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大量破壊兵器としてのマスメディア

ジェイムズ・ペトラスの注目記事和訳


 私は以前『アフガン・イラク戦争開戦の大嘘と911事件』の中で「嘘は核兵器をも超える大量破壊兵器」と書いた。しかしより正確に言うなら、「嘘」というよりも「嘘を真実であるかのように平然と垂れ流すマスメディア」こそが核兵器を超える大量破壊兵器なのである。今回は、ユダヤ系米国人でニューヨーク州立大学ビンガムトン名誉教授の社会学者ジェイムズ・ペトラスによる「ファイナンシャル・タイムズ:大量殺人のための拡声器(The Financial Times: Megaphone for Mass Murder  08.28.2016)」を和訳(仮訳)したのでお伝えしたい。

 この記事でペトラスはその「大量破壊兵器」としてのマスコミの実例として、ベネズエラの政権すげ替えの動きを強力に推し進めるファイナンシャル・タイムズ紙の報道と論説を採り上げている。前回(8月31日アップ)の翻訳記事『ねじ曲がった1マイル(イズラエル・シャミール著)』と併せて読んでいただければ、とおもう。ただこのペトラスの文章は8月28日に発表されたものであり、ペトラスがこの文章中で懸念していることの一部はすでに起こりかけたが、現在のところ「不発」に終わっている。

 日本ではたぶんオリンピックとサッカー以外ほとんど注目されることが無いと思われる中南米での実例だが、中東〜北アフリカに勝るとも劣らない規模で、「金力・暴力・情報力」の悪魔の三位一体 による破壊と殺人と不安定化が推し進められている地域だ。 【翻訳後記】
として拙文を記しておいたので、お目を汚すようだがお読みいただきたい。


20016年9月13日 バルセロナにて 童子丸開

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【翻訳・引用開始】  (ジェイムズ・ペトラスのHPより)

ファイナンシャルタイムズ: 大量殺人のための拡声器

   2016年8月28日 :: アメリカ

序論: ファイナンシャル・タイムズ紙の論説ページは次のように述べるロゴを掲げる:「恐れも無く好みも無く」。実際に編集者は、話が次のような点に及ぶと何の恐れも見せることがない。リビア、シリア、イラク、アフガニスタン、イエメンそしてベネズエラのいずれかについて、嘘をでっちあげること、国々を滅ぼす帝国主義戦争を奨励すること、そして何百万人を貧困に追いやること。大胆不敵な「我が嘘つきタイムズ」は、帝国の軍に独立国の政府を叩き潰すように駆り立てる口実捏造の最前線に立ち続けているのだ。

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 その見栄っ張りな三流文筆家どもとうぬぼれに満ちた主張にもかかわらず、FT(ファイナンシャル・タイムズ)はアングロ‐アメリカの金融支配層によって、支配エリート階層の最も退化したセクターのためにデザインされた軍事政策の、好戦的な仕出し人であると認められている。

 帝国の軍事主義を代表するFTの大胆不敵なでっちあげについて、最も衝撃的なことは、それらの政治的・経済的な予測が役立たずで全くの誤りであったことがいかに多いのか、という点だ。

 過去10年間でFTの論説ページは、経済危機にあって没落に向かう中国を描き続けているのだが、実際には、中国の経済は年間6%から8%の間で成長しているのである。

 15年間以上にわたってFTの編集者たちは、ウラジミール・プーチン大統領の下にあるロシアが「西側」にとっての国際的な現実的脅威であると主張してきた。事実はこうである。ロシア国境に対する軍事作戦を拡大してきたのはNATOの「西側」軍であり、キエフでのネオナチ・クーデターに資金を与えたのはアメリカであり、中東におけるロシアの影響力と関係を全面的に破壊するために計画されたシリアでのイスラム主義者の蜂起を推し進めたのはアメリカ‐EUだった。

 FTの権威ある経済学の論者たちと主要な論説作者たちは、2008‐09年の経済危機に直結したまさしく破滅的な規制緩和用の公式を処方したのだが、その後になって彼らは、失敗した政策を他人のせいにしながら、「ぼんくらミッキー」の道化役を演じることとなった。

 大胆不敵なFTの記述は最近、民主的に選出されたベネズエラ政府の大統領ニコラス・マドゥーロの暴力的な追放を推進する軍事作戦の、悪意に満ちたプロパガンダを先導している。

