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カタルーニャ、ポデモス、総選挙…

スペインの暑い夏

見出し一覧 (クリックすればその項目に飛びます。)
《11億ユーロを投資した飛行場を1万ユーロで投げ売り》
《「ポデモス旋風」は消えたのか?》
《テロリストよりも危険なカタルーニャ?》
《ギリシャとスペイン》


 日本も猛暑らしいが今年7月のスペインの暑さは尋常ではない。南部と内陸部を中心に40℃を超える日が延々と3週間以上も続いたのだ。普段の夏なら最高気温で30℃程度のバルセロナですら35℃を超える耐えがたい熱気に覆われ、スペインの各地でこの数十年間の最高気温を更新し続けていた。日本のように湿気が高くないから熱中症で倒れる人は意外に少ないのだが、例年なら数日間続いては「中休み」を挟むはずの暑さが、今年のように延々と続くとやはり体が参ってしまう。またその異常高温と乾燥のために各地で大規模な山火事が続発している。

 ところが7月も末近くになって、バルセロナに急に日本の夏を思い起こさせる猛烈な湿気が襲ったかと思うと、次には国の北部を中心にまるで10月初旬を思わせる異常な涼しさになった。その一方で、山間部を中心に各地で台風並みの突風とテニスボール大の雹の混じった集中豪雨で大きな被害が出た。しかし8月に入るとまたサハラ砂漠の40℃を超える灼熱気団が押し寄せた。しかしどうやら、この異様な熱気と冷気の混合は天候だけではなかったようだ。


《11億ユーロを投資した飛行場を1万ユーロで投げ売り!》 【見出し一覧に戻る】

(※ 以下、ユーロと円の換算は、2015年8月1日段階の、1ユーロ=136円で行っている)

 その灼熱地獄のさ中、7月17日に一つのとんでもないニュースが暑さにうだるスペイン国民の脳ミソを蒸発させた。
11億ユーロ(約1500億円)の資金を投じて建設され2008年に開港したシウダッ・レアル空港は、開港当初に多少の飛行機が飛んだだけでじきに閉鎖され「幽霊飛行場」となっていたのだが、数度の競売を経たのちにやっとのことで買い手がついた。買い取ったのは中国の投資グループTzaneen International だが、その買い取り値はわずかに1万ユーロ(136万円)! 1500億円が飛行機の夢と共に空中に消えたわけである。(このニュースは日本語にもなっていたようだ。こちらの記事。)

 日本ではいま
「新国立競技場」の問題で大騒ぎになっている。なんでも建設費用1300億円の予定がいつの間にか2520億円に膨らんだとか…。しかしこれなんぞ、まだそのお金が使われる以前に明らかになって白紙撤回されたのだから、日本も民主主義国としては優秀なものだと思わざるを得ない。なにせここスペインでは、マドリッド市内とバラハ空港を結ぶ地下鉄工事費用一つをとってみても10億ユーロ(1360億円)が45億ユーロ(6120億円)に化けて、しかも既に出来上がり何もかも手遅れになって山のような借金を抱えてしまった後でそれが露見し、誰一人として責任を取らないままで済んでいるのだから…。「たった2520億円」と言った森元首相なんか、スペインの政治家になっていたらきっと大満足できただろうに…。

 このシウダッ・レアル空港はスペインで初めて民間企業の力だけによって作られたとされているのだが、工事が始まった1998年にスペインは国民党アスナール政権下にあり、ネオリベラル主導の経済政策がこの国に本格的に導入されつつあった。当サイトにある『
バブルの狂宴:スペイン中に広がる「新築」ゴーストタウン』や『崩れ落ちる腐肉:(A)あらわにされる「略奪の文化」』中の「公営事業は野獣の餌場」で記録したとおり、また『エスパニスタン:住宅バブル』にあるように、この国の経済バブルとその崩壊、経済危機のプロセスは、直接にはこの時期が出発点である。

 空港のあるカスティージャ・ラ・マンチャ州シウダッ・レアル市は、地図で分かる通り、首都のマドリッドからは直線距離にして130km以上、東京から静岡ほどにも離れている。しかも人口はわずかに7万5千人。特に有力な産業を持つわけでもなくさしたる観光地でもない。そこに
欧州最大級の滑走路と2万8千平方メートルものターミナルを備えた、まるでイベリア半島のハブ空港ででもあるかのような巨大な飛行場を作ったのだから、仮にバブル崩壊・経済破たんが起きなかったとしても、始めから採算など取れるはずも無かった。まして開港した2008年はリーマン・ショックの翌年、スペイン経済が一気に転落に向かって突っ走り始めた時期だった。散々の赤字営業の果てに、4年後の2012年に閉鎖に追い込まれたことに何の不思議もない。

