メニューにもどる  「現代世界:虚実の皮膜」目次に戻る
画面中央のタグの
「閉じる」をクリックしてください。

《お願い》 このページにあるリンク先をそのまま左クリックすると、いまの画面と同じ場所にリンク先のページが現れてくるため、両方を効率よく見比べることができなくなると思います。リンクの部分にカーソルを当て、手のマークが出たら右クリックから「リンクを新しいタブで開く」または「リンクを新しいウインドウで開く」を選択していただいたほうが便利でしょう。ご面倒ですがよろしくお願いします。


シリア・中東情勢の新展開

世界を大動乱に導こうとする悪魔ども


 今年(2013年)7月初旬に起こったエジプトの政変に引き続く騒乱と民衆への大虐殺は世界中で大きく報道されている。そして欧米諸国とマスコミはそれを「宗教対立」であるかのように描こうと必死になっており、おそらく多くの人々がそのように信じていることだろう。そして、西側勢力はこの騒乱がエジプト内戦そして国際的な紛争につながっていく懸念を示している。もちろんその危険性についてはその通りなのだが、それが単純に中東・北アフリカ地域内で起こっている不寛容な宗教がらみの争いであり、西側「民主」諸国がその「調停」に乗り出さなければならないかのような論調があるなら、それはとんでもない誤魔化しだろう。西側、つまり米欧=NATO=イスラエルの勢力こそ、現在の中東・北アフリカ地域の悲劇的なすべての状況の元凶なのである。

 このエジプト軍によるクーデターとモハメド・モルシ政権の崩壊をもろ手を挙げて喜んだのがシリア政府だったことは案外知られていない。次の7月4日付のイラン国営PressTVの報道をご覧いただきたい。
Syria says ouster of Mohamed Morsi a 'great achievement'
シリアはモハメド・モルシの追放を「偉大な成果」と語る
http://www.presstv.ir/detail/2013/07/04/312233/syria-says-morsi-ouster-an-achievement/
 さわりの部分だけでも訳してみよう。

シリア政府:国軍によるエジプト大統領モハメド・モルシの追放はエジプト国民にとって「偉大な成果」となった
 シリア政府は木曜日の国営テレビを通して、「シリア国民と指導部と軍は、偉大な成果を遂げたエジプトでの国民大衆の運動に対して深い感謝を表す」という声明を述べた。
 この声明は同時に、モルシ政権の追放は「民主主義を維持するかたい意思を持つ根本的な逆転」であると語った。
 (中略)
 シリア情報相オムラン・アル‐ゾウビは水曜日に、もしモルシが倒されればエジプトは危機を乗り切るだろうと語った。
 「もしモルシが、エジプト国民の大多数が彼のそこにいることを拒否して退陣を求めていると知るなら、エジプトは危機を乗り越えることができるだろう」と言った。
【翻訳、以上】
 「エジプト国民の大多数」かどうかには疑問があるが、それにしても奇妙に思ったことは、普段ならシリアのアサド政権の悪口に余念の無い西側メディアがこのシリア政府の態度にほとんど反応しなかったことだ。確かにモルシ政権は一貫してアサド政権のシリアを潰す側に立っていた。今年の6月16日にはシリアとの国交を断絶した。同日付のAFPのニュースを一部引用してみよう。このAFP記事は西側マスメディアの例に漏れずシリア内戦を単なる「宗派間の争い」に見立てている。
 モルシ大統領はシリア上空に「飛行禁止区域」に設定するよう国際社会に呼びかけるとともに、シリア国民支援のための緊急支援集会の開催に向けて他のアラブ諸国やイスラム諸国の政府と接触を図ったと明らかにした。
 シリアの内戦は宗派間対立の様相を強めており、13日にはエジプトを含む数か国のイスラム教スンニ派(Sunni)の聖職者らが、シリアの現政権に対するジハード(聖戦)を呼びかけた。
 モルシは反アサドの急先鋒だったのである。しかもリビアのカダフィ政権が血祭りに挙げられたときと同様に西側勢力による「飛行禁止区域」を作ることすら強く提案していた。シリアがモルシ政権崩壊を喜ぶのは無理もない。しかし問題はさほど単純ではない。同じ7月4日付のPressTVのインターネット・サイトには次の記事も載せられた。
Egypt must now throw off Zionist yoke: Analyst
エジプトはいまシオニストのくびきを投げ捨てなければならない:アナリストは語る
http://www.presstv.ir/detail/2013/07/04/312233/syria-says-morsi-ouster-an-achievement/
 冒頭の部分だけを訳してみたい。
 政治アナリストは、エジプトはイスラエルのシオニスト政権によるコントロールから逃れなければならない。それは中東地域に大災厄をもたらしているのだ。さもないと、エジプトは分離に直面し失われることだろう。Press TVが伝える。
 木曜日のPress TVウエッブサイトで報道された記事の中で、グローバル・ジャスティス・ムーヴメントの共同創始者であるロドニィ・シェイクスピアは次のように語った。エジプト人たちは、西側に支援されたホスニ・ムバラクの追放が真の革命をもたらさなかったことに十分に気付いている。それが西側とシオニストのコントロールを終わらせることに失敗したからだ。そのコントロールはモハメド・モルシのもとで異なった形態で引き続いたのである。
【後略】
 ここではシリアはエジプト新政権に対して、英語訳では「must」を使うほどの非常に厳しい調子で、シオニストから離れることを求めている。しかも牛などの家畜の首に結び付けてコントロールする「くびき(yoke)」という言葉まで使って。つまりシリアはこの新政権もまたシオニストに思うがままに操られる危険性を強く感じているのである。アサド政権(およびそれを支援するイラン)がどうしてエジプトに対する「西側とシオニストのコントロール」を強調するのか。それがシリア内戦ととんなかかわりがあるのか。そもそも、モルシに代表されるイスラム同胞団とシオニスト(イスラエル)、シリアの「内戦」と米欧・イスラエルがどんな関係にあるのか。また今回のモルシ政権が倒されたクーデターと米欧・イスラエルにどんな関係があるのか。