 この論文では、FTによる最近の大胆不敵な嘘とでっちあげを明らかにし、次に、ベネズエラとその他の独立国についての政治面での結果を分析することで結論を導きたい。


ファイナンシャル・タイムズとベネズエラ: スーツを着た戦争から街頭でのテロまで

 ベネズエラでの危機を報道する際に、FTは、選挙で選ばれた高官たちや警備担当者たちや軍人と警察官に対する、現在進行中の襲撃と殺害の軍事作戦を、意図的・大規模に無視している。彼らはFTお好みの「反対派」によって殺害されているのだ。

 FTは、正統に選出されたチャベス派の女性議員とその二人の幼い子供たちの恐るべき殺害を報道しなかった。反対派に雇われた殺し屋によって白日の下で(頭を撃たれて)処刑されたのだ。

 これらの正統に選出された政府と一般国民に対する反対派による進行中のテロ攻撃は、FTの「報道」の中とその論説ページで、意図的・大規模に無視されている。彼らは消費物資の不足にずっと大きな注目を当てているのだ。

 FTによる右翼テロの隠蔽は、反対派のデモ参加者に対する軍または国内警備隊による銃撃計画の「可能性」をでっちあげるまでに至った。このケースでは、政府を非難する事前の嘘によってFTが右派の暴力に加担した。

 FTは、反対派ビジネス・エリートによる生活必需品の隠匿のために、意図的に作られた品不足と購買パニックが引き起こされるまでに至ったことを隠蔽する。彼らは、価格のつり上げを否定し、品不足と買い物客の長蛇の列に対しては「政府の誤った政策」だけにその非難の焦点を当て続けるのだ。

 FTは、世界の原油価格の低下がベネズエラの経済ばかりではなく 一次産品の輸出に頼るあらゆる国々に影響を与えていることを都合よく無視する。それらの国々にはファイナンシャル・タイムズお好みのブラジルとアルゼンチンのネオリベラル政権も含まれるのだが。

 ファイナンシャル・タイムズはインチキの「世論」調査を引用する。それらは政府の支持率の低下を激しく誇張する。最新の選挙でマドゥーロ支持者は一般有権者の40%を確保したのだが、FTは彼の支持率を7%だと主張する。

 アメリカの傀儡政権(メキシコ、ペルー、コロンビア)は不法な麻薬の最大級の生産国であり、アメリカの銀行が麻薬取引にとって最大の資金洗浄機関である。にもかかわらずFTは、「北はアメリカに向かい、西にブラジルとアフリカ、そして果てにはヨーロッパへと向かう不法な麻薬密輸の通路としてのベネズエラの役割」について報道する。麻薬捜査の専門家たちの全員が、7つのアメリカ軍基地が置かれ武装した密輸ギャングどもと密接につながった政権を持つコロンビアが、ベネズエラを通り抜ける麻薬の源であることを認めている。ベネズエラがコロンビアの暴力的な麻薬密輸の被害者となっていることが、このシティ・オブ・ロンドンのエレガントな言論売春婦たちによっては決して知らされない。

 FTは、マドゥーロ左翼政権に「マラリアやその他の流行病の可能性」が再び現れてきたと非難する。実際には、最近の「マラリアの流行(ニューヨーク・タイムズのプロパガンダもまた採り上げているが)」は一人の不法な金採掘者の話に基づいている。

 FTは、アルゼンチンとブラジルでアメリカに支援されたネオリベラル政権が、大統領の行政命令によって国を治めているのだが、どれほどに公衆衛生プログラムをズタズタにしてはるかに大きな公衆衛生上の危機の舞台を整えているのかを、無視するのである。


ファイナンシャル・タイムズ:大量殺人を目指す大嘘

 ファイナンシャル・タイムズは、一つの目的の下に総力を挙げてプロパガンダ戦争に取り組んでいる。それは、アメリカの傀儡によるベネズエラの暴力的な権力掌握をそそのかすことだ。

 オバマ‐クリントンの「あらゆる手段を用いる政権すげ換え」政策に沿って、FTは、ベネズエラが「複合的な危機」に面しており、西半球「不安定化」の脅威を代表し、そして世界的な「人道的危機」の淵に瀕していると、出鱈目に描いてみせる。

 これらの致死的な常套句で武装しながら、FTの論説ページは「2018年の選挙の以前に、早く確実に新しい政権を」要求するのだ。

 最近になってFTは、いんちきだが合法的なカラクリを提案した。リコール国民投票である。しかしながら、選出された大統領マドゥーロを追放するための投票を反対派が開始するには時間的に間に合わないため、FTは「もっと早く変化を引き起こす出来事」、つまり暴力的なクーデターを呼びかけている。

