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戦略兵器としてのマスコミ

ウクライナをめぐるメディア戦争


 今年の2月に、政治的・経済的にアメリカとEUからの全面支援を受けたネオナチのならず者ども(+謎の狙撃手)の暴力によって、ウクライナの合法的で正当な選挙で(つまり民主的に)選ばれた大統領が追い出された。このクーデターの結果生まれたキエフ傀儡政府は、同国東部のロシア人地区(歴史的には元々ロシア領でウクライナ人フルシチョフによってクリミアと共にウクライナに併合させられた地区)の分離独立を求める勢力を「テロリスト」と呼んで軍を繰り出した。その動きを、ワシントンがCIAの高官を送り出して全面支援している( White House confirms CIA director visited Ukraine over weekend -RT)のだ。米欧メディアの一部をなすスペインの主流マスコミは、マイダン広場のファシストどもを「抵抗者(protestantes)」と呼び東ウクライナの親ロシア派住民を「反乱者(rebeldes)」と呼んで、西側プロパガンダ機関としての本領を発揮している。今後いつこれが「テロリスト(terroristas)」に変わるのだろうか。

 私は前に拙訳文「ウクライナのファシズム革命(イズラエル・シャミール著)」の中で次のように書いた。

 今後はウクライナ西部の米欧ファシスト支配地域と東部・南部のロシア語地域に分かれて事実上の内乱状態となり、ウクライナ各地で、かつてナチ協力者たちの末裔であるファシストどもによって、ロシア系住民・ロシア語圏住民に対する壮絶な弾圧と破壊・リンチが打ち続くことが予想される。そして南部に海軍基地を持つ以上、ロシアは様々な形で積極的な関与をせざるをえなくなるはずだ。プーチンが(そしてNATOが)すでにその準備を進めていることは明らかである。クリミアではすでに前哨戦が始まっている。こうやって世界は加速をつけて「きな臭い時代」に突入していくのだろう。
 こんな悪夢のような予想が当たらないことを祈るのみだが、実際に、ネオナチのおかげで牢獄から解放されたユダヤ系ウクライナ人の腐敗政治家で次期大統領の最有力候補(として米欧が後押しする)ユリア・ティモシェンコは電話で次のように語った。「我々が銃をつかんであのロシア野郎どもをその指導者と一緒に殺す時がきた( “It’s about time we grab our guns and kill those katsaps [a derogatory Ukrainian word] together with their leader,” )」WSWS(World Socialist Web Site)3月25日付の記事Leading US-backed Ukrainian politician calls for annihilation of Russiaによる )。この対ロシア戦争とプーチン大統領の殺害を示唆するティモシェンコの話は盗聴された電話によるものだが、会話の相手はウクライナ国家国防安全保障委員会の元副書記長のネストール・シュフリーチである。こちらでその英語字幕付きビデオをご覧いただきたい。

 この下品で野蛮な女は同じ電話で、東ウクライナにいる800万人のロシア人を(核兵器で?)皆殺しにすること、そして米欧諸国にロシアを灰にすることを要求したという。あの「Fuck the EU!」と叫んでウクライナのネオナチを全面支援したヴィクトリア・ヌーランド(ユダヤ系アメリカ人のネオコン)と同列の下劣さだが、ロシアとウクライナのロシア人たちはこのニュースを知っている。その言葉が酩酊状態での冗談ではないことは誰にでも分かる。皆殺しにされる前に命がけで戦おうとするのは当然だろう。
(4月16日付のロシア国営RTのニュースは、東部ウクライナのスラヴヤンスクで、数多くのウクライナ軍部隊がキエフ傀儡政権の「テロ鎮圧」命令を拒否して親ロシア派武装住民側に投降し、あるいは自ら参加を表明した劇的な事実を伝えている。兵士たちは「何が本当の愛国心なのか」を知っていたのだ! しかしその一方で、ウクライナ南東部のマリウポルにある軍基地周辺で4人の反傀儡政権派メンバーが射殺されたことも伝えられている。ロシア外相ラヴロフは紛争拡大を防ぐロードマップについての合意を発表したが、今後の展開は予断を許さない。)

 ここに、少し前のものだが、3月27日付Global Research誌記事の拙訳を掲げておくので、ぜひお読みいただきたい。
 http://www.globalresearch.ca/controlling-the-lens-the-media-war-being-fought-over-ukraine-between-the-western-bloc-and-russia/5373364
Controlling the Lens: The Media War Being Fought Over Ukraine Between the Western Bloc and Russia
The BBC and CNN versus RT   (By Mahdi Darius Nazemroaya  Global Research, March 27, 2014)
 この記事は、近代戦争において大規模情報媒体(マスメディア)が必要不可欠の兵器である事実、そして現在のウクライナをめぐって二つの陣営が繰り広げる壮絶なメディア戦争について語るものである。

 戦争プロパガンダは、敵陣営を混乱させ戦術の誤りやその内部での離反を誘発するための対外的な攻撃手段であるという以上に、自陣営に住みその税金や労力や命で陣営を支えるべき人々を大規模に囲い込み、戦争目的に沿って動かし離反を許さないための、対内的な攻撃手段である。必然的にそれが広める情報は、嘘、誇張、ねつ造を含む、つまり虚構にならざるをえず、またそれを理屈だけではなく人間感情の最も深い部分からしっかりとつかんで一人一人の内部から突き動かし疑念すら排除するもの、つまり神話 として機能することになる。

