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シャミールがトランプ政権1カ月を語る:和訳

あらゆる賭け率に逆らって


 最初に断っておくが、私はドナルド・トランプの支持者ではない。ただ、トランプ登場のおかげで、核戦争を導く可能性が高い米欧vsロシアの戦争と、巨大資本の際限なき貪欲の中に世界を放り込むグローバリゼーション支配が、とりあえず目の前から遠ざかったことにホッとしているというわけだ。左翼の多くが戦争・グローバリゼーション派の推進力の一部に堕している以上、その恐怖が再来しないためにトランプにはもうちょっと頑張ってもらわねば、と思っている。(当サイト、こちらこちらこちらの記事を参照。)

 もちろんそれらの絶望的な事態の可能性は視野から消えておらず、対ロシア戦争願望勢力はトランプ政権の中に入り込んで逆転の機会を窺っている。またTTIP(欧州版TPP)は引っ込められたものの、その隠れ蓑である欧州とカナダとの間で結ばれた「自由貿易協定」CETAが実効力を持ち始めたらもはや取り返しがつかない。それは、EU各国がブリュッセルの押しつけを拒否し、その協定に調印したEUが解体されることによってしか、防ぐことができまい。それらの可能性ある災厄は、すべて、少し前にトランプに敗れ、いまトランプを攻撃し打倒しようと試みている勢力が、計画して推し進めてきたものである。

 スペインのTVやラジオや新聞は、揃いも揃って、毎日毎日、これでもかこれでもかと、トランプに対する攻撃と悪罵に余念がない。西側諸国のどこでも同様だろう。もしアメリカとヨーロッパでトランプ側の勢力が、グローバル主義者、マスメディア、リベラルや大部分の左翼と一部の似非右翼に打ち被られることがあれば、グローバリゼーションと戦争政策はもはや誰にも制御が不可能になる。しかしどうやら、いまそれらの国々の支配層の内部で血みどろの「内戦」が繰り広げられているようである。

 今回の和訳(仮訳)は、ユダヤ系ロシア人のジャーナリスト・作家であるイズラエル・シャミールの以下の論文だ。当サイトにある彼の作品を見て分かる通り、シャミールは世界中の誰よりもグローバリゼーションによる社会と経済の破壊、言論・思想統制を忌み嫌っている。この論文でシャミールが“odds(賭け率)”と言っているのは、トランプ政権がいつまで続くかという「賭け」のオッズのことだ。
http://www.unz.com/ishamir/against-all-odds/
Against All Odds  Israel Shamir  February 20, 2017

 この文章の最初の段落は思わず吹き出すほどの卑猥な表現で満ちているが、まあ、ちょっと我慢して読み進めていただきたい。原文で“pussyface”とある言葉には訳に困った。もちろん“pussy”は子猫の意味と女性性器の意味を持っているのだが、文脈から明らかに「子猫」ではない。しかし他の意味だとすると、そのような顔というのは少々和訳が困難だ。またこちらの説明によると多くの場面でいろんな意味で使われているようで、仕方が無いのでカタカナで「プッシーフェイス」と音訳することにした。いずれにしても、思わず「オエッ!」となるようないやらしい、むかつく顔…、ということだろう。

 この文章では、その「プッシーフェイス」の持ち主として、次の4人が挙げられている。顔写真を見て、何か共通点を発見できるだろうか。
 マイケル・ムーア(顔写真)、 ジョージ・ソロス(顔写真)、マデレーン・オルブライト(顔写真)、フランソワーズ・オランデ(顔写真)。それは、見る人の判断に任せよう。なお、3人目のオルブライトはクリントン政権時の国務長官で、ヒラリー・クリントンや“fuckEU”ビクトリア・ヌーランドなどの戦争ババアどもの大先輩である。フランス大統領オランデは後ろの方の段落に登場する。訳者としてはここに、オルブライトの師匠ブレジンスキーでも加えれば完璧だと思うのだが。またプッシーハット(pussyhat:写真)はすでに日本語の一部になっているようだ。

 後半の段落で「言論のご主人(原文:The Masters of Discourse)」と訳したものについては、当サイトこちらの翻訳記事を参照してもらいたい。また訳文の後ろに訳者からの『翻訳後記』を付けておいたので、ご笑覧いただきたい。