 もちろんだが、その建設プロジェクトに関わった主要な投資会社と、投資のかなりの部分に加わった貯蓄銀行CCM(カハ・カスティージャ・ラ・マンチャ)は破産に追い込まれた。そしてこの空港建設の赤字は、それらに融資した銀行の天文学的な不良債権の一部に加えられた。次に、当サイト『
「銀行統合」「国営化」「救済」の茶番劇』で述べたとおりだが、それらの銀行は一時的に国有化され、トロイカ(EU・欧州中銀・IMF)の「銀行救済策」という名の借金によって国家破産が覆い隠された。最終的に、その返済は緊縮財政による膨大な国民の犠牲を伴いながら、現在進行中である。

 スペインの中には
バブル時期に建設された同様の「幽霊飛行場」は、このシウダッ・レアル空港と以前に私が紹介した『1機の飛行機も飛んだことがないカステジョン飛行場』(1億5千万ユーロ:約204億円)だけではない。例えばレオン(8千万ユーロ:約109億円)、リェイダ(9千万ユーロ:約122億円)、バダホス(2千万ユーロ:約27億円)、ブルゴス(4千5百万ユーロ:約61億円)、パンプロナ(4千4百万ユーロ:約60億円)などがある。その他にも当サイト『バブルの狂宴:スペイン中に広がる「新築」ゴーストタウン』で紹介したウエスカ空港のように極くわずかしか使われずに莫大な維持費だけが公的債務を膨らませて続ける飛行場が数多くあり、中国人の「爆買い(?)」を待っている最中だ。このシウダッ・レアル空港の場合には、買い取った民間企業が維持費を払うことになるだけ、まだましなほうだろう。

 飛行場ばかりではない。当サイト『
シリーズ:『スペイン経済危機』の正体』や『スペイン:崩壊する主権国家』などで紹介してきたように、同じ時期に作られた住宅、鉄道、道路などのインフラの大多数が同様の不良債権状態になっている。それらの建設にかかった巨額の資金の多くは公的機関がスペイン中の貯蓄銀行から借り入れて土建屋とその関連企業にバラまき、それが業者と地方政治家の懐を潤し、資金洗浄を経てどこかのタックス・ヘイブンに消えた。もちろんその貯蓄銀行のカネはやはり国内外の巨大な金融機関から貸し出されたものである。結局それらはいま、国民の懐から膨大な利子と共に「集金」されつつあるが、おそらくその「元本」の返済は永久に終わるまい。

 政治家と官僚は、立法・行政・司法・報道の「4権」を駆使して国民の目を誤魔化し意識を操りながら、このようなカネの流れを作りだす「金融工作員」として働く。彼らはその作業を「経済政策」と呼び、借金で作られた粗大ゴミの山が積み上げられることをもって「経済成長」と宣伝する。スペインでは、借金をして、「中身」を考えずに「箱」を作ることが「経済」なのだ。「需要と供給のバランス」などそこには存在しない。「経済成長」とは「借金で供給を拡大させ続けること」なのである。「供給すれば需要が生まれる…」と? この国の経済に携わる者たちの脳ミソは、猛暑でなくても常に沸騰しながらひっくり返っている。

 それにしても、中国の投資グループTzaneen Internationalはこんな巨大なゴミ飛行場を手に入れて、いったい何に使うつもりなのだろうか。将来景気が上がれば転売できるとでも思っているのだろうか。投資額わずか1万ユーロとはいうものの、飛行場として維持していくためには1年に何十万ユーロもかかるだろうし、飛行場以外の使い道を考えるにしても、今度は取り壊し費用だけでも1千万ユーロで済むわけがあるまい。ひょっとするとシウダッ・レアル付近に中国人の大植民都市を建設してスペインを中国の経済植民地にする拠点にでもするつもりなのか…、いや、これはさすがに妄想が過ぎるか。クソ暑い中、これ以上考えるのは止めておこう。


