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 この拙稿は2010年11月に私(童子丸開)の旧HPに掲載していたものである。旧HPにあった記事へのリンクが不可能になったため、必要に応じて修正を施しまた注釈等を加えている場合がある。またこの文章は長いため、小見出しごとにリンクを作って、読みたい箇所に飛ぶことができるようにしている。 (外部リンク先にはすでに通じなくなったものが含まれているかもしれない。その点はご容赦願いたい。)

復刻版:アフガン・イラク戦争開戦の大嘘と911事件

※ 見出し一覧(下線を引いた各小見出しをクリックすればその項目に進みます。)
(1)意図的に自国民と世界を騙した英国のイラク参戦
●明らかにされた英国イラク参戦のとんでもない事実
●自国民と世界をだまし通したアメリカとイギリスの指導者
●ものの見事にたぶらかされた世界
(2)ペンタゴンは911直後にイラク戦争を決定していた!
●911の当日に「アルカイダ追及とサダムの打倒」
●衝撃のクラーク証言:事件直後にイラク戦争を決定したペンタゴン!
(3)イラク戦争とは?911事件とは?
●911事件とはいったい何だったのか?
●百万人を殺したトンデモ陰謀論:「フセイン=911の黒幕」
●どうしてこの嘘と隠ぺいが犯罪とされないのか?

 2010年11月11日に米国大統領オバマは、国連安保理常任理事国に日本が入ることを支持するというリップサービスをやらかしたようです。(彼はインドにも同じことを言ったようですが。)まあ、もし日本の常任理事国入りが実現したとしたら、無批判・無条件に米国の戦争計画を支持する常任理事国が一つ増えるわけで、確かに米国としては好都合この上ないでしょうね。
 そしていま、その米国内では、経済不況を乗り切るためには「戦争しかない!」という声が高まりつつあるようです。
Mounting US war threats against Iran (Global Research誌記事) 
アメリカの対イラン開戦の脅威が増大(上の記事の翻訳:ROCKWAYEXPRESS誌)
(これに関連して、2013年12月現在の状況についてはこちらの記事をご参照のこと。)
 そういえば日本でも、武器輸出制限が緩和されるとかで、「この道はいつか来た道」という雰囲気が次第に強まりつつあります。このままでは、日本は対イラン戦争で重要な役割を担わされるばかりか、日本軍(自衛隊)派遣と戦闘への参加すら起こりうるでしょう。その中で、一部の軍需産業だけが懐を肥やし大多数の国民が塗炭の生活苦にあえぐ時代が訪れるのかもしれません。対イラン戦争には、いかなる口実があろうとも反対する必要があります。
 そんなときにこそ、21世紀に入って立て続けに行われてきた戦争の出発点を、もう一度見直してみる必要があるでしょう。戦争犯罪は、戦場での残虐行為だけではありません。もちろん戦争という破壊行為・残虐行為・殺人自体が、いかなる口実で行われようとも、人類に対する重大な犯罪であることは間違いないのですが、意図的に作り上げた嘘で世界中の人々をだまして戦争に導くような行為こそ、最も重大な戦争犯罪ではないでしょうか。
 そしてこの開戦理由の大嘘と、虚構に基づいた開戦理由の合理化について、アフガニスタン・イラク戦争に象徴されるいわゆる「対テロ戦争」を振り返り、その開戦の嘘を明らかにすることが、イランとの戦争にストップをかける重要な力になると思います。対イラン戦争も巨大な嘘から開始される可能性が高いからです。


(1)意図的に自国民と世界を騙した英国のイラク参戦

●明らかにされた英国イラク参戦のとんでもない事実 (見出し一覧に戻る)

 「いやしくも国民によって選ばれた国家指導者が、自国民に対して意図的に嘘をつき、だまして殺すようなことはありえない」というのが、現代の民主主義の世界では「常識」なのかもしれません。きっと日本人の多くがそのように信じているのでしょう。
 2003年3月に始まったイラク戦争について、大雑把に言えばきっと次のような理解が「常識」的な受け取り方と思われます

《アメリカ政府は以前から大量破壊兵器の保有を理由にイラク攻撃を主張していた。当初は慎重姿勢を見せていたイギリスは、イラクが国連の査察を拒否したことや大量破壊兵器の疑惑が深まったことを理由に、最終的に参戦を決定し、両国が主体となって攻撃を開始した。しかし後にその大量破壊兵器の情報は誤りであったことが明らかにされた。》

 はたしてそれは事実なのでしょうか。イギリスのブレアー政権が参戦を決意し準備を始めたのは2003年になってから、とされているのですが……。
 2005年5月1日、イギリス紙タイムズ(日曜版)は、一つの驚くべき記事を掲載しました。それは、2002年年7月23日、イラク開戦の8ヶ月も以前に、ロンドンのダウニング・ストリートにある英国首相官邸で行われたある秘密会議の様子を記録したメモの全文でした。そこには、首相トニー・ブレアー以下イギリス政府首脳が、アメリカの戦争計画を受け入れて、すでにその時点でイギリスのイラク参戦を決定していたという、とんでもない事実が書かれていました。