2017年2月27日 バルセロナにて 童子丸開

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【引用翻訳開始】

あらゆる賭け率に逆らって
イズラエル・シャミール  2017年 2月20日

 マイケル・ムーアのだらしなく弛んだツラはいつも、中年女性の外性器のような形で下品にもむき出しにされている。この太っちょののろまは、ピンクのプッシーハットを被らなくても、こいつ自身の容貌だけで十分に鬼ババアどものデモを先導できるだろう。この男は実際のところジョージ・ソロスに、下品極まりないプッシーフェイスの同類に、そっくりである。私に言わせると、彼の外見がその運命を決めているのかもしれない。オスカー・ワイルドのようにだ。醜怪なやつらは同時に非道徳的でもあると私は信じる。証拠というなら、もう一人のプッシーフェイス、マデレーン・オルブライトを見れば十分である。だけどもっと証拠を知りたいなら、ムーアの書いた「愚かな白人(Stupid White Men)」は今世紀のアメリカで作られた最高に忌まわしい本である。その本でこいつは、もし9・11事件の飛行機の乗客が黒人だったとしたらハイジャックは決して成功しなかっただろうと主張した。さていま、このプッシーフェイス男はプーチンの秘密計画を引っ張り出して、トランプがロシアのスパイだからクリントンを王座に着かせるように呼び掛けた。何年も前にこの男はイラク戦争反対を叫んだが、いまや世界最終核戦争を呼び掛けている。このような敵どもがいるからといって、我々はトランプを見捨てるべきではない。

 同種の愛好者やヘイターどもは叫ぶ。トランプは堕ちた、と。トランプは打ち破られ二度と立ち上がれない。もうじき罷免されるレイムダッグだ。奴はホワイトハウスを出て行き自分の黄金の隠れ家に這い戻るだろう。自分の旦那の下へ、もっといえばウラジミール・プーチンの下へ逃げていくだろう。

 いやいや、我が友、我が読者たちよ。トランプは逃げているのではなく戦い続けている。しかし物事には時間が必要だ。パラダイムを変えることは簡単ではなく、第一歩目から賭け率はトランプに厳しい方に大きく傾いていた。それがもっとひどくなっているにせよ、彼は進み続けるだろう。頑強な奴だ。屈服せずにやり続けている。腐り果てた判事どもが彼の手を鎖で縛り、CIAとNSAはNYTとCNNとNBCに彼の動向を垂れ流す。しかし彼は立ち上がり、自分の ― そしてアメリカ国民の ― 敵、3文字でできた多くの頭を持つヒドラに対して戦い続けようとしている。

 すぐさま勝利を見たいと思う短距離ランナーたちがいるが、そんな人は最初の逆境で絶望してしまう。権力に汚染された一人の判事が、極めて控え目で分別ある大統領令を無効にして、進軍するISIS部隊のためにアメリカの門を開き、彼らは揉み手をする。恐ろしいことだが、トランプに何かできるだろうか。命令がひっくり返されたから何もできないのだろうか。彼は試みた。そして人々は判事たちを見て判断するだろう。明け方に判事たちを(メキシコ国境の)壁と向かい合わせに並ばせるだろうか。それが筋の通ることなのだが、彼にはまだそうできない。

 フリンは去らねばならなかった。そして人々は叫ぶ。全ては失われた、と。もしトランプがそのように決定したのであれば、それは確かにまずいことだったろう。しかし彼はそうしなかった。ネタニヤフ首相と並んで行われた、非常によく知られ十分に報道された記者会見で、トランプは言った。「マイケル・フリンは、フリン将軍は、素晴らしい人物だ。彼はメディア ― 私は嘘つきメディアと呼んでいるが ― によって、とてもとても不公正に扱われてきたと思う。フリン将軍の身に起こったことは、彼が取り扱われたやり方は、そして不法に ― 強調するが ― 不法にリークされた文書や書類は、とてもとても不公正なものだ。とてもとても不公正だ。」これは戦闘あるいは小競り合いに敗れた男の闘争的な発言だが、彼はまだこの戦いを続けている。