 私は『「スペイン内戦」の幻想と傷と癒し』の中でセビーリャ大学研究員コンチャ・ランガ・ヌーニョの論文の一部を紹介した。ここで「プロパガンダをすぐれて公的な機能にまで、国家と社会の中心柱にまで高めるための手段」と書かれているのがマスコミであることは言うまでもない。
(前略)このような状況の中で、プロパガンダとそのコントロールが最も大切な手段となった。アレハンドロ・ピサロソが断言したとおりである。「スペイン内戦は武器と戦術の実例の宝庫であったと共に、情報とプロパガンダの分野におけるパイオニアだった」のだ。この点に関しては、大戦間のヨーロッパで全体主義のシステムが主役を演じていたことを思い起こす必要がある。スペインの両陣営によって追求された形態はそれに沿っていた。そしてそれはヘスス・ティモテオ・アルバレスが次のように示唆している。
 『ここでは、このような全体主義のシステムが幅を利かす。それは党派主義者と狂信者であることによって、少なくとも精神的に帝国主義者であることによって、大衆の共感を得る必要があるし、プロパガンダをすぐれて公的な機能にまで、国家と社会システムの中心柱にまで高めるための手段を必要とするのである。
 マスコミの兵器としての機能は既に1898年の米西戦争で発揮されていたわけであり、2度の世界大戦、中東戦争、冷戦とその「代理戦争(ラテンアメリカのクーデター・軍事独裁を含む)」、冷戦後の湾岸戦争とバルカン戦争と、それはある意味で核兵器以上の威力を持つ戦略兵器として、ただしほとんどの人にはそうと悟られることなく、使用されてきた。軍事的な戦争だけではなく、核開発(日本では「原子力開発」と呼ばれる)やネオリベラル経済とそのグローバリゼーションといった非軍事面での戦略で、絶大な威力を発揮してきたのがマスメディアの情報力であった。

 その情報がほとんどの人にプロパガンダであると悟られなかったのはなぜか? 冷戦時代を思い起こしてみれば明らかだろう。アメリカとヨーロッパに本拠地を置く西側メディアの論調は、学校でそれを受け入れやすく訓練された人々の頭脳に毎日のように繰り返して大量に刷り込まれた。たまに対立陣営からの情報が入って来ても、ほとんどの場合は数日あるいは数年遅れてのことであり、また西側メディアのフィルターを通してのものだった。直接に入ってくるものはごくわずかであり、その多くが無視と嘲笑と攻撃の対象となるに過ぎなかった。個々人の判断の元になる情報の比較対象が不可能だったからだ。

 だがその状況は、皮肉なことにいわゆる情報革命が本格化し情報社会と言われる21世紀になってから劇的に変化している。今日、一部の地域を除いて世界中のどこででも、インターネットなどの手段を通してロシア国営RTイラン国営Press TV などのチャンネルに接続でき、一方の側からだけでなくその敵対者の側からも瞬時に、同時並行的に、文字だけではなく視聴覚的な手段を通して、情報を得ることが可能となってきた。このことが、従来の西側マスメディアが持つプロパガンダ機関としての機能の有効性を致命的に後退させている。メディア戦争によって、西側だけが一方的にこの巨大戦略兵器による成果を楽しむ時代は終わりを宣告されたのだ。マスコミだけではなく、それに付随して西側陣営の世界戦略を支えてきた人権団体なども、その権威と信用を大幅に失い、いまや単なる謀略活動の装置としての顔をむき出しにしつつある。

 2001年のいわゆる9・11事件以来の軍事的・経済的・社会的な戦争における最も重要な局面としてのメディア戦争は、ひょっとすると人類社会を取り返しのつかない破局に陥れるのかもしれないし、あるいは逆に、あらゆる種類の戦争と侵略と抑圧を永久に終わらせる偉大な成果をもたらすのかもしれない。このGlobal Research記事の作者であるナゼムロアヤのような自覚した優れた観察者・分析者が今後次々と登場して、プロパガンダ機関としてのマスメディアの在り方を具体的に明らかにしていき、マスコミを本来の文字通りの報道機関に立ち直らせてくれることを、心から祈らざるを得ない。

※ 関連情報として以下も参照いただきたい。
ウクライナ・ネオナチ司令部の下で動くイスラエルの特殊部隊 (2014年3月10日) 
ウクライナのファシズム革命 (2014年2月28日)
大メディア、ソーシャル・メディアによるベネズエラ「反政府抵抗者たち」という映像詐欺 (2014年2月24日)
ウクライナでのファシズム運動の背後に潜む寡頭支配者:東西欧州を襲うファシズムの嵐 (2014年2月4日)

2014年4月17日 バルセロナにて 童子丸開

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レンズのコントロール:ウクライナをめぐって戦われる西側ブロックとロシアのメディア戦争
BBC、CNN vs RT

マフディ・ダリウス・ナゼムロアヤ
Global Research, March 27, 2014


 各国政府とメディア企業はマスメディアの報道を通して、世論形成および論争の過程を支配し、あるいは少なくとも操作しようと試みている。それらは同時にマスメディアの報道を通して情報戦争を遂行する。他の地政学的な出来事と同様にそれは、ウクライナの反政府抵抗運動と2014年2月のキエフでのクーデターに関しても当てはまることである。この情報戦争は、国際的なニュース・ネットワークと主要な新聞が武器として活動する戦いだ。使用される兵器はメディアであり、その最前線は公共圏として知られる相互に浸透し合う領域である。電波の周波数、音響、衛星回線、ソーシャル・メディア、携帯電話へのアップロード、通信ネットワーク、そしてインターネットが、この戦争の全体を作り上げる。

情報戦争とは何か?

