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ジェイムズ・ペトラスの最新論文和訳

キエフ一揆:反抗する労働者たちが東部で権力を握る

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  完璧に理解しておこう。ウクライナでの闘争はアメリカとロシアとの間でのものではない。それは、片方にあるネオリベラル富豪群とファシストで構成されるNATOお仕着せのクーデター政府、そしてもう片方にある工場労働者および地域の戦闘部隊と民主的な委員会の間で行われているものなのだ。前者はIMFとワシントンを擁護し付き従っている。後者は地域産業の生産能力に頼り住民多数派に応えることによって支配しているのである。
(ジェイムズ・ペトラス著 「キエフ一揆:反抗する労働者たちが東部で権力を握る」、拙訳より)
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 今回はニューヨーク州立大学ビンガムトン名誉教授で社会学者のジェイムズ・ペトラスがこの5月7日に発表したウクライナ情勢の分析を和訳(仮訳)してご紹介することにしよう。原文は下記。

The Kiev Putsch: Rebel Workers Take Power in the East    05.07.2014 ::Analysis
http://petras.lahaine.org/?p=1983

 アメリカ副大統領ジョー・バイデンの息子がウクライナ最大の天然ガス生産会社ブリスマ・ホールディングズ(Burisma Holdings)の重役として就職したことが、5月13日のマスコミ報道で世界に知らされた。私はこのニュースを最初にスペイン大手日刊紙エル・ムンドで知ったのだが、あまりの露骨さ、というか、あけっぴろげな厚かましさに、思わず笑ってしまった。昨年来続いてきた「ウクライナ紛争」なるものの正体は、もはや誤魔化すことも隠すことも不可能だろう。「マイダン広場の革命」を支持しロシアに抗議した大勢の西側の(特に左翼の)「評論家」「文化人」たちは、この期に及んでも未だ「マイダン」を後生大事に祭り上げるつもりだろうか。その正体は上に引用したペトラスの言葉通りのものである。

 「アメリカ」という国家と「ロシア」という国家が争っているのではない。少なくともそれは本質的ではありえない。世界の金融支配に向けていかなる邪魔をも強引に踏み潰して突き進む勢力(その代表機関がIMF)とその政治代表部であるワシントン(より正確にはネオコン権力)と、生産現場を握る労働者および誤魔化しではない民主主義を求める一般大衆との闘争なのだ。直接的には、前者はネオリベラルを信奉する富豪とそれに従う自由主義者、そしてネオナチの暴力集団が表に立つ。

 ベネズエラでも同様で、いまニコラス・マドゥーロ政権をあらゆる卑劣な手段で突き崩そうとしているのは、意図的に生活物資の流れを止めてインフレを起こし社会的混乱を作り出すネオリベラルの富豪たち(代表はエンリケ・カプリレス・ラドンスキー)とその配下の自由主義者であり、同時におそらくCIAの指導を受けたファシスト暴力集団である。(なおこのカプリレスの母親Monica Cristina Radonski-Bochenekは東欧系アシュケナージ・ユダヤの血統だが、父方の祖先もまたセファラディ・ユダヤ系である。またベネズエラの政府転覆策謀に関わる自由主義者についてはこちらの記事戦略兵器としてのマスコミ:ウクライナをめぐるメディア戦争」の最後にある注釈を参照のこと。)

 IMFと欧州中銀を先頭部隊として従来の秩序を破壊するネオリベラルのやり口は、スペインやイタリアなどの西側「先進」諸国でも本質的には同様である。こちらの私からの報告にある通り、長らく西欧諸国を特徴づけてきた福祉社会は惨めに崩壊させられ、おそらく二度と戻ってくることはあるまい。それに伴って各国でファシズムの動きが盛り上がり警察国家化の方向性が鮮明になりつつある。また同時に同性愛者の結婚や女性の権利・堕胎の自由を巡る自由主義者たちの動きも活発化・先鋭化し、社会は何重にも引き裂かれている。しかしそういったネオリベラル、つまり歯止めを失った資本主義(資本原理主義?)の破壊と暴力が最も激しく発揮されている場所がウクライナとロシアであることに疑う余地はあるまい。そしてそれと対峙し反撃しているのが、ペトラスの言う通り、「地域産業の生産能力に頼り住民多数派に応える」自覚した労働者たちと民主主義の実現を目指す「99%」に属する人々の戦闘部隊なのだろう。

