およそ35億円)の罰金の他に7年の懲役刑まで科せられる可能性があるそうだ。

 スペイン第2の日刊紙エル・ムンドは、中道保守系でマドリードに本拠地を持っているにもかかわらず、なぜか国民党の政治腐敗暴露にも熱心だし、「スペインの象徴」レアル・マドリードを窮地に追い込みかねない「フットボール・リークス」の情報をスペインで公開する場となっている。この「フットボール・リークス(Wikipedia英語版)」はサッカー球団や有名選手とその代理人たちの間の金銭的な動きをチェックするウエッブサイトで、ウィキリークスのサッカー版と言ってよい。エル・ムンドが「クリスティアノ・ロナウドが1億5千万ユーロ(約186億円)に上る肖像権がらみの収入をバージン諸島のタックスヘイブンに隠し持っている」というフットボール・リークスの情報を公表したのは、昨年(2016年)12月2日、宿敵バルサとの直接対決、いわゆるクラシコの前日のことだった。

 ロナウドはこの7月31日に裁判所で最初の証言を行うことになっているのだが、6月21日になって、同じくフットボール・リークス情報の公開を行っているドイツの代表的な雑誌デール・シュピーゲルが、ロナウドの弁護側の示す重要書類がねつ造されたものである可能性を報道している。もしこれが事実なら、この歴史的な名選手が刑務所行きになることも多いにありうる。またこの起訴に怒り狂うロナウドがレアル・マドリードを退団するかもしれないという噂が世界中を駆け巡っており、サッカー・ファンをやきもきさせているようだ。

 フットボール・リークスはさらに、レアル・マドリードの元選手アンヘル・ディ・マリア(アルゼンチン代表、現在はパリ・サンジェルマン)、メスト・エジル(ドイツ代表、現在は英国アーセナル)、元監督のジョゼ・モウリーニョ(現在はマンチェスター・ユナイテッド監督)などについて、レアル・マドリードにいたときの不正なカネの動きを暴露した。検察庁から告発されたディ・マリア選手は、この6月21日に、罪状を認め罰金およそ200万ユーロ(約2億5000万円)を支払い執行猶予付き懲役刑を受け入れることで、何とか刑務所行きを逃れたのだ。

 モウリーニョ元レアル・マドリード監督については、この6月20日にスペイン検察庁が3300万ユーロ(約4億1000万円)の脱税の容疑で起訴を決めたばかりで、ロナウドと共にこれから裁判が延々と続くことになるだろう。さらにディフェンスのコエントラン選手(ポルトガル代表)も、元アトゥレティコ・マドリードのファビオ・ファルカオ選手(コロンビア代表)と共に、21日に起訴が決定された。元スペイン代表で名MFだったシャビ・アロンソ(元レアル・マドリード、今年バイエルン・ミュンヘンで選手引退)のように検察が起訴を取り下げた例もあるが、それにしても昨年末からのレアル・マドリードに対する国税当局と検察庁の動きは尋常ではない。

 かつては「脱税」といえばFCバルセロナの「お家芸」だった。リオネル・メッシ、ハビエル・マスチェラーノ(アルゼンチン代表)といったビッグスターが脱税容疑で告訴され、罰金刑と執行猶予付きの懲役刑が科された(メッシの刑の確定についてはこちら)。またネイマールJr.(ブラジル代表)とその父親は、バルサの元会長サンドロ・ルゼイュと共に、ブラジル・サントスからの移籍の際に行ったとされる詐欺の容疑で起訴されている。これらについては当サイトのこちらの記事に関連情報があるが、特にメッシの裁判ではレアル・マドリードの影が見え隠れしている。

 メッシの脱税訴訟で大きな働きをしたのは国家弁護総局(仮訳:Abogacía General del Estado)長マルタ・シルバ・デ・ラプエルタだが、彼女は大富豪のフロレンティーノ・ペレスが2000~06年にレアル・マドリードを率いた間にこの球団の事務総長を務めた。彼女はまたフランコ独裁政権時の大臣フェデリコ・シルバ・ムニョスの娘であり、二重帳簿疑惑に曝されている国民党の元会計係アルバロ・ラプエルタの姪である。この生まれもってスペインの権力中枢に身を置くマルタ・シルバが、不起訴処分になったメッシをもう一度法廷に引きずり戻したのだ。しかし彼女は、いまだに国家弁護士ではあるものの、実は昨年12月に国家弁護総局長の座から外されたのである。

 昨年(2016年)12月と言えば、フットボール・リークスがエル・ムンド紙を通して、クリスティアーノ・ロナウドなどレアル・マドリード関係者たちの大規模な所得隠し・脱税を暴いた時点と重なる。偶然とは考えにくい。当サイトのこちらの記事こちらの記事でも書いたように、検事局、裁判所などのスペインの司法当局や国税庁の内部で、いま激しい権力闘争が行われている。大きな流れで言うならば、フランコ時代から続いていた権力構造が、国家破産の危機(事実上の国家破産)を機に次々と崩されて、新たな権力の構図が作られつつあるようだ。従来の権力者側からの反撃はあるものの、当サイトこちらの記事に書いたようなスペイン政治の変化をみると、間違いなく、新たな(おそらく外部からの)権力の仕組みが現れつつあるように思える。この流れが止まることはあるまい。

