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戦略兵器としてのマスコミ
ウクライナをめぐるメディア戦争
今年の2月に、政治的・経済的にアメリカとEUからの全面支援を受けたネオナチのならず者ども(+謎の狙撃手)の暴力によって、ウクライナの合法的で正当な選挙で(つまり民主的に)選ばれた大統領が追い出された。このクーデターの結果生まれたキエフ傀儡政府は、同国東部のロシア人地区(歴史的には元々ロシア領でウクライナ人フルシチョフによってクリミアと共にウクライナに併合させられた地区)の分離独立を求める勢力を「テロリスト」と呼んで軍を繰り出した。その動きを、ワシントンがCIAの高官を送り出して全面支援している(
White House confirms CIA director visited Ukraine over
weekend
-RT)のだ。米欧メディアの一部をなすスペインの主流マスコミは、マイダン広場のファシストどもを「抵抗者(protestantes)」と呼び東ウクライナの親ロシア派住民を「反乱者(rebeldes)」と呼んで、西側プロパガンダ機関としての本領を発揮している。今後いつこれが「テロリスト(terroristas)」に変わるのだろうか。
私は前に拙訳文「ウクライナのファシズム革命(イズラエル・シャミール著)」の中で次のように書いた。
今後はウクライナ西部の米欧ファシスト支配地域と東部・南部のロシア語地域に分かれて事実上の内乱状態となり、ウクライナ各地で、かつてナチ協力者たちの末裔であるファシストどもによって、ロシア系住民・ロシア語圏住民に対する壮絶な弾圧と破壊・リンチが打ち続くことが予想される。そして南部に海軍基地を持つ以上、ロシアは様々な形で積極的な関与をせざるをえなくなるはずだ。プーチンが(そしてNATOが)すでにその準備を進めていることは明らかである。クリミアではすでに前哨戦が始まっている。こうやって世界は加速をつけて「きな臭い時代」に突入していくのだろう。こんな悪夢のような予想が当たらないことを祈るのみだが、実際に、ネオナチのおかげで牢獄から解放されたユダヤ系ウクライナ人の腐敗政治家で次期大統領の最有力候補(として米欧が後押しする)ユリア・ティモシェンコは電話で次のように語った。「我々が銃をつかんであのロシア野郎どもをその指導者と一緒に殺す時がきた( “It’s about time we grab our guns and kill those katsaps [a derogatory Ukrainian word] together with their leader,” )」 (WSWS(World Socialist Web Site)3月25日付の記事Leading US-backed Ukrainian politician calls for annihilation of Russiaによる )。この対ロシア戦争とプーチン大統領の殺害を示唆するティモシェンコの話は盗聴された電話によるものだが、会話の相手はウクライナ国家国防安全保障委員会の元副書記長のネストール・シュフリーチである。こちらでその英語字幕付きビデオをご覧いただきたい。
(前略)このような状況の中で、プロパガンダとそのコントロールが最も大切な手段となった。アレハンドロ・ピサロソが断言したとおりである。「スペイン内戦は武器と戦術の実例の宝庫であったと共に、情報とプロパガンダの分野におけるパイオニアだった」のだ。この点に関しては、大戦間のヨーロッパで全体主義のシステムが主役を演じていたことを思い起こす必要がある。スペインの両陣営によって追求された形態はそれに沿っていた。そしてそれはヘスス・ティモテオ・アルバレスが次のように示唆している。マスコミの兵器としての機能は既に1898年の米西戦争で発揮されていたわけであり、2度の世界大戦、中東戦争、冷戦とその「代理戦争(ラテンアメリカのクーデター・軍事独裁を含む)」、冷戦後の湾岸戦争とバルカン戦争と、それはある意味で核兵器以上の威力を持つ戦略兵器として、ただしほとんどの人にはそうと悟られることなく、使用されてきた。軍事的な戦争だけではなく、核開発(日本では「原子力開発」と呼ばれる)やネオリベラル経済とそのグローバリゼーションといった非軍事面での戦略で、絶大な威力を発揮してきたのがマスメディアの情報力であった。