 平凡に考えてみると、世俗政権だったムバラクのエジプトはともかく、イスラム教徒、それもスンニ派の原理主義グループとつながりの深いムスリム(イスラム)同胞団が政権を執った以上は、イスラエルから離れるのが当たり前、ということになるだろう。しかし先ほどのロドニィ・シェイクスピアの話では、西側とシオニストのコントロールがモルシ政権のもとで「異なる形態で引き続いた」ということになっている。「アラブの春」以来の北アフリカ・中東情勢の怪奇さに首をかしげる向きも多いかもしれないが、何よりも日本を含めた西側諸国でマスコミが伝えることのない多くの事実について認識を持っていただきたい。事実を知るためにはそれ相応の時間とエネルギーが必要だろうが。

 次の4つの記事をご紹介しよう。2つはパレスチナ連帯・札幌の松元保昭氏による和訳、一つは松元氏と私の共訳、一つは私自身の翻訳(仮訳)である。まずは、時間をかけてでも、シリアと中東で起こっていることの真実を知ってもらいたい。
ねつ造されたシリアの宗派間戦争
  (Intifada Palestine : June 08 2013、シェーマス・クック著、松元保昭訳)
 ここでは、シリアの紛争がスンニ派とシーア派の宗派対立ではなく、西側‐イスラエルにコントロールされ外国から送り込まれたテロリストを中心とする勢力によってひき起こされていることを明らかにする。またそのテロリストの発進基地の一つであるトルコは、エジプトのムスリム同胞団と同様の「穏健(?)派」イスラム教徒が支配勢力である。

シリアの化学兵器物語り:人道的大惨事を後押しした米=NATOの計画とは?
  (Global Research : June 14  2013、ミシェル・チョスドフスキィ著、松元保昭・童子丸開共訳)
 西側勢力は、あたかもシリア政府がシリア国民に対して化学兵器を使用したかのようなデマを流し続けるが、それは、米国に手引きされたアルカイダに属するアル・ヌスラによって使用されたものである。米=NATO=イスラエルは自らの手を汚さずにシリアの外からやってくるこれらのテロリスト集団を使い訓練して大量虐殺を演出し、人道的災厄を拡大させようとしている。その作戦は、イラクやリビアでの大量虐殺とは異なり、イランそしてロシアを食い荒らして政権転覆まで目指して進められるものなのかもしれない。

