メニューにもどる  「現代世界:虚実の皮膜」目次に戻る
画面中央のタグの
「閉じる」をクリックしてください。

《お願い》 このページにあるリンク先をそのまま左クリックすると、いまの画面と同じ場所にリンク先のページが現れてくるため、両方を効率よく見比べることができなくなると思います。リンクの部分にカーソルを当て、手のマークが出たら右クリックから「リンクを新しいタブで開く」または「リンクを新しいウインドウで開く」を選択していただいたほうが便利でしょう。ご面倒ですがよろしくお願いします。


東西欧州を襲うファシズムの嵐

 元々私は次のグローバルリサーチ誌の記事を翻訳して公開する予定だった。
Ukraine and the Rebirth of Fascism in Europe
http://www.globalresearch.ca/ukraine-and-the-rebirth-of-fascism-in-europe/5366852
 ところがこの記事の翻訳は「マスコミに載らない海外記事」様に先を越されてしまった(感謝!)。こちらのサイトをご覧いただきたい。これは上のグローバルリサーチ誌の記事の源であるEric Draitserの記事の和訳である。
ウクライナと、ヨーロッパにおけるファシズムの復興(Eric Draitser 2014年1月30日 stopimperialism.org)
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2014/02/post-155c.html

 そこで、第2案として取っておいたWSWS(World Socialist Web Site)による次の記事を和訳(仮訳)してお目にかけることにした。
『ウクライナが揺れ動くとき、寡頭支配者どもは右翼反対派との対話を呼びかける』
As Ukrainian regime totters, oligarchs call for talks with right-wing opposition
By Alex Lantier ; 28 January 2014
http://www.wsws.org/en/articles/2014/01/28/ukra-j28.html
これはまたグローバルリサーチ誌でも読むことができる。
http://www.globalresearch.ca/as-ukrainian-regime-totters-oligarchs-call-for-talks-with-right-wing-opposition/5366504

 WSWSはトロツキスト系の情報誌であり、私としてはその主張的部分の全てに賛同できるわけではない。しかしこの記事には、ウクライナに関する他の情報誌や新聞の記事では欠けている極めて重要な、むしろ最も本質的な、事実に対する視点が盛り込まれている。それは、ウクライナの「政治危機」における、ウクライナ国内の寡頭支配者、世界の富を支配する「1%」に所属する者たちの存在とその役割である。これが、私がこの記事を和訳しようと思った動機なのだ。

 これはどうか、上にあげた「マスコミに載らない海外記事」様の訳文と併せてお読みいただきたい。そうすることで、欧州の西と東で吹き荒れ始めたファシズム化の全体像を見て取ることができるだろう。そのファシズム化は、決して「死んだはずのファシズムが生き返った」ものではなく、別の仮面をかぶって何十年も100年も前から存在し続けるファシズムが、本性を表わしただけのものだ。「新自由主義」などと気取った化粧を施して人目をくらましてきた資本主義的寡頭支配こそがその本来の姿なのである。ヒトラーとナチスを産み育てた欧米の資本家たちの行状がファシズム本体の所在を明らかにさせることだろう。
 (参照:http://bcndoujimaru.web.fc2.com/archive/Vladimir_Jabotinsky3.html#7bu

 EUが現在のウクライナの反対派を支援する理由は、下記の翻訳にある戦略地政学的な理由ばかりではない。それは、ウクライナをロシアから切り離し、欧州の寡頭支配者どもがウクライナの支配者と手を組んで、この国を新たな餌として食い荒らし人々の生活を破壊することである。ちょうどスペインのような西欧の国々がそうなっているように。東欧諸国がEUに組み込まれて以来それらの国々は経済破たんをきたし、バルセロナの街には東欧系の強盗どもと東欧系の売春婦が急増している。EUに組み込まれるとはこういうことだ。親EUのウクライナ人たちは、自分たちがあこがれるEUについて全く勘違いをしているか、あるいは知ってそのおこぼれの頂戴を期待しているかのどちらかだろう。その中心的な勢力となっているのが親ナチ的なファシスト集団なのだ。ギリシャでもそうなのだが、本来なら資本主義的寡頭支配者に向かうべき民衆の怒りがこのファシズム運動によってあらぬ方向にそらされている。加えて無能で抑圧的な政府が国の混乱を拡大させる。しかしその両者に共通するのは、どちらも寡頭支配者を後ろ盾にしている事実だ。興味深いことに、そのどちらも「民主主義」を標榜している。

