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復刻版:対外戦争政策は同時に国内資産収奪システムの強化である!

       貧困の拡大と戦争

 この拙訳は2007年6月に私(童子丸開)が和訳して季刊『真相の深層』誌(木村書店、廃刊)に寄稿した後、私の旧HPに掲載していたものである。気付いた限りの誤訳、誤字や脱字などは修正を施し、必要に応じて赤文字で注釈を加えている。またこの文章は長いので、小見出しにリンクを作り読みたい項目に飛ぶことができるようにした。(外部リンク先にはすでに通じなくなったものが含まれているかもしれない。その点はご容赦願いたい。)
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【訳者より】
 これは2007年4月14日付のGlobal Research誌に掲載された論文の翻訳である。原文題名は”War Profiteering and the Concentration of Income and Wealth in America”で、作者のイスマエル・ホッセイン-ザデー(Prof. Ismael Hossein-zadeh)はアイオワ州デス・モインズにあるドレイク大学の経済学教授である。
そしてこの論文は彼の最近の著作「米国軍国主義の政治経済(The Political Economy of U.S. Militarism)」(Palgrave-Macmillan Publishers)から作者自身が引用してGlobal Researchに寄稿したものだ。
(原文Urlは次の通り)
http://globalresearch.ca/index.php?context=viewArticle&code=HOS20070412&articleId=5368

 「貧富の差の拡大」が日本でも叫ばれ始めているのだが、端的にいえばこれは米国の戦争政策とそれを保証する経済システムに日本が巻き込まれていったからである。これは「アメリカのこと」というよりも「日本国民に直接に巻き込むもの」としてお考えいただきたい。
 まず訳文全文にお目をお通しいただくこととして、訳者からの若干の説明を翻訳の後に添えておきたい。

小見出し一覧:クリックすれば読みたい項目に飛びます。)
軍事支出の増大:収入再配分のペテン
米国の軍事支出の大きさ

ペンタゴン予算の増大と契約企業の資産の上昇
再配分の軍国主義:軍事支出の増大は収入を下層から上層に再配分する
結論的主張:対外戦争とは、国の財源をめぐる国内闘争の反映である
(訳者からの若干の説明)

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米国における戦争利権および収入と富の一極化

増大する軍事支出

                                  イスマエル・ホッセイン-ザデー著
                                  グローバル・リサーチ 2007年4月13日


ニューディールと国の財源の再配分を、富裕層に有利に還流させる誤魔化しの迂回路として、戦争と軍事支出の増大がどのように利用されているのか


軍事支出の増大:収入再配分のペテン  【小見出し一覧に戻る】

 最近の米国戦争政策に対する批判者達は長い間、それがすべて石油に関連することであると主張し続けている。「石油のために血を流すな」がほとんどの戦争反対者たちの合言葉になっている。

 しかしながら、そこに別の要素(目立たないものだがたぶんずっと決定力を持つであろう)が近年の米国による対外戦争勃発の影にあることが明らかになるであろう。ペンタゴン契約企業による戦争利権である。

 しばしば「我国の安全保障そして/または利益」などといういかがわしい言葉を叫びながら、これらの戦争利権に群がる者たち、ペンタゴンに送り込まれる公金をその利益の元とする軍産複合体とその関連企業は、上手に戦争と軍事支出を利用して税金から受け取るライオンの分け前を正当化し、また望むとおりに国家収入の再配分における彼らの作戦を誤魔化すのである。

 下から上に渡っていく国庫の皮肉な再配分変更の作戦は、(a)ペンタゴン予算の急激な引き上げ、(b)同様に富裕層に対する急激な税金免除という二つの組み合わせによって実行される。この組み合わせが予算の大きな欠損を作るため、このように作られるギャップを埋めるために非軍事的な公共予算を切り落とさざるをえない。その結果として、金持ちは中間層と低所得層を犠牲にして益々大きく金を持つようになっている。

 この決定的な重要さにも関わらず、大部分の戦争反対を叫ぶ人々はペンタゴンの予算とその契約企業が戦争や軍国主義化の原因として果す危機的な役割に対してわずかの批判を集めるだけである。この現象は半世紀ほど前にアイゼンハワー大統領が政権の後半に警告したものである。おそらくこの見過ごしの主要な原因は、戦争と軍国主義に反対する者が、米国の軍事力を主要に石油やその他諸々の資源を手に入れる帝国主義の道具として見がちな点にあるだろう。