『ここでは、このような全体主義のシステムが幅を利かす。それは党派主義者と狂信者であることによって、少なくとも精神的に帝国主義者であることによって、大衆の共感を得る必要があるし、プロパガンダをすぐれて公的な機能にまで、国家と社会システムの中心柱にまで高めるための手段を必要とするのである。
ロシアのメディアに対するキャンペーンは、とりわけその英語部門と国際的な活動部門を標的とする。具体的にはRTアメリカとRTインターナショナルで、それらはワシントンとブリュッセルがウクライナのクーデターについて世論に売りつけたいと願う語り口に挑戦してきたものだ。この二つのRT職員たちのコメントとクリミア自治区の件は、RTアメリカとRTインターナショナルに対する攻撃に利用されている。後者に関して言うと、ウクライナ政府に対するクーデターが失敗する可能性があったように見えた(推定的に言うならたぶん狙撃手による抵抗者たちの殺害後の2月20日にクーデターが起こるだろうと彼らが予測したためだろうが)ときに、ウクライナ西部がその関与の跡を残さずにどうやって分離できるのかについて、大西洋両岸のメディアが全く無意味にも報道し始めたのである。
ガーディアン紙が2014年2月21日にその状況について次のように伝えた。「キエフ中心部の街路で抵抗が続く一方で、ウクライナ西部の諸都市は、並列する政府と治安部隊を持つ自治の方に向かって雪崩をうっている。それらは政府を見捨て抵抗者たちの側に向かっていることを公に認めている」。この報道が西部諸都市を奪って政治家を脅迫する極右ナショナリスト武装勢力の役割に言及しないことに注目するのは重要なのだが、最大のポイントは、西側メディアの中でクリミアの独立に向けた動きが全面的に全く異なった基準で取り扱われていることだ。北アメリカとヨーロッパ連合にある主要メディアはウクライナの西半分では自治に何の問題も見出さなかったのだが、クリミアに対しては同じ基準を適応せずにそれに反対している。同じメディアがクリミア住民の政府を無視あるいは軽視し、その代わりに、クリミアの独立に向けた動きをクレムリンによる決定であるというフレームアップを行った。
RTは、北アメリカとヨーロッパ連合にある主要メディアによって、クレムリンのプロパガンダ機関として、繰り返し陰湿なあるいはあからさまな形のどちらかで攻撃を受けている。それは、BBCやCNN、Fox
News、Sky NewsそしてFrance
24と同様にロシアのクリミア侵略についての「真実に満ちた」報道をすることをRTが拒否するからだ。しかしながら、事実を捻じ曲げた経過が非常にはっきりと分かるのはCNNやこれらのニュース・ネットワークと報道機関の方である。それらは現在、親ロシアであるクリミアの人々を絶えることなく悪魔化し続けている。パトリック・リーヴェルとデイヴィッド・ブレアーによって書かれた2014年3月11日のテレグラフ紙の記事は、クリミア自治共和国での投票がクリミア住民にとって、ロシアへの加入が今なのか将来なのかというたった二つの選択肢しか持たないものである、などと報道するところにまでに至っている。そのイギリス紙は住民投票での質問を拡大解釈して、ロシア連邦への直接の加入を望むのか、それとも議会での論議を通すことを望むのかとクリミア住民に対して問うものだと語る。このイギリスの新聞は事実を直接に語るのではなく、その住民投票の信用を貶める手段として捻じ曲げられた言葉を使って物事を混乱させるのだ。事実としては、その住民投票はクリミア住民に、ロシア連邦への加入を望むのか、あるいは1994年のクリミア憲法の下でウクライナの一部としてとどまることを望むのかと問うものである。後者の選択肢はロシアに加入するための議会選挙の可能性を認めるものであるかもしれないが。
このタイプの悪魔化報道のもう一つの例は、CNNのニック・ペイトン・ウォルシュ、ローラ・スミス-スパークそしてベン・ブラムフィールドによって書かれた記事である。その冒頭部分は次のように語る。「もし列車で行くのなら、親ロシア武装集団による荷物検査を覚悟しなければならない。もしウクライナ西部が主導する暫定政権を支持するデモを望むのなら、横暴な親ロシア派に取り囲まれるのを覚悟しなければならない」。この話の中では抑圧される人々がキエフにある憲法違反のクーデター後の政権を支持する人々であり、一方で攻撃的であると都合よく描かれるのは親ロシア派の人々なのだ。自分の意見を言おうとすれば親ロシア武装集団に荷物検査されるだの「横暴な親ロシア派」に取り囲まれるなどというコメントが説明したいのはそれである。このように現われる語り口は、ロシアとロシアへの併合を望むクリミアの人々を否定的な色に塗りつぶすだけではなく、キエフで起きたクーデターの実態と、国境線についての民意の調査が武装勢力つまり極右ナショナリストの者たちによるクリミアの不安定化を防ぐ目的で行われるという事実を無視しているのだ。