 FTのシナリオは、右翼の暴力的な「行進」を起こし、その結果として今年9月初旬に国内に流血の惨事を誘発させることを狙っている。

 FTは「カラカスでの流血はあるラテンアメリカの激しい反応を引き起こすだろう」(ママ)と予想する。言い換えると、FTはアメリカを後ろ盾とする隣国コロンビアの軍事的な侵略が、チャベス主義者の根絶と右派政権の樹立を援助するだろうと期待しているのだ。

 ファイナンシャル・タイムズは、かつてリビアでNATO主導による政権破壊を活発に推奨したのだが、いまアメリカ主導のベネズエラ侵略を呼びかけている。その「政権すげ替え」推奨を再評価したことなど一度もなく、FTはいまベネズエラで暴力的なクーデターを呼びかけるが、それは何万というベネズエラ人の生命を奪う点でリビアを上回るだろうし、すばらしい社会‐経済的進歩の10年間を荒々しく逆戻しするだろう。

 「恐れも無く好みも無く」FTはどこででも帝国主義戦争のために語るのだ。


結論

 アメリカの大統領選挙は、ちょうどオバマ‐クリントン政権がベネズエラ侵略を準備するときに合わせて行われる。拡大する飢え、病気、暴力そして不安定化の馬鹿げた「人道的」報道を利用しながら、オバマ政権は、国連か米州機構の庇護の下で「介入する」ために、ラテンアメリカにいるワシントンの軍事同盟者にとって「介入」の引き金となるに十分な街頭での暴力事件を惹き起こすために、ベネズエラ人の暴漢どもを必要とし続けるだろう。

 もし「成功」であれば、カラカスの選出された政府の急激な転覆が、ヒラリー・クリントンの選挙戦に向けての勝利として、そして彼女による世界的な「人道的‐軍事的介入」政策の実例として、プレゼントされるのかもしれない。

 しかしながら、もしオバマの同盟者の介入が迅速で簡単な勝利を生み出さず、もしベネズエラ人たちと軍が長期にわたる勇敢な政権防衛を続け、そしてもし抵抗のための国民的な戦争へと転化する中でアメリカ人の命が失われるなら、そのときにはワシントンの軍事介入が、クリントンの選挙戦とその「筋肉質の」外交政策への信用を決定的に失わせるかもしれない。アメリカの選挙民たちは、もうあと4年間続く負け戦と人命喪失に対して最終的に反対を決意するのかもしれない。「大胆不敵な」ファイナンシャル・タイムズはお断りである。

【翻訳・引用ここまで】
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【翻訳後記】

 9月11日の深夜、自宅の近所でたまたま起こった騒音で目が覚めた。その晩はラジオを聴きながら寝てしまったのだが、寝直そうとして再び目をつむったときに、ラジオから聞こえてくる声にハッとした。「ウィリアム・ロドリゲス」の名前が耳に飛び込んだからだ。9月11日はもちろん911事件、歴史教科書的表現で「同時多発テロ事件」の15周年であり、スペイン語のラジオ放送でウイリアム・ロドリゲスへのインタビューが行われていたのである。すっかり目が覚めてしまった。

 彼はプエルトリコ人でスペイン語のネイティブだが、ニューヨーク世界貿易センタービルで清掃員として働いていた2001年9月11日に、崩落前のツインタワーで何人もの生存者を助け出し、ビルが崩落する中で九死に一生を得た人物である。事件の被害者、生存者であり、同時に事件当日に何が起こったのかの貴重な生き証人の一人である。(ウイリアム・ロドリゲスについてはこちらの
きくちゆみブログとポッドキャスト を参照のこと。)

 ウィリアムは最初は「英雄」としてブッシュ政権に表彰され、あらゆるマスコミが彼を称賛した。しかし、彼が飛行機激突以前のツインタワーの地下で爆発の被害を目撃したことをアメリカ議会の独立調査委員会(いわゆる「911委員会」)で証言したとたん、あらゆるマスコミが彼の証言を無視した。911委員会の最終報告書でも彼の証言は1文字たりとも書かれることがなかった。そして彼の貴重な証言は「陰謀論」として言論の「ゴミ箱」へと片づけられてしまった。(「911委員会報告書」に関しては、当サイトの記事『
崩壊する《唯-筋書き主義》:911委員会報告書の虚構』を参照。)