 情報伝達の様々な技術と形式が、紛争中に特定のテーマを遂行する目的で使用される。言語、選別された言葉、独特な表現、特定の画像、マルチメディアによるプレゼンテーション、そして情報通信が、この戦争の軍需物資の全てである。

 情報戦争の狙いは、世界中の人々に影響を与え、情報の流れや視聴者の認識や現代世界を形作る推論の過程で全面的な独占を成し遂げるために、論争を利用することである。その基盤で、権力と結合性がマスメディアの情報通信を通して形作られつつある。

 マスメディアが大量通信媒体を通して伝えるメッセージとアイデアは、メディアをコントロールする者たちによって作られ、続いて視聴者の認識を形作るためにその者たちによって利用される。現代のほとんどの社会にいる人々の多数派の知識がマスメディアによって強くその形を与えられるために、マスメディアは、その視聴者がある特定の意見を持つように仕向けるために、そしてそれらの意見に基づいた決定を行わせるために、利用されている。それは繰り返し届けられるメッセージを通して、目立たないようにあるいはあからさまに為される。

 そのメッセージは、主流のメディアと情報ネットワークによって届けられるものだが、一般的に社会的活動の形態である。それは、それらの媒体による情報伝達が、いかなる情報であっても、発信する以前に視聴者の反応を計算に入れるためである。勘定に入れられる反応には、具体的な対応つまり物質的な動きのプロセスが含まれる。それはまた、伝えられる情報に対する反応としての抗議の示威行動への考慮、あるいは出資者の撤退や通貨の切り下げや市場の変動といった経済的な考慮をも含んでいる。

 大衆的に伝えられる話を独占して、代替のまたは対立する話の信用を貶めることは、それが真実であろうと嘘であろうと、情報戦争の重要な局面である。この形の戦闘行為は決して新しくは無いのだが、顕著になる一方の今世紀の非-通常戦争の道具箱にある重要な手段となるにつれて、それがどんどんと洗練され激化しつつあるのだ。

 私営と公営の主要なニュース・ネットワークが追求するこの種の情報管理は結果として、特定の主題と状況に対して視聴者がとる行動と反応を教示する、社会科学者たちが共通認識という仮定(common sense assumption)と呼ぶものを産み出す。こういった共通認識という仮定、現実の世界に存在するいかなる事実にも基づくものではなく、事実であり普通の認識であるというように繰り返して指し示されるものを基盤にして、形作られるものだ。国際的な出来事の報道の中で視聴者に伝えられるきわめて政治化されたメッセージが、シーア派イスラム教徒とスンニ派イスラム教徒が激しく争う敵同士であるとか、ウゴ・チャベスが独裁者であるとか、セルビア人とクロアチア人の間に深く抜きがたい不可逆的な憎しみがあるなどといった、共通認識的な態度を導き出している。こういった憶測のどれ一つとして現実に根ざしたものは無い。しかしそれは、国際的な出来事について世界の視聴者のある部分に情報を伝える偽りの憶測の砲身に徐々に染み込んでいるのだ。さらには、多くの場合これらのメッセージは非政治的で自然な客観性を装って伝えられるのだが、そのことが大多数の視聴者に、そのメッセージ伝達の動機や意味合いに対する疑問を持たせないようにするのである。

 世界的な情報戦争の中で、現在ではウクライナが、シリアやベネズエラと全く同様に、最前線になっている。それは、国際的なメディア・ネットワークの戦闘を通して映し出されつつある。このメディア戦争の目的は、キエフで起きたクーデターとキエフの新しい暫定政権への支持あるいは反対の、国内的・国際的な世論を確保し管理することである。


国際的メディア戦争:BBCワールドとCNNインターナショナルをめぐっての動き

 アメリカ合衆国はかつては国際的メディアの中で情報発信のほとんど独占状態を享受していた。しかしその点は、ロシアやイラン、中国、ベネズエラといった国々が、アメリカとその同盟国の国際メディア・ネットワークに対抗して、Russia Today(RT)、Press TV、中国中央テレビ(CCTV)そしてpan-Latin American La Nueva Televisora del Sur (teleSUR)といった国際ニュース・ネットワークを立ち上げるにつれて変化してきた。これらの新しい反-体制派国際メディア・ネットワーク ― もしそう呼んでよいのなら ― は、ロシア、イラン、中国、ベネズエラから、そしてどこからでも共同して、国際的メディアのそれまでのあり方に挑戦し始めた。

 特にアトランタに本拠地を置くCable News Network (CNN)と国営の英国放送協会(BBC)は、国際的な舞台でほとんど独占状態を保っていたのだが、そういった支配的な国際的ニュース・ネットワークによって提示される語り口は、突き崩されゆっくりと損なわれていった。ロシア大統領のウラジミール・プーチンの言葉を借りるなら、彼が2013年にモスクワのRTのスタジオを訪問した時のものだが、RTのような反-体制派国際ニュース・ネットワークは「全地球的な情報の流れに対するアングロ・サクソンの独占を打ち破ろうとするもの」なのだ。

 RTやPress TVのような新しい国際的ニュース・ネットワークは、CNN、BBC、Fox NewsそしてSky Newsのような主要ニュース・ネットワークによって広められる論調に対して、実に効果的に対抗し始めた。そのため、アメリカとイギリスの当局者たちはそのメディア戦略の見直しを始め自分たちの情報流通に挑戦する国際的ニュース・ネットワークに立ち向かって無力化する方法を試み始めた。アメリカとその同盟者たちに採用される手順には、英語版Press TVやアラビア語版Al-Alam、その他の国有イラン放送局の報道を、ヨーロッパででもどこででも妨害することが含まれた。

 アメリカとイギリスが国際的舞台で享受したほとんど独占の状態は、大勢の観衆がその情報源を多様化させるにつれて、2011年が始まるまでに明らかに打ち壊された。CNNやBBCといった放送局は、社会主義リビアに対するアメリカ主導のNATOの戦争への報道に関して、激しく不信を買った。