 この「民主主義」と「ファシズム(独裁主義、警察国家、軍国主義等を含む)は、おそらくキメラの双頭であり、その本体がこの寡頭支配を徹底させようとする「1%」なのだろう。彼らは自らの利権と支配力を拡大するために、安定が必要なら安定を維持させ、抑圧と混乱と戦争が必要ならそれを作りだす。この数十年間の米国の歴史を冷静に振り返ってほしい。米国の対外政策に源を発する抑圧と混乱と戦争が、米欧資本主義にどれほどの大きな富をもたらし続けてきたことかを。
(参照:http://bcndoujimaru.web.fc2.com/fact-fiction/fact-fiction_of_our_age-mokuji.html#fukkoku

 「マスコミに載らない海外記事」様の訳文の中でも取り上げられているが、我がスペインではとんでもない抑圧的な警察国家化が推し進められている。同時に、詳しくはいずれ私のサイトでご紹介したいことだが、教育政策、少数民族政策、宗教、社会生活(特に堕胎問題をめぐって)での、全面的なフランコ独裁主義への回帰が目論まれている。この国ではファシズムの具体的な形が基本的に「上から」やってくるのだが、その背後にいるのは、ウクライナと同様に、「1%」に属する寡頭支配者どもなのだ。ヨーロッパの西でも東でも、国境を持たない資本主義による寡頭支配の徹底がファシズムの本当の姿である。
(参照:http://bcndoujimaru.web.fc2.com/spain_jouhou/menuspainhtml.html#chuunanbei
    http://bcndoujimaru.web.fc2.com/spain-2/totalitarian_Spain.html
およびhttp://bcndoujimaru.web.fc2.com/spain_jouhou/menuspainhtml.html#keizaikiki

 ところで日本ではどうだろうか? 私は、日本の軍国主義とファシズムが「突然よみがえった」かのような理屈は信用しない。ファシズムは、国民に対しては「民主主義」の化粧でその素顔を隠したままで、何十年間も変わらぬ形で、というより、強化されつつ存在し続けたのではないのか。確かにいまの日本は病んでいるだろう。しかしその病は本当は何十年も前から続いてきたもので、以前は「発熱」を「元気な証拠」と思い込んで「経済発展」に精を出し続けてきたものが、もはや断末魔の苦しみに近づいてきている、というのが真相ではないのだろうか。この点は、日本を離れて久しい私などではなく、日本にいる人に考えてもらいたいと願う。

 なお、下記の訳文(仮訳)ではウクライナ語の発音で確信を持てない固有名詞が多く、とりあえず英語原文の英語綴りを( )にいれて添えておいた。誤った発音表記があるかもしれないがご容赦いただきたい。また、ウクライナの西部はポーランドやリトアニアの一部となっていた歴史もあり伝統的に欧州に親近感を持つ地域で、逆に東部は伝統的にロシアとのつながりが強い。同じウクライナと言っても各地域で成り立ちが大きく異なることも参考にしてお読みいただきたい。

(2014年2月4日 バルセロナにて 童子丸開)

*******************************************************
ウクライナが揺れ動くとき、寡頭支配者どもは右翼反対派との対話を呼びかける
By Alex Lantier ; 28 January 2014

 ウクライナで抵抗と政府ビルの占拠が広がるなか、その国の産業寡頭支配者(オリガルヒ)たちがヴィクトル・ヤヌコヴィッチ(Viktor Yanukovych)大統領に会って、欧州連合(EU)と米国に支援される右翼セクターのリーダーと交渉するように呼び掛けた。その呼びかけはウクライナ議会の特別な審議と、ウクライナに焦点を当てることを期待されたブリュッセルでのEU−ロシア対話の導火線となり、今日それらはどちらも行われつつある。

 キエフの独立広場を中心に抵抗が続くにつれて、ヤヌコヴィッチ政権は伝統的により親欧的な西ウクライナの中で溶解しつつある。何千人もの抵抗者たちは西ウクライナの9つの地方政府を掌握した。その3つ ― リヴィヴ(Lviv)、ルツク(Lutsk)そしてテルノピル(Ternopil)は、リヴィヴに本拠地のある新しい「人民のラーダ(Rada:議会?)」政府に対する忠誠を表明する。

