イスラエル:暗黒の源流  ジャボチンスキーとユダヤ・ファシズム 目次に戻る    (アーカイブ目次に戻る)

第11部 悪魔の選民主義   (2008年10月)
     

小見出し  
[「偽メシア」の系譜と近代シオニズム]  [神は死に、悪魔が神となる]  [シオニズムはユダヤ民族主義ではなく]  [暗黒の海に浮かぶ島、イスラエル]

[「偽メシア」の系譜と近代シオニズム]  【小見出しに戻る】

 前回、私は17世紀トルコのサバタイ・ゼヴィ、そして19世紀ポーランド・ドイツのジャコブ・フランクという二人の「偽メシア」をご紹介した。しかし、当然だがこの二人はユダヤ=キリスト教社会に深く根を下ろす「メシア待望」を象徴しているに過ぎず、その背後には「迫害の後にユダヤ人を選民として救済するメシア」という旧約聖書以来の「復讐のメシア」待望がある。また一方でそれを取り巻くキリスト教社会には「千年王国の到来を告げる偽メシアの登場と大迫害」および「キリストの復活=選民としてのキリスト教徒の救済」を願う倒錯したキリスト教徒の「黙示録信奉」が幅広くそして根強く横たわっている。

 それは、日ごろは彼らの集団的な深層意識の中に埋まりこんでいるが、それがカリスマ性を持つ人物の言動や現実的な脅威を前にした扇動によって、もはや逃れることのできぬほどに強力な集団的意識を作り上げることになる。これは決して馬鹿げた迷信として無視すべきものではなく、理性や客観性を越えて内側から有無を言わさず人間とその集団を動かす、まさに現実的な力なのだ。

 「サバティアン」たちはトルコを根城とし東欧のユダヤ人たちを「選民思想」と「復讐のメシア」願望でまとめていった。そしてそれは欧州各国に広がるユダヤ人連絡網を通してたちまちのうちに広がり、各国で支配者の庇護の下で経済面での特権的地位を確保しその反動として常に非ユダヤ人民衆からの憎しみと攻撃にさらされていたユダヤ人社会の中で着実に根を下ろしていった。それは特に、16世紀から17世紀にかけて最盛期を向かえ18世紀以降衰退していくポーランド=リトアニア連合の中で最も強力な形を取っていったのである。この地域のユダヤ人たちが絶対王権と結び付いて確保していた特権的地位喪失の危機にさらされた18世紀に登場するのが「フランキスト」の動きである。「メシアの登場」によって裏付けられた「選ばれた者たち」の反道徳主義は、喪失への恐怖と非ユダヤ人に対する憎悪に囚われ特権奪回を願望する一部のユダヤ人たちの思考と行動を支配していった。

 そしてそれは確実にロシア、ウクライナまでを含む東欧に広がっていったのだ。ウラジミール・ジャボチンスキー、メナヘム・ベギン、イツァーク・シャミール、ダヴィッド・ベン・グリオン、ゴルダ・メイア等々といった「イスラエル建国の祖」たちが、「左右」の違いにもかかわらず、ことごとくこの地域出身者であることに否が応でも気付かされざるを得ない。そして「メシア」ジャコブ・フランクを経済的に支えたのがフランクフルトのロスチャイルド家であり、ここでこの「選民思想=復讐のメシア待望」が「貨幣神」と出会うこととなった。

 以来、ロンドンとパリの「貨幣神」は「選民思想=復讐のメシア待望」に取り付かれる者達の守護神となっていくのである。近代シオニズムがこのような歴史の中で徐々に形を取っていくことになる。単なる「選民思想=復讐のメシア願望」だけでは一部の風変わりな集団的狂気で終わるだろうが、そこに現実の世界を強力に動かし作り変えていく「貨幣神」の働きが加わることで、それは資本主義によって動かされる政治思潮の、最も先鋭化され、最も残虐で、最も堅固な動きを作っていくことになる。