 ヒラリー・クリントンは、アメリカ合衆国67代目の国務長官であった間、アメリカの外交政策の成功において国際的ニュース・ネットワークとマスメディアが果たした重要な役割の概略を公開の場で説明せざるをえなかった。2011年にアメリカ議会の外交問題を取り扱う委員会での答弁の間に、クリントンは、ワシントンが世界規模での情報戦争に敗れつつあると語った。彼女は委員会に対して、多様なメッセージを伝える外国のメディア・ネットワークに対する情報戦争遂行の手段としてアメリカの国家メディア戦術のための資金を増額するように要求する一方で、アメリカが冷戦スタイルのメディア通信と受信方法に立ち戻ることの必要性を確証すると述べたのである。彼女は、直接に名前を出すことを避けたのだが、英語によるロシア人のチャンネルであると述べそれが「非常に啓発的である」と語って、RTを非難した。

 クリントン国務長官は、アメリカと国営BBCが国際的メディア作戦を縮小させつつあることを嘆き、「アメリカのメッセージを外に出すために」ワシントンがその縮小を逆転させる必要があると訴えた。しかしながら、アメリカとBBCの縮小について彼女は誤っていた。発信源の問題ではないのだ。CNNインターナショナルやBBCのような放送局に接続する視聴者数の減少こそが本当の問題点だったのだ。

 クリントンの発言はアメリカの連邦機関である米国放送管理委員会に反響をもたらした。そこはRadio Free EuropeやVoice of America (VOA)、イラクのAlhurra、そしてアメリカのあらゆる国際的な放送を運営する国営機関である。その委員長ウォルター・イサックスンは2、3ヶ月前に、アメリカが情報戦争を遂行中であり、「アメリカが敵どもの声によって伝えられることは許されない」と宣言した。イサックスンは、以前はCNNの幹部だったのだが、同時にまた「ニュース配信の上意下達がソーシャル・ネットワークに触媒作用を及ぼす新しいアプローチによって補われる必要がある」とも強調した。反政府抵抗運動とソーシャル・メディア、そして主流メディアの相互関連を考える際に、この点に留意することが極めて重要である。 【訳注:大メディア、ソーシャル・メディアによるベネズエラ「反政府抵抗者たち」という映像詐欺を参照のこと】

 アメリカの主流メディアの報道は、全世界的な情報戦争に対するアメリカの取り組みについての2011年のクリントン国務長官の発言に応えつつ、彼女の発言を、単に外部世界と対話するために働くアメリカ政府の友好的で無垢なイメージを描く目的で、選別しゆがめた。アメリカの高官たちはアメリカ政府の対外プロパガンダを先鋭化させ世界の公衆に提供される情報を支配することについて議会で議論を行っていたのだが、 アメリカのメディア機関はそれを何一つ反映させず、それを説明する具体的で分析的な報道をなんら行うこともせずに、クリントン国務長官の公聴会での発言について漫然とうわべを取り繕うか完全に見過ごしてしまった。

 実例として、ワシントンポスト紙はその記事の中で、クリントンとアメリカ上院議員たちが議論している内容を分析しようとしなかった。たとえば、好戦派で軍事拡張主義者として知られるリチャード・ルーガー議員が米国放送管理委員会の国際的メディア戦略を「我々のメッセージを知らせるための重要な外交の力」であると語ったときに、ピューリツァー受賞記者であるワシントンポストのジョビー・ワリックは、ルーガーの語ることが、他国の国民にアメリカ主導の情報を流し込むことを通してその国の政府に影響を与えようとする、米国政府によるメスメディアを用いた他国への権力の行使に関するものだという点について考察すらしなかった。

 このクリントン発言の報道が示した主要メディアの受身的な姿勢は通常、偽りの目的をベースにして正当化される。行政や企業、主要メディアが批判や妨害をしたくない機関が関わる重要な事柄になると、それは極めて普通のことだ。偏りや主観的な解釈なしで事実を伝えている、という主張がなされるのである。

 もしもロシアの高官が外国に影響を与えるためにロシアのメディアを使うことをロシア議会の委員会で発言するようなことでもあれば、それについてのアメリカの主流メディアの報道は全く変わってくるのだろう。敵対する実体をそれらの報道機関が取り扱う場合には先と同様の基準が適用されない。そういったニュースについての主流メディアによる能動的なつまり独断的な主張を含む断定的な報道の代わりに、これら敵対する実態の決定と行動に対する攻撃と妨害が、調査報道と批判的分析の名のもとに、報道に適用されることとなる。


シリアでの失敗に関してイラン、中国、ロシアのメディアに激しく襲いかかる西側メディア

 現在続行中の情報戦争がある一方で、2011年には非常に異なるメディア戦争が顕著になり始めた。リビアに対するNATOの戦争は、その遂行に国際的メディアネットワークが重要な役割を果たしたのだが、この点を浮き彫りにした。反-支配的ニュース・ネットワークがアメリカのプロパガンダに挑戦して、CNNとBBCによる報道の正当性に異議を唱える代替の話題を提供し、それらの信用を傷つけて国際的・国内的な視聴者層を減らすまでに十分に成熟していたのである。しかしながらリビアは単にその始まりに過ぎず、シリアで明らかに示されたものは、主に英語、アラビア語、スペイン語によって戦われるそれらのニュース・ネットワーク間の、公開の激しい争いであった。シリア問題に対するCNNやBBC、フォックスニュース、そしてアル・ジャジーラのようなネットワークの主張に挑みかかる反-支配的メディア・ネットワークの有効性は、アメリカがそれまでずっと行ってきた情報の流れが締めあげられていることを白日にさらした。