 しかし実際には、米国軍の基盤が規模を大きくするにつれて、またその質と性格面で成長するにつれて、もはや単なる手段というだけではなく、多分もっと重要なことだろうが、それ自身を目的としたもの、帝国の軍事力それ自体となっているのである。必然的に、近年の米国外交政策における軍国主義の台頭は、一部の将軍達や抽象的な国益などといったものによるのではなく、軍事に、つまり戦争産業と戦争関連企業に資本投下される巨大で特殊な利益によるものである。

米国の軍事支出の大きさ 【小見出し一覧に戻る】

 すでに5000億ドルを越えるイラクとアフガニスタンでの戦費を除いてさえ、米国の軍事支出は連邦予算ですでに最大のものになっている。公式には、社会保障費用に次ぐ第2の額である。しかし社会保障は自ら資金を調達する基金によるものなのだ。したがって実際には、軍事支出が最大の項目となる。

 本会計年度(2007年)に関するペンタゴンの予算はおよそ4560億ドルである。ブッシュ大統領は来年度にさらにその10%を増額し5000億ドルを超えるようにすることを要求した。つまり2008年度には5016億ドルとなるのである。

 要求されたアフガニスタンとイラクでの戦争のために支払うべき追加措置は、「2008年会計年度の軍事支出要求を6472億ドルにするのだが、これは第2次世界大戦以来最大レベルの軍事支出である。ベトナム戦争よりも朝鮮戦争よりもレーガン政権時の軍備増強よりも巨額である。」[1]

 ニューヨーク世界政策研究所の上級研究員であるウィリアム・D.ハータングは、公式の予算の数字を使いながら、比較材料として役に立ちそうな数字を挙げる。

・2008年度用の軍事予算請求は世界中の他の国々による軍事支出をすべてあわせたよりも大きい。

・1417億ドルという、イラクでの戦争費用のため要求された金額は中国とロシアの軍事予算をあわせたよりも大きい。2008年度の米国の軍事予算は、世界第2の軍事支出大国である中国のそれのおよそ10倍である。

・米国の軍事予算請求は47あるサハラ以南のアフリカ諸国の国内総生産を合計したものよりも大きい。

・2008年度の軍事予算請求は、すべての州政府の資金と非軍事的な対外援助額をあわせたものの30倍を超える。

・2008年度の軍事予算請求は、米国政府が使う地球温暖化対策費用として年間に使う約50億ドルに比べて120倍を超えるものである。

・2008年度の軍事支出は、米国政府が、教育、健康、住宅への補助、国際的な事柄、天然資源と環境、法曹、退職者の利益、科学と宇宙開発、輸送、訓練/雇用と公共サービス、経済発展、そしてその他数多くの事柄で、自由裁量で行うための費用から、1ドルごとに58セントを抜き取ることになるのだ。[2]

  公式の軍事予算がすでに公金の「ライオンの分け前」を食い尽くしている(国内の実際の必要性を締め出している)のだが、ところがそれは実際の軍事支出の大きさを極めて小さく見積もったものに過ぎないのだ。独立研究所のロバート・ヒッグスによると、現実の国家防衛予算は公式に言われる予算額のおよそ2倍に達しているのである。国防総省による公式な予算が小さな見積もりとなっている理由は、イラクとアフガニスタンでの戦争費用だけではなく、同時にその他数多くの出費なのだ。[3]

 このような転用される費用には、沿岸警備隊や祖国安全保障担当省の予算、核兵器の研究・開発・実験・貯蔵(これはエネルギー予算に含まれる)の費用、退役軍人対策(退役軍人局の予算に含まれる)、大部分の軍人退職金予算(財務省の予算に含まれる)、同盟国への武器供与という軍事援助(国務省の予算に含まれる)、過去の軍事計画基金への借金に対する利子の支払い(財務省の予算に含まれる)、軍事基地での販売と資産に対する税金(地方政府の予算に含まれる)、そして非課税の食料、住宅、戦地赴任手当て(combat pay)といった表に出てこない費用である。