 関連して、先日来お知らせしている5月2日のオデッサ大虐殺だが、やはり、焼き討ちされた労働組合会館にあった犠牲者の遺体について、オデッサ市の救急隊長であるウラジミール・ボデラン氏は次のように語っている。
 「労働組合会館で死亡した人々の99.9%が何秒間かの間に死亡しており、煙で窒息死した(あるいは焼死した)のではないと、私は確信する。しかし法医学の専門家たちがおり、我々は彼らが発見するものを待つつもりだ。」
 またこちらの記事にもあるように(残酷な写真が多いので注意)、明らかに射殺されたうえで焼かれたとしか考えられない遺体が多数発見されているのだ。つまり、惨殺された人々の多くは火災ではなく労働組合会館にあらかじめ忍び込んでいた殺人部隊によって計画的に殺害された可能性が極めて強いと言える。

 この残虐さとその証拠や情報を世界のマスコミ報道から消し去るだけの力が、このウクライナ危機を演出しているのである。(マスコミ報道についてはこちらのこちらの拙訳および「マスコミに載らない海外記事」様の翻訳『アメリカ企業5社で、人々の思考を支配する方法(RT記事)』をご参照いただきたい。)またこういった血なまぐさい表側での動きとは別に、世界には金融の面でもう一つの熾烈な戦争が続いているようだ。これについてはこちらの「田中ニュース」の記事に詳しい。さらに最近になって、スペインを含む西ヨーロッパ各国でIMFと欧州中央銀行による金融支配に対する大衆的な抵抗も再び盛んになりつつある。こちらのRTのニュースにそれがビデオを並べる形でまとめられている。

 いつも前置きが長くなって申し訳ないが、以下にジェイムズ・ペトラス論文の拙訳を掲げておきたい。なお原文中にある"putsch"は明らかにヒトラーによるMunich Putsch(ミュンヘン一揆)が意識されているため「一揆」という訳で統一した。また"junta"は「クーデター政府」と訳したが、英語ではクーデター後に成立した軍事政府や臨時政府を指す。しかし語源と思われるスペイン語の"junta(「フンタ」と発音される)"は議会あるいは地方自治体政府の意味であり、スペインではアンダルシア州の自治体政府をこう呼んでいる。

2014年5月18日 バルセロナにて 童子丸開

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キエフ一揆:反抗する労働者たちが東部で権力を握る
2014年5月7日  分析記事

はじめに:アメリカとEUがバルト海諸国、東ドイツ、ポーランドとバルカン諸国を含む東ヨーロッパを奪取してそれをNATOの軍事基地と経済的下僕に変えて以来というわけではなく(その以前からだが)、西側列強諸国はウクライナのような戦略的な意味を持つ国を我がものにするために激しく行動し、ロシアに対して現実的な脅威を与え続けてきたのである。
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 2013年までウクライナは「緩衝国」だった。基本的に非同盟であり、EUとロシアのどちらとも経済的なつながりを持っていた。地元やヨーロッパ、イスラエルそしてロシアに基盤を置く大富豪たちと緊密につながる政府によって統治されていたが、その政治指導部は2004年のアメリカに資金を提供された政治的変動(いわゆる「オレンジ革命」)の産物だった。それに続く10年の大半の期間でウクライナは西側に支えられた「ネオリベラル」経済政策の実験の失敗を経験した。ほぼ20年にわたる政治的な侵入の後で、アメリカとEUは、いわゆる非政府組織(NGO)の長期にわたる資金投入、政治党派、そして準軍事的な集団を通して、その政治システムの中にしっかりと立場を固めた、