 そのラジオ放送で彼は事件の被害者・生存者として見聞きしたことの証言を繰り返し、この事件の真相が解明されるときへの希望を語っていたのだが、最後にその番組の名前を聞いて私は再びハッとしてしまった。それは和訳すると「ミステリーの夜」、放送局はラジオ・マルカ(全国紙エル・ムンド系列のスポーツ紙が運営するラジオ局)。ウィリアム・ロドリゲスの命がけの体験を通して知らされた貴重な証言が、わずかにスポーツ紙系列のラジオで、それもUFOや幽霊など怪しげな話に混じってしか、語られることが無いのか・・・。

 911事件だけではなく、現代は人類史上どこにも無かった圧倒的な規模で《嘘が真実を駆逐する時代》である。『ねじ曲がった1マイル』の翻訳後記に私は「大嘘様の大名行列」と書いたが、いま、最大級の嘘は、必ずと言ってよいほど「人権」、「自由」、「民主主義」、そして哀れな子供の映像を先頭に押し立てて登場し、人々の頭脳と感性を食い荒らし腐らせていく。我々は、マスコミがその種の映像や論調を盛んに繰り返すときには「ああ、また大名行列が始まったか」と思えばよい。

 ところで、ヨーロッパで(世界中かもしれないが)「左翼」を名乗る人々の頭脳の浸食と腐敗は、もはや押し止め難い段階に達しているのではないかと思う。かつてアメリカの帝国主義侵略に反対し続けた人々の多くが、「人権」、「自由」、「民主主義」に踊らされて、昨今の「マイダン・ネオナチ革命」とか、リビア侵略を含む「アラブの春」とか、シリアでの「アサド打倒の戦い」なんぞに熱烈な賛意を表す(良くて沈黙を決め込む)。その結果として出てくる難民のヨーロッパへの大規模流入を、哀れな子供の映像 に涙しながら大喜びで迎え入れる。ウクライナのネオナチは見ないふりをして難民受け入れに批判的な者をネオナチ扱いして孤立させようとする。「大嘘様の異端審問官」を喜んで務めているのだ。ウィリアム・ロドリゲスを「ゴミ箱」の片隅に追い払っているのは主要にこの類の連中であろう。
(ついでに、だが、同じ911“未解決”事件15周年の日に、リビアを完全に破壊しシリアの破滅をも画策した、あのネオコン戦争ババアに天罰が下ったようだ。)

 中南米の現代史についても同様なことが言える。かつてアメリカが背後につくピノチェットやビデラなどの軍事クーデターを非難した同じ人々が、2002年のベネズエラ・クーデターでアメリカ帝国の策謀を非難した人々すら、その多くが、ひょっとすると、「マドゥーロ排除」にもろ手を挙げて賛同しているのではないかと恐れる。今ではネオコン・ネオリベの忠実な手先でしかないルモンド・ディプロマティークですら、以前なら
2002年の反チャベス・クーデターについてかなり突っ込んだ正確な分析・批判をしていたのだ。

 中南米については当サイトでも『ラテンアメリカに敵対するアメリカ帝国とCIA 「尊厳・主権・反戦平和の法廷」、和訳』や『ベネズエラにおけるブッシュ・ファミリーのいかがわしい商売 エドガー・ゴンサレス・ルイス著、和訳』で取り上げている。また『聖なるマフィア オプス・デイ』の『第4部:中南米政変を操る影』で別の切り口から迫っている。たしかに現在、ベネズエラで起こっている事態は2002年の反チャベス・クーデターの経緯と非常によく似ている。外見面でやや異なっているのは、マスコミに加えてSNSが大嘘垂れ流しに重要な役目を負っている点だろう。当サイト『 ベネズエラ「反政府抵抗者たち」という映像詐欺』を参照されたし。

 いまニコラス・マドゥーロ政権をあらゆる卑劣な手段で突き崩そうとしているのは、意図的に生活物資の流れを止めてインフレを起こし社会的混乱を作り出すネオリベラルの富豪たちとその配下の自由主義者であり、その代表はエンリケ・カプリレス・ラドンスキー(反対派の旗手となっている)である。なおこの
カプリレスの母親Monica Cristina Radonski-Bochenekは東欧系アシュケナージ・ユダヤの血統だが、父方の祖先もまたセファラディ・ユダヤ系である。また反政府派リーダーの一人であるレオポルド・ロペス・メンドサのいとこはオスロ・フリーダム・フォーラムの創始者トール・ハルヴォルセン・メンドサだが、彼らはともにかつてウゴ・チャベスをあらゆる手段を使って取り除こうとしたベネズエラ寡頭支配層のメンバーである。オプス・デイ関係者が富豪たちの代理人を務めた2002年のクーデターとは実行者が異なるのだが、現在の者たちはかつてよりも「人権」と「自由」を隠れ蓑にした暴力と謀略に長けている。

