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第11部:オプス・デイの思想とその方向(中)    (2006年10月)

[危機に瀕するイスラエルと米国]

 9・11事変以後、米国とイスラエルはほとんど「自滅的」とすら思える稚拙な軍事行動を繰り返している。奇妙なのはシオニスト=ユダヤ勢力に牛耳られるマス・メディアの動きである。この両国に対してイスラム教徒のみならず世界中の非難を呼び起こすに十分な映像や情報を、実に適切なタイミングで世界に向かって披露しているのだ。イラク戦争の開戦理由のデタラメぶり、グアンタナモやアブグライブの収容所での拷問と虐待、イラクやパレスチナ住民に対する残虐行為と無差別殺戮、等々。

 現在その矛先は次第にイスラエルの存在に向けて照準を合わせつつあるように思える。2006年6月、極めて疑惑の多い「兵士誘拐事件」をきっかけに突然開始されたガザおよびレバノンへの野蛮極まりない攻撃は世界に多くの「反イスラエル」の潮流を作り出しつつある。化学兵器やクラスター爆弾、劣化ウラン弾の使用以外にも、人体を内側から破壊する新兵器が注目を浴び、白燐弾の使用をイスラエル自らが認めるに至って世界中の憤激を引き起こしている。その上にイスラエルはレバノン沖のドイツ軍艦船を不明確な理由で砲撃したと伝えられる。
《2006年夏のレバノンへの残虐な攻撃についてはこちらの記事を参照のこと。》

 これらのイスラエルの行動により、以前ならこの「ホロコースト被害者」に遠慮して発言を控えてきた論者や報道機関、左翼関係者までもが、イスラエルとシオニストに対する告発や疑問を表明するようになっている。

 2005年秋のアーマディネジャッド・イラン大統領による「イスラエル抹消」「ホロコースト否定」発言に始まり、2006年3月には米国保守派の論客ジョン・ミアシャイマーとスティーファン・ウォルトは米国「イスラエル・ロビー」に対する異例の告発を行った。一方で9・11事変の裏側にネオコン=シオニスト勢力の影を見て取る人々の数は世界中に着実に増えている。

 国内でも、レバノン侵攻の失敗を巡る政府への不信に加えカッアブ大統領のセックス・スキャンダル、オルメルト首相夫人の住宅売却スキャンダルが重なって政治中枢部が大揺れとなり、ついには大手新聞ハアレツ紙が『存在の危機に瀕する国家』(2006年9月3日記事)とまで書き立てるに至る。ハアレツは欧州の新聞が「イスラエルの消滅」を合理的な「作業仮説」としていることを紹介しながら、現在の危機的な状況に対して警告を発しているのだ。

 またイラン大統領の他に、チャベス・ベネズエラ大統領はイスラエル人の入国を事実上禁止する処置を取った。今後もしこの国が新たな戦争を起こし今まで以上の虐殺と残忍な攻撃を繰り返すようなら、もはや「ホロコースト」を用いての脅迫が次第に通用しなくなる可能性が高いと言えるだろう。

 一方の米国では、9・11後に作られた『愛国法』に加えて今年10月には「大統領の判断次第で、容疑者が憲法による保護を一切受けることなく不法敵性戦闘員とされ、軍に無期限拘束されることを許す」軍事法廷設置法(MCA : the Military Commissions Act)が効力を発することとなった。これによってこの国はいつでも好きなときに軍と諜報当局によるファシズム国家としてのスタートを切ることができる法的な体制を整えてしまったのだ。「自由と民主主義の米国」は断末魔の悲鳴を上げつつある。

 米国といいイスラエルといい、早々と国家としての衰退期を迎えたようだ。いわば「生きながら死臭を漂わせている」状態である。

[ローマとユダヤに支配される米国]

 ここで注目すべきは米国最高裁判事の面々であろう。どのような法案に対する違憲審査もこの最高裁判事の手に委ねられているのだから。実は9名の判事のうち5名がオプス・デイの会員あるいは近い筋の「保守的カトリック」と見なされているのだ。以下にその氏名を挙げ指名した大統領を( )内に記しておく。

 アントニン・G.スカリア(レーガン)、アンソニー・M.ケネディ(レーガン)、クラーレンス・トーマス(G.H.W.ブッシュ)、ジョン・G.ロバーツ(G.W.ブッシュ)、サミュエル・A.アリート(G.W.ブッシュ)。

 「案の定!」といったところだが、オプス・デイが1980年代からいかに米国の権力中枢に浸透していたのか一目瞭然である。国家制度の根源たる『法的判断』をその手に握られた米国はもはや彼らの思うとおりに動かされる以外にはあるまい。

 ついでに他の4名の判事を言うと、ステファン・G.ブレイヤー(クリントン)とルース・B.ギンスバーグ(クリントン)の2名はユダヤ人、デイヴィッド・H.ソウター(G.H.W.ブッシュ)が英国国教会、そしてジョン・P.スティーヴンス(フォード)だけがプロテスタントである。