 たぶんフリンを留めた方が良かったのかもしれない。しかし政治に「たら、れば」はない。辞任した将軍を支持するトランプの言葉は、すでに筋道の外れたものだったのである。

 トランプはネタニヤフに会った。心臓の弱い人たちはアメリカの大統領が極悪非道なロビーに降参したと嘆き悲しんだ。全く逆だ。ADLはユダヤの攻撃部隊だが、彼らの大好きな「反ユダヤ主義」という言葉を口にすることを拒否したことで彼を攻撃した。ハアレツは「そう。トランプは反ユダヤ主義者だ。」と宣告し、NYタイムズは彼がどうして「反ユダヤ主義」の言葉を求められるとおりに非難しなかったのかについての社説を書いた。ラビたちはトランプの見解を「恐るべきもの」「反シオニスト」と呼んだ。彼が「(イスラエル‐パレスチナの)2国家共存解決」と呼ばれるもう十分に踏みにじられた袋小路を踏み潰そうとしなかったためである。ところで、パレスチナ人たちは実際にトランプが述べた1国家解決を支持しており、神話的な2国家並立解決を信じていないのである。それは中東の言葉では丸を四角にするのと同義なのだ。トランプはビビ・ネタニヤフの支持という武器の選択を巧みに使った。この武器を火消しに用いたのである。トランプは反ユダヤ主義ハンターの攻撃を、彼らの思い通りにさせずに、撃退することができたのだ。

 ユダヤ人についてのことはまとめて忘れた方が良いのかもしれないのだが、しかしユダヤ人たちがあらゆる嘘ニュース‐メディアと普通のアメリカ人の心を所有している限り、忘れられてはならないのだ。アメリカの政治家である以上は、反ユダヤ主義への非難を拒否したことが全て、大地の上から消え去ることなしに付いて回るだろう。

 と、ここまで説明した後で、トランプ政権の最初の1カ月が困難な上り坂だったことを認めよう。我々は、敗北した勢力が分別を持ち新しい大統領にそのアジェンダの遂行を許すことを期待した。しかしそれらは背後からの戦いを実行した。トランプの任務は膨大である。彼は、グローバル化する資本主義がヨーロッパとアメリカの労働者たちを埋葬する前に、それを埋葬するために力を尽くしている。トランプがいなければ、アメリカとヨーロッパは「保護する責任」の戦争のためにホームレスにされた何百万人によって侵入されるかもしれない。トランプがいなければ、アメリカとヨーロッパの労働者たちはハンバーガー・チェーンで働き、その間に投資家たちが労働者たちの血と汗をあふれ出させ尽くすだろう。そういった(トランプの)U‐ターンが反対を受けずに通過できることはあるまい。

 これほど大規模な根本的変化を成し遂げた人々を思い起こしてみよ。私はその名前を出さないから心配することはない。その中の誰ひとりとして特別に素晴らしい人格を持ってはいなかったが、その人らにはカリスマ性があり、鉄の意志を持ち、良い記憶力と見通しと忍耐力を持っていた。すぐれたテクニシャン、つまり、正しい引き時と進み時を感じ取る者たちだった。おそらくトランプはそういった特質を持っているだろう。しかし一方でその人々は、忠誠心を持って支持を与える集団を、あるいは少なくとも自由に動かすことのできる軍隊か隠密機関を持っていた。トランプにはそれが無い。

 そのような追加の道具が、政府の非民主的で選挙されない要素に打ち勝つためには必要である。合衆国の中では、4つの中の2つの「権力」である司法とメディアが、非‐あるいはむしろ反‐民主的なのだ。メディアはメディア支配者 ― 通常はユダヤ人富豪だが ― に所有されており、彼らのアジェンダを推進している。判事たちは本能的に反‐民主的である。この者たちは民主主主義と民意を軽蔑する。

 司法権もまた同様にひどくユダヤ化している。9人中3人(あるいは4人)の最高裁判事がユダヤ系だ。オバマ大統領は更なるユダヤ人の判事を据えようとしていた。そして親ユダヤ的な人々は非ユダヤ人の席を「盗み取って」妨害するために闘うだろう。あまりに多くのユダヤ系法律家やユダヤ系の法律の教官がいるため、このことがその免許をあらゆる職業の上に置いているのだ。そういった権力が制限されない限り、根本的な変化が図られ実施されることはあり得ない。

 トランプには忠誠心ある党が無いし、信頼できる忠誠心に満ちた隠密機関が無い。合衆国の諜報機関は彼に逆らい、彼をスパイし、敵の可能性がある者たちに都合よい情報を提供する。共和党はトランプを疑っている。老いた裏切り者のジョン・マッケイン始め、彼の背後でナイフを研ぐ共和党員が多すぎる。共和党の上院議員たちや下院議員たちは、(広範囲のユダヤ人)出資者に巨額の借金を背負っている。彼らが再選されるためにはメディアの支持が必要なのだ。