《「ポデモス旋風」は消えたのか?》 【見出し一覧に戻る】

 今年5月24日に行われた統一地方選挙でのポデモスの存在は、スペインの政治の流れに巨大な転換を引き起こすに十分だった(当サイト『 欧州全体を揺るがす大変動の序曲か?』、『今年の秋に劇的な政変は起こるのか?』)。この後、9月27日にカタルーニャ州議会選挙、そしておそらく11月の終わりごろに、来年以降の4年間の政権を決める総選挙が行われるだろうが、ここでもやはりポデモスは鍵を握ることになるのだろうか? もちろん党首のパブロ・イグレシアスは本気で政権を担う(少なくとも連合政権を作る)つもりでいるようだ。(当サイト『パブロ・イグレシアスが語る』)

 ところが今年前半以来、ポデモスの勢いが完全に止まってしまい、むしろじりじりと後退しつつある。左のグラフは
7月25日付のエル・パイス紙に載せられたMetroscopiaの世論調査の結果だが、昨年の秋以降激しく落ち込んでいた国民党(青色)と社会労働党(赤色)の支持率は、今年の2月以降、徐々に上がってきている。その一方で1月には「第1党」の勢いだったポデモス(紫色)の支持率が、3月以降急激に落ち始め、6月から7月にかけてさらに支持を減らしている。同様の結果は8月5日に発表された国立社会学調査センターの調査結果でも現われており、国民党の勢力回復が指摘されている。

 どうやらポデモスにとってこの夏は「冷夏」となっているようだ。昨年来の「ポデモス旋風」は、単に「一休み」しただけで、再び勢いを盛り返すのだろうか。あるいはこのまま落ち着いていくのだろうか。

 この世論調査によると、7月26日の段階で、社会労働党が第1位で23.5%、続いて国民党が23.1%、ポデモスが18.1%、シウダダノス(オレンジ色)が16.0%、IU(統一左翼:茶色 )が5.6%の順である。「世論調査」というと眉唾ものが多いのだが、今までの経験上、スペインでの世論調査は案外正確な場合が多いと言える。また右上にある棒グラフは「今の時点ですでに投票を決定している政党」を表わすもので、ここでもやはりポデモスは2大政党に大きく差を付けられている(中道右派政党シウダダノスについては当サイト『
ポデモスとシウダダノス 』)。昨年末ごろの調査では完全に逆だったのだ。

 この2大政党の復活とポデモスの退潮にはいくつかの理由が考えられる。まず、昨年来続く中道右派の国民党と中道左派の社会労働党からのネガティヴ・キャンペーンが功を奏し始めたこと。また、国民党政権に対する怒りの一部がシウタダノス
に吸収され、ポデモスに向かう流れが食い止められたことと、伝統的な左翼政党IU(統一左翼、旧共産党系)からの巻き返しが強まったこと。さらに、ギリシャの与党シリザとポデモスのイメージが重なって、ギリシャを巡る経済的・政治的混乱がポデモスに対する警戒感と不信感を高めていること(ギリシャ問題については最後の項目で取り上げてみたい)。

 それらに加えて、5月24日の統一地方選挙で主要自治体にあった国民党の単独政権が社会労働党やポデモスなどの新党派による連合政権に変わったのだが、様々な傾向と方向性を持つ「素人の寄せ集め」の感をぬぐえない。中には「水と油」としか思えないような党派による「混合」政権もあり、逆に国民に不安感が広まっている、といった面もある。

 最も大きな理由は、「景気回復」の具体的な現われを多くの国民が感じ始めたことだろう。緊縮財政の「ご褒美」としてリスクプレミアムが100前後に抑えられているおかげで、スペイン経済への信用が保たれ外国からカネが借りやすくなっている事情がある。その背景の中で、不動産を中心にしたミニ・バブルの煽りもあり、
自動車の生産台数は記録的な伸びを示し、失業率の数字だけは確実に減りつつある。雇用省の調査によると、7月の1ヶ月間で全国で新たに収入口を得た人数は約7万4千人である。ただしその93%は臨時雇いだが。7月31日には、近づく総選挙を意識した首相のマリアノ・ラホイは、来年度の予算案を提示する中で、「スペイン経済の長期的な上昇傾向」を強調してGDP3.8%の成長と失業率20%未満の予測を誇らしげに披露してみせた。