 しかもこのスティーヴンスは85才を超える高齢でありじきに次の判事に入れ替わるだろう。もしそれがブッシュ政権下ならオプス・デイ系列の人材、民主党の大統領施政下であればシオニスト系ユダヤ人である可能性が高いと思える。

 確かにカトリック信徒は米国では総人口のおよそ30%、キリスト教徒のなかで39%を占める大勢力ではあるが、オプス・デイ関係者ともなるとはるかに小さな割合であろう。ましてユダヤ人は人口の2%に過ぎない。そして国の政治・法曹・経済の中枢はこのどちらかの勢力に握られているのだ。

 相も変わらず米国を「プロテスタントの国」などと考えている人々の思い違いのはなはだしさは明らかであろう。この国はローマ(オプス・デイ)とユダヤによって運営されているのである。

[バチカンはシオニストと心中する気か?]

 一方で、教皇ベネディクト16世のバチカンは見苦しいまでにイスラエルとシオニストへの擦り寄りを見せる。2005年の就任直後から「イスラム・テロ」への敵対心を顕にし、2006年1月にはイスラエルの「生存権」を主張、同年4月にオプス・デイの運営する雑誌がモハメッド風刺漫画を掲載、5月にはベネディクト16世がアウシュヴィッツを訪問し「(ユダヤ人に)許しを請う」声明を出した。

 そして9月に入り教皇は、イスラム教を暴力容認の邪悪な宗教と認識しているとも受け取れる発言をして、イスラム教徒を派手に挑発した。問題が世界中に拡大するのを見て彼は慌てて「謝罪した」のだが、事の顛末はまことに奇妙である。この発言はイスラエルがレバノンとガザへの攻撃で世界中の非難を浴びた直後だったのだ。そしてこのスッタモンダをすぐさま世界のマス・メディアが大々的に報道した。

 イスラエルや米欧のネオコン=シオニスト勢力とともにローマ教会が、イスラエルの言う「第3次世界大戦」の主役の一つとして躍り出たのである。前任者のヨハネ・パウロ2世がイスラム教徒との敵対を避けイラク戦争への反対を表明したこととは随分の違いだが、これではカトリック信徒の中でさえ「ローマ離れ」を引き起こしかねまい。

 その騒動に紛れて教皇の愛弟子で陰の実力者であるクリストフ・シェーンボルンが「知的計画による生物進化」をバチカン内で審議した。この枢機卿は2005年4月に「キリスト教徒のイスラエル支持はホロコーストの罪悪に基づくものではない」「キリスト教徒はシオニズムをユダヤ人に対する聖書の命令として承認しなければならない。」と発言している。その数ヶ月後にイラン大統領が「ホロコーストの結果をどうしてパレスチナ人が背負わねばならないのか」という正論を世界に叩きつけたのだが、バチカンのイスラエル支持はもはや「神がかり」の粋に達している。

 これでバチカンの位置付けが明らかになったわけだが、しかし米国とイスラエルが次第に腐臭を放って崩れ落ちていくとしたら、やはりバチカンもそれらと運命を共にするのだろうか。特にイスラエルの問題はバチカンにとって命取りにすらなりかねない。今後あの国が米国と共に従来以上に毒々しい憎まれ役、いわば「完成版ナチス」として悪魔の所業を世界に見せ付ける可能性が高いからである。その結果イスラエルは滅亡し米国は世界に対する相対的な支配力を失って「引きこもり」の専制国家として衰退していくだろうし、すでにそうなっても良い演出が徐々に為されつつある。そしてローマ教会もその2千年近い歴史を閉じることになるのだろうか。

[「バチカン=イスラエル以後」に備えるオプス・デイ?]

 しかしひるがえって考えてみるならば、そのようなローマ・カトリックの運命は第2バチカン公会議ですでに決定していたのかもしれない。いずれローマはエルサレムに取って代わられるのだろう。あのシヨン運動を前にしてシャルル・モラスが予言したようにである。そして前世紀の初期にピオ10世が発した次の警告がよみがえってくる。(聖ピオ10世司祭兄弟会の翻訳による)

 《そしてこの世界統一宗教とは、いかなる教義、位階制も持ち合わせず、精神の規律も無く、情念に歯止めをかけるものも無く、自由と人間の尊厳の名のもとに(もしもそのような「教会」が成り立っていけるならば)合法化された狡知と力の支配ならびに弱者および労苦するものらへの圧迫を世界にもたらしてしまうでしょう。》