 トランプは、共和党の機関と上院と下院で、忠誠心を持つ者たちを地位に据え反対派を取り除くことで、自分の党へのコントロールを確立すべきである。たとえ上院議員の席を民主党に奪われようとも、敵対する共和党上院議員の実力者を破滅させ貶め左遷せよと、私は彼に忠告したい。不可能な作業ではない。それが意気地なしどもの心に何らかの恐怖を植えつけるだろう。

 隠密機関を統制することは比較的簡単である。機密の電話通信の内容をメディアにリークする裏切り者たちへの魔女狩りを開始することだ。それは甚だしい反逆罪である。忠誠心の疑わしい大勢の者たちを疑惑のある場合にすぐに放逐することができる。グアンタナモへの片道切符が裏切る可能性のある者たちの心を縛り付ける役に立つだろう。その者たちは哀れなブラッドリー・マニングと同様に厳しく取り扱われるべきだ。そしていずれにせよ隠密機関は吹き散らされる。合衆国が百万人のスパイどもを雇うことはできない。その80%が去るべきである。その者たちは労働市場の中に入り他人様の役に立つべきだ。残った者たちが忠誠心を持っているだろう。

 メディアは様々な方法で服従させることができる。通常、メディアの持ち株は大きな利益を上げるものではなく、敵対的買収の影響を受けやすい。一部の株式所有は反トラスト立法で打ち破ることが可能である。敵対的なメディア支配者たちは、所得申告のチェックで服従させることができる。ニューヨークタイムズ紙の場合、その多段階の株式所有は明らかに不正なものであり、株主たちによる攻撃が可能である。最良のそして最も根本的な方策は、私があらゆるところで主張したように、宣伝掲載刊行物から政治的内容を追放することで宣伝と内容を切り離すことだが、これは議会の承認を必要とする。

 裁判所判事たちは人間である。自分たちを大統領や議会より上だと考える敵対的な判事は、ある種の不利益を伴う徹底的な監察に従わせることが可能だ。終身在職権は裁判所と大学で廃止されるべきである。

 さてさて、トランプ大統領の仕事は恐ろしく大変なものだ。しかし不可能ではない。隠密機関をイギリスやフランスの機関並みに(それもまた大きすぎるのだが)サイズを切り落とせ。第一次世界大戦後に合衆国は隠密機関を全く持っていなかったのだ。メディア支配者と共和党上院議員を恐怖させよ。地方判事の腐敗を見つけ出せ。クリントン財団にいる虫どもの缶の蓋を開けよ。ネオコンの一部を議会に対する嘘で裁け。バーニー・サンダースとの関係を修復せよ。支持者たちに対して共和党への入党を呼び掛け、最大勢力としての支配を成し遂げよ。そして、そう。それには時間がかかる。

 いまやあなた方は、ポール・クレイグ・ロバーツ(Paul Craig Roberts)やザ・セイカー(The Saker)といった同志たちの悲観的な判断が少なくとも早計であることの理由が理解できるだろう。古びた体制の敵対に直面する中で、トランプは、ホワイトハウスに適切に腰を据えるためだけでも、少なくとも6カ月を必要とするだろう。ちょっと比較してみよう。プーチンは自分の権力を固めるのに5年を費やし、それをゆるぎないものにするためにもうあと5年が必要だった。ロシアの隠密機関の全面的な支持と、アメリカ人たちが傀儡であるエリツィン氏のために作った極めて独裁主義的な憲法があってさえそうなのである。

 プーチン大統領はそれに時間がかかることを知っている。だからこそ彼は、トランプ大統領による米露関係の正常化の遅れに慌てふためくことがないのだ。ロシアのトランプに対する幻滅という嘘ニュースは、まさに嘘ニュースそのものである。ロシア人たちは米露関係の肯定的な進展を確信しており、息をつまらせることはない。

 それにしても私はなぜ最終的にはトランプが勝つと本気で信じているのだろうか? 合衆国は島ではなく、西側世界の一部であり、その西側世界がパラダイム・チェンジを行いつつあるからである。むかつく顔の者たちは敗れ、嘆かわしい者たちが勝った。覚えておくことだ。トランプが最初の勝利者ではない。ブレキシット(Brexit)が彼に先行した。ブレキシットの投票とトランプの選挙の間に、イギリス政府はためらって行動を先延ばしにした。イギリス人たちは、その投票が変化のしるしなのかひっかけ針なのか確信が持てなかったのだ。トランプ勝利の後にイギリス人たちは前進した。

