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復刻版 戦争は嘘をつく

 この拙訳は2005年9月に私(童子丸開)がスペイン語から和訳して阿修羅サイトに投稿し、その後、私の旧HPに掲載していたものである。気付いた限りの誤訳、誤字や脱字などは修正を施し、また必要に応じて注釈等を加えている場合がある。(外部リンク先にはすでに通じなくなったものが含まれているかもしれない。その点はご容赦願いたい。)
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(訳者より)
 これは2005年9月15日にスペイン語版ボルテール・ネットに掲載されたウルグアイのジャーナリスト、エドゥアルド・ガレアノの記事である。ここでいう「戦争」とは必ずしも武器を取っての戦争ばかりではない。欧米の支配者がアフリカと中南米の民に対して行使する経済支配、資源収奪、および彼らがその目的のために画策する内紛工作のすべてを含んでいる。そこでは必ずその口実、つまり大嘘が垂れ流され、そしてその嘘を覆い隠し擁護する機関や人間達が活発に活動する。著者も触れている「ダルフールの悲劇」というペテンがその典型だろう【2013〜14年現在、この南スーダンの地で新たなペテン戦争が再演されている。また著者は戦争の場となった国の悲劇を述べているが、戦争を起こす国の民の悲劇も同時に起こる。拙訳『貧困の拡大と戦争』、『姿を変えるアメリカの帝国主義戦争 』をご覧いただきたい。】

 とりわけこのガレアノの記事では水の支配が強調されている。水は食料と共に生物が生きるために不可欠なものであるだけに、その支配はまさに絶対的なものとなるだろう。それはネオ・リベラル経済とグローバリゼーションの中で繰り広げられる、貧しい人々に対する戦争行為に他ならない。
【なお、作者の主張する「石油のための戦争」にはいくつかの有力な反論があることを記しておく。拙訳『シオン権力と戦争ジェイムズ・ペトラス著)』、『9/11:「合格シール」の彼方に(ダビッド・モントウト著)』をご覧いただきたい。】

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(原文)
http://www.voltairenet.org/article127981.html

すでに始まった水戦争もまたそうだが
戦争は嘘をつく                                         エドゥアルド・ガレアノAlter.com配信

≪「しかし動機は・・・。」ドューヴァルは詰問した。「誰も理由無しに人殺しなどしない。」「動機?」エレリーは肩をすぼめて答えた。「あなたはもうご存知のはずだ。」≫エラリー・クイーン、闇の館の冒険

 戦争は高尚な理由で起こると言う。国際的な安全保障、国の威信、民主主義、自由、秩序、文明の要求、あるいは神の命令。誰一人正直に告白する者はいない。『盗むために殺すのだ』と。

2005年9月15日
モンテビデオ(ウルグアイ)

 4年の長きに渡って続き2002年の末以来中断している戦争で、コンゴでは3百万を越える市民が死亡した。

 彼らはコルタンのために死んだのだが、彼らはそのことを知らなかった。コルタンは希少な鉱石であり、その奇妙な名前は、コランバイトとタンタライトという二つの希少な鉱物の名前の合成である。【訳注:コルタンから取れるタンタルという金属はコンピューターに使われる小型コンデンサーには欠かせない素材。】

 それが携帯電話や宇宙船、コンピューターやミサイルの製造にとって必要不可欠なものであることが発見されるまでは、コルタンにはほとんど全く価値が無かった。そしてそれ以来、それは金よりも高価なものとなった。

 現在知られているコルタンの鉱床のほぼすべてはコンゴの砂の中にある。

 40年以上も前にパトリシオ・ルムンバは金とダイヤモンドの祭壇に犠牲として捧げられた。彼の国は毎日のように繰り返し彼を殺す。最貧国であるコンゴは、鉱産物のもっとも豊かな国であり、その自然の恵みは歴史の呪いと変わり続けているのである。

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 アフリカ人たちは石油を『悪魔の糞』と呼ぶ。

 1978年にスーダンの南部に石油が発見された。7年後には埋蔵量は2倍以上に達し、そしてその量のほとんどがダルフール地域に横たわっている。

 新たな殺戮が最近起こりそして引き続いている。ある統計によると2百万人と言われる黒人の農民の多くが逃げ出しあるいは殺された。こん棒かナイフか飢えによって、政府が戦車とヘリコプターで支援するアラブ人武装勢力の進撃の中で。

 この戦争は、イスラム教徒のアラブ遊牧民とキリスト教徒やアニミズムの黒人農民の間に起こった民族紛争や宗教紛争のように装われている。しかし焼き払われた村と荒れ果てた畑があった土地は、いま大地を穿つ石油採掘の塔が立ち始めている。

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 石油が不当にもあのがぶ飲み野郎どもの手に落ちたわけだが、この明白な証拠を否定することは、この世界の支配者が持つ最も顕著な習慣である。神がそれを一滴もお飲みにならないことに感謝する。

 彼は、イラク戦争が石油以外の何物をも目指していないことを、ある日にも次の日にも確証し続けている。

 ≪彼らは組織的に情報を隠し騙し続けている≫1920年ごろにアラビアのロレンスとかいう者がイラクから手紙を書いている。≪イングランドの人々は、尊厳と名誉をもってそこを去ることが困難な罠に陥るために、メソポタミアに運ばれて来ている。≫

 私は歴史が繰り返さないことを知っている。しかし時としてそれを疑う。

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 そしてチャベスに対する敵対は? この9回もの清潔な選挙で勝っている「独裁者」を、民主主義の名の元に、殺すと脅迫するあの狂ったキャンペーンは、ベネズエラの石油と無関係だというのだろうか?