 アメリカとEUの戦略は、下位の従属国としてウクライナをヨーロッパ共同市場とNATOに差し出す従順な政権を据え付けることだった。EUとウクライナ政府の間の交渉はゆっくりと進んだ。それらの戦略は、EUから要求される負担の大きい条件と、ロシアによって提供されるより好ましい経済的な利権と補助金のために、次第につまずいていった。ウクライナをEUに組み入れる交渉に失敗したために、そしてまた憲法改正のための選挙日程を待つことを望まなかったために、NATO勢力は、その十分に資金を与えられ組織化されているNGO群と傀儡の政治リーダーたちと武装した準軍事的集団の動きを活発にさせ、選挙で選ばれた政府を追放した。その暴力的な一揆は成功し、そしてアメリカに指名される半文民‐半軍事クーデター政府が権力を握った。

 この政権は従順なネオリベラルと狂信的なネオファシストの「大臣たち」によって構成された。前者はアメリカによって新しい政治と経済の秩序を管理し強化するために指名されたのだが、その政策は公的な産業と人材の私有化、ロシアとの貿易と投資の関係の破棄、クリミアのロシア海軍基地を許可する条約の廃棄と、軍事産業のロシアへの輸出の終結を含んでいた。ネオファシストたちと軍事・警察の諸部門が、西部と東部のあらゆる民主的な反対派を暴力的に抑えつける目的で、閣僚の地位に指名された。彼らは、米国‐NATOが押し付けたクーデター政府に向かうべき反対を民族的な対立の方に捻じ曲げながら、二重言語(ロシア語とウクライナ語)使用者とその慣例と習慣に対する抑圧を監督した。彼らは西部と東部の選挙で選ばれた全ての反対派を公職から追放し、地方自治体知事を中央の認可によって任命したが、これは基本的に戒厳令体制を作り出している。


NATO‐クーデター政府の戦略的な標的

 NATOの暴力的で危険性の高いウクライナの強奪は多くの戦略的で軍事的な目的によって導かれてきた。それには以下のものを含む。

1)クリミアの軍事基地からロシアを追い出し、それをロシアと対決するNATOの基地に変えること。

2)ウクライナを南部ロシアとカフカス諸国に侵入するための発信基地に変えること。それはロシア内部の親NATOリベラル党派とNGOを政治的に動かし支えるための大前提である。

3)重要なエンジンと部品のロシアへの輸出を止めることによって、ウクライナにある工場と結びついたロシアの防衛軍事産業の最重要部分を崩壊させること。
 ウクライナは長い間ソヴィエト連邦の軍産複合体の重要な部分であり続けた。今回の一揆の背後にいるNATOの計画者たちは、ソヴィエトの国防産業の3分の1がソ連崩壊後にもウクライナにとどまっていることと、ウクライナのロシアへの輸出の40%が、つい最近まで、兵器と兵器関連の機械で成り立っていたことを、非常によく認識していた。より特定して言うならば、東部ウクライナにあるモトール‐シクフ(Motor-Sikh)の工場で、1000機の攻撃用ヘリコプターのエンジンを供給するという最新の契約を含む、ロシアの軍事用ヘリコプター・エンジンの大部分を製造していたのである。キエフの政治的な手先に対してNATOの戦略家たちは即座に、ロシアへの全ての軍事物資供給を停止するように命令した。それには中距離空対空ミサイル、大陸間弾道ミサイル、輸送用飛行機、そして宇宙打ち上げロケットが含まれていた。(ファイナンシャルタイムズ、14年4月21日、3ページ)。アメリカとEUの軍事戦略家たちはキエフ一揆を、ロシアの空、海そして国境の防衛を突き崩すための方法と見なした。プーチン大統領はその衝撃を認識してきたのだが、それでも、ロシアが2年以内に重要な部品を国内での生産に切り替えることができると主張し続ける。これは東部ウクライナの何千人もの熟練労働力を失うことを意味しているのだ。