 そしてブレアー首相は、その秘密会議以後の8ヶ月間、素知らぬ顔をしてイラク攻撃計画に反対するそぶりを見せながら、国民の反戦感情をかわし続けました。イギリス政府は意図的に自国民と世界を欺き、侵略戦争へと引きずっていったのです。戦争は、国民の資産を大量に消費して敵国民と同時に自国民をも死地に追いやる政治行為です。つまり彼らは、意図的に国民をだまして資産を奪い殺害したことになります。
 「敵を欺くには味方から」と言う人もいるでしょう。しかし、アメリカやイギリスにとって、サダムフセインのイラクが「騙して攻めなければ勝てない」ほどの相手だったのでしょうか。フセインもイラク国民も、両国の攻撃意図は分かっていたのです。このイギリス政府の嘘は、もっぱら「味方」をだましたのみでした。違うでしょうか。
 このタイムズ紙の暴露は秘密会議出席者の一人である外交政策顧問デイヴィッド・マニング卿筋を通して行われたようですが、入手の過程につい同紙は何も語っていません。しかし同日のタイムズ紙によると、首相官邸はこのメモが「本物である」と認めたうえで「ここには何一つ目新しいものは含まれていない」と語りました。つまりイギリス政府はこのメモの内容を確認しており、それが事実であると認めたわけです。

 この「ダウニングストリート・メモ」の全文訳(仮訳)はこちらのサイトでご覧いただくとして、この場では重要な箇所だけを引用してご紹介し、説明を施しておきます。まずその出席者から見てみましょう。
 トニー・ブレアー(首相)、ジェフリー・フーン(国防大臣)、ジャック・ストロウ(外務大臣)、ピーター・ゴールドスムス(法務大臣)、リチャード・ウイルソン(内閣官房長官)、フランシス・リチャーヅ(通信本部長官)、ジョン・スカーレット(統合情報委員会議長)、リチャード・ディァラヴ(MI6長官)、マイケル・ボイス(統合参謀本部議長:メモの中では「CDS」となっている)、ジョナサン・パウエル(主席補佐官)、アラステアー・キャンベル(報道政策補佐官)、サリー・モーガン(政治戦略補佐官)、マシュー・ライクロフト(外交政策補佐官)、デイヴィッド・マニング(外交政策顧問)。

 メモの作成者は特に書かれていませんが、発信者はライクロフトです。受取人はデイヴィッド・マニング卿であり他のメンバーにもコピーが送られました。ただしこの宛先の中になぜかブレアーの名は入っていません。
 私の仮訳に過ぎないものですが、この中から重要なポイントをいくつか具体的に取り上げてみることにしましょう。訳文中の「C」はディァラヴMI6長官です。
 Cが最近ワシントンで行われた会談について報告した。明らかに米国政府の態度の変化があった。武力行使はもはや不可避だと見なされている。ブッシュは軍事攻撃によってサダムを排除したがっており、それはテロリズムと大量破壊兵器を結びつけることによって正当化される。しかし、情報と事実はその政策に合致するように調整されつつある。NSC(アメリカ国家安全保障会議)は国連を通しての解決には我慢しないし、イラク政権の記録に関する資料を公開する気は無い。ワシントンでは、軍事攻撃終了後に残る影響についての議論はほとんどなされていない。

 MI6長官が語るには「武力行使はもはや不可避」つまり開戦はすでに決定事項となったということです。その理由は「ブッシュは軍事攻撃によってサダムを排除したがっており」と語られるのみで、他にはありません。また、それは「テロリズムと大量破壊兵器を結びつけることによって正当化され」ます。要するに「後出し」の正当化です。もちろん「テロリズム」は911事件を含む「アルカイダのテロ」以外にはありえません。つまり「大量破壊兵器を保持するフセイン政権が911事件などのイスラムテロの黒幕であるということなら、正当化が可能である」という意味ですね。後でも申しますが、実際に、イラク戦争と911事件が事実上結び付けられた形でイラクでの戦闘が開始され、延々と続けられました
 「情報と事実はその政策に合致するように調整されつつある」とは、最初に戦争政策の決定があり、「情報と事実」はそれに「合致するように調整」、つまりねじ曲げられつつあるということに他なりません。
 さらに「国連を通しての解決」を拒否したうえで「イラク政権の記録に関する資料」を隠す、というアメリカ政府の姿勢が披露されます。彼らは最初からそのつもりだったのです。そのうえで米国は、「軍事攻撃終了後に残る影響」をほぼ何も考えていない、つまりイラクを潰すことしか考えていないことが明らかにされます。しかしイギリスの首脳部もまた、それを何の問題にもしていません。続けましょう。