 アメリカとイギリスのメディアは2012年初頭までに、シリアについての話で中国とイランとロシアの国際的なニュース・ネットワークに対する非常にはっきりとした非難を開始した。BBCはその見出しの一つ「国連シリア解決案拒否の背後にあるのは中国とイラン国営紙のみ(2012年2月6日)」が示すような不正確な主張をした。一方でその何日か後、2012年2月10日に、ニューヨークタイムズのロバート・マッキーは、「ロシア、イラン所有の衛星チャンネルにおけるシリア危機の極めて異なる様相」と題する記事で自分の見解を述べた。アメリカとイギリスの新聞は、中国とイランとロシアのメディアの見方を激しく攻撃しながらも、それらと同様の視点を持つアフリカ、アラブ、アジア、ヨーロッパとラテンアメリカの一部分を見過ごした。それらはアルジェリア、アルゼンチン、ベラルーシ、ボリビア、ブラジル、キューバ、エクアドル、エルサルバドル、インド、イラク、レバノン、ナミビア、南アフリカ、ウクライナ、そしてベネズエラといった国々である。アメリカとイギリスのメディアが、一部の国際社会からその視聴者に至るまでのシリアへの応援を懸命に誹謗し軽視しようと試みる間に、その論調をコントロールする独裁権力の政治的アジェンダを頓挫させてしまった。

 メディア戦争は現実世界のパワフルな役者たちの間にある敵対関係の反映である。だからこそ、その危機をはらむ情勢の中でヒラリー・クリントンがロシア人と中国人に対するアメリカの焦燥感を公に明らかにしたことは、何の驚くべきことでもあるまい。クリントン長官は、シリアに対する政権転覆と軍事攻撃を支持する仲間の国々の外務大臣が集まる国際会議で講演し始めた。彼女は他国の外務大臣たちに、ロシアと中国がワシントンの「前進」という考えに反対するならその「代価を支払う」必要があると語ったのである。

 2012年7月以後のクリントンの発言は振り返ってみる値打ちがある。彼女は次のように述べた。「私は、ロシアと中国がアサド政権の利益の為に行動することに対して、そのいかなる代価をも、何一つ支払う気を持っていないと思う。変化を起こす唯一の方法は、ここ(この会議)に出席する全ての国が、直接に緊急に、ロシアと中国に対して前進を押しとどめている代価を支払うべきことを明らかにすることだ。彼らは前進を妨害している。もはや堪忍ならない!」クリントンによるシリアでの前進の定義は、はっきりさせなければならないのだが、ダマスカス政権の転覆とシリア人に対する爆撃の軍事作戦を指している。彼女はワシントンの激怒ぶりを表明していた。彼女の発言が、国連安全保障委員会でアメリカとイギリスとフランスが求めた対シリア戦争の公認をモスクワと北京が拒否した直後に為されたものだからである。

 シリアの政権転覆を妨げたロシアに対するワシントンの激怒の後で、合衆国は、ロシアに対する制裁を科する方法と、両陣営の間で行われる情報メディア戦争の中でロシアの国際的なメディア・ネットワークを標的にする方法を真剣にじっくりと考え始めた。そこで考えられたことが、現在ウクライナ危機に伴って具現化つまり実行されつつあるのだ。しかしながら、ロシアに対する制裁の呼びかけは単にウクライナ危機の結果というだけではない。それは、ロシア人とイラン人が交渉を続けている大規模な石油と物資の物々交換取引を破綻させる方法について、合衆国の高官たちによってワシントンがすでに考慮に入れていた動きの一部でもある。


西側メディアがウクライナ危機の中でどのように役者たちを作り上げているのか

 主流メディアは有力な会話から取り出すべき語り方とメッセージを選び抜く。ある特定の声だけが聞かれることを許されるが、他の声は会話から除外されるか完全に無視される。その一方で、主流メディアが視聴者に聞かせるために作り上げようとしつつあるものに抵触する状況は、多くの場合、話の筋書きから除外されるか、あるいはささいなものとされ信用を失わされる。

 欧州連合とNATOのウクライナへの拡張を支持する操作された語り口が形作られつつあるのだが、そこではキエフで起こった出来事に関して捻じ曲げられた事実が描かれつつある。反政府抵抗運動についての論調のテンポを決める語彙の連鎖あるいは言葉の関連付けがすべてを物語る。ヴィクトル・ヤヌコヴィッチは常に腐敗政治家として描かれ、メディアはいつでも彼の富と豪邸に、そして親ロシアであることに焦点を当て、一方で抵抗者たちは活動家の民主主義者として紹介されているのだが、反対派リーダー達の背景についてはほとんど追求されることが無い。【訳注:ウクライナのファシズム革命を参照のこと。】

 単語と文節はメディア・ネットワークの政治的な立ち位置を指し示している。もっとはっきりと言えば自ら暴露している。これらの描写の仕方とメッセージは、客観的とされる情報源の立場を伝える判定をベースにして形作られる。これらのニュース・ネットワークをひと括りにしての伝達は、視聴者がウクライナの反政府運動についての同じ視点と語り口に恒常的にさらされるために次第に受け入れられていくにつれて、ますます心理的な刷り込みの方に向かい始める。

 腐敗した親ロシア政権が民主的な革命によって追い出されたという話が煽りたてられる。これは実際に起こったことへの認識を含まないものである。ヤヌコヴィッチを貪欲な人物であり腐敗した官僚として描いた当のメディア情報源が、実に好ましいものとして紹介される反対派の者たちもまた同様に富豪であり、大邸宅や値段のつけようも無い芸術品やプールや車のコレクションや莫大な資産を持っていることの説明を抜かしている。それらはまた、主要な反対派リーダーたちが以前にすでに権力を握っており、不始末と腐敗のために支持を失っていたことをも説明していない。反対派リーダーたちがいわゆるクーデターを通して権力を握ったというのも事実ではない。ヤヌコヴィッチが親ロシア派であったという点について言うなら、ウクライナの政治家についてどの情報源も嘘をついているか無知であるかのどちらかだ。地域的に見るとヤヌコヴィッチの党は大部分が(それだけというのではないが)、ウクライナにおけるロシア語圏そして民族的なロシア人の地域(アメリカやヨーロッパよりもロシアを好んでいる地域)の要求に応じるのだが、しかし彼の党自体は断じて親ロシアではなく、むしろNATOとの協力を推し進めてきたのであり、ウクライナの最近の選挙の後には、自らの憲法を裏切ってウクライナをロシアではなく欧州連合に近づけることさえしてきたのだ。