 そういえば、パリのロスチャイルド家に支えられたフランスの大統領サルコジがトルコ出身のユダヤ人の血を受けている。トルコが「サバティアン」の本拠地だったことを考えれば、彼とネオコン・シオニストとの関係も無理からぬところがある。またサルコジが最も信頼する人物の一人でコルシカ・マフィアのボスであるシャルル・パスカが世界ユダヤ人会議会長で大富豪であるエドガー・ブロンフマンと血縁関係を結んでいることからも、「選民の血統」と「貨幣神」との一体化は覆い隠すべくも無い。そして米国ネオコンやCIAに担ぎ出されフランスのシオニストと一体化している面ばかりではなく、その平然と裏社会を支援する政治姿勢や下劣な品格、堕落した私生活を貫く徹底した反道徳主義を見るときに、サルコジのシオニストとしてのあり方がどこに根ざしどこに向けられているのか、よくわかるはずである。

 しかし問題をもう少し広い目で見るならば、現代シオニズムを考える際のポイントはもはや「血の問題」などではなく権力と経済支配への意思に貫かれる「選ばれた者」のための社会作りであると言えるだろう。そこではもはや人種的に「ユダヤ系」であるのかどうかなどは問題にもならないであろう。紛れも無いシオニストであるイタリアのベルルスコーニを見るがよい。米国民主党オバマ大統領候補(2008年11月1日現在)、および彼が指名した副大統領候補ジョセフ・バイデンを見るがよい。

 ここで近代〜現代シオニズムの持つもう一つの顔を見ておかねばならない。「イスラエル建国」に尽くしイスラエルの利権を維持し拡大しようとする「狭義のシオニスト」と表裏一体の関係にある、「広義のシオニスト」といえる者達の存在だ。欧米各国には固くイスラエルを支持しイスラエルの利益のために体を張って働く者達(ユダヤ人、非ユダヤ人に関わらず)がいる。しかし彼らはそれほどに《イスラエルを愛している》のだろうか? 確かにイスラエルの「二重国籍」を持つ者は多い。しかし彼らは決してその国に移り住もうとはしない。彼らの多くは欧米各国で支配的な階級に属する者達、銀行や企業を所有して巨額の資本を操り、メディアを所有して情報を操り、アカデミーを支配して論理を操り、法律に精通して法体系を操る者達である。

 狭義の「シオニズム」がパレスチナの痩せこけた土地に固執する一部ユダヤ人の偏執狂的な運動であるにもかかわらず、広義の「シオニズム」は資本主義の別名とすら言える。それはもはや人種概念ではなく資本主義によって作られる「選民」を「新ユダヤ人」とする世界支配への願望なのだ。この二つの「シオニズム」は実に上手に結び付けられ、また使い分けられてきた。しかし「貨幣神」を奉る広義の「シオニズム」がその本体 であることに疑いの余地は無かろう。

 我々は、いかにジャボチンスキーを追いベン・グリオンを追ったとしても、単に彼らの「イスラエル建国」という政治上の事件ばかりに注目するのでは、実際には何一つシオニズムに関する真実を見極めることはできまい。アメリカ合衆国がどうしていともたやすく最大のシオニスト国家となってしまったのかの理由がここにあるのだ。前回も申し上げたとおり、近代資本主義の土壌ともなった清教徒たちの集団は奇妙な終末思想に取り付かれ、彼らにとってアメリカ大陸こそが「聖なるシオン」に他ならなかったのである。そして資本主義の「祖国」イギリスと近代国家思想発祥の地フランスはともに紛れも無く近代シオニズムの「祖国」でもある。

【以上、参照資料】
http://members.aol.com/ThorsProvoni/C__Judonia1.pdf
http://www.voltairenet.org/article157821.html 


[神は死に、悪魔が神となる]   【小見出しに戻る】

 近代シオニズムの大きな特徴としてその無神論が挙げられる。テオドル・ヘルツルを筆頭とし「イスラエル建国の祖」達の誰一人として敬虔なユダヤ教徒はいない。当然だがあの「偽メシア」どもは真っ先に彼らの神を捨てた。彼らはあらゆる道徳的基準を放棄し、自らを「選民」として支配的な地位に付かせるものであればいかなるものをも利用しいかなる嘘をも正当化する。それが彼らの「道徳」なのだ。ジャボチンスキーが言うとおりである。「聖なるシオン」を我が物にするシオニズムこそが彼らの唯一の道徳である。それ以外に道徳など存在しないのだ。