 外務長官が次のように言った。自分は今週これについてコリン・パウエルと協議する予定である。開戦の時期は決まっていないにせよ、ブッシュがすでに武力行使を決断したことは間違いないと思われる。しかし攻撃を正当化する根拠は薄い。サダムは近隣諸国の脅威にはなっておらず、大量破壊兵器開発の能力はリビア・北朝鮮・イランよりも劣る。我々はサダムに、国連の武器査察団を再び受け入れよとの最後通告を突きつける計画を練るべきだ。これが軍事力使用に対する法的な正当性を得る助けともなるだろう。

 ストロウ外相の発言(コリン・パウエルは当時の米国国務長官)です。「攻撃を正当化する根拠は薄い」そして「サダムは近隣諸国の脅威にはなっておらず、大量破壊兵器開発の能力はリビア・北朝鮮・イランよりも劣る」。極めて重大な発言です。MI6長官を含め、他の政府高官たちも、このストロウの発言に異議を唱えません。
 アメリカが握っていた「大量破壊兵器」の情報を知らなかっただけでしょうか。それはありえません。MI6はそこまで無能じゃないですよ。彼らは最初から、イラク開戦の理由とされた「大量破壊兵器」なんか、どこにも存在しないことを知っていたのです。何もかもが意図して作られた嘘とこじつけでした。
 2004年に入って、元イラク大量破壊兵器捜索責任者デビッド・ケイ氏がイラクに「大量破壊兵器」が存在しなかったことを明らかにしましたが、ケイ氏はそれを諜報の「誤り」と説明しました。以後、アメリカ政府はこの問題の責任をすべてCIAに押し付けています。しかし、現在の我々がこのケイ氏の認識にとどまるなら、それこそが致命的な誤りでしょう

●自国民と世界をだまし通したアメリカとイギリスの指導者 (見出し一覧に戻る) 

 いま外相のストロウは「国連の武器査察団を再び受け入れよとの最後通告を突きつける計画を練る」ことが「法的な正当性を得る助け」になると発言しました。それに答えるゴールドスムス法相の言葉です。
 法務大臣が次のように言った。政権交代が望まれるとしてもそれは軍事行動にとって法的な根拠とはならない。考えられる法的根拠は三つある。正当防衛、人道を守るための介入、UNSC(国連安全保障理事会)が認めた攻撃。第一と第二のものはこのケースの根拠にならない。3年前の安保理決議1205に基づく攻撃も難しいだろう。この状況は変わるかもしれないのだが。

 法相は、イラクに対する軍事行動に何一つ明確な法的根拠の無いことを認めています。そして先ほどのストロウの「計画」が状況を変えるかもしれないことを示唆します。彼らは、誇り高いサダム・フセインが、度重なる国連の武器調査団という屈辱を、結局は受け入れなくなると確信していたのでしょう。実際にイギリス政府はこの手を使ってイラクを破滅へと追い詰めていきます。

 次はブレアー首相の番ですが、これは決定的な発言です。彼はストロウ外相の「計画」を具体的に説明しています。
 首相が次のように言った。サダムが武器査察官の受け入れを拒絶すれば、政治的そして法律的に、大きな違いが生まれるだろう。大量破壊兵器を作っているのがサダム政権であるという感覚で政権転覆と大量破壊兵器が結びつけられるのだ。リビアやイランに対処するのには違う戦略がある。政治的なコンテキストが正しいのであれば、国民はイラクの政権転覆を支持するだろう。

 何と「大量破壊兵器を作っているのがサダム政権であるという感覚で政権転覆と大量破壊兵器が結びつけられる」のだそうです。これは明らかに、プロパガンダによって人々に「大量破壊兵器を作っているのがサダム政権である」と信じ込ませる策略を示唆しているでしょう。それが「政権転覆と大量破壊兵器」を「結びつけ」ます。これが「政治的なコンテキストが正しいのであれば、国民はイラクの政権転覆を支持するだろう」という意味です。アメリカ政府もイギリス政府も、最初からその意図を隠して情報操作によって自国民と世界をだます画策をしていたのです。
 そのうえでブレアーは次のように述べます。
 重大な問題が二つある。まずこの軍事作戦がうまくいくのかどうか、次に、軍事作戦をうまく機能させるための政治戦略を我々が持っているかどうかだ。

 つまり「勝てる戦争ならやろう」ということですね。彼の判断基準はそこだけです。そしてこのダウニングストリート・メモは次のように結論を下します。
 我々は、英国がいかなる軍事行動にも参加することを前提として活動しなければならない。

 これが、アメリカとイギリスがいまだもって「イラクを独裁者から救った正義の戦争」と叫び続けていることの実体なのです。お分かりでしょうか?