 これらの記事にあるロシアとウラジミール・プーチンに対して中傷する言葉もまた実に効果的である。その言葉はこれらのメディア機関がロシア連邦とプーチンの上に投影したいと願う態度や信条を描く、あるいは表出する。プーチン大統領は独裁者そして野蛮な軍国主義者という濡れ衣をかぶせられつつある。プーチンの元KGBという背景が彼を悪魔化する手段として繰り返し言及されるのだが、一方でジョージH.W.ブッシュSrのCIAの背景は、彼が合衆国の大統領であったときにその同じ報道機関によってほとんど言及されたことがなかった。ジョージH.W.ブッシュSrのCIAの背景が言及される場合は、受身の状態で語られるかまたは肯定的な響きで語られるかのどちらかだった。ロシアによるクリミア侵攻に関してプーチンのためにとっておかれたネガティヴな言葉は、アフガニスタンやイラクやリビアへの侵略と戦争に関与したいかなるアメリカ大統領やイギリス首相に対しても、CNNやBBCのようなネットワークによって同じように使用されたことはない。

 ロシアとプーチンへの誹謗的な論調を煽るこれらの態度は、ロシアに対する経済的・地政学的な競争相手としての敵対的な姿勢に基づいている。それは北アメリカとヨーロッパ連合にあるマスメディアをコントロールする権力機構の中に構造的に染みついたものである。ジャーナリストとメディア部門の従業員たちは、意識的にであろうと無意識的にであろうと、その外郭の周辺で働き、そして、知ってであろうと知らなくてであろうと、ロシアを中傷して敵または部外者として異化するという目的に仕えるのだ。


西側メディアはウクライナについての論調をコントロールするためにRTとロシアのメディアを標的にする

 リビアとシリアでの危機が開始する期間に、アメリカとその同盟国は戦闘集団を支援していることを認めようとしなかった。それらは、多くの人がアルカイダ勢力あるいはアルカイダの一派と見なしている常軌を逸した偏狭な視野を持つ者たちである。時間がたつにつれて、アメリカとその同盟国は、徐々にだが、これらの偏狭な常軌を逸した勢力がリビアとシリアに存在することを認めざるを得なくなった。アメリカとその同盟国によるこの認識は、シリアの同盟者であるイランや中国やロシアのような国々のマスメディアによってなされる情報のキャンペーンが成功した結果だった。カタールに拠点を持つアル・ジャジーラ・ネットワークのアラブ世界での横柄な姿勢は、Rusiya Al-YaumやAl-ManarやAl-Mayadeenのようなチャンネルがそのシリア危機についての報道に挑戦するにつれて、むしろ損なわれていった。

 ウクライナのケースも同様である。アメリカとその同盟者たちは、極右ナショナリストたちが参加していることを否定しようとし、ウクライナでの自分たちの利権に益する物語を作り上げようと努めてきた。ところが、ロシアのメディアが一方に君臨しておりその論調に敵対している。したがって戦いはアメリカとその同盟国によるロシアのメディアに対する攻撃で始められている。シリア報道をめぐるロシアの国際的メディア・ネットワークに対するいらつきを表明するかのように、北アメリカとヨーロッパ連合の主流メディアは、ロシアの主流メディアを非客観的で信用できないものとして紹介することに狙いを定める。だから、アメリカ国営RFEのクレア・ビッグが2013年12月の記事で 次のような報道を行ったのだ。彼女はその冒頭で「ロシアの国営TVチャンネルは不偏不党性を持たないことで有名だ」と語り、あるロシアの気象予報官のコメントをそのコンテキストから抜き出して示すことで、ロシア・メディアが悪天候とウクライナでの抵抗運動を結びつけていると主張しているといったような、陰謀主義的なものに描こうと努めるのである。

 ロシアのメディアに対するキャンペーンは、とりわけその英語部門と国際的な活動部門を標的とする。具体的にはRTアメリカとRTインターナショナルで、それらはワシントンとブリュッセルがウクライナのクーデターについて世論に売りつけたいと願う語り口に挑戦してきたものだ。この二つのRT職員たちのコメントとクリミア自治区の件は、RTアメリカとRTインターナショナルに対する攻撃に利用されている。後者に関して言うと、ウクライナ政府に対するクーデターが失敗する可能性があったように見えた(推定的に言うならたぶん狙撃手による抵抗者たちの殺害後の2月20日にクーデターが起こるだろうと彼らが予測したためだろうが)ときに、ウクライナ西部がその関与の跡を残さずにどうやって分離できるのかについて、大西洋両岸のメディアが全く無意味にも報道し始めたのである。

 ガーディアン紙が2014年2月21日にその状況について次のように伝えた。「キエフ中心部の街路で抵抗が続く一方で、ウクライナ西部の諸都市は、並列する政府と治安部隊を持つ自治の方に向かって雪崩をうっている。それらは政府を見捨て抵抗者たちの側に向かっていることを公に認めている」。この報道が西部諸都市を奪って政治家を脅迫する極右ナショナリスト武装勢力の役割に言及しないことに注目するのは重要なのだが、最大のポイントは、西側メディアの中でクリミアの独立に向けた動きが全面的に全く異なった基準で取り扱われていることだ。北アメリカとヨーロッパ連合にある主要メディアはウクライナの西半分では自治に何の問題も見出さなかったのだが、クリミアに対しては同じ基準を適応せずにそれに反対している。同じメディアがクリミア住民の政府を無視あるいは軽視し、その代わりに、クリミアの独立に向けた動きをクレムリンによる決定であるというフレームアップを行った。