 しかし、サッカー自体についていえば、最大の問題はその運営が完全にネオリベラル化・グローバル化してしまったことだろう。同じくフットボール・リークスの不正暴露の対象にもなっているマンチェスター・ユナイテッドのフランス人選手ポール・ポグバがユヴェントゥスから移籍した際には、何と1億ユーロ(約124億円)を超える移籍金が支払われたという。この例を筆頭に、この10数年間、サッカー界でのカネの動きは狂気じみている。(プーチンから追い出された)ロシア系、アメリカ系や湾岸諸国系の大富豪が英国やフランスの有名チームを買いあさり、イタリアやスペインでは中国資本による「爆買い」が大々的に進んでいる。そもそも、実体経済の悲惨さを取り繕うことすらできないスペインのような国で、レアル・マドリードやFCバルセロナが盛大に動かすカネの量は、もはや怪談話のレベルだろう。

 選手や監督と球団とを仲介して移籍金や選手・監督への給料を釣り上げ、欧州サッカー界の狂気じみた運営をさらに狂わし続けているのが「代理人」と呼ばれる連中だろう。その代表的な人物であるポルトガル人ジョルジュ・メンデスもまたフットボール・リークスの監視対象となっている。この「代理人」は、ロナウド、ディ・マリア、エジル、モウリーニョ、ファルカオ、コエントランといった、すでに上にあげた人々の他に、ハメス・ロドリゲス(コロンビア代表)、ディエゴ・コスタ(スペイン代表)、ジャクソン・マルティネス(コロンビア代表)、フィリペ・ルイス(ブラジル代表)など、スペインの球団に在籍する(した経験がある)多くの有名選手をその顧客に抱えている。しかし6月23日付のエル・コンフィデンシアル紙は、スペインの国税当局がこれらのメンデスの顧客たちを片っぱしから脱税の疑いで調査していることを伝えている。いずれ次々とスペイン発の新しい告発が行われることになるだろう。

 もちろんだが、脱税訴訟と罰金刑だけをみると、借金の返済で首が回らない状態のスペイン当局が、カネをむしり取りやすい外国人の有名人からちょっとでもふんだくろうとしている面もある。しかしスペインの伝統的な支配階層の一員であるフロレンティーノ・ペレスが会長を務め、フランコ独裁時代からスペインの国家と社会の象徴であるレアル・マドリードが、ここまで責め立てられるのは普通の話ではない。この国の中枢部における権力構造に何らかの大きな変化が無い限り起こり得ないだろう。そのうち、ペレス自身の身も危なくなってくるのではないか。(ペレスについては当サイトのこちらの記事を参照のこと。)彼にとってもこの6月は特別に暑いものになっているようだ。
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《潰された「オプス・デイの銀行」とゾンビ経済の実態》

 6月に入ってすぐ、スペインの金融界は大激震に見舞われた。この国の代表的な銀行の一つバンコ・ポプラルの株価が僅か1週の間に38%も下落したのである。6月1日木曜日だけで何と18%も下げてしまったのだ。ここは2011年まではサンタンデール、BBVAに続くスペイン第3の銀行だったのだが、2000年代の建設バブル期にできた15億~20億ユーロ(1900億~2500億円)相当と推定される不良資産を抱え込み、膨れ上がる借金に首が回らない状態が続いていた。(スペインのバブル経済とその後の経済危機に関しては、当サイトのこちらのシリーズを参照。)その週にチリにあった同行の資産を売却したものの焼け石に水だった。もしこの銀行が本格的な倒産の憂き目に遭うならば、それは、スペインにとどまらずEU全体の新たな金融危機の引き金となる危険性が極めて高かったのだ。

 バンコ・ポプラルの会長エミリオ・サラチョは、5月半ばに銀行をJPモルガンと米国の投資銀行ラザードに売却する計画を立て双方の合意ができたかに思えた。しかし5月終盤になってJPモルガンがその計画からの撤退を表明し、策に窮したサラチョはドイツ銀行に泣きつく羽目に陥ったのである。そしてついにEUが事態の収集に乗り出した。6月6日に欧州中銀とEU委員会がバンコ・ポプラルを一時的に接収し、すぐさま1ユーロという前代未聞の値段でサンタンデール銀行に売却したのである。