4)バルト海からバルカンまで、トルコからカフカス諸国までのNATO基地と同調させたウクライナの前線基地の使用によって、ロシアを軍事的に包囲し、続いてロシア連邦の自治州にグルジアから侵攻すること。
 アメリカ‐EUのロシア包囲は、北海、バルト海および地中海へのロシアのアクセスを終わらせるようにデザインされている。「外海への出口」を持たない孤立した大地の塊にまでロシアを包囲し閉じ込めることによって、アメリカ‐EU帝国建設者たちは、中東地域と北アフリカ、南西アジアと北大西洋地域での帝国主義的野望に対して対抗する中心的な力でありバランスをとる錘(おもり)としてのロシアの役割を制限しようと目論む。


ウクライナ一揆:帝国主義拡張の集積

 アメリカとEUは世界のどこででも、効果のあるあらゆる手段を用いて独立した国民主義的な非同盟の政府を破壊し、それらを帝国主義の取り巻き国家に変えようとしている。たとえば、現在のNATO‐武装傭兵によるシリア侵略は、膨大な数のシリア国民に対する血まみれの結果を顧みることなく、国民主義的で世俗的なアサド政権を放逐して親NATO従属国家を確立する方向に向けられている。シリアに対する攻撃は様々な目的にかなうものだ。それは、ロシアとの同盟と地中海の海軍基地を消し去ること、パレスチナへの支援とイスラエルへの反対を破壊すること、イスラム共和国イランとレバノンの強力な武装勢力ヘズボラー党を包囲しシリアの地に新たな軍事基地を設立することである。

 NATOによるウクライナの強奪は、ロシアに対しては「下から上に」、中東に対しては「上から下に」届いてその莫大な石油の富の支配権を統合する複合的な効果を持っている。

 ロシアの同盟国あるいは貿易相手国に対する最近のNATOの戦争はこの予測を確信的なものにさせる。リビアでは、独立した非同盟のカダフィ政権が、モロッコ、エジプト、チュニジアなどの卑屈な西側取り巻き諸国とは確固とした対称をなして立ちはだかっていた。そのカダフィは放逐され、リビアは巨大なNATOの空爆を通して破壊された。エジプトの大規模な反ムバラク民衆反乱と民主主義の勃興は軍事クーデターによって覆され、その結果として残虐な軍事独裁者の下でアメリカ‐イスラエル‐EUの周囲を巡る国に舞い戻った。NATO追随者とイスラエルによるガザのハマス、レバノンのヘズボラーに対する武装侵略は、イランに対するアメリカ‐EUの経済制裁とともに、全てがロシアの潜在的な同盟者あるいは貿易相手に対して方向づけられている。

 アメリカ合衆国は、東ヨーロッパでの「選挙と自由市場化」を通してのロシア包囲から始まり、ウクライナ、カフカス諸国、中東そしてアジアでの軍事力と殺人部隊とテロと経済制裁の使用にいたるまでに、激しく行動している。


ロシアでの政権転換:世界的な強国から従属国家へ 

 ワシントンの戦略的目標は外部世界からロシアを孤立させその軍事能力を破壊し経済を突き崩すことであり、それはロシア内部にいるNATOの政治的・経済的な協力者たちを強化してさらなる分割に導き、従属にも準ずる状態に引き戻すという目的を持っている。

 この帝国主義的な戦略の最終目的は、モスクワでネオリベラルの政治的傀儡を権力の座に据えることだ。それはちょうど、悪名高いエリツィン時代の10年間にロシアに対する略奪と破壊を監督した者たちのようなものである。アメリカ‐EU権力によるウクライナの掌握はその方向に向けての大きな一歩である。