●ものの見事にたぶらかされた世界 (見出し一覧に戻る)

 まとめてみましょう。まずアメリカ政府によるイラク戦争の意志があり、それが正式な政治日程の上に載せられました。その理由は何一つ語られず、イギリス政府もまたそれを全く問題にしていません。戦争という一つの国家にとってきわめて重大な政治行動を決定するに際して、これは異常としか言いようがないでしょう。そしてこのことは、両国首脳にとってフセイン政権を潰す本当の理由など「言わずもがな」の了解事項だった、ということを意味します。そしてイギリス政府は「うまくいく」と算段をつけたうえで参戦を決定しました。2002年7月23日のことです。
 ここで我国の朝日新聞の、同年8月31日付の報道を見ましょう。
 ブレア英政権がイラクへの対応をめぐり、ブッシュ米政権と距離を置き始めた。大量破壊兵器に関する査察をイラクのフセイン政権が受け入れるなら、軍事行動をとらなくても問題は解決できる、との柔軟な姿勢を示唆し……。

 その時点でイギリスの世論調査ではイラクへの軍事行動に反対が50%、支持が33%でした。イギリス国民と世界は完全にたぶらかされました。こうして2003年3月16日、ポルトガル領アゾレス群島で、アメリカのブッシュ、イギリスのブレアー、スペインのアスナールという三国首脳による、このでたらめな戦争の旗揚げ式が挙行される運びとなりました。これが事実です。一説に百万人を超えると言われる死者を出し、その何倍もの負傷者と無数の生活を破壊された人々を作り出している悲惨な戦争、右のグラフに見る通り日本人から天文学的な財産を奪い取ったこの殺人と破壊は、こうやって、隠ぺいとねつ造と大嘘によって始められたのです。

【参照データ】
The secret Downing Street memo (The Sunday Times)
Blair planned Iraq war from start (The Sunday Times)
イラク戦争、ブッシュ政権は四面楚歌(持田直武 国際ニュース分析)



(2)ペンタゴンは911直後にイラク戦争を決定していた!

●911の当日に「アルカイダ追及とサダムの打倒」 (見出し一覧に戻る)

 先ほどの「ダウニングストリート・メモ」によって、イラク開戦理由の「大量破壊兵器」なるものが最初から大嘘であり、すべてがアメリカとイギリスのでっち上げであったことは明らかでしょう。まず戦争への意志がありそれを日程表に載せ、次に自国民と世界を誤魔化す算段を立て、「根拠」ねつ造を実行し、それを隠ぺいと嘘でくるんで発表し、「合法」の衣を着て開始……、この戦争はこのようにして開始され続けられました。
 それでは、当のアメリカはいったいどの時点でイラクとの戦争意志を明確にしたのでしょうか。少なくとも2002年7月より以前であることははっきりしています。そのずっと前から彼らがサダム・フセイン政権を潰したくてウズウズしていた事は確かでしょう。しかし戦争という重大な政治決定はそうそう簡単に行えるものではありません。
 2001年9月11日、いわゆる「911事件」当日のことです。アメリカ国防長官(当時)ドナルド・ラムズフェルドは叫びました。
 私の関心事はアルカイダ追及と同時にサダムの打倒だ。

 これはNBCのペンタゴン担当責任者ジム・ミクラゼウスキー記者の証言ですが、午後1時を過ぎたころ、最初のハイジャック機がニューヨーク世界貿易センター第一ビルに激突してからわずか5時間足らずのことです。さらに、2002年9月4日のCBSニュースによると、9・11事件当日の午後、この国防長官は次のようにも叫んでいました。
 大々的にやれ。一掃せよ。関係あろうが無かろうが。

 この日の朝、8時13分ごろにアメリカン航空11便が乗っ取られ、8時46分にニューヨーク世界貿易センター北タワー(第1ビル)に激突しました。ペンタゴンに乗っ取り機が突っ込んだのは午前9時37分です。ところが、ラムズフェルドが午前10時半以前にどこで何をしていたのかの明確な記録が無いのです。救護班に混じって負傷者の救助を手伝っている姿が映像に残された以外には、彼自身の話を含めて矛盾だらけの証言しか存在しません。
 国防総省は、対外戦争だけではなく、世界帝国アメリカの本土防衛に最高責任を負う機関です。自国が不意の攻撃を受けた際に、その長官は何よりも防衛体制を立て直して国土への新たな攻撃を防ぐという絶対的な責任を背負っているはずです。その彼が、軍の最高司令官である大統領と連絡を取り合うでもなく、指令室で情報収集を命じるでもなく、新たな乗っ取りを防ぐべく空軍に指示を出すでもありませんでした。それを示す記録は全く存在していないのです。
 そして彼が「行方不明」の間、首都ワシントンと世界経済の中心ニューヨークのあるアメリカ東部海岸、および世界に冠たるアメリカ軍の総司令部でアメリカ国家の国防本部であるペンタゴン周辺上空が、完全な防衛空白地域になっていました。そもそも、国防の機能とその責任を抜きに国家は存在しえません。アメリカは911事件発生時に自ら国家であることをやめていた…、そうとしか言いようがない状態でした。ところが、ペンタゴン・ビルがまだくすぶり続けている時点での国防長官の発言が「アルカイダ追及」と「サダム打倒」だったのです。