 近代シオニズムに関しては、「神を捨てた」と言うよりは「神を取り替えた」と言ったほうが良いのかもしれない。彼らは強力な「貨幣神」の力に従っている。しかし貨幣そのものには善も悪もあるまい。それが選民思想と結び付くときに強力な「悪魔主義」へと変身する。貨幣を支配する者が「選民」として世界を支配するときにその「貨幣神」は巨大な悪魔へと変貌するだろう。

 それは、あれこれの理屈ではなく、20世紀の歴史、特に後半に登場したネオ・リベラル経済による世界支配を一見すればすぐに理解できる話である。現在の日本を見てみるがよい。伝統的な独自の民族主義に基づく資本主義解釈はすでに破壊され、徐々にごく少数の「エリート」と大多数の「非エリート」が形成されつつある。「非エリート」たちは若者も老人も食うや食わずに追い詰められしぼりとられる。その分の富と力が《消滅》したわけも無い。単にどこかに集中しただけの話だ。

 資本主義の大本山であるアメリカを見るがよい。元来からデタラメな投資に過ぎないサブプライムローンが破綻することは最初から見えていたはずだ。そしてその損失の補填は国民から搾り取った税金でおこなわれる。そしてそれがほとんど何の反対も無く当然のようにおこなわれる。対外戦争政策のたびに税金から膨大な富が軍産複合隊とそれを支える金融機関に流れてきた歴史については言うまでもあるまい。その中で殺され傷つき悲惨な生活に追いやられていくのは大多数の「非エリート」たちである。

 CIAの政治謀略によってネオリベラル経済がどこよりも先に実現された中南米を見てみるがよい。中間の階層は経済破綻のたびに次々と薄くなり「エリート」と「非エリート」の2極分化が進んできた。そしてその経済を中心になって作り支えてきたのが紛れも無いユダヤ系のシオニストたちであり、そしてそれと一体化した統一教会などの犯罪者集団、反共に凝り固まるカトリック教会、そしてその背後にいるウオールストリートの富豪投資家どもなのだ。

 この二重のシオニズムの構造を正しく読み取っておかねばならないだろう。この大富豪どもとその手先がヒトラーを育て、彼が欧州から一般ユダヤ人を狩りたてパレスチナの地に一部のユダヤ人を集めていったのは、それが彼らの意図する「聖なるシオン=地球全体」を目指す彼らなりの「革命」にとって欠かすことのできないステップだからである。彼らの世界観は資本主義のそれであると同時に特殊な神話の様相を帯びる。彼らは人間の弱さと愚かさと残虐さを熟知しており、人間とその集団が決して冷徹な計算や理屈だけで動きまとまるものではないことを十分に知っている。支配する側にとっても支配される側にとっても、人間にはある種の神話が必要なのだ。

 あの無神論者どもが図らずも語る「約束の地」「神の約束」は伝統的なユダヤ教に背を向けて語られたものでしかない。トーラーに書かれた教えを守る敬虔なユダヤ教徒たちは「神の許しがあるまでは決してパレスチナに戻ってはならない」と信じていた。そして居住するそれぞれの国の制度と習慣に順応した生活を「良し」としていたのである。シオニストたちはまずその神を捨てた。次にパレスチナへの「帰還」という神話を徐々に根付かせていった。それは「2000年前に住んでいた場所に戻る権利がある」というものであり、あらゆる合理的な精神を超越した一つの神話体系にのっとったものである。それが本当ならばケルト人たちはイングランドを占領する権利を持ち、アメリカ原住民達はアングロサクソンをワシントンやニューヨークから追い出す権利があることになる。しかしそれはユダヤ人にだけ与えられた絶対的な権利である。彼らは「特別の民」だったのだ。いったい誰によって「選ばれた」?