 国防総省予算にこのような偽装やお門違いの出費を加えてみて、ヒッグスは次のように結論付ける。「将来の国防予算関連の経費を考えるに当たって、大盤振る舞いの計算ならペンタゴンの基本的な予算総額(これは常に十分公表される)を考えたうえでそれを2倍する金額になると、私は考える。たとえ実態をもっと誇張して言ったとしてもそれほど大きく超えることはないだろう。」[4]

ペンタゴン予算の増大と契約企業の資産の上昇 【小見出し一覧に戻る】

 ブッシュ政権の戦争拡大と軍事費の増大はペンタゴン契約企業にとっての恩恵となってきた。これらペンタゴン契約企業の資産が軍事支出額の上昇に伴って急激に増大していることは特に驚くべきことでもない。しかしながら驚くべきことは、それらの戦争と軍国主義化の受益者達が同時にまた戦争によって利益を上げるのに必要な環境作りで決定的な役割を果たしてきたという事実である。つまり、最近の戦争拡大政策とそれに付随する軍事支出の急上昇を煽り立てているのである。[5]

 ロッキード・マーティン、ボーイング、ノースロップ・グラマンなどの巨大兵器製造企業は、ペンタゴン金脈の主要な受益者であり続けている。このことは株式市場でのそれらの株価が上昇し続けていることに明らかに反映されている。

 「米国の軍需産業株価はイラク戦争開始以来ほぼ3倍となっているのだが、その伸びが緩まる気配は無い。艦船や飛行機や武器のメーカーが好調になり始めたばかりだという感覚が、ロッキード・マーティン、ノースロップ・グラマン、そしてジェネラル・ダイナミックスといった主要なペンタゴン契約企業の株価を延々と高値の状態に押し上げ続けている。」[6]

 製造部門の契約企業と同様に、急成長するサービス部門のペンタゴン契約企業が、民間企業に納税者のカネをシャワーのように浴びせる傾向の恩恵を被って資産を築いてきている。これらのサービス部門にある企業は食料や衛生に関する業務といった比較的単純で日常的な仕事と責任に限られるものではない。もっと重要なことに、それらには「その本性として高度に洗練され戦略化されたサービス契約」が含まれている。私兵を共同させて働かせる安全保障サービス契約のようなもの、言ってみれば現代の傭兵なのだ。ペンタゴンとのサービス契約の急激な成長は(他の指標と並んで)次の戦略に反映されている。「1984年に、ほぼ3分の2の契約関連予算がサービスよりもむしろ製造品に向けられた。・・・。2003年会計何度までには、国防総省の契約の56パーセントが物品よりもむしろサービスの方に支払われた。」[7]

 戦争の分け前とイラクの荒廃ぶりがあまりに魅力的であるために極端に大きな数の戦争受益者達が濡れ手に粟の儲けにあずかるためにイラクの中で商売を確立させている。「イラクで事業を展開している10万もの政府契約企業が、下請けを勘定に入れなくても合計でそこにいる米国軍のサイズに匹敵している。これは戦場で作戦を行う民間人の人口の増加についての軍による最初の調査によるものである。」このように2006年12月5日のワシントン・ポスト記事が報道した。

 ペンタゴンとの契約の上昇は、もちろんのことだが、1980年にレーガン大統領がホワイトハウスに入ったとき以来ファッショナブルになっている外部委託と民営化の全般的な政策と哲学の反映である。この政策の効果の一部を伝えるものとして、ニューヨーク・タイムズのスコット・シェインとロン・ニクソンは最近次のように書いた。「開かれた議論も公式な政策決定も無しに、契約者達は事実上政府の第4の枝となっている。何十年かの成長の上に、連邦政府の契約による支出はブッシュ政権の間に膨らんできている。2002年の2070億ドルから昨年は4000億ドルにまでなった。これはイラク戦争と国内の安全保障、およびハリケーン・カトリーナによって増大させられたものだが、しかし同時に政府が行うあらゆることに外部授受注を奨励する哲学によるものでもある。[8]