包囲・征服戦略の評価

 現在のところ、NATOによるウクライナの奪取は計画通りには進んでいない。何よりもまず、クリミアの基地に関するロシアとの軍事条約合意にあからさまに違反して行われた明白な親NATOのエリートたちによる暴力的な権力強奪のために、ロシアはクリミア地域にいる圧倒的多数の民族的ロシア人民を保護する目的で介入せざるをえなくなった。自由で開かれた住民投票に続いて、ロシアはその地域を帰属させその軍事的な立場を確保した。

 ロシアが黒海での海軍の存在を保持した一方で…、キエフにあるNATOクーデター政府は、ウクライナの東半分にある民主主義を好みクーデターに反対するロシア語支配地域に対して、大規模な軍事的攻撃を発動した。その地域の人々はウクライナの文化的な多様性を反映する連邦制政府を要求し続けているのだ。アメリカ‐EUがクーデター政府に奨励したのは、大規模な民衆の異議に対して「軍事的返答」を推し進め、ネオナチのテロを用いてロシア語を話す多数派から市民的権利を剥奪し、選挙で選ばれた指導者の代わりにクーデター政府が指名した地域支配者の受け入れを民衆に強制することだった。この抑圧への反応として人民自衛委員会と地域の武装部隊は即座に立ち上がり、当初ウクライナ軍は、何千人もの兵士たちが、キエフに設置された政権つまり西側の利益のために自分の同胞たちを撃つようなことを拒否したために、後退を余儀なくされた。しばらくの間、NATO後援のネオリベラル・ネオファシスト連立クーデター政府は「権力基盤」の瓦解と苦闘せざるを得なかった。同時にまた、EUとIMFとアメリカからの「援助」は対ロシア貿易とエネルギー供給の停止に対する埋め合わせに失敗した。そこでキエフのクーデター政府は、訪問したアメリカのCIA長官ブレナーのアドバイスのもとで、選び抜かれた「特殊部隊」を(民族的に)多様なオデッサの街に派遣し、「見せしめ的」虐殺を企てた。市の最大の労働組合本部を焼き討ちしてその中に閉じ込められてネオナチによって脱出を妨害されたほとんど非武装の41人の市民たちを惨殺したのだ。死者の中には、ネオナチの暴力から逃れようとした大勢の女性たちや10代の者たちが含まれていた。生存者たちはむごたらしく殴られ、ビルが燃えている間に傍観していた「警察」によって投獄された。


来るべき一揆‐クーデター政府の崩壊

 オバマのウクライナでの権力掌握とロシア孤立化の努力は、EUの中でいくつかの反対を引き起こしている。アメリカの制裁措置はロシアとの深いつながりを持つヨーロッパの多国籍企業に明らかな被害を与えている。東ヨーロッパとバルカンと黒海におけるアメリカの軍事的増強は、主だった経済的な契約を途絶させながら、大規模な軍事衝突への緊張と脅威を高めている。アメリカ‐EUによるロシア国境への脅威はプーチン大統領への民衆の支持を増大させロシアのリーダーシップを強化している。ウクライナでの戦略的な権力掌握は、ネオファシストと民主的な勢力との間で、ウクライナの政治の二極分化を先鋭化させ深化させている。

 帝国の戦略家たちがエストニアとポーランドで軍事的増強を推し進め激化させてウクライナに軍事力を投入している一方で、全体的な権力の掌握は不安定な政治的・経済的基盤の上に乗っかっているのだが、それは、血みどろの内戦と民族間の殺し合いのさ中で、今年中にも崩壊しうるものである。