 それにしても奇妙なことだ。すでに数多くのユダヤ人たちが欧州や米国での恵まれた生活を享受していたのである。ポグロムのような迫害があったとしても、もし現実的な利益を考えるのならば、他の国ではなくわざわざすでにアラブ人たちが生活している砂漠の国に移住しようなどと、誰が考えるのか? しかも多くのユダヤ教徒たちにとってそれは神の命令への反逆に他ならない。

 シオニストたちはユダヤ教からその「選民主義」と「復讐のメシア」という概念だけを抜き取って利用した。またそれは米国に渡ったプロテスタント達にとっても違和感のあるものではなかった。ヨハネの黙示録に取り付かれた彼らは反キリストの登場とキリストの復活、そして《新たなエルサレム》を信じる。その天国の住民達は《真(新)のユダヤ人》に他ならないのである。黙示録では迫害を受け被害者となったキリスト教徒たちが復讐を神に願うシーンが描かれる。「選ばれた民」が「迫害による犠牲」を経て神話的な力による「聖なる復讐」の結果を享受するというパターンが脳裏に染み込んでいるのだ。しかも最初に「救済の約束」を受けるのは「14万4千人のユダヤ人」である。

 それは後に「第2バチカン公会議」を演出するバチカン内の勢力 にとっても実に自然なことであった。ジャコブ・フランクの徒たちがキリスト教各派にもぐりこんでいたことは周知の事実である。こういった「選民主義」と「復讐のメシア」にのっとった神話体系は、欧米の有力な階層の者達を引き付け抵抗感をなくし支持を取り付けるのには絶好のものであった。

 こうして、この神話の登場人物となり神話を現実のものとすべく、自らその神話に取り付かれた狭義のシオニストたちがユダヤ人の中から輩出することとなった。一方で広義のシオニストたちはその神話を完成させるべくユダヤ人に対する大迫害を演じる一大役者を育成しその役を演じさせた。今回までに申し上げたとおりである。当然だが、イスラエルという国は、単に中東地域に打たれた欧米資本のクサビであるばかりではなく、膨大な量の資金洗浄の場でもあり、また米国国民から巻き上げた税金のばら撒き場所・たかり場所でもある実に都合の良い場なのだ。 


[シオニズムはユダヤ民族主義ではなく]   【小見出しに戻る】

 ネオコンについて少しまとめてみよう。ネオコンは主にレーガン政権の反共政策の中で頭角を現してきたのだが、その少し前にメナヘム・ベギンが歴代の「左翼政権」に代わって指導者となった。そしてその後を継いだのがイツァーク・シャミールだった。もちろん彼らはユダヤ・ファシスト、ウラジミール・"ゼエヴ"・ジャボチンスキーの直系であった。ネオコンの一部は元左翼(トロツキスト)と言われるが、「教祖」とも見なされるレオ・シュトラウスはかつてジャボチンスキー支持者の一人でありナチスの人脈にもつながる人物である。そしてネオコン主流を形作ったポール・ウォルフォヴィッツ、ダグラス・ファイス、リチャード・パール、チャールズ・フェアバンクスなどはことごとくイスラエル「右派」との太い人脈を保ち、米国の国家機密を平然とイスラエルに流す者達だった。またダグラス・ファイスの父親ダルック・ファイスはベギンやシャミールが所属したポーランド・ベタールの一員であった。ネオコンはジャボチンスキー直系のイスラエル「右派」米国出張所と言っても言い過ぎではあるまい。

 それではこのネオコン台頭以前はアメリカ合衆国の内部でシオニストが力を持っていなかったのだろうか。とんでもない! 1967年に米国の情報船USSリバティーがイスラエル空軍の爆撃に遭って危うく撃沈されそうになったときに、カンカンになって怒っていた大統領ジョンソンを1日で黙らせたのは何の勢力なのか? そもそも「イスラエル建国」前に米国内ユダヤ人たちによるパレスチナ・シオニストへの武器密輸を黙認させたのは何の勢力なのか? スターリンのソ連と共にあのデタラメなイスラエル建国を断固として支持させたのは何の勢力なのか?