 イギリスの判事たちは、アメリカのそれと同じくらいに邪悪な奴らばかりだが、この件を議会送りにするように主張することでブレキシットを食い止めようと試みた。この者たちは、メディアが要求するように議会がそれを破棄して、イングランドをEU内に留めるだろうと信じていたのである。しかし判事たちは誤った。ブレキシットに対するイギリス国民の投票が52対48だったにもかかわらず、イギリス議会はそれを83対17で承認した。嘆かわしい者たちの楽勝だったのである。

 ではイギリス海峡を渡ってみよう。フランスのエスタブリッシュ達は、プッシーフェイスの大統領オランデの地位を継ぐものとしてフランソワ・フィヨン(中道右派、アメリカ人の言葉では穏健共和派)を好んだ。彼の勝利は確実に見えた。しかし彼がエリゼー宮殿に向かって移動しようとしたときに、嬉しくない事実が暴露された。この議会の穏健なメンバーが、フランス納税者の財産の何百万ドルも、彼の妻が議員としての仕事を補佐した報酬として着服した(平易な英語でいえば盗んだ)のである。

 いまや誰ひとりとして彼を後押ししたいとは望まない。そして、嘆かわしい者たちの女王であるマリーヌ・ル・ペンが5月に行われる第1回投票で勝利するチャンスが非常にもっともらしくなったのである。彼女は軟弱な社会主義者エマニュエル・マクロンに敵対されるだろう。だが彼はもうひとつパッとしない。アラブ移民を好まないために彼女を「冷酷」そして「自由・平等・博愛の敵」と呼ぶ彼のレトリックは、おそらく誰にも耳を傾けられることがないだろう。人々は辛辣でありアラブ人たちが増えるほど平等になるとは信じないのだ。だからマリーヌは勝つかもしれないし、そうなればフランスはトランプのアメリカの同盟者になるだろう。

 フィヨンは「陰の」勢力が彼を打ち破ろうとしていると非難したが、おそらく彼は正しい。この暴露は彼の売り込みから空気を奪ったのだが、それはドンピシャリのタイミングで、ちょうどDNC(米国民主党全国委員会)のe‐メールの件と全く同じように、やってきた。そのどちらにおいても、犯罪、あるいは少なくとも犯罪者の不誠実な取引が事実であった。そして彼(あるいは彼女)が敗北に値した。どちらのケースも、真に強力な「陰の」勢力が成し遂げることのできるものだ。それはロシアではない。ロシアはまだこの同盟の中にはいない。それは、グローバル主義者のリベラルな「侵略・誘惑」の勢力に対抗する、資本主義ナショナリストの側に立つ西側の「陰の」勢力なのだ。その勢力はトランプのホワイトハウスへの到達を助け、ブレキシットを引き起こし、ル・ペンの前からフィヨンという障害物を取り払った。メルケル夫人が来る選挙で敗北し、グローバル化されたリベラルな世界の礎石としてドイツに埋め込まれたオバマのとんでもない計画を破壊する可能性は十分にある。

 西側世界のあらゆるところで言論のご主人たちは打ち破られつつある。ドナルド・トランプの一時的な後退がこの傾向を変えることはできない。ナショナリストの生産的な資本主義が、投資家たち、メディア支配者たち、軍事推進者たち、性転換者用トイレットと女性研究から(世界を)受け継ぐべくセットされている。戦いはまだ終わっていないが、その間に嘆かわしい者たちが勝ちつつありプッシーフェイスたちは負けつつあるように見える。

 誰がそれらの嘆かわしい者たちに味方しているのか、我々は知らない。ブレキシットが勝ったとき、言論のご主人たちはそれを年金受給者たちと卑しい階級の者たちと不良の若者たちのせいだと言った。ところが続いて議会がそれを承認した。クリントンの奥様は嘆かわしい者たちを馬鹿にしたが、いまやトランプがホワイトハウスの椅子に座っている。フランスとドイツが後に続き、新しい勢力が台頭しつつある。それはネイティブの多数派に支持されている。だれがそれを陰から導くのだろう? 大実業家たちなのか、神霊世界の人々なのか、あるいは要するに時代精神というものなのか? それが何であれ、この力はトランプを、彼が頑張り続けるなら、助けていくだろう。