 ウクライナのクーデター政府は早くも国の三分の一で、民主主義的でありクーデター政権に反対する運動と自衛軍部隊に対する政治的な支配力を失っている。アメリカの軍事的な利益に仕えるためにロシアへの戦略的な輸出を断ち切ったことによって、ウクライナ人はその最も重要な市場の一つを失ったが、それは他と置き換えることが不可能である。NATOのコントロールのもとで、ウクライナはNATOが特定した軍事ハードウエアを買わなければならないだろうが、それはロシア市場に向かっていた工場群の閉鎖を導く結果になる。対ロシア貿易の消失は、特に東部の熟練工業労働者の間ですでに大量の失業を産み出しており、その人たちはロシアに移住せざるを得ないだろう。膨らみ続ける貿易赤字と国家歳入の減少は全面的な経済崩壊をもたらすだろう。第3に、キエフのクーデター政府がNATOに従属する結果として、ウクライナ人はロシアから供給されていた何十億ドル分ものエネルギーを失っている。高いエネルギー・コストは世界市場の中でウクライナの産業の競争力を失わせる。第4に、IMFとEUからのローンを確保するために、クーデター政府は食糧とエネルギーに対する補助金の打ち切りに同意しなければならないが、それは家庭の収入を激しく目減りさせ年金生活者を極貧の中に放り込むことになる。以前には工業製品の製造が保護されていた地方のどこにおいても、EUからの輸入がそれに置き換わるにつれ、倒産件数が増加しつつある。

 クーデター政府内でのネオファシストとネオリベラルの間で起こる暴力ざたと不安定さと紛争のために、新しい投資が流れ込むことは無い。このクーデター政府は、政府のその日暮らしを安定させるためだけにNATOのパトロンたちからの300億ドルの無利子借款を必要としているが、そんな大金は今すぐにでも近い将来にでもやってくるものではない。

 この一揆を計画したNATOの戦略家たちが単にロシアを軍事的に弱めることだけを考えていたのであり、ウクライナがロシアの市場とローンと供給エネルギーにあまりにも頼っていたというのに、キエフの傀儡政権をもちこたえさせる政治的、経済的、社会的なコストについて一顧だにしなかったことは明らかである。そのうえに彼らは、予測できたはずのこの国の東部地域の激しい反発による政治、産業、農業面での力学を見過ごしていたようだ。その代わりにワシントンの戦略家たちは、住民移送と虐殺の中での大規模な民族浄化を伴ったユーゴスラビア式の解体を仕掛けるという、彼らの算段を基本に置いていたのかもしれない。何百万の民間人が死亡したにもかかわらず、ワシントンはそのユーゴスラビアとイラクとリビアを破壊した政策が政治的・軍事的に大成功をおさめたと認識するのだ。

 最も確実なことを言えば、ウクライナは長期に渡る深刻な不況に落ち込むだろう。それには輸出、雇用および生産の急激な下降が含まれる。おそらくは経済崩壊が国全体に及ぶ抵抗と社会不安を引き起こすだろう。それは東から西に、南から北に広がっていくだろう。社会的な動乱と大規模な苦悩がウクライナ軍の士気をさらに低下させるかもしれない。現在でさえキエフは兵士たちに食糧をたまにしか与えられておらず、コントロールの困難なネオファシストのボランティア戦闘員に頼らざるを得ないのだ。アメリカ‐EUは、リビア・スタイルの爆撃による直接的な戦い方を用いる介入はしそうにもない。もしそうするならば、アメリカでの世論が消耗な帝国主義戦争に苦しみ、ロシアの一次産品企業と結びつくヨーロッパの商業的利害関係者たちが仰々しい制裁を耐え忍んでいるようなときに、ロシアの国境を巡っての長い戦争に直面するだろうからである。

 このアメリカ‐EUによる一揆は、失敗しつつある政権と暴力的な紛争で引き裂かれる社会を作ったが、それは大っぴらな民族主義的暴力を産み出しつつある。実際に、その結果として起こってきたのは各地域の境界線を引き裂く競争者たちを伴った二重権力のシステムである。キエフのクーデター政府は、ロシア包囲作戦でNATOが信頼を置くことのできる軍事的な連動装置として仕えるための一貫性と安定性を欠いている。それとは逆に、アメリカ‐EUの制裁措置、軍事的な脅迫そして好戦的な言い回しは、ロシアに西側世界に対する「開放性」を即座に考え直さざるを得なくさせている。国家安全保障に対する戦略的な脅迫はロシアをしてその西側の銀行と企業とのつながりを見直す方向に追いやっている。ロシアは公共投資と輸入代替を通して工業化を拡大させる政策に頼らざるをえなくなるかもしれない。ロシアの富豪たちは、その国外資産を失ってきたために、ロシアの経済政策の中心的な役割を縮小させていくのかもしれない。