再配分の軍国主義:軍事支出の増大は収入を下層から上層に再配分する 【小見出し一覧に戻る】

 しかしペンタゴン契約者たちと他の戦争の配当による受益者達が公的資金のシャワーを浴びている一方で、必然的な予算不足を埋め合わせるために、米国の下層そして中層所得者達は経済的なあるいは生存に必要な財源を搾り取られているのである。例えば、2008年度のペンタゴンの公式な予算が10%以上の上昇、つまり500億ドルに近い増加を予定されているために、その上昇分を支払うために「141の政府計画が破棄されあるいは大幅に縮小されるだろう」。この中には、低所得の高齢者に対する住宅補助が25%、低所得者層の暖房費用への援助が18%、地域社会発展のための基金に対する補助が12.7%、そして教育および職業訓練に対する補助が8%それぞれ切り捨てられることを含んでいる。[9]

 軍国主義による再配分と富裕層に対する気前の良い税金の減額が結び付いて、このような切り捨ては、レーガン大統領の元で始まった不吉な所得の不平等の拡大をさらに悪化させている。1980年にレーガンが大統領職に就いて以来、非軍事的公共支出に対する反対者は、社会的な支出を切り捨て、ニューディールとその他の社会的保証の総合計画を逆転させ、富裕層に都合の良いように国家的/公的な資金を再配分させるために、ある陰湿な戦略を用いてきた。その狡賢い戦略は富裕層に対する急激な税の免除と組み合わされたこれまた急激な軍事支出の増大から成り立っている。この組み合わせは巨額の予算不足を作り出す。こうして生み出されたギャップを埋めるために、非軍事部門の公共支出の切捨てが(借金と共に)余儀なくされるのである。

 たとえば、ブッシュ大統領が次年度の軍事支出の5000億ドル増額を計画しているのと同時に、彼は自分を支持する富裕層に対して今後10年以上にわたって総計1兆6千億ドルもの減税を続けることを提案しているのだ。年間平均にすれば1600億ドルとなる。同時にまた、富裕層に対するこういった大盤振る舞いへの支払いのために「国内の任意裁量計画への資金提供は総額で1140億ドル減額される」。切り捨てられる任意裁量計画の標的は140を超えるもので成り立っている。それは低所得と中間所得の家庭にとっての根本的な必要性を支えるものなのだが、それには、小中学校教育、職業訓練、環境保護、退職者の健康管理、医学研究、食糧配給制度、恵まれない子供たちに対する就学前のケアー、低所得者の家庭に対するエネルギー援助、その他多くのものが含まれる。[10]

 アーバン研究所ブルッキングズ支部税制センターによれば、「もし大統領による減税が恒久化されれば、人口の上位1%(現在のところその収入は40万ドルを越える)が2012年までに6万7千ドルの減税を受ける・・・。年収100万ドル以上の収入のある者に対する減税は2012年までに平均して16万2千ドルにのぼるだろう。[11]

 マクロ経済についての公式な数字は、過去50年前後にわたって、GNPに対する政府支出(連邦、州、および地方レベルで)の割合がおよそ20%であることを示している。国家支出/収入での公共部門の割り当てがもしおおよそ一定であるのなら、軍事支出の増大がほぼ常に非軍事的な支出の減少による埋め合わせを伴うというのは驚くべきことでもないし、その場合逆もまた真である。

 たとえば、フランクリン・D.ロウズベルトのニューディール改革やリンドン・B.ジョンソンの貧困との戦争という比喩の恩恵によって、非軍事的政府支出の割り当ては明らかに、それに伴って減っていく軍事支出を上回った。1950年代の半ばから1970年代半ばにかけて、GNP中の非軍事政府支出の割合は9.2%から14.3%へと5.1%も上昇した。その間に、GNP中の軍事支出の割合は10.1%から5.8%へ、4.3%減少したのである。[12]

 この傾向は1980年にレーガン大統領が職務に就いたときに逆転した。1980年代初期にレーガン大統領は軍事支出を急激に増加させ、同時に高額所得者の税をこれまた急激に減少させた。したがってその巨大な予算不足は10年以上にもわたる非軍事支出の切捨てによって埋め合わされることととなった。