 ラムズフェルドは、捜査当局による究明がまだ何も始まってもいないときに、どうして「アルカイダ」だと分かったのでしょうか。ひょっとして彼は「アルカイダ」のテロ計画の情報を事前にある程度知っていたのでしょうか。しかし、もしそうなら、どうして彼はテロを予測して防ごうとしなかったのでしょうか。もっと不思議なことに、どうしてラムズフェルドは「サダム(フセイン)」の名を口走ったのでしょうか。「関係あろうが無かろうが」とはいったいどういうことなのでしょうか。
 逆上して、このテロ事件の背後にサダム・フセインがいると思い込んでしまったのでしょうか。そうではないでしょう。ペンタゴンの高官たちは、9月11日午後の会議で、このテロが「(イラク攻撃の理由として)適切なケースだとはし難い(国防総省職員スティーブン・キャンボーンによる当日の筆写記録による)」と語っていたのです。また後でご説明することですが、アメリカ政府はこのテロとイラクを結びつけるような情報を全く持っていませんでした
 ではどうして「サダム!」なのでしょうか。ここで、他の証言を見てみましょう。このラムズフェルドの発言が一時の思い過ごしなどではなく、確信犯的な意図であったことが明らかになります。

●衝撃のクラーク証言:事件直後にイラク戦争を決定したペンタゴン! (見出し一覧に戻る)

 2007年3月にデモクラッシー・ナウのTV番組は、ウェズリー・クラーク将軍へのインタビューを放送しました。その中で彼は、2001年9月11日直後のペンタゴンの様子を生々しく証言しました。クラークは、コソボ戦争でNATO軍の上級合同司令官を務め、2004年の米国大統領選挙で民主党候補に立候補しケリー候補と争った人物です。拙訳(仮訳)ですが、そのインタビューでクラークが語ったことの一部をお目にかけましょう。
 事件の10日ほど後に私はペンタゴンに赴き、ラムズフェルド長官とウォルフォヴィッツ副長官に会いました。それから私はいつも私のために働いていた参謀本部の人々に挨拶をするために下の階に行きますと、一人の将軍が私を呼びました。「閣下、ちょっとお話があります」。私が「君は忙しいのじゃないかね?」と言いますと、彼は「いえ。実は、私達はイラクと戦争をすることについて議論を行ったのです」と言ったのです。

 ペンタゴン幹部の911テロ事件直後の関心は、「犯人」として指名されたアルカイダもビンラディンも飛び越えて、アフガニスタンどころかすでにイラクに集中していたのです。なおクラークは、危険を避けるためでしょうが、その将軍の名を明らかにすることを拒否しました。続けましょう。
 私は言いました。「イラクと戦争する?なぜだ?」彼は答えました。「解りません。たぶんあの人たちは他に何をするべきなのか知らないのでしょう」。

 軍人として長年の実績を積んできたクラークにとっては、まさに驚愕以外の何ものでなかったでしょう。宗教色を排しイスラム原理主義とは対立関係にあったサダム・フセインとそのイラクを、わずかにでも知っている者にとって、911テロの犯人と決め付けられたアルカイダをイラクと結びつけるなど、想像を絶することだったからです。
 「あの人たち」とはもちろん、ラムズフェルド以下、ポール・ウォルフォビッツ、ダグラス・ファイスなど、当時のアメリカ国防総省幹部たちのことです。この将軍が語る「他に何をするべきなのか知らないのでしょう」という言葉は、彼らのあまりに支離滅裂な決定にすっかり当惑し、他に言うべき言葉を見つけることのできない実直な軍人の気持ちをよく現しています。
 そこで私が「ウム、あの人たちはサダムとアルカイダを結びつける情報を何か見つけたのか?」と聞くと、彼は「いいえ、全く。それに関して新たなものは何もありません。あの人たちは単純にイラクと戦争しに行く決定をしただけなのです」と言いました。

 この将軍の話をいったいどのように解釈すればよいのでしょうか。戦争という国家にとって最も重大な政策に対して、その理由を示すことなく「単純にイラクと戦争しに行く決定をしただけ」とは。これが世界に冠たる軍事超大国アメリカの戦争政策の実態なのでしょうか。
 ひょっとするとその戦争決定の理由は「あの人たち」の中ではいまさら言う必要すらない、いわば「自明の理」に属するものになっていたのかもしれません。それは同時にイギリスの首脳部にとっても「自明の理」となっていたのでしょう。「事実は小説より奇なり」とは本当によく言ったものです。イラク戦争が、こんな時期に、こんなふうに決定されていたなど、どんな小説家の想像力も及ばないことでしょう。