 RTは、北アメリカとヨーロッパ連合にある主要メディアによって、クレムリンのプロパガンダ機関として、繰り返し陰湿なあるいはあからさまな形のどちらかで攻撃を受けている。それは、BBCやCNN、Fox News、Sky NewsそしてFrance 24と同様にロシアのクリミア侵略についての「真実に満ちた」報道をすることをRTが拒否するからだ。しかしながら、事実を捻じ曲げた経過が非常にはっきりと分かるのはCNNやこれらのニュース・ネットワークと報道機関の方である。それらは現在、親ロシアであるクリミアの人々を絶えることなく悪魔化し続けている。パトリック・リーヴェルとデイヴィッド・ブレアーによって書かれた2014年3月11日のテレグラフ紙の記事は、クリミア自治共和国での投票がクリミア住民にとって、ロシアへの加入が今なのか将来なのかというたった二つの選択肢しか持たないものである、などと報道するところにまでに至っている。そのイギリス紙は住民投票での質問を拡大解釈して、ロシア連邦への直接の加入を望むのか、それとも議会での論議を通すことを望むのかとクリミア住民に対して問うものだと語る。このイギリスの新聞は事実を直接に語るのではなく、その住民投票の信用を貶める手段として捻じ曲げられた言葉を使って物事を混乱させるのだ。事実としては、その住民投票はクリミア住民に、ロシア連邦への加入を望むのか、あるいは1994年のクリミア憲法の下でウクライナの一部としてとどまることを望むのかと問うものである。後者の選択肢はロシアに加入するための議会選挙の可能性を認めるものであるかもしれないが。

 このタイプの悪魔化報道のもう一つの例は、CNNのニック・ペイトン・ウォルシュ、ローラ・スミス-スパークそしてベン・ブラムフィールドによって書かれた記事である。その冒頭部分は次のように語る。「もし列車で行くのなら、親ロシア武装集団による荷物検査を覚悟しなければならない。もしウクライナ西部が主導する暫定政権を支持するデモを望むのなら、横暴な親ロシア派に取り囲まれるのを覚悟しなければならない」。この話の中では抑圧される人々がキエフにある憲法違反のクーデター後の政権を支持する人々であり、一方で攻撃的であると都合よく描かれるのは親ロシア派の人々なのだ。自分の意見を言おうとすれば親ロシア武装集団に荷物検査されるだの「横暴な親ロシア派」に取り囲まれるなどというコメントが説明したいのはそれである。このように現われる語り口は、ロシアとロシアへの併合を望むクリミアの人々を否定的な色に塗りつぶすだけではなく、キエフで起きたクーデターの実態と、国境線についての民意の調査が武装勢力つまり極右ナショナリストの者たちによるクリミアの不安定化を防ぐ目的で行われるという事実を無視しているのだ。

 視覚的そして言葉によるコミュニケーションの方法がともにRTの信用を貶めるために使用される。例えばBBCは、コンテキストから切り離された地図を元に、RTがその報道の中でウクライナの東部と南部をロシアの一部であるように紹介していると報道した。他の論評がコンテキストから切り離されたクリミアの地図を示して、RTがそこをロシアの一部であるように認識していたと述べた。BBCでもどこでも一人あるいは複数の者たちが、RTからコンテキストを無視して視覚資料を抜き出して示すことにしたのだが、彼らは決定的に不誠実で無原則である。彼らはコンテキストから切り離して取り出されたビデオや静止画像を示すことで、その映像が持つ意味を意図的に偽って紹介した。彼らはそれらの地図がウクライナの地理で国内の人口統計学的な分離状態を、つまりクリミアの住民が直面する異なった可能性を示す記事の一部として紹介されたという事実を消し去った。

 BBCにはビデオや画像を偽って紹介した歴史がある。BBCは、RTとは無関係であっても、この種の報道の中で数多くの同種のねつ造に手を染めたことが分かっている。2008年にはインドの治安部隊によって殴られるチベット僧が、中国政府によるチベット人たちへの抑圧として、BBCによって紹介された。他のケースでは、2011年に、インドの旗を振るインド人のデモがリビア政府の打倒を祝うリビア人として視聴者に宣伝された。もっと最近では、2013年のシリア危機の報道の中で、声のすり替えすらやってのけたことが分かっている。イギリスの元外交官クレイグ・マーリーがBBCのシリア報道でのねつ造について語ったことは引用する価値がある。「不穏当なのは医師が話しているビデオシーンがそれぞれの回で全く同じものであることだ。それは、その女医の語りとその肉声が同じタイミングだという印象を与えるように編集されており、音声に重ねられる翻訳の作成には何かのからくりが使われた跡は認められない。しかし、少なくとも1回、たぶん2回は、彼女自身の声と同じタイミングで話をしていないシーンがあることは間違いの無い事実だ。」


主流メディア報道から出る愚かな質問が語るもの

 紛争におけるジャーナリストの役割もまた軽視することができない。たとえば、BuzzFeedの記者ロウジー・グレイは、RTの編集長マルガリータ・シモニャンに次のような質問を送った。

(1)あなたはクレムリンやロシア政府の高官と定期的な会議を行っていますか。もしそうなら、それがどんなものか述べることができますか。クレムリンがどれくらいにRTの報道に対して影響を与えていますか。
(2)あなたのオフィスが、ある職員が教えてくれたことなのですが、報道室とは明らかに異なった階にあるのはなぜですか。
(3)また、アナスタシア・チュルキナは父親のおかげで雇われたのですか。彼女が自分の父親にカメラの前でインタビューすることをどうして許されたのですか。
(4)アラビア語版RTを運営するのはプーチン大統領の元通訳だと聞いていますが、彼がその地位に就いたのはそれが理由なのですか。