 明白なことは、キエフでの権力掌握が決して「ロシア本土に突き刺さったナイフ」という結果にはならないことだ。キエフのクーデター政権の最終的な打倒と放逐は、民主主義運動の急激な進展と労働者階級の自覚の高まりを基盤にしたウクライナの自治を先鋭化させうるだろう。これはIMFの緊縮財政プログラム、およびウクライナの資産と企業を裸に剥いていく西側の機関に対する、彼らの戦いから現われるはずのものだ。キエフにいる西側の家来どものくびきを投げ捨てることに成功するウクライナの工場労働者は、ロシアの大富豪どものくびきに自分自身を縛りつける意図は持たない。彼らの戦いは、独立した経済政策を発達させる能力を持ち帝国主義の軍事同盟者から逃れた、民主的な国家を作るためのものである。


エピローグ:

2014年メーデー:東部における二重の人民権力と、西部におけるファシズムの盛り上がり

 キエフのクーデター政府内でのネオファシストとネオリベラルの間での仲違いは予想できたことだったが、それはメーデーの反政府派のデモ隊と警官隊との間で起こった大規模な騒乱によって明らかとなった。アメリカ‐EUの戦略では、ネオファシストを「奇襲部隊」として、そして選挙で選ばれたヤヌコヴィッチの政権を追放する際の街頭戦闘員として利用し、その後に彼らを切り捨てる予定だった。国務補佐官ヴィクトリア・ヌーランドとキエフのアメリカ大使との間で交わされて録音された有名な会話に例示されるように、アメリカ‐EUの戦略家たちは自分たち自身で指名したネオリベラルの家来どもに、外国の資本を代表して苛酷な緊縮財政を押し付け、そして外国の軍事基地のために条約を結ぶように奨励する。逆にネオファシストの戦闘員どもとその政党は国有企業を保持してナショナリストの経済政策を好むことだろうし、大富豪たち、特に「イスラエル・ウクライナの二重の」国籍を持つ者たちに嫌悪を抱いているようである。

 経済戦略の推進に関するキエフのクーデター政府の無能さ、その暴力的な権力の掌握、そして民主主義を好む東部の反体制派への弾圧は、「二重権力」の状況を導いている。多くの場合に、民主主義的運動を抑圧するために派遣された軍隊はその武器を捨て、キエフのクーデター政府を見捨てて東部の自治運動に参加した。

 ホワイトハウス、ブリュッセル、IMFという外部の支援者を除けば、キエフのクーデター政府は、あまりにもNATOに従属していることによってキエフにいる右翼の同盟者たちから見捨てられ、またその権威主義と中央集権主義によって東部の民主主義的な動きからの抵抗を受けている。キエフのクーデター政府は二つの椅子の間に倒れこんでいるのだ。それは大部分のウクライナ人の間で正当性を欠き、キエフ政府庁舎群が占める狭い土地のかけら以外のあらゆる場所で支配権を失っており、それらさえネオファシスト右翼によって包囲され、幻滅を感じる従来の支持者から次第に距離を置かれているのだ。

  完璧に理解しておこう。ウクライナでの闘争はアメリカとロシアとの間でのものではない。それは、片方にあるネオリベラル富豪群とファシストで構成されるNATOお仕着せのクーデター政府、そしてもう片方にある工場労働者および地域の戦闘部隊と民主的な委員会の間で行われているものなのだ。前者はIMFとワシントンを擁護し付き従っている。後者は地域産業の生産能力に頼り住民多数派に応えることによって支配しているのである。

【引用・翻訳ここまで】

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