 抵抗は南部と東部ウクライナにも広がっている。そこはザポリツツィヤ(Zaporizhzhiya)、デニプロペトロフスク(Dnipropetrovsk)とケールソン(Kherson)地域で、伝統的にはヤヌコヴィッチが支配する地域政党に忠実な場所だ。

 独立広場付近での街頭戦の大部分は、地域政府の奪取と同様に、わずか数千人の抵抗者によって行われたのだが、それらはファシストの反ユダヤ主義スヴォーダ党と右翼セクターのグループに動かされていた。ウクライナを不安定化させるそのような勢力の能力は、ヤヌコヴィッチの反動政権の不人気さと狭い社会基盤を証明するものだ。

 より幅広い社会階層の人々が反対派の抵抗に参加して、悪名高いベルクット(Berkut)治安警察による殺人に対する怒りと政府の新しい苛酷な抵抗禁圧法案に対する反対を表明した。
日曜日に数千人が、警官隊との衝突で殺された25歳の右翼セクターの一員であるミハイル・ジズヴェンスキー(Mikhail Zhizvensky)の葬儀に集まった。治安警察が抵抗者を裸にしているビデオも現われた。

 ヤヌコヴィッチ政権が崩壊の瀬戸際でふらついている一方で、反対派も容易には権力を握ることができない。反対派は南部と東部ウクライナ地域のロシア語圏で幅広い敵意に直面している。親政府派の抵抗が近ごろ、東部ウクライナの産業の中心地であるドネツクで、またクリミア(Crimea)、カルキフ(Kharkiv)、ウズゴロド(Uzhgorod)、ルハンスク(Luhansk)地域で報告された。

 昨日、閣僚会議が開かれて大規模な弾圧を伴う危機解決の可能性について議論が行われ、治安部隊の人数を6倍の3万人に増やすことと、ベルクットとグリフォン(Griffon)警察部隊のためにもっと多くの武器を買い入れることが提案された。

 ところがBBCによれば、現在のところその会議は次のような結論に達した。「この国の兵士や内務省軍や治安警察の一人一人全員のどこに同調者がいるのか誰も知らない…。もしも当局者たちが弾圧することを選んでもそうする十分な力が無いのなら、この国に秩序を回復させるのではなく、ヤヌコヴィッチ氏の最後という結果を招く可能性が高い。」

 こういった状況の下で、昨日あるウクライナの寡頭支配者たちのグループが会合を開き、反対派と政府との和解を求めた。そのリーダーであるリナト・アクメトフ(Rinat Akhmetov)はヤヌコヴィッチの後援者であり120億ドルを持つウクライナ最大の富豪なのだが、そのシステム・キャピタル・マネージメント(SCM)グループのウエッブサイトに声明を掲げた。

 それにはこう書かれた。「政治的危機を解決できるのは平和的な行動だけだ。力と武器のいかなる使用も認められない。そのシナリオではウクライナに勝者はおらず、犠牲者と敗者だけが残る。しかし最も大切なことには、力の使用が解決の道を見出す助けにならないのだ。」

 政府と反対派はこの寡頭支配者たちに従った。夕方になってヤヌコヴィッチの最高スタッフが反対派のリーダーたち、ウダル(Udar)党のヴィタリ・クリスチコ(Vitali Klitschko)、祖国(Fatherland)党首のアルセニィ・ヤツェニウク(Arseniy Yatseniuk)、スヴォダ(Svoboda:自由)党のオレフ・ティヤフニボク(Oleh Tyahnibok)と会った。

 ガーディアン紙との会見でクリスチコは寡頭支配者たちを褒め称え自分と彼らとの緊密な結びつきを誇った。「個人的な会話の中で、オリガルヒたちの全員が法の支配という考えを支持している」と彼は語った。「指導者が変わり、法が変わり、そして法制度の欠落のためにビジネス・グループはその資産を維持する確信が持てない」。この言いざまは、西側諸国が後ろ盾となる反対派とそして政権の両者を動かす反労働者アジェンダを指し示している。その両者とも、1991年のソ連崩壊による資本主義復活から現われてきた反動的な資本主義寡頭支配者(オリガルヒ)の擁護に専念しているのだ。ヤヌコヴィッチと反対派との衝突は単に、モスクワに向かう政府とEUに向かう反対派の、どちらの戦略地政学的な戦術が寡頭支配者たちに独占される「資産」をより確実に保護するのかをめぐるものに過ぎないのだ。