 これらの質問がまじめなものかそれとも侮辱なのかを語るのは難しい。北アメリカの記者で、ミカ・ブレジンスキーがどうやってMSNBCで職を得たのか、父親のズビグニュー・ブレジンスキーが彼女の就職に対して何かをしたのか、などと敢えて質問する者はいない。もしこのような質問が為されるとしても、はるかに水で薄められたものになる。ところが、北アメリカのメディアとその記者たちは、ロシア人や他の社会のメンバーを取り扱う場合には同じ基準を適用させない。

 これらの尋問調の激しさを考慮しないまでも、その質問は、回答者からの特定の反応を引き出すために強く歪められたあるいは仕組まれたものである。第一に、これらの質問は誘導尋問である。それらがニュース・ネットワークとしてのRTを辱め信用を貶めるために返答をある特定の方向に導くように仕組まれているからだ。次に、これらの質問は罠を含んでいる。それらが複数の仮定を含んでおり回答を記者の意図を満たすように限定させようとしているからである。罠を含んだ質問の典型的な例はつぎのようなものである。「あなたは自分の子供を殴るのをやめましたか」。質問全体の前提が不正確な仮定に基づいている。ほとんどの場合、どんな回答であっても、人々は当惑させられ単にそれに返答することでその質問に何らかの正当性を持たせることになる。

 マルガリータ・シモニャンは返答としてその罠を含んだ質問を嘲笑った。 [1]


情報時代におけるマスメディア・コミュニケーションの危険な悪用

 アメリカとロシアの間にある分裂はウクライナ情勢が激化するにつれて激しくなるだろう。この危機から派生する影響は、シリア、朝鮮半島、国連から、テヘランとP5+1の間で行われているイランの核開発問題の交渉テーブルまでに、幅広く感じられることになるだろう。

 最終的に、アメリカとロシアの情報戦争の遂行は、情報時代と呼ばれてきた歴史の転機と言うにふさわしいものかもしれない。しかしながらその役割は不吉なものである。マスメディアによる情報のコントロールと誤魔化しは、人間各個人に対して、自分を取り巻く世界と日常生活の仕組みの背後にある社会的な関係性に対する自発的な認識を持たせないようにしてしまう。決定事項を伝え、個々人を社会化し、そして人々の文化を形作るその力は悪用されている。

 情報戦争は敵対する権力や経済ブロックの間で遂行されるばかりではない。情報のコントロールと誤魔化しは、政府と企業によって、社会の下位の階層に対して対内的に用いられるのだ。それは、特権についての社会的な現実や富と権力の不公平な配分を無視する盲目的な閉じられたシステムを作る手段として、情報を噴霧するのである。

 その誤魔化しと偽りの語り口の背後にいる者たちですら、世界に対する誤魔化しの意図に満ちた非人間的な視点の囚人として捕らわれかねない。プロパガンディストたちは自らの手が作り上げてきたものの囚人となるかもしれない。ペンタゴンの権力についての論調は、アメリカとロシア連邦あるいは中国との間にある対立など取るに足らない結果しかもたらさず核戦争の可能性を伴わないものだと、アメリカの政策立案者に考えさせるのだが、ロシアと中国のどちらも核兵器という致命的な武器と大規模な軍を持つ恐るべき同盟を形作っているのだ。アメリカと、ロシアか中国との衝突は、この惑星上のあらゆる生命にとって壊滅的な結果をもたらすかもしれない。

 もし情報がこの情報時代に正しく使われないのなら、アルバート・アインシュタイン がかつて語ったように、我々は石器時代に戻るのかもしれない。


注釈

[1] テーブルの上にあるものは簡単にロウジー・グレイとBuzzFeedの上に投げ返されていたのかもしれない。彼らは同じ論法をトール・ハルヴォルセン・メンドサと結び付けて使ったのだ。その返答としてグレイは、ベネズエラの反政府派リーダーであるレオポルド・ロペス・メンドサのいとこであるトール・ハルヴォルセンとつながりがあったためにベネズエラの反政府抵抗運動を支持したのかと、尋ねらる可能性もあっただっただろう。

 ハルヴォルセンは怪しげにも自分のいとこをオスロ・フリーダム・フォーラムで人権運動のリーダーとして紹介している。ハルヴォルセンとロペスは、ウゴ・チャベスをあらゆる手段を使って取り除こうとしたベネズエラの寡頭支配者層のメンバーなのだ。

 ジャーナリストのマックス・ブルメンタルによれば、ハルヴォルセンはCIA要員の家族の出であるばかりでなく、彼自身が元々は「人権活動家の雰囲気の裏で、目に付きにくい形でネオコンサーヴァティヴなアジェンダを推し進める、帝国主義的な政治権力を確立するための資産を作り上げてきた学生活動家」なのである。ブルメンタルが語っているのはハルヴォルセンが人権を隠れ蓑にしていることだが、それは、NATOによる戦争を通してリビアの政権取り換えを可能にする作業への人権団体の関わりによって証明されるように、極めて一般的なものである。

 ブルメンタルはまた「ハルヴォルセンの主要なPR媒体はBuzzfeedなのだが、その記者であるロウジー・グレイは2013年にオスロに飛び、彼のプロフィールと彼のオスロ・フリーダム・フォーラムにこびへつらう記事を書いた。(グレイは、ハルヴォルセンが彼女の旅費を出してくれたかどうか、食事や宿泊などの経費を提供してくれたかどうかは、明らかにしていない。)」

 グレイが政権取り換えについてハルヴォルセンと同じ見解を持っているかどうか尋ねてみる価値がある。ハルヴォルセンは圧倒的に、富と権力、同時に/あるいはベネズエラやロシア、スーダン、中国、北朝鮮およびベラルーシのような国々の政権に反対する反体制派の側に付いているように思える。フィリピンやシンガポール、コロンビア、イスラエル、韓国、フランスおよびアメリカの政権に反対する反体制派がどうしてハルヴォルセンの周囲にはいないのか、疑問に思う人もいるだろう。

【訳出、ここまで】
 

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