 同様に、ジョージ・W.ブッシュ大統領の政府は、ロケットのように上がっていく軍事支出額と金持ち達に対する気前の良い減税措置のために、非軍事的公共支出を切り捨てる同様に不当な財政政策を追求してきている。

 興味深いことに(驚くべきことでもないのだが)、収入の不公平さの変化は政府の支出に対する政策の変化を映し出す。各政権の財政政策の反映としてである。こうして、1950年代半ばから1970年代半ばまで非軍事的公共支出の割合が軍事支出を上回り、そして納税のシステムや政策は今日のそれと比べて比較的進歩的で、収入の不平等は次第に減っていたのである。

 しかしレーガン大統領が、軍事支出を非軍事的公共支出よりも引き上げて富裕層への課税を減らすことによってそのような財政政策を逆転させたとき、収入の不平等もまた相当に広がったのである。レーガンによる軍事支出の急激な上昇と金持ちに対する同様に激しい税金の減額という双子の政策は、1990年代にはいくぶんか緩められ、収入の不平等増大は次第に速度を落とした。ところが2000年代になって、レーガン大統領によって出発した不吉な流れがジョージ・W.ブッシュ大統領によって採用されている。軍事支出の増大、金持ちに対する減税、そして(それゆえの)所得不平等の激化である。(図1を見よ。)

図1:米国における所得の不平等(Gini Index), 1913-2004

Source: Doug Henwood, Left Business Observer, No. 114 (December 2006), p. 1

 小さな短期間の変動はともかく、図1は、米国における収入の不平等の、主要な二つの山と一つの谷間を持つ、長期の移り変わりを示すグラフである。最初の山は大恐慌が荒れ狂う時代(1929–1933)にやって来たものである。しかしそれはニューディール改革が実施される1930年代半ばには下がり始めた。はっきりとした下降は1968年までおおよそとどまることなく続いた。このときが不平等の最も小さかったときだったということに我々は注目する。
 1958年以後、不平等が解消される傾向はそのコースを変えた。しかし反動は1980年代初期まではさほど顕著ではなかった。そしてその後で加速を開始するのである。レーガノミックスの美徳(あるいは悪徳)によってである。こうしてネオリベラル経済と供給側重視の経済が盛んになるにつれて勢いがついたこの悪化傾向は、1990年代に幾分か沈静化したのだが、それはジョージ・W.ブッシュ大統領の下で再び活力を得ている。そして大恐慌時代のピークに迫る勢いである。

 最低レベルであった1968年でさえ所得の格差は相当に激しかったではないかという議論は無意味であろう。当時、上から20%の家庭は下から20%に比べて10倍にのぼる所得を手にしていた。しかしLeft Business Observerのダグ・ヘンウッドが指摘するところによると、「その数字は現在の15倍と並んでみるならばほとんどスゥエーデン並みのようにみえる」。[13]

 次のものは、1970年代後半と1980年代初期以来、再配分を伴う軍国主義と供給側重視の経済政策がいかに収入の不平等を悪化させてきたのかを明らかに示す統計である。それは税込みの収入と税金徴収後の収入の間にある差を広げつつあるのだ。米国議会予算局(CBO)が最近発表したデータによると、1979年以来、上層の家庭での収入増加が中層および下層の家庭の収入を押し縮めてきたのである。特に次の点である。

・上位1%にあたる人口の徴税後の収入が平均して3倍近くになった。31万4千ドルから86万8千ドルに上がったのである。これは176%の上昇にあたる。(ただしこの数字はインフレ率を計算に入れてCBOによって調整されている。)

・対照的に、中間層にある20%の人口では、その上昇は21%とゆるやかである。8千5百ドルの上昇で、2004年に4万8千4百ドルになった。

・最も貧しい20%の人口では、徴税後の収入がわずかに6%上昇したのみであり、この期間に8百ドル上がって2004年に1万4千7百ドルとなった。[14]


 2001年に施行された法により、過去6年間にわたって1兆ドルもの減税が納税者に対して実施されている。この巨額の減税は、徴税後の収入を高額所得者の方に収入を集中させ不平等をさらに拡大させている。アーバン研究所ブルッキングズ支部税制センターによれば、2001年に施行されて以来の減税措置の結果として:

・2006年に、収入順位の一覧で最下層20%の家庭では、減税(平均して20ドル)の結果、徴税後の収入が平均して0.3%上昇した。

・収入順位の一覧で中間層20%では減税(平均して740ドル)の結果、徴税後の収入が平均して2.5%上昇した。

・最上位1%の家庭では、2006年の減税(平均して4万4千2百ドル)の結果、徴税後の収入が平均して5.4%上昇した。

・収入が10億ドルを超える家庭では、2006年の減税によって平均で11万8千ドルを受け取ったが、これは徴税後の収入が6.0%上昇したことを意味する。[15]


結論的主張:対外戦争とは、国の財源をめぐる国内闘争の反映である 【小見出し一覧に戻る】

 ペンタゴンの予算を詳しく調べてみると次のようなことがわかる。1980年にロナルド・レーガンが大統領に選出されて以来、社会福祉支出に反対する者達は、非軍事支出を切り捨てニューディールや他の社会的な安全計画網を逆転させ国家的/公共的な財源を富裕層に有利なように再配分させるために、軍事支出を上手に利用してきた。

 再配分の軍国主義の力学を詳しく調べてみると同様に次のことが説明できる。ペンタゴン予算の強力な受益者が平和的で非軍事的な公共支出よりも戦争と軍事的拡大を好む理由である。軍事支出は富裕層に利益を与えるのだが、非軍事的公共支出の受益者達は社会の各層に幅広く広がっているのだ。このことはさらに、戦争による利潤の受益者達が軍事支出拡大の継続を正当化するために新しい敵と新しい「我国の国益への脅威」を繰り返し発明する理由をも説明してくれる。

 この観点から眺めるならば、対外戦争に向かう軍国主義的傾向は、国の公的資金の分配を巡る国内闘争の隠喩的な反映であると大局的には見なすことができる。それは、底辺の層から頂上に向かう国家財源再配分の密かで陰湿な戦略なのだ。

 戦争を導く主要な力として、再配分の軍国主義、つまりペンタゴン予算の決定的な役割を果たしているにも関わらず、戦争反対者の大多数が近年の米国戦争政策の背後にあるこの決定的な力に対しては軽い注意を向けるのみである。この見過ごしの理由はおそらく、大部分の戦争反対者たちが米国の軍事力を、それ自体に目的が作られてきたというようにではなく、相も変わらず単純にまた第一義的に特定の帝国主義的目標達成のための手段であるとのみ見なし続けている事実であろう。

 しかしながら、米国の軍事力が規模を拡大するにつれて、それは同時に質的にも性格的にも変化を遂げつつある。それはもはや単純に手段とのみ言うべきではなく、おそらくもっと重要なことに、それ自体を目的としたものであり、自分自身のための帝国主義的権力である。別の言い方をすれば犬を振り回しているしっぽということだ。これはアイゼンハワー大統領がその政権の最後に強く警告を発した現象である。

 必然的にだが、近年に持ち上がってきた米国外交政策の軍事化は、何かの一般的/抽象的な国益のためだの、巨大石油産業やその他の非軍事的な国際的企業の利益のため(大部分の伝統的な帝国主義に関する論者が言い争うことだが)だのといったものではない。そうではなくむしろ、公的資金に対するライオンの分け前を正当化するために戦争の環境と軍国主義を必要とする軍事産業およびそれと結び付いた戦争関連ビジネスに与えられた協力で特殊な利益のためなのだ。

 巨大な軍産複合体、特に兵器産業やその他のペンタゴン契約企業の保護と正当化と拡大は、それ自体を巨大で決定的なビジネスの目的としてきている。それらは実際に、新たな寄生的な米国軍事帝国主義の背後にある強大な推進力となっているのである。私はこれを新たな寄生的な帝国主義と呼ぶ。「寄生的な」と呼ぶのは、過去の帝国主義勢力がそうしたような現行レベルを超える帝国の富を拡張させる欲望によってではなく、軍事支配層、特に戦争から利益を受ける契約企業が現存の富と財産に対するライオンの分け前を専有したいという願望によって、その対外的な軍事展開が往々にして推し進められるものだからである。寄生的であることに加えて、新しい米国の軍事帝国主義は、どうように二重の帝国主義と呼ぶことができる。「二重の」というのは、それが外国の自らを守る力を持たない国民たちとその資源を収奪するのみならず、それが同時に圧倒的多数の米国国民とその国内での資産を収奪するものだからである。(私は、この「寄生的で二重の米国軍事帝国主義」が持つ歴史的に見た独特の性格について、別の項目でさらに詳しく検討していかねばなるまい。)