【引用翻訳ここまで】
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【翻訳後記】

 夜中にラジオをかけてみた。国営放送からカタルーニャ公営放送、主要な民間ラジオ放送にいたるまで、ことごとくオスカー授賞式
(*)の中継だった。頭にきて、ここならやっていないだろうと国営ラジオ放送のクラッシック音楽専門局にチューニングを合わせると、アメリカ映画のサウンドトラック特集…。いつからスペインはアメリカの植民地になったのだろうか?
(*)うっかり「グラミー賞」と書いていました。お詫びして訂正します。 

 私がこの国にやってきた90年代半ばには、ハローウィンなどという馬鹿げた祭りはほとんど誰も知らなかった。せいぜいアメリカ系の学校の生徒たちが近所にキャンディーを配る程度のささやかで平和なものだった。今や、11月1日が近付くと、スペイン中の街はゾンビの面を被った愚か者たちであふれ、ディスコは腐乱状態の顔を作った阿呆どもでいっぱいになる。クリスマスも伝統的には12月25日から翌年の1月6日まで続き、最終日の1月6日レイエスの祭りで子供たちにプレゼントを送っていた。12月25日には親族が集まって食事をするのが習慣で、サンタクロースなど多くの人が知らなかったのだ。いまや、親たちは12月24日と1月6日の2回連続のプレゼントに悲鳴を上げている。しかもサンタクロースのプレゼントは大概がビデオゲーム(&ソフト)か新しい携帯…。

 スペインが愚かで下品なアメリカ文化の侵略の波をかぶったのは、グローバリゼーションが本格化した90年代の末期ごろからだったろうか。ホセ・マリア・アスナール政権の2期目が始まったばかりの2001年、新たにアメリカ大統領に就任したG.W.ブッシュが(南北アメリカ以外で)最初に訪れた外国がスペインだった。そのとき以来、対テロ戦争の開始とユーロの導入、忌まわしいバブル経済の本格化、そしてその間に伝統的なスペイン文化は下劣なハリウッド文化に置きかえられていった。

 アメリカにはもう、経済も軍事も文化も、一国内に引っ込み閉じこもって、二度と出てこないでもらいたいと思う。その意味で、トランプの一国主義には大いに期待を寄せている。本当に実現する気があれば、だが…。

 ところで、前回の訳文『トランプ:中東に“安全地帯”を作って湾岸諸国に支払わせろ!』の前置きで、私は、難民問題を引き合いに出してトランプ攻撃に励む者たちの偽善と犯罪性を指摘した。その勢力の中で最も醜く惨めな状態になっているのが『左翼のリベラル化と極右の台頭』にあるとおり、左翼を称する人々とその集団だろう。そしてそれらに資金を提供して政治的に利用しているのが『ジョージ・ソロス、米国で次期政権転覆工作を画策中?』や『“反対派でっち上げ”と誤誘導される大衆運動』にあるように、アメリカのエスタブリッシュのある部分を構成するグローバル主義者たちである。

 ヨーロッパに住んでいると、イギリスやフランスやドイツなどEU諸国で、もちろんスペインででも、起こっている様々な出来事に、またマスメディアが積極的に話題にする事柄に、奇妙な不自然さと人為性を感じることが多い。多くの“テロ事件”や“イスラム教徒による襲撃”、各国の政治的重要人物の政治生命を断つ“スキャンダル”など、「???」となってしまうことがよくある。それらの一部はひょっとすると、この訳文の中でイズラエル・シャミールが書いているように「嘆かわしい者たち」に味方する勢力が関与しているかもしれないし、また一部は「プッシーフェイス(むかつく者)たち」を後押しする者たちのものかもしれない。

 出来事の詳細やエビデンス(証拠となる事実や現象)は警察と諜報機関が握っている。ニースで起きたトラック・テロでは警察自身が証拠の監視カメラビデオをすべて破壊したが、スペインでもマドリッド列車爆破テロの物証が裁判所命令でほとんど破壊された。それらのいかがわしい機関の手を通して発表される情報を、マスメディアが様々に解説してくれるのだが、それは「信じるか信じないか」、へたくそな脚色や演出に「乗るか乗らないか」のレベルに過ぎない。我々のような下々の者たちは、結局は殺されたり殴られたりカネを奪われたりするのみである。誰にも本当のことは分からないが、いずれにしても、自分の身に降りかかる(可能性のある)災厄からなんとかして身を守る以外にはない。