【参照データ】
Hours after 9/11 attacks, Rumsfeld allegedly said, 'My interest is to hit Saddam' (The Raw Story)
NBC's Pentagon reporter weighs in on Tenet book (Rhode Island News)
Plans For Iraq Attack Began On 9/11 (CBS NEWS)
DoD staffer's notes from 9/11 obtained under FOIA (outragedmoderates.org)
Gen. Wesley Clark Weighs Presidential Bid: “I Think About It Everyday” (Democracy Now)


(3)イラク戦争とは?911事件とは?

●911事件とはいったい何だったのか? (見出し一覧に戻る)

 2006年4月23日にアメリカCBSテレビは、「ブッシュ政権はイラクに大量破壊兵器が無いというフセイン政権のサブリ外相からの内通情報を握りつぶして戦争に突入した」と告発する元CIA幹部ドラムヘラー氏のインタビューを放送しました。それによると、サブリから「大量破壊兵器は無い」という情報を入手したのは戦争開始半年前の2002年秋で、テネットCIA長官(当時)がブッシュ、チェイニー、ライスらに説明しました。しかしホワイトハウスからは「この種の情報には興味がない」、「焦点はイラクの体制転換だ」という答えが返ってきただけでした。
 イラクの「大量破壊兵器」が大声で取りざたされ、アメリカ政府が「イラク攻撃」を本格的に言い始めたのが、やはり2002年秋を過ぎてからです。しかし、今までにご紹介したアメリカでの情報が本当なら、アメリカ国防総省は2001年9月11日のテロ事件の直後にすでにイラク攻撃を決定していました。イギリス発の「ダウニングストリート・メモ」の情報とあわせるなら、後に「諜報機関の誤り」とされた開戦理由の「大量破壊兵器」が、意図的なねつ造だったことは明白でしょう。
 単なる「誤り」と「意図的なねつ造」ではまるで意味が異なります。従来のイラク戦争に対する議論が一変するばかりか、911事件をきっかけに始まったテロ戦争の意味自体も問い直されなければなりません。しかし現実には、「大量破壊兵器」の虚構が明らかになった後も、イラク戦争は「独裁者を取り除きイラクに民主主義を打ち立てた正義の戦いである」と語られ続けています。これでは彼らの言う「正義」なるものも「民主主義」なるものも、まともに信用できたものではないですね。

 さらに、ここで我々はもう一つの深刻な疑問を挙げざるを得なくなります。アメリカ政府が911事件の直後にすでにイラク戦争を決定していたとすれば、それではその911事件とはいったい何だったのか、ということです。
 たぶん二つの仮定が成り立つでしょう。
 一つ目は、ペンタゴンがイラクと戦争をしたくてしょうがなかった、ちょうどそのときにたまたま偶然、アメリカで経済の拠点と国防本部の防衛体制が数時間ゼロになり、ちょうどそのときにたまたま偶然、アメリカ政府とその諜報機関が全く何一つ知らないままにアルカイダのテロ計画が実行され、たまたま偶然、その攻撃のほとんどが成功した、というものです。
 二つ目は、テロ計画の情報を手に入れたが戦争計画を実現させるために意図して防衛体制を解除しテロを起こさせたか、あるいはひょっとするとひょっとして自分たちで事件を起こしたか…、です。
 しかし第一の仮定はマユツバ臭そうです。何せ、防衛体制をゼロにした責任を誰一人とっていませんし、あの国の諜報機関がそこまで無能とも思えませんからね。


●百万人を殺したトンデモ陰謀論:「フセイン=911の黒幕」 (見出し一覧に戻る)