(作者からの注釈)

[1] William D. Hartung, "Bush Military Budget Highest Since WW II," Common Dreams (10 February 2007),
 http://www.commondreams.org/views07/0210-26.htm.
[2] Ibid.(同上)
[3] Robert Higgs, "The Defense Budget Is Bigger Than You Think," antiwar.com (25 January 2004):
 http://www.antiwar.com/orig2/higgs012504.html.
[4] Ibid.
[5] Ismael Hossein-zadeh, "Why the US is Not Leaving Iraq,"
http://www.cbpa.drake.edu/hossein%2Dzadeh/papers/papers.htm.
[6] Bill Rigby, "Defense stocks may jump higher with big profits," Reuter (12 April 2006),
 http://www.boston.com/business/articles/2006/04/12/defense_stocks_may_jump_higher_with_big_profits/ .
[7] The Center for Public Integrity, "Outsourcing the Pentagon" (29 September 2004),
http://www.publicintegrity.org/pns/report.aspx?aid=385.
[8] Scott Shane and Ron Nixon, "In Washington, Contractors Take On Biggest Role Ever," The New York Times (4 February 2007),
http://www.nytimes.com/2007/02/04/washington/04contract.html.
[9] Faiz Shakir et al., Center for American Progress Action Fund, "The Progress Report" (6 February 2007),
http://www.americanprogressaction.org/progressreport/2007/02/deep_hock.html.
[10] Robert Greenstein, "Despite The Rhetoric, Budget Would Make Nation’s Fiscal Problems Worse And Further Widen Inequality", Center for Budget and Policy Priorities (6 February 2007),
http://www.cbpp.org/2-5-07bud.htm
[11] Ibid.
[12] Richard Du Boff, "What Military Spending Really Costs," Challenge 32 (September/October 1989), pp. 4–10.
[13] Doug Henwood, Left Business Observer, No. 114 (31 December 2006), p. 4.
[14] Congressional Budget Office, Historical Effective Federal Tax Rates:  1979 to 2004, December 2006; as reported by Center on Budget and Policy Priorities,
http://www.cbpp.org/1-23-07inc.htm.
[15] See Tax Policy Center tables T06-0273 and T06-0279 at www.taxpolicycenter.org.


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(訳者からの若干の説明) 【小見出し一覧に戻る】

 この論文の作者イスマエル・ホッセイン-ザデー教授は慎重に言及を避けているのだが、少しでも現代米国史を学んだ者ならば誰でも、レーガン政権の時代(つまり実質的なブッシュ父政権の時代)に、後年ネオコンと呼ばれるようになる勢力が急激に台頭してきたことを知っている。彼らはイラン・コントラ事件でもやはり主役を演じ、そこにイスラエルの権益が深く絡んでいたことは周知の事実であろう。そして同様に「左側のロビー」が支える民主党の時代を経て、「右側のロビー」とネオコンが祭り上げるブッシュ息子政権である。この歴史経過と作者が強調する米国内搾取の推移が見事に一致していることには大いに注目される。作者の言うとおり、戦争は「ライオンの分け前」を生み出す打ち出の小槌なのだ。【左右の「ロビー」についてはこちらの記事を参照のこと。】

 作者の観察どおり、米国の基本的なあり方は《内》と《外》の両面に向けた「二重の帝国主義」であり、その対外戦争は同時に、米国を支配する寄生者たちにとっての宿主である国内被支配層に向けられた「内戦」でもある。