 現在の政治危機と反対派の抵抗運動は昨年現われたが、そのときにウクライナは国際的な銀行群に対する150億ドルを超える借金で国家破産の可能性に直面していた。最初ヤヌコヴィッチはEUとのより緊密な結びつきを確立させるための作業の一部として厳しい緊縮財政措置を検討していた。そこから後戻りロシアからの財政援助を求めるという彼の決定は ― エネルギー補助金と社会保障計画への大幅カットによって労働者階級の間に社会的な怒りの爆発が産み出されることを恐れてのものだが ― 反対派の抵抗の引き金を引いた。

 ところが、親EUの反対派とヤヌコヴィッチ政権の両者とも、国際的な銀行群への返済を行うことと、そのコストを億万長者の寡頭支配者ではなく労働者階級に負わせる点については一致している。支配エリート内の異なった派閥が、反対派のファシスト雇われ暴力団部隊と政府の治安部隊によって繰り広げられる暴力と弾圧を計画する一方で、労働者階級への敵意、および緊縮財政計画への労働者の反対に対する恐れという点で、この両者は結びついているのだ。

 この状況は、1991年のソ連で起きた資本主義の復活、および国民の政治的覚醒に敵対するスターリニズムの反動的な影響力の復活を告発するものである。

 資本主義の復活はウクライナで社会的な災厄をもたらしてきた。1990年から2000年までに、この国の国内総生産(GDP)は900億ドル(世界経済の4%)から310億ドル(世界経済の1%)に落ちた。それ以来の経済成長がもたらした成果は、ことごとく、資本主義復活時期にウクライナの国有資産を根こそぎにした超富豪の寄生的寡頭支配者層の方に行ってしまった。

 2008年にウクライナの50のトップ寡頭支配者たちが持つ富の合計は1127億ドルであり、国内総生産(GDP)の3分の2だった。この国の経済の85%ものビジネスにおける主要な投資は彼らの私的な所有から来るものだ。

 寡頭支配者どもの途方もない富と国民生活に対する独裁主義への人民の怒りは、ソビエト後のウクライナの変わらぬ特徴である。ところが、トロツキーの左翼反対派と労働者階級のあらゆる独立した政治活動に対するスターリン主義ソビエト官僚による徹底弾圧のせいで、この寡頭支配ギャングどもに対する、労働者階級に基盤を置いた組織的な抵抗が存在しない。寡頭支配者どもが不当に手に入れた富を没収するための労働者による闘いを、社会主義に向けた闘争の中で行う政治組織が、ウクライナ国内に存在しないのだ。

 労働者階級の政治的代表が存在しない中で、民衆の反対は一連の右翼的な政治工作によって操作されてきた。こういうことで、2004年に米国に支援されてヤヌコヴィッチ政権を倒した「オレンジ革命」でのデモ隊の叫びが「政治家からカネを奪い取れ」だったわけである。

 その「オレンジ」政権が右翼的政策の為に信頼を失ってヤヌコヴィッチが再び権力を手にしたときに、皮肉なことに彼はウクライナの社会的不公平に言及することとなった。2012年に彼はこう語った。「我々は富豪と困窮者との間にある途方もないギャップを縮小させる必要がある。我々は困窮者に手を差し伸べるべきだ。そして健康な人々に就職の機会を与え障害者の為に信頼のおける保護を提供するという状況を作らねばならない。」

 労働者階級の眼前につきつけられる中心的な課題は、ヤヌコヴィッチ政権に対すると同時に西側に支援されるファシスト的な反対派勢力の完璧に反動的な目論見に対する、自らの独立した闘いを発展させることである。反対派への米国とEUの支援は、反対派がウクライナかまたは西ウクライナの属州をでも支配することになれば、ロシアと中東に対する彼らの作戦を打ち立てることができる、という期待からのものである。

 ウクライナの支配を求めて米国と欧州の帝国主義は幅広い戦略地政学的な目的を追求している。この国は、ロシアのガス田と欧州の市場をつなぐ大きなガス・パイプラインをコントロールしている。トランスガスとソユーズのパイプラインだが、ロシアから欧州へのガス輸送のおよそ80%と計上されるものだ。ウクライナはまたロシア海軍が使用する重要な海軍基地を有しており、それは昨年9月に米国のシリア攻撃に反対するために使われたのである。

【翻訳ここまで】
*******************************************************
 

inserted by FC2 system