 現在の「失業の減少」には、
北アフリカや中東での戦争とテロ、ギリシャの政治・経済的混乱が、欧州の観光客をスペインに押し流していることが大きく作用しているだろう。SextaTVによると、今年上半期に外国人観光客がスペインに落としたカネはおよそ283億ユーロ(約3兆9千億円)に上る。これは前年度比で7.4%の増加になる。最も観光収入が多かった州はカタルーニャで約64億ユーロ(約8千7百億円)、第2がカナリア諸島で約62億ユーロ(約8千4百億円)だそうだ。新規就労者のほとんどが観光産業での低賃金の臨時雇いとはいっても、確実に消費を増やし中層〜下層の人々の精神的な救済感が作りだされている。

 もちろんそのような「回復」は水の表面に浮いたあぶくに等しいだろう。しかし、実際に骨身に沁みる現実の厳しさの中で、たとえ明日には消えるかもしれないと水面の泡であっても、個人と家族の生活を成り立たせてくれそうな方向に顔を向け、歩き方を知っている旧来の道に戻るのを止めることはできまい。

 しかし私には、ポデモスの退潮の主要な原因がポデモス自体にもまたあるのではないかと思えてならない。まずカタルーニャ独立問題に対する非常に分かりにくい態度である。これはまた後で詳しく述べたい。次に、最初に述べたシウダッ・レアル空港の例に見るようなスペイン国民を襲った悲劇の構造的な原因を、素人にも分かりやすく説明し単純明快に意識化させる作業が不足しているのではないか。

 マスコミと言論界の人々はそれをせいぜい「政治腐敗」の範囲に収めようとする。国民党や社会労働党はさらにそれを「個人の悪徳」として極度に矮小化する。バブル経済の由来と経過と結果、社会の構造的な問題点については決して分析・説明しようとしない。もちろんだが、経済・政治・社会の構造が変わらないのなら、どれほどの表面的な改革や対処療法的な改良を行ったところで、仮にベーシックインカムなどの制度が導入されるにしても、新たな財政の破たんを招くのみだろう。同じことが何度も繰り返される。繰り返すたびに程度がひどくなる。今は救済感を与えられている中下層民は、次の破綻の際には最下層に恒久的に叩きこまれることだろう。

 社会の仕組み自体がどこかおかしいことは多数派の国民が多かれ少なかれ気づいており、確かにパブロ・イグレシアスが言うように決してみんな馬鹿じゃない。しかし、「だから民衆は国民党や社会労働党には戻らない」と考えるのなら、それはちょっと甘いのではないか。ポデモスのような政党に最も求められることは、「極左過激派」呼ばわりを恐れずに、そのような点を明確に意識化させることではないかと思う。

 今年の春以降、特に統一地方選挙の後、ポデモスは息せき切って選挙に向けた組織化を進ませているが、国民の安定化志向が進めば2大政党が勢力を再構築する可能性が高い。また反対派からの攻撃もますます激しくなるだろう。このままでは今年秋の選挙で第1党、あるいは第2党になることは困難だろう。しかしこの党は、「野党」の立場で政治的な経験を積みながら為すべきことを整理し直した方が良いのではないか、などと思うことがある。


《テロリストよりも危険なカタルーニャ?》 【見出し一覧に戻る】

 一方でカタルーニャでは「猛暑」が続く。「独立」を目指す人々は何もかもを激しく「独立」で押し流そうとし、それを食い止めようとするマドリッド中央政府との「戦争」が苛烈さを増しつつある。8月4日には 来年度予算での地方自治体交付金(日本の地方交付税にあたる)が発表されたが、カタルーニャは交付金総額の10.7%に当たる約11億8千万ユーロ(約1千6百億円)を受け取ることになった。しかしこれは、今年の9・5%よりは増えるものの、GDPで国内最大の約2千億ユーロ(約27兆2千億円:貢献率18.9%)を産み出す地域にしてはあまりにも小さい。カタルーニャ民族主義者にしてみれば 、もはやこれだけでも「独立」の口実には十分だろう。

 独立諸派は異様な熱気に包まれている。カタルーニャ民主集中(Convergència Democràtica de Catalunya:以後CDC)は、慎重派のカタルーニャ民主統一(Unió Democràtica de Catalunya:以後UDC)と決別し、党首のアルトゥール・マス州知事を先頭にしてまさに灼熱状態である。いまこのCDCに加え、「共和国樹立」を最大の党是とするカタルーニャ左翼共和党(Esquerra Republicana de Catalunya:以後ERC )、および、この数年来独立運動を民間団体の立場で強力に担ってきたカタルーニャ民族会議(Assemblea Nacional Catalana:以後ANC)、古くから言語などの民族文化を支え続けるオムニウム・クルチュラル(Òmnium Cultural:以後OC)などの非政治団体が結集して、ジュンツ・パル・シ(Junts pel Sí:「賛成のためにまとまろう」の意味)と呼ばれる統一戦線を結成し、
9月27日の選挙に向けた統一候補者名簿を作成した。