 また作者はこれまた慎重に『最近の米国戦争政策に対する批判者達は長い間、それがすべて石油に関連することであると主張し続けている。「石油のために血を流すな」がほとんどの戦争反対者たちの合言葉になっている。』『おそらくこの見過ごしの主要な原因は、戦争と軍国主義に反対する者が、米国の軍事力を主要に石油やその他諸々の資源を手に入れる帝国主義の道具として見がちな点にあるだろう。』と語っているのだが、私のサイトに載せているダビッド・モントウテ著「9/11合格シールを超えてとあわせて読んでみるならば、この「戦争反対者たち」の正体も読めてくる。彼らは戦争政策を通して米国の国内で被支配民たちに対する残虐な搾取と収奪を仕掛ける支配者どもの「左足」に過ぎず、9・11事件と「対テロ戦争」の正体を覆い隠そうと必死になる理由もまた明白だろう。

 お断りしておくが、私は特定の「民族集団」といったものをイメージしているのではない。その集団の中には確かに非常に多くのユダヤ系の家族と人士が混じってはいるが、基本的にはユダヤ系の者達が現在のように米国支配層に食い込む以前から続いている特権・支配階級が作り上げた構造なのだ。ホッセイン-ザデーが述べているように、現在と同規模の「貧富の差」が現れていたのが1933年の大恐慌のさなかであり、それ以前でも、上下の変動はあるのだが、極めて大きな経済格差があったことがはっきりしている。もし仮に現在まで米国支配層の中でユダヤ系が少数派のままだったとしても、私は結局似たようなことになっただけだろうと考える。
【米国がもともとどんな国か、その「民主主義」は本質的にどんなものなのかは、拙訳『エリート支配の道具としての「民主主義」』をお読みいただきたい。また米国とユダヤの関係については、イズラエル・シャミール著『あるユダヤ国家』(全訳)をご参照のほどを。】

 おそらく彼らの理想郷は、特定の少数家族が国内資産の多くを独占しごく薄い中間層の下に極めて大量の下層・貧困層を詰め込む極端に偏った国内権力構造を持つ中南米諸国にあるのではないか。彼らは米国をブラジルかアルゼンチン並みの社会にするつもりなのかもしれない。そしてその中南米の国内支配構造は、1898年の米西戦争以来、米国の支配階級が手塩にかけて作ってきたものだ。要は米国資本主義の本質的な姿がむき出しになったものに他ならないものである。それが米国国内に対してもむき出しになりつつあるのだ。そしてレーガン政権以来それを最も熱心に進めてきたのが(左右の)シオニスト系ユダヤ人たちだったということではないのか。彼らはニューディール以来の「米国民主主義」の擬態に囚われないから、支配・収奪構造としての資本主義の本質を効率よく引き出しつつある(剥き出しにさせつつある)、それだけだ。

 世界と米国の中・下層の者達にとって、そのどちらがましか、などと考えることは馬鹿げた話である。シオニスト系ユダヤ人と旧来の米国支配層との間にある協調と確執を見ていく際に、一方だけを断罪するのはむざむざとワナにはまりに行くようなことに等しい。「支配者として狼と虎のどちらがふさわしいか」などと問うても意味はあるまい。どちらも人肉を食い荒らす猛獣どもなのだ。虎も狼も、自分の食い扶持を増やそうとするならばしょせん考えることはいっしょだろう。そのタイミングと方法と誤魔化し方の差があるのみである。
【そのネオリベラルによる「経済テロ」としか言いようのないバブルの結果、2007年から始まったいわゆる「経済危機」によって一方的に富が上に吸い上げられていくスペインの惨めな姿については、『シリーズ:「中南米化」するスペインと欧州』、『シリーズ:『スペイン経済危機』の正体』をご覧いただきたい。】

 ロシア革命の結果であるソ連が消滅して、米国が次第に革命前のロシア帝国の状態に近づいて行きつつあるように見える。皮肉なものだ。 

 しかし最初にも申し上げたように、これは日本人にとって「対岸の火事」どころか、日本の中で貧富の差がどんどんと増大しつつある理由ともなっているのではないか。まず経済システムのアメリカ化であり、米国式戦争収奪経済システムに巻き込まれ、「対テロ」ペテン戦争のなかで、米国国民と同様にどんどんと国民の富が吸い上げられ、それが結局、米国の戦争政策の中で使用されているのである。そして最終的にその富の行く先は・・・。いうまでもあるまい。

 
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