 911事件直後に、アメリカ国防総省の幹部たちは、アフガニスタンを飛び越えてイラク攻撃を明らかにイメージしていました。事件当初に彼らがこのテロ攻撃の背後にイラクが控えていると思い違いをしまったのでしょうか。しかしアメリカ政府は911とイラクが無関係であると早い時期から分かっていました。それには先ほどの情報にあったこと以外にも多くの根拠があります。
 このテロ攻撃から10日後に大統領ブッシュに届いた機密情報によれば、諸諜報機関はイラクのサダム・フセイン政権と911攻撃を結び付ける証拠も、イラクとアルカイダの協力的な関係を示す証拠も持っていませんでした。さらに2002年2月に米国国防情報局によって発表されたテロ防衛情報概要は、911テロ攻撃がサダム・フセインとアルカイダの陰謀である可能性にはっきりと疑問を投げかけました。
 ところがチェイニー副大統領や他のブッシュ政府高官たちは、サダムと911を結び付けることに血道をあげていたのです。2009年4月21日付マックラッチー紙によりますと、副大統領ディック・チェイニーと国防長官ドナルド・ラムズフェルドが、グアンタナモ基地に収容されている「アルカイダのテロリスト」から、911事件とイラクとの関係を聞き出すようにCIAに命じ、常に拷問使用の圧力をかけ続けました。
 そしてその拷問を用いた「自供」に基づいて、チェイニーは「911の何ヶ月か前にチェコ共和国の首都プラハで、イラクの情報機関幹部が911乗っ取り犯リーダーであるモハメド・アタと会合を開いた」疑いを主張しました。しかしFBIもCIAもそのような会合が行われた根拠を何一つ発見できなかったのです。
 にもかかわらず、イラク開戦直前の2003年3月18日、ブッシュは議会に対する書簡の中で、次のような一段を添えてイラクに対する武力行使を正当化しています。仮訳ですが、ご紹介します。
 (2)米国憲法と公法107−243に従って行動することは、米国とその他の国々が国際テロリストとテロ組織に対して必要な行動をとり続けることと矛盾しないが、それには2001年9月11日に起こったテロ攻撃を計画し承認し実行あるいは援助した国々と組織あるいは個人が含まれるのである。

 当時大統領補佐官を務めていたコンドリーサ・ライスは、2009年3月に「(ブッシュ政権の)誰も、サダム・フセインが911の背後にいたと主張したことはない」と発言しました。たしかにこのブッシュの書簡には「サダム・フセインが911テロを計画し承認し実行あるいは援助した」とは書かれていません。しかしこれは議会に宛てたイラク攻撃正当化のための書簡です。少なくとも、ブッシュ政権がアメリカ議会と国民に、イラクが「2001年9月11日に起こったテロ攻撃を計画し承認し実行あるいは援助した」と印象付け信じさせようとした事実は否定不可能ですね。

 しかし最も大切な点は次の現実です。「言ったか、言わなかったか」などを問題にするのは、単なるごまかしでしかありません。2006年1月から2月にかけてのゾグビー社の調査によれば、イラクに派遣された米兵のうち、93%が「大量破壊兵器の捜索と破壊は軍事行動の根拠ではない」と回答している一方で、その軍事行為を「911同時多発テロでサダム・フセインが果たした役割に対する復讐」と信じる兵士が85%にのぼっていました。すでにブッシュ政権が「大量破壊兵器」はもちろん「イラクの911関与」を公式に否定していたにもかかわらず、このような結果でした。
 これは決して兵士たちが愚かだったためではありません。これは、アメリカ軍も政府もマスコミや言論界も、この真っ赤な大嘘、このトンデモ陰謀論を、積極的に打ち消す努力をするどころか意図的にほったらかしにして、「復讐心」を兵士たちのエネルギー源として利用し続けてきたことを意味します。
 嘘は核兵器をも超える大量破壊兵器なのです。「サダム・フセインが大量破壊兵器を持っている」、「サダム・フセインが911事件の黒幕である」という根も葉もない大嘘を世界に垂れ流したブッシュ政権と大手メディア、その解説者たちこそ、最も危険な陰謀論者
と言えるでしょう。
 いわゆる「911の陰謀論」は誰も殺していません。何も破壊していません。一方で「サダム・フセインが大量破壊兵器を持っている」、「911の黒幕はサダム・フセインである」というトンデモ陰謀論が、イラク侵略戦争を根底から支え、一説に百万人を超えるとすらいわれるイラク人を殺害し、イラク人の生活と文化を破壊してきたのです。そして911事件の米国政府の説明に対する疑問を「陰謀論」として非難する人々が、この「911の黒幕=サダム・フセイン」の純然たる陰謀論を非難したことはありません。この種の人々はこの嘘まみれの戦争の犠牲者に対する冒涜をはたらいているのです。

【参照データ】
Key Bush Intelligence Briefing Kept From Hill Panel (National Journal)
Report Warned Bush Team About Intelligence Doubts (New York Times)
Feeling the heat? (Talking Points Memo)
Bush Gang Swore Saddam Was Behind 9/11 In Lawsuit (OpEdNews)
Bush Lies: Saddam & 9/11: A Smoking Gun And A Warm Body
イラク駐留米軍兵士の意識調査:72%が「米軍は1年以内に撤退すべき」(暗いニュースリンク)
イラク駐留米兵、72%が年内撤退に賛成(イラク情勢ニュース)


●どうしてこの嘘と隠ぺいが犯罪とされないのか? (見出し一覧に戻る)