 ジュンツ・パル・シ(以下JPS)の名簿では、ICV(Iniciativa por Cataluña Verdes:環境左翼)の欧州議会議員を務めた後に独立主義に転向したラウル・ロメバが筆頭候補となった。第2が元ANC代表のカルマ・フルカデイュ、第3がOC元代表のムリエル・カザルス、第4にCDC党首のアルトゥール・マス、第5はERC党首のウリオル・リュンケラスとなっている。そして名簿の最後を締めくくることに決まったのは、元FCバルセロナ監督で現バイエルン・ミュンヘン監督のジュゼップ・グアウディオーラである。

 もう一つの左翼民族主義の人民統一候補(Candidatura d'Unitat Popular:以後CUP)は政治的主張の相違のためこれには加わらないが、選挙後には少なくとも「独立」に関しては全面協力するはずである。このJPS+CUPが過半数の議席(135議席中68議席)をとる可能性は十分にある。州知事であるマスは
「9月27日の選挙は、形の上では普通の地方選挙だが、実質的にはカタルーニャの自由と主権を問う住民投票だ」と胸を張り、この8月3日に選挙実施の正式な法的手続きを行った。

 もちろんだが中央政府はこのようなカタルーニャの動きに激怒しており、
もし州政府が住民投票として計画しているのなら9月27日の選挙を無効にすると息巻いている。また政府は内務省を中心に例の「さるぐつわ法」つまり国民保安法を適用する構えを示し(当サイト『どさくさまぎれの警察国家化 』)、検察庁は自治体の持つ諸権利を採り上げて中央政府の「直轄地」にできる憲法第155条の発動を示唆してカタルーニャ州政府を脅迫している。マドリッドにとってカタルーニャ独立主義者は、ポデモスよりもはるかに危険な、テロリスト以上の存在となっているようだ。その理由は明らかである。単なる法的・機構的な理由ではない。

 EUを国別ではなく地域別に見るなら
失業率ワースト5の全てがスペインにある(アンダルシア、セウタ、メリージャ、カナリア諸島、エクストゥレマドゥーラ)。さらにカスティーリャ‐ラ・マンチャとムルシアを加え、失業ワースト10の中の7つがスペインにある。もし生産力の高いカタルーニャがスペインから去ることになれば、残りの地域がギリシャよりもはるかに悲惨な状態になることは目に見えている。

 マドリッド中央政府が、いかなる手段を用いてでも、この「カネのなる木」を手放すはずは無いのだ。9月以降のカタルーニャ問題を巡る攻防は、下手をすると大量の逮捕劇と苛酷な制裁、それに対する激しい抵抗で彩られるのかもしれない。もっとも、9月27日の州議会選挙でJPSが半数未満になってしまえばその心配は消えて無くなるが。

 ここで、
7月26日付のエル・パイス紙が報道したMetroscopiaによる興味深い調査がある。主な項目を見てみよう。以下、赤文字で書かれるのはカタルーニャ州民の回答、( )内に緑文字で書かれるのはカタルーニャ以外のスペイン国民の回答である。
★近い将来に独立カタルーニャの実現が可能かという質問に、32%が「はい」、63%が「いいえ」(「はい」が13%、「いいえ」が82%)
★マドリッド中央政府との衝突を避ける合意が可能かという質問では、37%が「はい」、60%が「いいえ」(「はい」が55%、「いいえ」が39%)
★カタルーニャ独立がカタルーニャにとって良いことか悪いことかという質問に対して、47%が「良い」、39%が「悪い」(「良い」が10%、「悪い」が80%)
★カタルーニャ独立がスペインにとってどうかというと、16%が「良い」、69%が「悪い」(「良い」が9%、「悪い」が73%)
★もしもスペインが連邦制の国家になり自治権を与えることでカタルーニャ問題が解決するのなら賛成するか反対するかという質問には、54%が「賛成」、35%が「反対」(「賛成」が34%、「反対」が50%)
★スペインのどの州もスペインの一部になるか分離するかを一方的に決める権利を持っていると思うかという質問に、
55%が「はい」、44%が「いいえ」(「はい」が14%、「いいえ」が84%)