 ペトラスは上の文章の中で、『FTのシナリオは、右翼の暴力的な「行進」を起こし、その結果として今年9月初旬に国内に流血の惨事を誘発させることを狙っている』と書いているが、この記事が8月28日付で、その時には『右翼の暴力的な「行進」』がカラカスで準備されており、一方でマドゥーロ支持派の国民たちは、市内に集合しただけではなく全国からカラカス市内に突入しようとしていた。9月初めのカラカスの様子については、こちらのBBCインディペンデント紙によるプロパガンダ記事に詳しい。


 一方でマドゥーロ政権支持派の方のニュースは、欧米のメディアからはほとんど聞こえない。こちらのTeleSurRTのスペイン語ニュースにはその様子や規模が詳しく描かれている。さすがにマドゥーロ政権は危機を察したのか、スペインのTVニュースを見る限りでは、軍を使って両者の衝突を未然に防いだようだ。こうしてマイダン型のベネズエラ・クーデターは現在のところ不発に終わっている。しかし、「政治腐敗」をネタに暴徒を扇動して「民主的クーデター」を成功させたアルゼンチンやブラジルに続こうとする動きは、今後も長期にわたって続くだろう。いつ何が起きてもおかしくはない。

 最後に、このベネズエラの情勢がスペインの内政に影響を与えている実例を取り上げておく。当サイトの『緊縮財政、難民問題、TTIPが待ち構える:6月26日スペイン「やり直し総選挙」』にある『《ポデモスと統一左翼党の連合》』の中で私は次のように書いた。
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『おそらくこれから選挙までの期間、国民党、シウダダノス、社会労働党によるポデモス潰しのキャンペーンが激化するだろう。その目玉はベネズエラの故チャベス元大統領とポデモスを結び付けて悪魔化する策謀である。すでに4月から、チャベス時代にベネズエラ政府から現在のポデモス関係の人物に多額の資金が渡されたという何の署名も裏書きも無い怪しげな文書が保守系マスコミを中心に飛び交っている。さらに内相のフェルナンデス・ディアスはポデモスとベネズエラを結びつける「証言者」を見つけるために、国家警察の経済犯罪捜査班(UDEF)の捜査員をニューヨークに派遣したようである。よほど怖いのだろう。
 しかしこれで逆に、それぞれの党の正体が浮き彫りになる。シウダダノスのアルベール・リベラはわざわざベネズエラに出かけ、反チャベス=マドゥーロ勢力の中心でネオリベラルの富豪エンリケ・カプリレス・ラドンスキーらと接触して大いに意気投合したのだ。・・・。』
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 こうして選挙直前までチャベス=マドゥーロと連結させたポデモス悪魔化が、全国的なメディアによってほぼ連日のように垂れ流されたのだ。そして、そのネガキャンに加えてイギリスのEU離脱ショックが響いたのか、ポデモスが予想に大きく反して伸び悩むという選挙結果が出たとたん、その悪魔化報道が嘘のように消えてしまった。実は昨年ポデモスが巨大に登場した際にも、「ポデモスがイラン政府から資金をもらっている」という根も葉もない「情報」を多数の大手メディアが垂れ流したのだが、イランとアメリカの国交が正常化されてからはぴたりと止まった。

 もう、笑いたくなるほどに見え見えなのだが、こんな他愛もない嘘にコロリと引っかかってタコ踊りだのヒョットコ踊りだのを始めだすいい年こいた男や女が多すぎるのは、実に滑稽であると同時に、何とも不気味な光景である。

 マスメディアはいつでも嘘をつく。テレビや大手新聞は息を吐くように嘘をつき、だまされやすい人々は息を吸うように嘘を信じ込む。その嘘は、『ねじ曲がった1マイル』でも言及されていたが、イズラエル・シャミールの言うthe Masters of Discourse「言論のご主人様たち」によって多くのメディアの間で共有され調整されている。その嘘は必ず一つの政治目的に沿っている。アメリカ大統領選挙までに、どんな大嘘が付かれ誰がどれほどだまされてどんな踊りを踊らされるのか、Bueno, vamos a ver(まあ、見てみよう)。

【翻訳後記、ここまで】
 

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