 1ユーロで「貧乏神」を押しつけられた形のサンタンデール銀行は、実際には50億ユーロ(約6200億円)の資金を投入せざるを得なかった。しかしもしそうしなければ、総額で370億ユーロ(約4兆6000億円)もの不良債権を内部に抱え込むこの銀行をもはや公的資金で救うわけにはいかず(どの国にもそんな余裕は無い)、その破産の影響が次々と拡大しながら波及すればサンタンデール自身に及ぶことは避けられなかったのである。果ては欧州の金融システム自体が破滅する危険すらあった。このスペインの中堅銀行の危機は、腐った肉に皮をかぶせただけの欧州経済の内実が垣間見られたものである。

 バンコ・ポプラルが6月2日に事実上の倒産をして以来、この銀行に投資していた銀行、特に米国の投資銀行PIMCOは2億8000万ユーロ(およそ350億円)もの損失を被ったことで欧州中銀とサンタンデール銀行を相手に訴訟を起こそうとしている。その他、1万人の投資家たちがバンコ・ポプラルを詐欺で訴える構えだ。スペインの経済相ルイス・デ・ギンドスは議会での答弁で「バンコ・ポプラルはゾンビ銀行だった」と述べたが、私が5年前に当サイトのこちらの記事で述べたように、スペインという国家自体が生きたままゾンビ化しているのだ。その腐肉の一部がはがれおちたとしても何の不思議もない。この破産劇にはより悲惨な続編が待ち構えているのかもしれない。

 ところでこのバンコ・ポプラルは「オプス・デイの銀行」としても有名である。オプス・デイについては当サイトのこちらのシリーズで詳しく説明されているが、ただし映画(小説)「ダビンチ・コード」にある同名の架空団体とは無関係だ。それはスペイン内戦(1936~39年)の少し前にマドリードで結成されたカトリック系の宗教団体で、内戦後はフランコ独裁体制を宗教・経済・政治のあらゆる面から支えてきた。さらにバチカン内部でも大きな勢力となり、ヨハネ・パウロ二世やベネディクト十六世はこの団体の強い影響を受けており、創始者のホセマリア・エスクリバー・デ・バラゲルは、ヨハネ・パウロ二世の力によって2002年、死後わずか27年目という途方もない早さで、聖人に祭り上げられた。

 オプス・デイというカトリック教団自体がこの銀行を経営しているのではないが、出資者にこの教団の会員が多く、その運営を左右してきたことは事実だ。この銀行がバブル経済の結果として莫大な不良債権と負債を抱え込み、今年に入ってからの激しい株価の下落に見舞われ、EUの命令でサンタンデール銀行に売却されたことは、オプス・デイの多くの有力会員にとってまさに惨劇だった。彼らの中にはスペインやラテンアメリカの企業家も多く、何よりもバチカンの中に強い勢力を保持している。バンコ・ポプラルの事実上の破産はいずれバチカン内部の勢力図をも変えていくことになるだろう。

 それはともかく、この件はスペイン国家の見せかけの皮膚の下に横たわる腐肉の層を垣間見させてくれた。それに続いて、6月16日にスペイン中央銀行は、バブル経済崩壊後に破産状態に陥った金融機関を「救済」するために国庫から直接に注入された約770億ユーロ(およそ9兆5500億円)の公金のうち、80%近くの606億ユーロ(およそ7兆5000億円)の回収の見通しが立たないことを明らかにした。直接の公金注入以外の「救済」を含めると、2008以降の経済危機の際にスペインの金融機関には軽く1000億ユーロ(約12兆4000億円)を超す資金が投入されているのだ。

 おまけにスペインの大手主要銀行は、バブル期の負の遺産として総額で700億ユーロ(約8兆6800億円)分もの不良債権と化している不動産(たとえばこちらこちらこちらこちらの写真)をいまだに手元に抱えている。これらの大部分はおそらく永久に資金回収不能な代物だろう。銀行以外でも、元手の回収がほとんど不可能と思われる不良資産(たとえばこちらこちらこちらこちらの写真)を、各自治体や国有鉄道、道路管理会社などが膨大に抱え込んでいるのだ。銀行の負債以外にそれらがスペイン経済の「腐った血」を溢れさせている。

 2012年に、新たに首相となったマリアノ・ラホイは、公金によって救済される金融機関はじきに立ち直って公金が回収されるのでコストはゼロである、というトンデモない出まかせを意気揚々と演説した。堂々と嘘をつく能力は、ある意味、政治家に必要なものではあるのだが、ここまで見え見えの大嘘を絶大なる自信を持ってあっけらかんと吐いてしまうのは、もはや天才的としか言いようがあるまい。このクソ暑さの中で、このノーテンキ宰相だけは、相変わらず実に涼しげな顔で過ごしている。まあ、この国の首相はこうでないと務まらないのかもしれない。その政治面の話は次回にまわそう。
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次回:「スペインのクソ暑い6月(2)」の予定内容
《スペインを取り巻く環境の変化》
《ポデモスによるラホイ政権不信任案》
《社会労働党の新執行部発足、一方で深化する危機》
《10月1日に実施?カタルーニャ住民投票の行方


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