 カタルーニャ州民の3分の2近くが独立は困難だと思う一方でマドリッド政府との衝突は不可避だとも感じているようだ。カタルーニャ州民とそれ以外のスペイン人の意識は、独立の可能性と、カタルーニャ独立がスペインにとっては悪いことだというものを除いて、大きく逆方向を向いている。このまま独立運動が突き進んだ場合、スペイン中でカタルーニャ排斥運動が起こるのではないのかと心配になる。

 いま、カタルーニャの中では、独立賛成派の他に、国民党、社会労働党とシウタダノスの反対派、そしてポデモス系党派とUCDなどの「独立には反対だが自決権は保障されるべきだ」と主張する3つの流れが形作られ、それぞれの諸党派が活動を激化させている。これを
「カタルーニャ政治のビッグバン」 と呼ぶ人もいるが、問題は最後の「自決権派」だろう。全国で巻き起こる「カタルーニャ独立に賛成か反対か」、「独立か、独立粉砕か」という激しい議論の中では、どうしても姿がかすんでしまう。

 当サイト『
パブロ・イグレシアスが語る』にもあったように、ポデモスは「賛成か反対か」という議論には加わらない。まず自決権を認める条項を含む新憲法をスペインに制定してから後の話にしよう、ということになる。しかし、上の調査結果にもあった通り、スペインの他地域の人々の圧倒的多数がその権利を頭から認めようとしないのである。イグレシアスの主張は、独立賛成派から見ても反対派から見ても「中途半端」「姑息な誤魔化し」と映ることだろう。

 そのポデモスは7月後半に、イグレシアス自身が語っていたように、
ICVおよびEUiA(Esquerra Unida i Alternativa:旧共産党系)と手を組んで、9月27日の選挙に向けて「Catalunya Si que es Pot(「できるのだ!カタルーニャ」という意味、以下CSPと略す)という会派 を作り上げた。しかし、ここに加わる予定だった憲法制定プロセス(当サイト『カタルーニャ情勢の注目点』)はあくまで「独立支持」を第1の公約とすることを主張したため話し合いが決裂した。イグレシアスが、この会派の「顔」である異色の尼僧タラザ・フルカダスを「代表にふさわしくない」と頭ごなしに否定したことも原因しているかもしれない。結局、憲法制定プロセスはCSPには加わらず州議会選挙には候補者を立てないこととなった。この点もまた、カタルーニャ内でのポデモスに対する幻滅感を広げるだろう。

 CSPはおそらくJPSに次ぐ第2党の座をシウタダノスと争うことになるが、カタルーニャで主流になることはありえないだろう。またスペインの他地域でもカタルーニャ問題を巡るあいまいな立場のために、苦しい状況に追い込まれる可能性がある。しかしだからこそ、「極左過激派」呼ばわりを恐れずに、バブル経済とその後の経済危機の中で明らかになった、この国の危険な支配構造を、誰にでも分かる単純な言葉で意識化することが重要だと思うのだが…。本当に明らかにすべき対立点は、民族同士や国同士の相違と利害という「横の関係」ではなく、支配階級と被支配階級の「上下の関係」ではないのか。



《ギリシャとスペイン》 【見出し一覧に戻る】

 8月2日、 ギリシャの元財務相ヤニス・ヴァロウファキスはエル・パイス紙との対談の中で、ギリシャへの「3回目の救済措置は失敗するように計画されている」と語り、ドイツのショイブレ財相が「協定が効力を発揮することには全く関心を持っていない」、「ユーロ圏を再構成し」その中で「ギリシャを切り捨てる」ことに関心を持っていると付け加えた。

 さらに、「スペイン人は自分たちの経済と社会の状況に目を向けなければならず、それについて、ギリシャなどで起きていることとは独立して、自国が必要とするものは何かを推しはからなければならない。ギリシャ状態に変わってしまう危険性は常に目の前にあり、もしギリシャに押し付けられたのと同じ過ちが繰り返されるならそれが現実のものとなるだろう。」と
スペインに対して警告した。彼は「債務という死の抱擁」という表現を用い緊縮財政によって借金が減っていくことはあり得ないと主張する。