 米合衆国のエスタブリッシュメントたちはその始めから広義のシオニストなのである 。彼らは確かに資本を代表している。しかし資本だけではその人間としての姿が存在しない。貨幣そのものは善でも悪でもなく何の意志も持っていない。それに何らかの性格を与えるのはやはり人間なのだ。「貨幣神」は、強烈な世界支配への意思、ある「選ばれた者達の天国」を地球上に実現させようとする強烈な意思と結び付いたときに、その悪魔性を発揮するのだ。それはまさに悪魔そのものである。神はもういない。しかし悪魔はその力をますます発揮しつつある。

 近代〜現代シオニズムはもはやユダヤ民族主義ではない。それは「選民」による資本主義経済に基づいた世界の全面支配を目指すものであり、ユダヤのメシア思想と同時にキリスト教の千年王国思想にも根を下ろす、資本主義エリート達による「永遠の天国」実現への動きである。そしてそれは人類の大部分にとっては「永遠の地獄」の実現でしかない。「イスラエル建国」はそのための重要な布石ではあっても、現代シオニストたちの目はパレスチナのやせこけたちっぽけな土地などには向けられていないのだ。再度言うが、彼ら現代シオニストにとって「聖なるシオン」はパレスチナではない。それは《全地球》なのだ。まさに黙示録の世界である。  


[暗黒の海に浮かぶ島、イスラエル]   【小見出しに戻る】

 レオ・シュトラウスが将来の「理想社会」を描いて見せるとき、それは哲学者(道徳律を持たない理論のコントローラー)をトップとし政治家と宗教家をその手足として、各国に備えられたメディアと暴力装置を操りながら戦争と平和の幻想を演出して「雲の下にある永遠の地獄」を維持し、それによって「雲の上の天国」を恒久的に維持する世界として現れる。彼が、ギリシャ哲学を語ってカモフラージュしているのだが、バラモンを最上級カーストとして2千年以上にわたって維持されてきたインドのカースト制をイメージしていることは明白であろう。

 しかしシュトラウスは一つの大きな嘘をついている。いったい誰がその哲学者達にメシを食わせるのか? 誰が彼らに権威とその地位を与えるのか? 彼はその「神」の名を語らなかった。というよりは語ることを許されていなかったのだ。彼の思想はその弟子であるネオコンの運動の基本理念となったのだが、彼らはその「神」の名を十分に知っている。彼らはその政治代表部として「神」に仕える。それは「人間の顔を持つ資本」であり、人間の持つ魔性を最大限に引き出し具現化したものである。それは虚構そのもの、貪欲さそのもの、そして残虐性そのものである。

 20世紀の後半に、一つの巨大な虚構として登場し、選ばれざりし者達(具体的にはパレスチナ人)への残虐の権化として登場し、米国国民の富を無限に吸い取る貪欲さの権化として登場したイスラエル国家は、この「人間の顔を持つ資本」が作る暗黒の海に浮かぶ「島」である。その「神」は、全地球を《聖なるシオン》と変える際に、もしこの「島」が不必要となれば、再び人種的な意味のユダヤ人に対する大虐殺を演出することによって沈めてしまうことすら厭わないだろう。そしてそれは新たな神話の最も重要なイベントとなる。永遠の地獄と永遠の天国を維持するためには強烈に人間の心を支配する神話がどうしても必要なのだ。

 ウラジミール・ジャボチンスキーはその神話作りの中心人物の一人として登場した。彼自身はこころざし半ばにして死亡したがその「偽メシア」の系譜は確実に近代世界最大の虚構を築き上げていった。彼は「二重のシオニズム」が持つ一つの顔を代表していたのである。そして彼の「ユダヤ・ファシズム」がパレスチナの小さな土地ではなく世界に広がっていくときに、そのもう一つの顔がその最も獰猛な顔をむき出してくることだろう。

 いや、もうすでに顔を見せ始めている。世界に憎しみと復讐心と恐怖をばら撒き、似非科学と反理性主義をばら撒き、それによって人心を支配し政治を支配し、世界の大多数の住民を地獄に閉じ込めて「選民の天国」を永遠に維持しようとするファシストの姿、まさにマイケル・レディーンの言うユニバーサル・ファシズムの姿である。

 「イスラエルの源流」探索は決して過去の歴史探訪ではない。それは極めて現在的であり近未来的な問題と直結するものである。「イスラエルの源流」の暗黒はまさしく現代の暗黒であろう。そしてまた、残念ながら非エリートである大部分の我々にとって、未来の暗黒に他ならない。(了)

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