 シャミールは「人々は辛辣でありアラブ人たちが増えるほど平等になるとは信じない」と書いているが、ヨーロッパに押し寄せる難民を気前よく受け入れていくと、ぎりぎりの生活を送る自分たちに危機が迫ることを肌身に感じるからこそ「辛辣」になるのだ。下々の者たちは、難民を受け入れて世話をする費用が、結局は自分たちの乏しい懐からむしり取られるものであることを知っている。EUからの「援助」にしたところで、結局は貧乏人からふんだくったカネなのだ。「人道」を唱える食うに困らぬ階層の者たちの言うことなど聞いてられない。

 スペインではいま、不動産を中心にミニ・バブルが膨らみつつあり失業率はようやく20%を割ったとはいえ、多少とも増えた雇用の90%以上が観光客目当ての飲食業などでの短期雇用に過ぎない。こんな「水の泡」の経済などいつはじけるか分かったものではない。遠くないうちにEUとユーロ圏が崩壊する悪夢すら見え隠れしているのだ。そしてそうなったときに、食っていけないスペイン人と食っていけない難民たちとの関係がどうなるのか、食うに困らぬ階層の左翼やリベラルどもは分かっているのだろうか?

 一方で、カネの有り余る者たちが有り余ったカネを外国の銀行に送って貯め込み、難民のためなどにビタ一文出さないことを、下々の者たちは十分すぎるほど知っている。だから「アラブ人が増えるほど」不平等が激しくなるのだ。そんなことなど我々貧乏人は肌身で、骨身にしみて知っている。そんな自明のことを分かろうとしないのはきっと「プッシーフェイス(むかつく者)たち」とその仲間たちだからなのだろう。私が、トランプやルペンを積極的に応援することは無いにせよ、貧困に直面する階層を見捨ててトランプ非難やルペン非難にまい進する者たちの側に立つことなど、100%、決してあり得ない。

 「プッシーフェイス」から離れている真面目な人たちの中には、近未来のファシズムを懸念する人たちも多いかもしれない。しかし、『アレッポの解放:一つのターニングポイント』の「翻訳後記」にも書いたことだが、ナチス・ドイツの何倍も強大なファシズムが、いますでに我々の目の前に現れているはずだ。決して近未来の話ではない。もうひとつ、『トランプは「影の政府」に抵抗できるか?』の前文でも次のように書いた。『イグレシアスだけではないのだが、左翼知識人はトランプの勝利をワイマール体制の中からナチスが台頭しワイマール憲法を否定したことに例えたがる。しかし、リベラルなアメリカにG.W.ブッシュが登場し、911事件とイラク侵略を経て、アメリカ合衆国憲法を「忌々しい紙屑に過ぎない」と叫んだあたりで、すでにアメリカは「新ナチス体制」に入っていたはずだ。』と。西側世界の知識階層から「疑う精神」が失われていることが、現代という時代の最も大きな危機ではないかと感じることがある。

 「嘘も百回言えば本当になる」というゲッベルスの教えを忠実に実行しているのは、紛れもなく、米欧にまたがる戦争・グローバリゼーション派の勢力である。何回ばれても徹底的に嘘をつきまくる西側メディアとハリウッド、その嘘の素を与える西側諜報機関、嘘に基づいて愚かな群衆を組織化して動かす扇動家と政治家、世界支配のためにそれらの機関を支え動かす西側巨大資本。もう立派なファシズムだと思うが…。もっとも日本でそんな研究を大学かどこかでやったら、即刻、職を失うことになるだろう。これもまたファシズム社会の特徴である。私のような貧乏人がボランティアでやるのが最も賢いのかもしれない。いつ私のPCやインターネット回線に妨害が来るか分からないにしても。

 最後に、シャミールがこの訳文の中で触れている「反ユダヤ主義」について一言。日本の一部報道を見るとトランプはアフロアメリカンの歴史文化博物館を訪れた際に、反ユダヤ主義を「恐ろしく、耐えられない」と「非難」したそうだ。ところが彼にとって最も重要なツイッターでの発言ではアフロアメリカンの文化を「素晴らしい人々による偉大な作業」と褒め称えたのみで、「反ユダヤ主義」には一言も触れられていない。いかにもトランプが批判に屈服したかのような印象を作ろうとする日本のマスコミの姑息な意図が見え透く。

【翻訳後記、ここまで】

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