 イラク戦争は、最初から今に至るまで、嘘と隠ぺいだらけなのです。「大量破壊兵器」などはその一端に過ぎません。アメリカとイギリスの政府当局者たちは、意図的・計画的に、自国民と世界各国民を騙しました。これは、古代や中世の国家でもファシズム国家でもなく、ロシアでも中国でもイランでもなく、現代世界で最も声高に「民主主義」を標榜する国家で行われたことなのです。先ほども申し上げたように、この両国の大嘘に対して「敵を欺くには味方から」などと弁護するならば、それは単なる思い違いか意図的なごまかしでしょう。イラクは彼らがだまして攻める必要もないほど弱体化した国でした。彼らは戦争計画を円滑に進めるために「味方」である自国民と同盟国の国民を意図的にペテンにかけたのです。
 こんな戦争の中で数々の目を覆うような悲惨な出来事が続くのは当然です。この大国指導者の嘘を問題にせずにイラク戦争について語るならば、それは「片手落ち」どころか、この巨大な嘘を黙認し容認する犯罪的な行為ですらあるでしょう。

 それにしても911事件当日の不可思議な国防長官の言動を知っているはずのNBCやCBS、ブレアー政権の大嘘付きを報道したタイムズ自身が、どうしてそれ以上これを問題にしなかったのでしょうか。なぜその他の主要メディアがこれらの情報を無視し追求を行わなかったのでしょうか。クラークの重大証言がなぜ主要メディアに無視され続けているのでしょうか。
 もしアメリカやヨーロッパ、日本などのマスコミが、このようなイラク戦争開始に関する疑惑を人々に広く知らせていれば、911事件とイラク戦争を含むテロ戦争それ自体の見直しを求める大きな動きと圧力が生まれていたことでしょう。世界の大手メディアは、いったいどんな理由があってこのような情報を埋没させ続けているのでしょうか。そのことが、アメリカ国民はもとより、日本を含む世界各国国民にとって、プラスにはなっても決してマイナスになる要素はないと思うのですが……。

 何よりも奇妙なことなのですが、現在までに日本の主要マスコミによって、以上のような極めて重大な情報が日本人に知らされたでしょうか。おそらく皆無でしょうね。なぜでしょうか。小泉政権が、イラク戦争を含むアメリカのテロ戦争戦略に歩調をあわせて数十兆円もの米国債を購入し、国民の財産をこの大嘘つきどもの手に渡していたというのに……。どうして日本のマスコミは、他の何をさておいても、このペテンについて調査し大々的に報道して、国民に知らせようとしないのでしょうか?

 しかしどうやら2010年11月になって、少しはこのような状況も変化してきた様子です。あの、世界の「反戦平和運動」に多大な影響を与えてきたマサチューセッツ工科大学のノーム・チョムスキー教授が、イラン国営Press TVとのインタビューで次のように語りました。
 この(アフガニスタン)戦争の明確に宣言された動機は、世界貿易センターとペンタゴンへのテロ攻撃に関与したとして罪に問われた者たちを米国に引き渡すようにさせることでした。タリバンは…証拠を要求しましたが…、ブッシュ政権はいかなる証拠をも見せることを拒否しました。…後になって我々は、どうして彼らが証拠を提出しなかったのかの理由の一つが分かりました。彼らはそれを何一つ持っていなかったのです。

 それは911事件を「アフガニスタンの山奥に潜むビンラディン=テロリストの陰謀」であるとする純然たる陰謀論でした。まあ、いまさらチョムスキー教授に指摘されるまでも無いのですが、アルカイダが911事件を起こした証拠など、実際に何一つありませんでした。あるのは、911委員会報告の「唯《筋書き》主義」で書かれた長々しい文学作品と、どこでどう作られたのかも分からない怪しげな「ビンラディンのビデオ」だけです。
 イラク戦争以上にデタラメでいいかげんな陰謀論を振りかざして、米国と英国は、今まで9年間もアフガニスタン人の命と生活と国土を破壊し、さらにパキスタンにまで戦線を広げ、無人機などという大量破壊兵器で野蛮な殺戮を続けています。米軍幹部が「50人ほど」と判断する「アルカイダ」を探すために、数知れない人々を殺し、広大な地域を破壊し、伝統的な社会と国を崩壊に追いやっています。
 同教授は言います。
 これらの全ては完全に違法でした。それ以上に犯罪でした。
 そう。犯罪です。純然たる戦争犯罪です。違いますか?

 しかしながら、日本のテレビや新聞などのマスコミは、今までに述べたような嘘と隠ぺいを人々に知らせる気を持たないどころか、さらに嘘の上に嘘を積み重ねようとしているように見えます。また、「反戦」や「平和」を語る人々すら、いまだにこういった大嘘と隠ぺいを犯罪と認める意識を持ち得ないようです。
 おそらく現代という時代における最大の危機はこの点にあるのでしょう。

(2010年11月、文責:童子丸開)
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