視覚的そして言葉によるコミュニケーションの方法がともにRTの信用を貶めるために使用される。例えばBBCは、コンテキストから切り離された地図を元に、RTがその報道の中でウクライナの東部と南部をロシアの一部であるように紹介していると報道した。他の論評がコンテキストから切り離されたクリミアの地図を示して、RTがそこをロシアの一部であるように認識していたと述べた。BBCでもどこでも一人あるいは複数の者たちが、RTからコンテキストを無視して視覚資料を抜き出して示すことにしたのだが、彼らは決定的に不誠実で無原則である。彼らはコンテキストから切り離して取り出されたビデオや静止画像を示すことで、その映像が持つ意味を意図的に偽って紹介した。彼らはそれらの地図がウクライナの地理で国内の人口統計学的な分離状態を、つまりクリミアの住民が直面する異なった可能性を示す記事の一部として紹介されたという事実を消し去った。
BBCにはビデオや画像を偽って紹介した歴史がある。BBCは、RTとは無関係であっても、この種の報道の中で数多くの同種のねつ造に手を染めたことが分かっている。2008年にはインドの治安部隊によって殴られるチベット僧が、中国政府によるチベット人たちへの抑圧として、BBCによって紹介された。他のケースでは、2011年に、インドの旗を振るインド人のデモがリビア政府の打倒を祝うリビア人として視聴者に宣伝された。もっと最近では、2013年のシリア危機の報道の中で、声のすり替えすらやってのけたことが分かっている。イギリスの元外交官クレイグ・マーリーがBBCのシリア報道でのねつ造について語ったことは引用する価値がある。「不穏当なのは医師が話しているビデオシーンがそれぞれの回で全く同じものであることだ。それは、その女医の語りとその肉声が同じタイミングだという印象を与えるように編集されており、音声に重ねられる翻訳の作成には何かのからくりが使われた跡は認められない。しかし、少なくとも1回、たぶん2回は、彼女自身の声と同じタイミングで話をしていないシーンがあることは間違いの無い事実だ。」
主流メディア報道から出る愚かな質問が語るもの
紛争におけるジャーナリストの役割もまた軽視することができない。たとえば、BuzzFeedの記者ロウジー・グレイは、RTの編集長マルガリータ・シモニャンに次のような質問を送った。
(1)あなたはクレムリンやロシア政府の高官と定期的な会議を行っていますか。もしそうなら、それがどんなものか述べることができますか。クレムリンがどれくらいにRTの報道に対して影響を与えていますか。
(2)あなたのオフィスが、ある職員が教えてくれたことなのですが、報道室とは明らかに異なった階にあるのはなぜですか。
(3)また、アナスタシア・チュルキナは父親のおかげで雇われたのですか。彼女が自分の父親にカメラの前でインタビューすることをどうして許されたのですか。
(4)アラビア語版RTを運営するのはプーチン大統領の元通訳だと聞いていますが、彼がその地位に就いたのはそれが理由なのですか。
これらの質問がまじめなものかそれとも侮辱なのかを語るのは難しい。北アメリカの記者で、ミカ・ブレジンスキーがどうやってMSNBCで職を得たのか、父親のズビグニュー・ブレジンスキーが彼女の就職に対して何かをしたのか、などと敢えて質問する者はいない。もしこのような質問が為されるとしても、はるかに水で薄められたものになる。ところが、北アメリカのメディアとその記者たちは、ロシア人や他の社会のメンバーを取り扱う場合には同じ基準を適用させない。
これらの尋問調の激しさを考慮しないまでも、その質問は、回答者からの特定の反応を引き出すために強く歪められたあるいは仕組まれたものである。第一に、これらの質問は誘導尋問である。それらがニュース・ネットワークとしてのRTを辱め信用を貶めるために返答をある特定の方向に導くように仕組まれているからだ。次に、これらの質問は罠を含んでいる。それらが複数の仮定を含んでおり回答を記者の意図を満たすように限定させようとしているからである。罠を含んだ質問の典型的な例はつぎのようなものである。「あなたは自分の子供を殴るのをやめましたか」。質問全体の前提が不正確な仮定に基づいている。ほとんどの場合、どんな回答であっても、人々は当惑させられ単にそれに返答することでその質問に何らかの正当性を持たせることになる。