 7月5日のギリシャ国民投票の後に、首相のアレクシス・チプラスは一転して「トロイカ」の「救済」を受け入れ、緊縮財政を強化させる決定をした。猛暑をさらに寝苦しいものにさせたこの決定については、チプラスとシリザ党の「裏切り」という声も上がっている。国民投票の結果に対してはそうかもしれない。ただギリシャ国民の多くがユーロからの今すぐの離脱を求めているとは思えない。さらにギリシャ情勢についてはギリシャだけで決めて動くことのできない様々な要素が入り混じっているのだ。

 ギリシャがロシアに接近し
チプラスとプーチンの会談が行われたのが4月8日だったが、その以前の3月17日には、米国の対ロシア戦争策謀の急先鋒《Fuck!EU》ヴィクトリア・ヌーランドがアテネを訪れてチプラスと会談している。ギリシャのロシアへの接近をけん制したのだろう。しかし6月19日にチプラスはサンクト・ペテルスブルグに向かい、トルコとギリシャを経由して欧州にロシアの天然ガスを運ぶパイプライン「ターキッシュ・ストリーム」に関するロシア政府との合意文書に調印した。その際に彼は「私は今ロシアにいる。欧州はすでに世界の中心ではないのだ。新たな複数の力がある。」とまで言い放ったのだ。しかしどうやら、ロシアがギリシャに手を差し伸べるのは時期尚早だったようである。

 ギリシャは単に欧州で借金の果てに経済破たんした国であるだけではない。欧州と中東・中央アジアを結ぶ地政学的な要所であり、ロシアと米欧との様々な意味での接点でもある。元々がオスマン帝国を解体するために大英帝国の謀略と力で作り上げられた国なのだ。トロイカの緊縮財政押し付けに対するギリシャ国民の圧倒的な“OXI!(No!)”が消えることはあるまいが、残念ながらギリシャには単独で自国の運命を決める力は与えられない。

 そのチプラスは、7月14日に公営テレビとのインタビューの中で、
もしスペインでシリザと類似の政党が勝つなら欧州は変化するかもしれないと語った。明らかにポデモスを指しているのだが、このときにはチプラスはすでに「救済案受け入れ」の覚悟を決めていた。彼は今年のスペイン総選挙まで彼の政府が続くことを希望しているが、残念ながら、ポデモス主導の政府が今年中にスペインに誕生する可能性は小さいと思われる。ただ欧州がどのように「変化する」と彼が考えるのかまでは、これを伝えるスペイン語紙からでは知ることができない。ユーロ圏解体の方向なのか、逆にユーロ圏の財政統一なのか、それともユーロがIMFなどと手を切って進む「第3の道」か。

 スペインでいま進行中のミニバブルの底が割れ、幸運にも続いている観光ブームが去り、カタルーニャ独立問題で政治的混乱が激しくなるようなら、様々な誤魔化しで包み隠されている財政破たんの実態が表面化し、スペインは一気に「ギリシャ化」に向かうかもしれない。古代遺跡ではなく、飛行場や高速鉄道などの借金まみれの廃墟を残して…。そしてそれはイタリアやフランスに伝播していくだろう。

 膨大な債務を抱えるスペインでは、貧富の差の拡大が止まる気配を見せない。例えばカタルーニャで
貧困者の割合が2013年から14年にかけて1.1%増え21.9%となった(カタルーニャ統計局調べ)。特に電気やガスなどの料金を払うことのできない「エネルギー貧困」者の数はその1年間で77%増の68万3千人に達した。さらにカタルーニャ人の26%が貧困と社会的排除の縁にあえぎ、これもまたその1年間で1.7%の増加となった。それでもまだ、スペイン全体(貧困率22.2%)の中ではましな方だ(EU全体の貧困率は16.6%)。

 しかしこのデータが得られた時期にも、ラホイ国民党政権は数字を示しながら「我が国の経済は回復しつつある」と叫び続けていたのである(当サイト『
ノンストップ:下層階級の生活崩壊』)。ヴァロウファキスの言う「死の抱擁」は、欧州の様々な国の経済が見せかけの「回復」と「崩壊」を繰り返すごとに、確実に膨大な数の民衆を下層民にたたき落としていく。先ほどのチプラスの言葉は、シリザやポデモス自体が体制の変革者としてその逆流を組織できるものに変われば、ひょっとすると実現するのかもしれない。スペインが今年のギリシャと同じ立場に立つようなときに、「死の抱擁」の中でパブロ・イグレシアスは「No!」と言えるのだろうか。
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2015年8月6日 バルセロナにて 童子丸開

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