 この『世界統一宗教』の総本山がローマにある必要などどこにも無い。私は第9部 で次のように書いた。

 《2006年になってイスラエルのアシュケナジ・チーフ・ラビであるヨナ・メツガーはチベット仏教のダライ・ラマに対して、世界の宗教家の代表による「宗教の国連」をエルサレムに設立することを提案した。ダライ・ラマは即座に歓迎の意を表したのだが、この場にはイスラム聖職者、およびローマ教会と非常に親しい米国ユダヤ人協会のラビ・デイヴィッド・ロウゼンも同席していたのである。》

 ただその実現のためには巨大な障害を乗り越えなければならない。それが、実を言うとシオニズムとイスラエルなのだ。人種主義に凝り固まるシオニストとイスラエル当局がエルサレムを「世界に開放された宗教の中心」にするのに同意することは到底考えられない。2003年7月にイスラエルの元首相シモン・ペレスは、エルサレムを『世界政府の首都』とし国連事務総長を『市長』とするように提案した。しかしイスラエルは一貫してローマが加わる「国際化」に抵抗を続けているのである。

 現首相のエフッド・オルメルトは元々が排外主義的色彩の特別に強いリクード党の幹部でなのだ。そして現在の混乱の中で再びその存在感を強めつつあるベンジャミン・ネタニヤフはその最右翼として知られている。彼らがイスラエルを運営する以上そのような計画の実現を許すとも思えない。ましてホロコースト・プロパガンディストでユダヤ至上主義者のエリー・ヴィーゼルが新大統領になったら、イスラエルはエルサレムを開放するどころか、本当にアル・アクサ・モスクを破壊してソロモン神殿の再建までもやりかねないだろう。

 ここで一つの恐ろしい予感が沸き起こる。もしイスラエルが戦乱の中で崩れ落ち、中東一体が死体と瓦礫以外は見えない焼け野が原となり、その後に廃墟と化したエルサレムを再建するという名目で「新エルサレム」を建設するのであれば、そこを「世界の宗教の中心」とすることは可能だろう。そしてそれは同時に、すでに米国とイスラエルの影響から脱した国連が形作る『世界政府』の首都となる・・・。

 単なる幻覚にしては余りにも生々しい。シオニスト・ユダヤ勢力の手の内にあるはずのジャーナリズムで公然と「イスラエルの滅亡」が語られ、また「ユダヤのタブー」が様々な箇所で打ち破られつつある。その中でイスラエル自身が米国とともに悪魔的な「世界の暴力装置」としてその牙を剥こうとしている。今後この2国の暴走で地中海東岸からペルシャ湾岸にかけては壮絶な戦いと殺戮の場になっていくのかもしれない。そうなると世界中でシオニスト・ユダヤ勢力とそれに抵抗する勢力との様々な側面での戦いが繰り広げられ、次第にシオニストは追い詰められていくだろう。

 もちろんだが、米国やイスラエルといった虚構と暴力で世界を支配しようとする無法国家はやがてその化けの皮をはがされ惨めに打ち捨てられなければならない。人間は欲や無知や怯堕とともに理性とも共存している。いつまでも嘘の中で生きるわけにはいかないのだ。しかしそれが新たな虚構の始まりにつながるものかもしれないことは同時に見抜いておかねばならない。

 バチカンが『世界統一宗教』の単なる「ローマ支部」となるときが来るのなら、それは第2公会議の必然的な帰結であろう。あの会議を推進した勢力の最終目標はそこにあったはずである。そしてオプス・デイはその勢力の中心部にいたのである。とすれば彼らがすでにその準備を十分に整えていないわけはあるまい。

[「道」の行方、そして第11部のまとめと次回予告]

 前回までに申し上げたように、バチカンはナチスとシオニストの両方に手を差し伸べ、ナチス残党を南米に送り込むと同時にユダヤ=シオニストの利益に沿って第2公会議を開催した。私はオプス・デイを、バチカン中枢部がその「世俗部隊」として手塩にかけて育てた組織ではないかと疑っている。イエズス会のような僧侶中心の集団では実現不可能なことをこの教団によって実行させるためである。

 それは世界の全面支配を、つまり政治面、経済面、法曹面、宗教・思想面、軍事面、情報面における文字通りの全面支配を実現させることに他ならない。オプス・デイにはそのすべての面がそろっている。彼らは単なる宗教集団ではないのだ。バチカン中枢部にとっては、歴史の中の奇形的な一側面でしかない近代社会の政教分離の原則など、何の意味もないであろう。

 彼らにとってローマという「カトリックの牙城」はもはや手狭となった「古巣」以外の何物でもあるまい。ちょうどサナギを破って出てくる蝶のように、おそらくモスラのような怪物だが、新しい世界の新しい完璧な支配者としてその姿を現わそうとしているのではないか。バチカンはローマ帝国の延長なのだ。

 エスクリバー・デ・バラゲーの『道』はどのような世界に我々を連れて行こうとしているのか。次回はこの「聖なるマフィア」シリーズの最終回として、『世界統一宗教』の姿とその本性を探ることとしよう。
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