マルガリータ・シモニャンは返答としてその罠を含んだ質問を嘲笑った。
[1]
情報時代におけるマスメディア・コミュニケーションの危険な悪用
アメリカとロシアの間にある分裂はウクライナ情勢が激化するにつれて激しくなるだろう。この危機から派生する影響は、シリア、朝鮮半島、国連から、テヘランとP5+1の間で行われているイランの核開発問題の交渉テーブルまでに、幅広く感じられることになるだろう。
最終的に、アメリカとロシアの情報戦争の遂行は、情報時代と呼ばれてきた歴史の転機と言うにふさわしいものかもしれない。しかしながらその役割は不吉なものである。マスメディアによる情報のコントロールと誤魔化しは、人間各個人に対して、自分を取り巻く世界と日常生活の仕組みの背後にある社会的な関係性に対する自発的な認識を持たせないようにしてしまう。決定事項を伝え、個々人を社会化し、そして人々の文化を形作るその力は悪用されている。
情報戦争は敵対する権力や経済ブロックの間で遂行されるばかりではない。情報のコントロールと誤魔化しは、政府と企業によって、社会の下位の階層に対して対内的に用いられるのだ。それは、特権についての社会的な現実や富と権力の不公平な配分を無視する盲目的な閉じられたシステムを作る手段として、情報を噴霧するのである。
その誤魔化しと偽りの語り口の背後にいる者たちですら、世界に対する誤魔化しの意図に満ちた非人間的な視点の囚人として捕らわれかねない。プロパガンディストたちは自らの手が作り上げてきたものの囚人となるかもしれない。ペンタゴンの権力についての論調は、アメリカとロシア連邦あるいは中国との間にある対立など取るに足らない結果しかもたらさず核戦争の可能性を伴わないものだと、アメリカの政策立案者に考えさせるのだが、ロシアと中国のどちらも核兵器という致命的な武器と大規模な軍を持つ恐るべき同盟を形作っているのだ。アメリカと、ロシアか中国との衝突は、この惑星上のあらゆる生命にとって壊滅的な結果をもたらすかもしれない。
もし情報がこの情報時代に正しく使われないのなら、アルバート・アインシュタイン
がかつて語ったように、我々は石器時代に戻るのかもしれない。
注釈
[1]
テーブルの上にあるものは簡単にロウジー・グレイとBuzzFeedの上に投げ返されていたのかもしれない。彼らは同じ論法をトール・ハルヴォルセン・メンドサと結び付けて使ったのだ。その返答としてグレイは、ベネズエラの反政府派リーダーであるレオポルド・ロペス・メンドサのいとこであるトール・ハルヴォルセンとつながりがあったためにベネズエラの反政府抵抗運動を支持したのかと、尋ねらる可能性もあっただっただろう。
ハルヴォルセンは怪しげにも自分のいとこをオスロ・フリーダム・フォーラムで人権運動のリーダーとして紹介している。ハルヴォルセンとロペスは、ウゴ・チャベスをあらゆる手段を使って取り除こうとしたベネズエラの寡頭支配者層のメンバーなのだ。
ジャーナリストのマックス・ブルメンタルによれば、ハルヴォルセンはCIA要員の家族の出であるばかりでなく、彼自身が元々は「人権活動家の雰囲気の裏で、目に付きにくい形でネオコンサーヴァティヴなアジェンダを推し進める、帝国主義的な政治権力を確立するための資産を作り上げてきた学生活動家」なのである。ブルメンタルが語っているのはハルヴォルセンが人権を隠れ蓑にしていることだが、それは、NATOによる戦争を通してリビアの政権取り換えを可能にする作業への人権団体の関わりによって証明されるように、極めて一般的なものである。
ブルメンタルはまた「ハルヴォルセンの主要なPR媒体はBuzzfeedなのだが、その記者であるロウジー・グレイは2013年にオスロに飛び、彼のプロフィールと彼のオスロ・フリーダム・フォーラムにこびへつらう記事を書いた。(グレイは、ハルヴォルセンが彼女の旅費を出してくれたかどうか、食事や宿泊などの経費を提供してくれたかどうかは、明らかにしていない。)」
グレイが政権取り換えについてハルヴォルセンと同じ見解を持っているかどうか尋ねてみる価値がある。ハルヴォルセンは圧倒的に、富と権力、同時に/あるいはベネズエラやロシア、スーダン、中国、北朝鮮およびベラルーシのような国々の政権に反対する反体制派の側に付いているように思える。フィリピンやシンガポール、コロンビア、イスラエル、韓国、フランスおよびアメリカの政権に反対する反体制派がどうしてハルヴォルセンの周囲にはいないのか、疑問に思う人もいるだろう。
【訳出、ここまで】