 そしてイランの核の危険に対する打ち続く警告の叫びは、イランが世界で最も豊富なガス埋蔵量を持っているという事実と無関係だとでもいうのだろうか? もしそうでないとしたら、あの核の危険の警告をどのように説明できるのか?

 ヒロシマとナガサキの市民の上に核爆弾を投下した国はイランだったか?

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 カリフォルニアに本社のあるベクテル社は、コチャバンバの水について、40年間も利権を手に入れてきた。雨水を含むすべての水である。ロクな設備も作らずに料金を跳ね上げた。一つの村で怒りが爆発し、その会社はボリビアから出て行かなければならなかった。

 大統領ブッシュは追い出されたベクテルに憐みを垂れて、イラクの水を与えることで慰めを与えたのである。

 この男の何たる気前の良さであることか。イラクは単にそのすばらしく豊かな石油だけのために主権が消失したのではない。チグリスとユーフラテスの贈り物であるこの国は、全中東で最も豊かな真水の供給源であるがゆえに、もっと悪い状態を与えられたのである。

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 世界は水不足に陥っている。化学の毒は川を汚し、旱魃が川を涸らし、消費社会はますます水を消費し、水はますます飲用に適しなくなり、そしてますます少なくなる。

 皆がそう言うし皆がそれを知っている。石油の戦争は、明日には水の戦争になるだろう。

 実際、水戦争はすでに起こりつつあるのだ。

 それらは征服戦争であるが、侵略者は爆弾を投下したり部隊を派遣したりするのではない。民間人の服装をしたこれらの国際機関のテクノクラートたちがやってきて、貧しい国々をその状態のままで屈服させたうえで、民営化か死か、と迫るのである。彼らの武器は強要と罰則という致死的な凶器なのだが、かさばりもせず大音響をたてることもない。

 世界銀行とIMFは一つの同じクリップの二つの歯なのだが、最近の数年間、16の貧しい国々で水の民営化を強制してきた。その中のいくつかは、ベニン、ニジェール、モザンビーク、ルアンダ、イエメン、タンザニア、カメルーン、ホンジェラス、ニカラグアといった、世界の最貧国である。【訳注:現在、世界の水道民営化市場の77%を、ベクテル、スエズ社(フランス)、RWE社(ドイツ)の3社が、世界銀行とIMFでの強力なロビー活動を通して、独占している状態である。】

 この議論は反論の余地の無いものであった。水を引き渡すのか、さもなければ借金を大目に見ることも新たに金を貸すこともしないぞ。

 それらの専門家たちは同時に、国家の主権を奪い去ることによってではなく国家の非能率さによる後進性で破産した国々の近代化を助けることによってそうするのだ、ということを説明するだけの忍耐力を持ち合わせた。

 そしてもし民営化された水の料金が住民の多くにとって支払い不可能であるとの結果が出たならば、はるかにましだ。今まで眠っていた仕事と克己心への意欲がついに眼を覚ますこととなった、というわけなのだろう。

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 民主主義の中で、命令するのは誰だ? その上級国際融資機関の役人どもは誰かによって選ばれたのではないのか?

 昨年10月末に、一つの国民投票がウルグアイの水の運命を決定した。大多数の住民が投票し、その圧倒的多数によって、水道が公共の事業であり全員の権利であることを確実にした。【訳注:2004年10月31日に大統領選挙と同時に行われた、水道事業の民営化を阻止するための憲法改正の国民投票で、投票総数の64.5%が改正に賛成を投じた。】

 これは、伝統的な無力感に対する民主主義の勝利であった。我々は、水でも何でも管理する能力が我々には無いという無力感に包まれているのだ。そしてまた、公共の資産についての悪評に対する勝利でもあった。それは、みんなのものであるはずの公共資産をあたかも誰のものでも無いかのように利用し取り扱ってきた政治家たちによって、信用を失墜させられたものだったのだ。

 ウルグアイの国民投票は何の国際的な反響も起こさなかった。大マスコミは、常に勝利する者たちによって打ち負かされるこの水戦争について、全く気を留めなかった。そしてこの実例は世界のどの国にも影響を与えなかった。

 これは水に関する今まで始めての国民投票であり、そして、もしかすると、最後のものになるのかもしれない。

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Eduardo Galeano エドゥアルド・ガレアノ
ウルグアイのジャーナリストで作家。「Las Venas Abiertas de América Latina(ラテンアメリカの開かれた静脈)」「La canción de nosotros(我々の社会の歌)」「Días y noches de amor y de guerra(愛と戦争の昼と夜)」「Las palabras andantes(歩いていく言葉)」「El libro de los abrazos(抱擁の本)」などの著作がある。

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