イスラエルのシリア攻撃
  米国NATO の失敗した隠密戦争を救うため自暴自棄の企て
  ― シオニストと「ジハード主義者」が手を組む一方で
  (Global Research : June 31 2013、トニー・カルタルッチ著、松元保昭訳)
 イスラエルは国際法を平然と踏みにじってシリアを爆撃した。そしてイスラエルの働きは米国=NATOの中東戦略の一部を為している。シオニスト・イスラエルは西側の巨大資本と覇権主義者の尖兵となって、ほとんど自暴自棄な作戦に精を出しているのだ。また以前にカダフィを血祭りに挙げたリビアのイスラム勢力は、エジプトのムスリム同胞団とともに、西側らがシリアに送り込むテロリストの供給基地のひとつである。サウジアラビアとカタールがテロリストの活動のために資金を供給し、イスラエルと手を組むエルドアン政権のトルコが最大の軍事発進基地となっている。

●バシャール・アル・アサド大統領へのインタビュー:
 私はあきらめない。誰が残り誰が出て行くのかを決めるのは国民であり、米国ではないのだ。
  (Intifada : May 18 2013、アルゼンチン・クラリン紙によるアサド大統領へのインタビュー、童子丸開訳)
 西側メディアが「(外国発の)反政府勢力の声」を使って悪魔的に描き、そのように世界に印象付けられるアサドだが、その直接の声を世界に広めたのがアルゼンチンを代表する日刊紙クラリンである。偏りのない認識を持ち現代の世界を正確に理解するためには、マスコミのこのような仕事こそが重要なのだ。

 西側諸国の一般の人にほとんど伝えられることのないこのような事実は、今回のエジプトの政変と騒乱に対しても、新たな見方を提供してくれるだろう。かつてのムバラク独裁政権は米=NATO=イスラエルがあからさまにその背後で支えていた。しかしそのムバラク政権を倒した「アラブの春」の最中には、《反‐米=NATO=イスラエル》のスローガンを見ることが極めて少なかった。それは実に奇妙な光景だった。そして確かに「民主的に」作られたムスリム同胞団のモルシ政権は、以前よりもずっとおおっぴらに、米=NATO=イスラエルのシリアに対する干渉と戦争策謀に加担し始めた。そして今回の軍事クーデターで生まれた「暫定政権」は、ムスリム同胞団を警察力で強引に押さえつけ、意図的にイスラム過激派と西側諸国の「国際世論」の反発をかき立てるかのような弾圧政策をとり始めている。しかしクーデターの危険があったときに西側諸国からそれを阻止するための動きはもとより、クーデターに対する反発の声すらあがらなかった。

 おそらく今後、エジプト自体が分裂と内乱の状態にされ、そうなればその中からより過激化した無数のテロリスト集団が誕生してくることは間違いあるまい。彼らは資金と(化学兵器を含む)武器さえあれば、核兵器を使うよりもずっと効率よくイスラム圏の一つの国家と社会を混乱させ潰すことができるだろう。資金や武器を与える側は自らの手を汚さず自らの国民の反発を招くことなく、堂々と世界を動乱の巷に導くことが可能なのである。マスコミが資金と武器の流れを報道せず「宗教対立である」と宣伝しておけば、西側の国内世論はもちろん、国連と人権団体を含む「国際世論」は、勝手に西側によるありがたい「調停」や「干渉」を支持してくれるはずだ。エジプトはそういった「便利な」テロリストという凶器の、世界最大の供給基地になっていくのかもしれない。たぶん今回のエジプト政変の裏側にもやはり米=NATO=イスラエルがいるのだろう。当面の情勢で最も影響を被るシリアの、歓迎と同時に示された強い懸念の理由はそのへんにありそうだ。

 もともと、北アフリカや中東地域はほとんど国境線など意味の無い場所であり、千年間以上も、イスラム教徒、キリスト教徒、ユダヤ教徒、アラブ人とユダヤ人とクルド人などがそれなりに共存してきたのである。そこがオスマン・トルコ領になっても基本的には状況は変わらなかった。近代になってそこに入ってきた西側帝国主義、特に英国とフランスが、後に米国が加わって勝手に国境線を引き、「支配するためには分割せよ」とばかりに対立を煽ってきたのである。特にアラブ人とユダヤ人、クルド人、さらにシーア派とスンニ原理主義である。そして21世紀になって「国境線の引き直し」と対立構造の組み直しでも画策しているのだろうか。またこの悪魔どもは、さらに進んでイスラム圏を抱える世界中の国々で動乱を起こし政権の転覆にまでつながる大作戦を手がけているのだろうか。帝国の本性が変わることなどありえないのだ。帝国内部からその本性を崩さない限り。

(20013年8月15日 バルセロナにて 童子丸開)

inserted by FC2 system